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ファンタシースターオンライン
『MEMORIES』

第3話 『よろしくお願いします』−ソラ−


気づくと私は反省室−別名『独房』にいた。
ここに来たのはこれで何度目だろう……。
それもこれもみんな……

「あんの、馬鹿のせいよぉぉ!!!」

「誰が馬鹿よ!!」
間髪入れずに隣の部屋からあの馬鹿の声が聞こえた。
「あんたよ、あんた!」
「なんだって!!」

「静かにしないか!!」

ドアの向こうから警備員らしき人に怒鳴られ、渋々黙った。
これ以上問題を起こすとやばいような気がしたから……。

結局私達が解放されたのは三日後だった。
私達はカルロ隊長の後を付いていき、ギルド本部の入り口まで案内された。
その間、おとなしくしていたのは言うまでもない。
「二人ともスライダーさんから頼まれてるからこちらとしても穏便に済ますけど、これ以上問題を起こすようなことがあったら、たとえスライダーさんでも庇いきれないと思うよ」
カルロ隊長は優しく諭すように言うけど、暗に次、問題を起こしたら最悪ライセンス剥奪もあり得ると言っているような感じだった。
私達は二人は並んで「すみませんでした」と頭を下げ、背を向け街の方へ歩き始めた。

「全く、あんたと一緒だとろくなことがないよ」
歩きながら横にいるカナタが私を見ずに言う。
「それは私のセリフです。あなたのお陰で三日間も無駄にしてしまったんですから」
私も言い返す。
その言葉にカナタはピタッと止まる。
数歩先に進んだ私も足を止め振り返る。
「ここで決着を付けるかい?」
「それは良いアイデアですね」
私達は互いににらみ合い、いつでもやり合えるように身構える。
その時……。
「「ソラさ〜ん」」
高まった緊張感が一気に崩れるのんきで馬鹿明るい二人の声。
それはカナタも同じだったようで、顔を引きつらせている。
振り向くと、レイキャシールとフォニュエールの二人組−カエデとエアだった。
「おつとめご苦労様です」
カエデが私の前に立つなり突然そう言う。
私は思わず無言で頭を叩いた。
「う〜〜痛いです」
金属の頭を素手で叩いた私の方が痛いんだけどね……。
「気にしない気にしない」
「う〜」
カエデは不満げな声を上げるが本当に気にしないことにする。
「これからどこか遊びに行こうか」
「本当?」
「やった、ソラさんのおごりですか?」
「……割り勘に決まってるでしょ」
「「何だ、残念」」
二人は顔は笑っているけど残念そうな声で言う。
「ところで……」
エアが私のやや後ろで立っているカナタに目を向けた。
「カナタさんはどうするんですか?」
エアの言葉にカエデは嫌そうな顔をしている。
ナツキさんを殺そうとしている人だから当然の反応だろう。
だけどエアはそう言う素振りを見せない。
むしろカナタを誘っているように思える。
私は振り向き彼女を見る。
そして視線を交わすと軽く溜め息をついた。
「……あなたも来る?」
「遠慮しとくよ。連むのは好きじゃないんでね」
カナタはそう言うと私達に背を向けどこかへと去っていった。
その姿をエアは少し寂しそうに見ている。
「エア?」
「あ……いえ、何でもありません……」
そう言いながら視線を落とすエア。
とても何でもないと言った様子では無いんだけど、言いたくないみたいだから聞かないでおきましょう。
そう思ってる矢先にカエデがエアに聞く。
「エア〜、何であんな奴誘うの? あいつはナツキさんを狙ってるんだよ」
「そうなんだけど……でも……」
「でも?」
「………」
エアはそれ以上口を噤んでしまった。
「エア?」
「カエデ、そのぐらいしてあげないと」
「……うん」
カエデは納得しないまでも私の言葉に渋々頷く。
でもエアがこんな顔をするなんて……。
きっとカナタと何かあったんだろうね。
「そう言えばナツキさんは?」
私はいつまで経っても現れないナツキさんのことを聞いた。
「よく分からないけど、急用って言っていた」
「フローラさんとゼロさんの一緒にいるところを見ました」
フローラさんは分かるけど……ゼロ?
「ゼロって確かナツキさんに忠誠を誓ったとか言う……自称『ポチ』だっけ?」
「それじゃ犬、『忍者』だよ」
「わざと間違えてませんか?」
「うん、その通り」
二人の言葉をこれ以上ないぐらいに肯定する。
そんな私に二人は苦笑を漏らす。
「だって本当のことでしょ」
二人に背を向け歩き始める。
二人は遅れまいとカエデは右、エアは左と分かれて一緒に歩く。
「もしかして嫉妬ですか?」
エアがズバリと言い当てる。
私は軽く溜め息をつくと短く「かもね」と答えた。
「ホント、ナツキさんって気に入れば誰でも受け入れちゃう人なんだよね」
「それがナツキさんの良いところだと思いますけど」
「それは分かってるけど……」
「ソラさんって本当にナツキさんのことが好きなんだね」
「当然でしょ。ナツキさんを好きな気持ちは誰にも負けないんだから」
胸を反らし、自慢するように答える私。
「前から気になっていたんですが……」
「何、エア?」
「ソラさんは同性愛者なんですか?」
「………」
一瞬、この娘が何を言ったか分からなかった。
だけど次の瞬間意味を理解すると私はエアの頬を左右に引っ張り上げた。
「そう言う事を言うのはこの口かなぁぁ」
「痛いです痛いです痛いです痛いです痛いです痛いですぅぅぅぅぅぅ」
「ソラさん、そのぐらいにしないとエアが……」
カエデの嘆願(?)に私はエアを解放する。
エアは涙目で私を恨めしそうに見るが、自業自得なので無視する。
「私だってね素敵なの恋人が欲しいと常々思ってるの」
「でもいないんだよね」
「う………」
「あんな不本意なあだ名まで頂いてしまったんですからこの先もたぶん……」
「うぅぅ………」
「「頑張ってください」」
二人は私の肩をポンと叩くと一斉に逃げ始めた。
「あなた達はぁぁぁ!!」
私は逃げる二人を追いかけ、30分にも渡る捕り物の末、捕まえてお仕置きをした。
どんなお仕置きかは……ナツキさん仕込みと言う事だけは言っておきます(^^)

それから私達3人は行きつけのお店に向かった。
店内はアンティーク調のテーブルや椅子が備え付けられていて古風なイメージがする。
そして静かな音楽とやや薄暗い間接照明が店全体をいい雰囲気で包み込んでいる。
カウンターの奥では口ひげを蓄えた無口なマスターが客からの注文の品を作り、メイド風の制服を身につけた素敵な笑顔の女性が品物をテーブルまで運んでいる。
ここはナツキさんに紹介して貰ったお店で、すぐに気に入って時間があれば立ち寄るようにしている。
私達は店内奥のテーブルを陣取ると、それぞれ好きな物を注文した。

「ソラさんはナツキさんとはどうやって知り合ったんですか?」
注文した品が運ばれてくると、エアが聞いてきた。
「それ、私も知りたい!」
エアの質問にカエデも興味津々出身を乗り出してくる。
「聞きたいの?」
「「うん」」
「ソラさんがどういうきっかけでナツキさんを愛するようになったのか気になるし」
「愛するって……」
「気になるので教えてください」
「ん〜」
どうしようかなぁと思っていると、二人は私に期待の眼差しを向けてきた。
私はぎこちなく笑うと軽く溜め息をつき、話す事にした。
私とナツキさんとの出会いを……。


今から一年以上前……私が初めてラグオルに降りた日。

当時まだレベル20前後だったことからギルドから受ける依頼はパイオニア2内の物だけにしていた。
毎日にようにラグオルから病院に転送されてくる怪我人を見て、私自身臆病になっていたのかも知れない。

でもあの日、私は初めてラグオルに降りる事になった。
『ラグオルの生態調査』……それが私に与えられた依頼だ。
初めて降りるラグオルに私はどうする事も出来ずおろおろとしていた。
その時、偶然同じ依頼を受けたヒューマーの人と合流し、行動を共にする事になった。
レベルはほぼ同じだったけど相手がハンターだと言う事で私自身安心していた。
敵が現れても彼の後方から援護する形でフォイエやバータ、ゾンテと言った初級テクニックで何とか切り抜ける事ができた。

「あんた補助テクは覚えてないのか?」
前を歩くヒューマーがそう聞いてきた。
「はい……ディスクを手に入れる事が出来なくて……」
「フォースのくせに……足手まといの上に役立たずなんだな」
小さく答える私に彼はこちらを振り向くことなくそう冷たく言い放った。
私は悔しくて言い返したかった。でも彼の言うとおり足手まといなのは事実だから何も言い返せず、そんな自分がもっと悔しかった。
この時私は覚えていたテクニックは初級テクニックの三つとレスタとアンティと言った回復系だけだった。
それもレベルが低いので余り役に立っているとは言えない。
「ま、せいぜい死なないでくれよ。あとあと面倒だからな」
そう冷たく言うとヒューマーはさっさと歩いていく。
私は泣きたい気分を押さえ、唇を噛み締めて後を追いかけた。
しばらく行くと開けた場所に出た。
その直後、どこから途もなく上から3匹のヒルデベアが襲いかかってきた。
「この!」
ヒューマーはセイバーで斬りかかっていったが、すぐに囲まれその場に倒れた。
「あ……あ……」
目の前で人が死ぬ……そんな初めての光景に私は一歩も動く事が出来なかった。
3匹は倒れたヒューマーに飽きると私の方を向き、ゆっくりと近づいてくる。
恐怖でガタガタと震える私。
「……いや……死にたくない……」
やっと思いで口に出した声もあまりに小さく震えている。
そうこうしている内に3匹のヒルデベアは私を取り囲むように立ちはだかり、そして振り上げた手を振り下ろそうとした瞬間、私は目を閉じ死を覚悟した。
その直後、森に鳴り響く3発の銃声。
私は恐る恐る目を開けると3匹のヒルデベアは眉間を打ち抜かれ絶命していた。
「え?え?え?」
混乱する私は辺りを見回した。
すると少し先にあるうっそうと生い茂る林の奥に金色に輝く一点の光が見えた。
その光に再び恐怖を覚え、私は再び目を閉じ座り込んだ。
時間にして数十秒ぐらいだったと思うけど、私にとっては永遠とも思える時間だった。
「あなた、大丈夫?」
頭の上から誰かが優しいそうな声で話しかけてきた。
私は恐る恐る頭を上げ、声の主を見上げる。
そこには紫の目を下黒いレイキャシールが心配そうにのぞき込んでいた。
右脇にショットと呼ばれる自分よりも大きな散弾銃を軽々と抱えている。
「怪我はない?」
「あ、はい……」
「それじゃ、立てるね」
彼女は私にニコリと微笑みかけるとすくっと立って、倒れているヒューマーの方を向く。
「ねぇ、リバーサーは覚えてる?」
「……いえ、まだ……」
私は萎縮する。
「そう」
彼女はそう簡潔に答えると、ヒューマーに近づいた。
そして腰のリボンから何か薬を取り出し彼にふりかける。
すると瀕死の重傷……もしかしたら死んでいた彼が復活した。
「え……?」
「ムーンアトマイザー……リバーサーを同じ効き目があるの」
彼女は私が疑問に思っている事を答えてくれた。
その直後、復活したヒューマーは私に近づき胸ぐらを掴み上げると怒鳴り散らした。
「てめぇフォースじゃねぇのか! 補助どころか満足に援護も出来ねぇのか!!!」
「あ、あの、ごめ……ごめんな……さい」
「ごめんですむと思ってるのか」
「私……私……」
彼は私を殴ろうと右腕を振り上げた。
だけど、それをレイキャシールがその右腕を掴み止めた。
「自分の未熟さを他人のせいにするんじゃないよ」
それは静かで、でもとても冷たい口調だった。
「うるせい! こいつのせいで俺は……」
彼は私から手を離し、彼女に掴みかかろうとした。

”ばきっ!!!”

ヒューマーは彼女の放つ左ストレートで吹き飛んだ。
「自分の未熟さを人のせいにするなと言ったんだ。聞こえなかったのか」
「なんだと? レイキャシールごときが俺に……」
彼は何故かそこで言葉を止め震え始めた。
私が疑問に思い、ふと彼女の方を見ると、彼女の右目が金色に輝いている。
(……さっきの光ってこの人の……)
「あ……あんたまさか……ゴールドア……」


”ドキュ−ン!!!”

ヒューマーが言い終わるよりも早く、ハンドガンを抜き彼の足下の地面を打ち抜く。
彼はその場から動く事も出来ず、ただただ恐怖に身を震わせている。
「その呼び名……すごく嫌いなんだよね」
「お……俺は……」
「それに礼が欲しくて助けた訳じゃないけど、何も言わずにいきなりこの娘に掴みかかるなんて、あんた最低な奴だね」
「そ、そいつが役立たずなのが……」

”ドキュ−ン!!!”

今度は彼の右頬をかする。
「ひっ!」
彼は恐怖で顔を引きつらせる。
「私は何度も同じ事を言うのも嫌いなんだ……だからとっとと失せな」
「………」
「聞こえなかったのか? 良く聞こえるように眉間に穴を開けてやろうか」
その言葉にヒューマーはバネのように立ち上がり、自分の武器を拾うと逃げるようにその場から立ち去った。
呆然とその様子を眺めていると、彼女が話しかけてきた。
「ついてなかったね。あんな奴と回る事になるなんてさ」
彼女が私の顔を見た時、右目はもう元の紫色に戻っている。
「あ、いえ……」
「ところで本当に怪我はない?」
「それは大丈夫……あ!」
「どうしたの?」
「助けて頂き、ありがとうございました。私、今までお礼を言う事を忘れてて本当にすみませんでした」
「………ぷっ」
「?」
「あはははは……」
「あ、あの……」
突然笑い出した彼女に私はどうして良いのか分からなかった。
「笑ったりしてごめんね」
「はぁ……」
「あ、もしかして怒った?」
「いえ、そんなことありません!」
心配そうに言う彼女の言葉に私は力一杯否定する。
「そんなに力まなくても……」
彼女は半分呆れて、半分笑っている。
私は少しだけ恥ずかしくなって顔を伏せた。
「あなた、気に入ったよ。」
「え?」
「私はナツキ・スライダー。よろしくね」
彼女はそう言うと右手を差し出してきた。
「?」
「握手」
「あ、ハイ」
私は慌てて握り返す。
「名前は?」
「ソラ……ソラ・ホワイティルと言います」
「ソラか……良い名前だね」
スライダーさんはそう言うと手を離す。
「ありがとうございます。スライダーさん……」
私は右手に残るスライダーさんの手の感じに暖かさを覚えた。
「ソラ、行くよ」
「え?」
「あなたの依頼、まだ終わってないんでしょ」
「そ、そうですけど……でもスライダーさんの方は……」
「私のはとっくに終わってる。それで帰ろうかなぁって思った時にたまたま出くわしただけなの。それから私の事ナツキで良いよ」
「でも……」
戸惑う私にスライダーさんは優しい口調で話しかけてきた。
「あなた、初めてラグオルに降りたんでしょ」
「どうして……」
「やっぱりそうなんだ。さっきのあなたの様子を見てそんな感じがしたの」
「………」
「だから一緒に行ってあげるよ。余計なお節介かも知れないけど」
「そ、そんな事ありません。あの……」
「ん?」
「よろしくお願いします」
「うん、よろしくされた」
それから私はスライダーさん……じゃなかったナツキさんの的確な援護の下に依頼を完遂することができた。


「ま、それが初めての出会いだね」
カップのコーヒーを飲みながら目の前で興味深そうに聞いていた二人に言う。
「ナツキさんってやっぱり格好いい」
「尊敬し直しちゃいます」
カエデとエアはそれぞれ感想を言った。
「でもナツキさんが憧れの存在の『氷の天使』のパートナー『戦うメイド』だと言う事を知ったのは随分後だったけどね」
私はすこし恥ずかしそうに笑った。
「『氷の天使』ってフローラさんですよね」
「憧れなのにそのパートナーは知らなかったの?」
「その辺は恥ずかしい限りだね」
私はナツキさんにフローラさんに会わせてもらった時の事を思い出して少しだけ恥ずかしくなった。
「でもまぁそれも言い思い出だからね」
「なるほど」
「そういうのって良いですよね」
二人の言葉に頷くと、話題を変えた。
「さて、昔話はこの辺にして、買い物に行こうか」
「賛成!」
「第2の方でバーゲンがあるそうですよ」
「それじゃ急いで行かないと。二人とも」
「「はい!」」
私達はお勘定をすますと、民間エリアへと急いだ。



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「約1ヶ月ぶりです。覚えていてくれたでしょうか」
恵理「忘れてた」
絵夢「おい」
恵理「それは冗談だけど、ずいぶんと掛かったね」
絵夢「この間にいろいろとあったからね……」
恵理「はぁ……ご苦労様です」
絵夢「はい」

恵理「今回はソラとナツキとの出会いの話し?」
絵夢「その通りですね。何時かやりたいと思っててこの機会にと言う事でやりました」
恵理「なんかナツキが優しいね」
絵夢「初見だからね。このあといつもの調子に戻るよ」
恵理「なるほど」

絵夢「であ次回は誰かな……」
恵理「考えてないの?」
絵夢「考えては有るけど内緒〜」
恵理「おい」
絵夢「そんなわけでまた次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」