NOVEL



ファンタシースターオンライン
『銀の光』

第4話 『平和だなぁ』


パイオニア2最後尾にあるパークエリア。
そこから宇宙やラグオルを眺めることが出来、人々にとって憩いの場所にもなっている。
その一角でベンチに座るレイキャシールの姿があった。
彼女は何をするわけでもなく、その紫の瞳は公園の中央部の広場を映していた。
1年前、この場所で彼女はかつての仲間であったヒューキャストと死別している。
彼はある科学者の口車に乗り、彼女を怒らせるために親しい者達を傷つけ、そしてこの場所で彼女と戦い死んだ。
彼−リューク・セフィーロのAIチップは彼女−ナツキ・スライダーの胸のエンブレムの内側に納められている。

リュークと言う存在はナツキがカナタであった頃、ハルカと共に行動を共にしていた仲間であると同時に、彼女にとって初恋の相手でもあったようだ。
本人はその事を激しく否定していたが、ハルカから見たら間違いなかった。

「……まったくバカなんだから」
ナツキは今は修復され1年前の戦いの傷が消えている地面の舗装面を見ながらつぶやく。
そして深く溜め息をつくと、ベンチの背もたれに思いっきり身体を預け天井を見上げた。
「平和だなぁ……」
先の洞窟でのヒューキャストとの戦いと師匠の2人に再会から2週間、特に事件も起きないまま時間だけが過ぎていた。
ただし多くのハンターズが足を踏み入れるようになった遺跡エリアには未だに足を踏み入れていない。
この間、ナツキも知り合いと下に降りて暴れたり、一人で散歩したりと色々としていたが、あのヒューキャストに襲われることがなかった。
「ああいうタイプがあれっきりと言うことは無いと思うんだけどな」
天井を見ながら軽く溜め息を付いた時、一瞬だけ景色が歪んだ。
「っ!?」
ナツキは身体を起こして周りの景色を見回してみるが特に以上は無いようだ。
一応体内にあるチェックシステムを起動させて見るが、オールグリーンで異常は見あたらない。
仮に異常があった場合、警告サインと共に体内のナノマシンがすぐに修復する。
(警告サインも無かったようだし……何だったの?)
先ほどの視界が歪んだ事がなんなのか思案に更けていると、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げるとそこには見慣れた3人が立っていた。
しかし、その珍しい組み合わせにナツキはクスッと笑う。
その笑いの意味が分からない3人−ソラ・ホワイティル、レン・リンクス、フェイク・ゼロは顔を見合わせる。
「ナツキさん、急に笑って何ですか?」
「師匠、いきなり笑うのは酷いと思うよ」
「姫、何か楽しいことでもあったでござるか?」
3人3様に文句を言う。
上からソラ、レン、ゼロの順番である。
「ごめんね。ただあなた達3人が一緒だというのが珍しいなって思っただけなの」
その言葉に3人は再び顔を見合わせる。
「そうかな?」
「最近は一緒だよ」
「拙者はこの2人に頼まれて……」
そのゼロの言葉にすかさずレンがツッコミを入れる。
「よく言うよ。『自らを鍛え直したいから』とか何とか言って一緒の行動してるくせに」
「そ、それは姫の忍びとして……」
「はいはい、そう言うことにしておくね」
「レン殿!」
コントのようなやりとりにナツキとソラは笑う。
「2人とも仲が良いね」
「ナツキさん、この2人いつもこうなんですよ。もう側にいるだけで熱くて」
「へぇ……いつ頃からそうなの?」
「レンがレンって名前を変えてすぐぐらいだから……1年弱かな?」
「そうなんだ。あの頃ってあなた達と少しだけ疎遠になってたから気づかなかったのかな?」
「その節は本当にごめんなさい」
ナツキがカナタと知った彼女たちはしばらく距離を置いていた時期があり、ソラはそのことを謝っている。
「もう過ぎた話だし、一体何十回謝れば気が済むの?」
「いや〜私の気が済むまでかな?」
「まぁソラの好きなように」
「ちょっと2人とも、私達を無視して何を話してるの!?」
レンがナツキとソラの間に割って入って言う。
「ナツキさんにレンとゼロがどれだけラブラブか話しただけだよ」
「ソ〜〜ラ〜〜〜!!!」
ソラはすぐにやばいと感じて逃げ出すとレンは怒鳴りながらその後を追いかけていった。
そんな2人の様子を見ながらナツキはクスッと笑う。
「まったくいつまで経っても子供なんだから」
「姫……」
「私のことは気にしないで。ゼロはあの娘のことが気になるんでしょ」
「しかし拙者はあの時から……」
「私があなたを助けたのはたまたま通りがかったからだよ。だから本当の意味で『自分のために生きて』みたら?」
「それは……」
「亡くなった主人の言葉、でしょ?」
ナツキはゼロから視線を外すと、追いかけっこを続ける2人の姿を見る。
「この1年の間、あなたは私から離れてレンの側にいた。それはどうして?」
「それはリューク殿との一件で彼女を守ることが出来なかったから……」
「だけどその怪我だって3ヶ月程度で治ったでしょ。でもその後もそして今も側にいるのはどうして?」
「それは……」
そこでゼロは答えに窮する。
そんな彼を見てナツキはクスッと笑うと「無理に答える必要はないよ」と言う。
「ゼロの中でもまだ答えは出てないんだよね。だけどそれで良いと思う。ゼロはゼロの思うように生きればね」
「姫……」
「返辞は?」
「……はい」
「なんかはっきりしないような返事だけど、ゆっくりと考えればいいよ。答えなんてないんだしね」
ナツキは立ち上がるとゼロを向き合う。
「頑張ってね」
そう言うとゼロの胸の装甲を”コン”っと軽くたたく。
「それにしても3人もそうだけど、カエデとエアもこの1年で成長したよね」
「そうですか?」
「うん。あの2人、新人の2人と一緒にラグオルで暴れているみたいだよ」
「そしてあなた達も、ね」
「……」
「なんでそこで黙るかな?」
「いえ、実感が無いので……」
ゼロは少し恥ずかしそうに言う。
「確かにそう言うことは本人じゃ分かりにくいことかも知れないね。特にあの娘達を見てるとね」
「いつまで追いかけっこをするつもりでしょうか?」
「気が済むまでじゃない?」
「迷惑をかけなければ良いのですが……」
「大丈夫だよ……あの娘達だって、いつまでも子供じゃ……」
突然ナツキは膝から崩れた。
「姫っ!!」
ゼロは慌ててナツキの身体を支える。
「大丈夫……急にめまいがしだだけだから……」
「しかし!」
その異常にソラとレンもナツキの元に駆け寄ってくる。
「ナツキさん!」
「師匠!」
「少し休めば大丈夫だから……」
少しだけ苦しそうな声をだす。
アンドロイドゆえに表情は分かりにくいが、声から大分苦しそうなことは容易に予想が付く。
特にナツキの事を良くする3人だけに彼女の様子はあまりに異常すぎた。
3人はナツキの声に耳を貸すことなく、すぐにハルカに連絡を取り、ギルド本部内のメディカルルームへと搬送された。

2時間に渡る精密検査の結果、異常なしと言う診断が下された。
「ほら見なさい!」
診療室から出てきたナツキはソラ、レン、ゼロと彼女たちに呼び出されたハルカに向かって言う。
「私は休んでいれば治るって言ったのに大事にして!!」
「この娘達もナツキの事を心配してのことだから、ね」
少しだけ怒っているナツキをハルカがなだめる。
その言葉に彼女は軽く溜め息をつく。
「ソラ、レン、ゼロ……私の事を心配してくれてありがとう。私はこの通り大丈夫だから安心して」
先ほどとはうって変わって優しい口調で言う。
彼女の言葉に3人は安堵の表情を浮かべる。
そして軽く談笑をすると、ナツキとハルカを残して3人はメディカルルームを後にした。
ハルカは3人の姿が見えなくなるのを確認すると真剣な面持ちでナツキを見る。
「本当に大丈夫なの?」
「うん。ただ……」
「ただ?」
「姉さんが治療してくれたときにちょっち弄られた結果、神経と機械との間で微妙にラグが起こったみたい。機械から神経へのフィードバックがうまくいってないって。で微調整してもらったよ」
「そうか……それなら安心だね。ところでお姉さんって剣の師匠の?」
「うん。そのお陰で絶体絶命の所を助かったんだけどまさかこんな弊害が出るとは思わなかったよ」
「ところで治療って何?、絶体絶命の所をって何?」
ナツキの言葉にハルカは聞き返す。
「え?」
「今言ったでしょ? 一体何があったの?」
ハルカはナツキに詰め寄る。
「あれ……言ってなかったっけ? たぶん黒いなんとかって奴だと思う奴に襲われたって……」
「聞いてないよ!」
ハルカはそう大声で言った後、今にも泣き出しそうな表情で言葉を繋げる。
「なんですぐに言ってくれなかったの?」
「ごめん……私に兄さんや姉さんの事でいっぱいだったから……」
「ちゃんと何があったか説明してくれるよね」
「もちろん」

それからナツキは包み欠かさず何があったか詳細に説明する。
鎌を持ったヒューキャストに襲われたこと。
絶体絶命の所を青風とエアに助けられたこと。
エアに身体を治してもらい、青風からダブルセイバーとセイバーを受け取ったこと。
新しく得た力でヒューキャストを追い払ったこと。
2人がどこかへと行ってしまったこと……。
ハルカはその間、ナツキの目をジッと見たまま話を聞く。
そして全部話し終えたところでハルカは軽く息を吐くと椅子に座り直す。

「そんなことがあったんだ……でも本当にナツキが無事で良かった……」
安堵の息を吐くハルカ。それは彼女の本心だろう。
「ごめんね、ハルカ。すぐに話せなくて」
「ちゃんと話してくれたから良いよ。だけどナツキの師匠と言うその2人が何処にもいないというのが不思議な話だよね」
「でもそれはもう良いんだ。きっと時が来たらまた会えるかも知れないしね」
「そうね」
2人の間に穏やかな空気が流れる。
心を許しあった親友……それが2人には当てはまる関係だろう。
ふと互いに視線を交わし微笑みあう。
そして手を握り合って……というようなこの先の展開は無いわけだが、ナツキは思い出したように口を開く。
「そういえばハルカは知ってた? ゼロとレンのこと」
「ん〜一応かな?」
「やっぱりそうだよね」
「でも互いにまだまだって感じかな? なんかあなたとリュークのことを思い出しちゃった」
「え〜〜私、あんなんじゃなかったよ。それにリュークとはただの友人だよ」
ナツキが口を尖らせ抗議するがハルカは取り合わない。
「端から見ていた私が言うんだから間違いないの。なんだったらリュークに聞いてみたら?」
「リュークだって『ただの仲間だ』って言うに決まってるじゃないの」
ナツキの言葉にハルカは声を出して笑う。
「な、何よ!」
「やっぱり大好きだよ」
「私、そう言うシュミ無いからね」
「何言ってるの。あなたもそしてリュークもこれからこれからもずっと親友として大好きって言ったのよ」
ハルカはナツキのエンブレムを指差しながら言う。
「3人で騒いだ時間は短かったけどすごく楽しかった。だからまたあの時みたいに騒げたらなぁって思うことがあるの。無理なのは分かってるけどね」
「そうだね……私達には無理だったけど、あの娘達には幸せになってもらいたいね」
ナツキは胸に手を当てどこか遠くを見てつぶやく。
「ナツキ、一体何を言ってるの? あなたもそして私だってまだまだ幸せになれるんだからね」
「それもそうね」
「そうそう」
2人は一緒に笑った。

本部を出ると、当たりは真っ暗になっていた。
「私はこれで帰るけど、ハルカはまた残業?」
「それなんだけど、今日はナツキの所に行って良いかな?」
「別に構わないけど珍しいね」
「今日はそう言う気分じゃ理由にならない?」
「そうね……理由としてはこれ以上ないぐらいに十分すぎるね」
「でしょ」
「うん」
言葉を交わし互いに微笑み会うと2人は照明に照らし出された夜の通りを歩き始めた。



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<あとがき>
絵夢「とある平和な一ページでした」
恵理「前半でナツキが倒れてどうなっちゃうと思ったけど、エアさんの治療ミスが原因なんですか?」
絵夢「そうなってしまうね。まったく困った娘だよ」
恵理「ところでナツキとハルカが18禁な方向に行くことは?」
絵夢「ない」
恵理「断言しちゃった」
絵夢「カナタ・トラッシュとだったら知らんと答えるが、ナツキ・スライダーとだと断言するぞ」
恵理「う〜〜ん(汗」

絵夢「次回から後半戦に突入します」
恵理「どうなるのかな?」
絵夢「まだまだ内緒だけどどうぞお楽しみにです」
恵理「では次回までまってま〜す」
絵夢「であであ皆さん次回まで」
恵理「まったね〜」