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ファンタシースターオンライン
『銀の光』

第6話 『炎と氷のミラージュ』


ナツキ達8人は各々得意な武器で武装し、遺跡エリアの入り口で装備品の最終点検をしていた。

ハンターのレン、ゼロ、ケイはそれぞれラストサバイバー(大剣)、フライトカッター(手裏剣)、ブレイドダンス(ダガー)等のメイン武器を中心に確認。
フォースのハルカ、ソラ、フユはフルイド系アイテムの確認。
レンジャーのレッドはブレイバス(短銃)、ジャスティ−(長銃)、コンバット(マシンガン)、ファイナルインパクト(ショット)等の全ての銃器の確認。
そして彼らとは少し離れたところでナツキは腰のリボンからヴァリスタを抜いて構えたり、肩からセイバーとダブルセイバーを抜いて銀の刃を放出させ基本の構えをしていた。
それを見ていたレッドは自分の武器を仕舞うとナツキに近づいてきた。
「ナツキさんの武器はそれだけですか?」
「うん。今回はショット系も置いてきた。乱戦は必至だから接近戦オンリーで行こうと思ってる。だからレッド、援護はお願いね」
「しかしレイキャシールの攻撃力だと……」
「心配無用。実際戦いになった時に見てもらえれば分かるよ」
「そうですか?」
レッドが首をかしげると、レンとゼロが口を挟む。
「姫は拙者よりも強いから大丈夫でござるよ」
「そうそう、このあたしでも師匠に触れることが出来ないんだよ」
その言葉を聞き、軽く肩をすくめる。
「言われてみればケイを相手にしても普通にやってたもんな」
「ナツキの強さは計算上ありえない」
ケイのいつもの調子の口調にレッドは思わず苦笑を漏らす。
「後方支援は俺とフユでなんとかなるか」
「あとソラの3人で大丈夫だと思うよ。ね、ソラ」
レッドの言葉を受けてナツキがソラも追加する。
「え〜〜〜!」
アイテムチェックをしていたソラが顔を上げて文句を言う。
すると側にいるハルカが優しく諭す。
「私もナツキと行動を共にするからどうしても後方が手薄になるの。後方支援だって重要な仕事よ」
ハルカにそう言われてソラは渋々頷く。
すると今度はナツキがハルカに聞く。
「ハルカ、どの程度行ける?」
「この間の運動能力のチェックで体年齢20代前半だったわ」
「オッケ」
「任せなさい」
一体この場で体年齢がどう関係あるのか周りにいる人達には全く分からない会話だが、2人にはそれだけで十分のようだ。

「それじゃ行きますか!」
ナツキは4つの武器をそれぞれアーマー内に収納すると全員に明るい調子で言う。
7人は異口同音に了解し、遺跡への扉を開いた。


遺跡エリアに入ってから1時間。
「やっぱり伝聞は話半分で良かったのかな?」
「そうね……」
「どうしましょうか?」
「困ったな……」
「大丈夫でござるか?」
「どうこう言っても進まないといけないでしょう」
「焦ってもしかたないでしょ」
「データの回収をします」
ケイは破壊された軍の機械からデータの抽出を始めた。
薄暗く昆虫の外郭を思わす壁や床や天井の様子に最初は不気味な物を感じていただが、さすがに一番広いと思わしき巨大な穴が口を開いている部屋まで何事もなく来てしまって拍子抜けしていた。
だからこそ口々に文句を言ってたわけだが……。
人というのは不思議な物で、最初は不気味に感じていた周囲の様子だったのだが、馴れてしまうと部屋のあちらこちらに落ちている機械のなれの果てに違和感を感じるようになっていた。
「でもここまでリコのメッセージカプセルが無いね」
ナツキは素朴な疑問を口にし、ハルカがそれに答える。
「先行した人達が持って行ってしまったのかも」
「はた迷惑な話ね」
「まったく……っ!」
ナツキとハルカは今までにない違和感を全身に感じていた。
他の者達はまだ気づいていない。
「ケイ、データの抽出は中止して! くるよ!!」
ナツキの声に全員が武器を構えると同時に、どこからともなく無数の両手に鎌を持った生命体が現れる。
ナツキは瞬時に全員の配置と敵の位置を確認する。
敵は全部ナツキ達の前方にある巨大な穴の方に集中している。
それに対してナツキとハルカは部屋の中央。
ケイとゼロがナツキ達の左手にある残骸の側。
レッドとレンがナツキ達の右手の壁側
ソラとフユがナツキ達の背後。
「ソラは敵に補助テク!! フユは全員は補助テクを!!」
「「はい!!」」
ナツキの言葉にソラは敵に対してジェルンとザルアをフユは8人全員にシフタとデバンドをかけた。
「よし! 全員楽しんじゃえ!!」
ナツキは補助テクの状態を確認するや否やそう言った。
指示としてはどうかと思うものだが、いかにもナツキらしい指示の出し方である。
そして同時に全員の実力を把握しているからこそ言える事なのかもしれない。

まず最初はレッドのファイナルインパクトで全面の敵をなぎ倒していく。
そこへゼロ、ケイ、レンがそれぞれの得意武器で斬りかかっていった。
「レッド殿。あまり派手に撃ちまくらんでくれよ!」
「分かっているって」
ゼロの言葉にそう答えると武器をコンバットに持ち替えて、ゼロの背後に近づく敵の背後に連射を加えた。
「忍者なら後ろにも目を持たないとな」
「後ろに貴殿がいることを知っていた。それだけでござる」
「言ってくれるね」
「まだまだ来るでござるよ!」
「ああ!」
ゼロとレッドは互いに背をかばい合いながら、ゼロは的確にフライトカッターで4体連続で倒し、レッドもコンバットで2体ずつ倒していった。

「まったくゼロ達も派手にやってるねっと!!」
ゼロ達を横目にレンは自分の身長以上のラストサバイバーを振り周り近づいてくる敵を次々に倒していく。
そこへ、今までの敵とは違う生命体が遙か遠くに姿を見せ、その距離をひとっ飛びで縮めレンに斬りかかってきた。
それは右手が刀、左手が盾のようになった生命体で今までの奴らとは動きが違う。
レンは咄嗟に後ろに飛んで避けるもその動きの早さに翻弄される。
そこへケイがブレイドダンスでその敵を切り裂き倒した。
「素早い動きの物には素早い動き」
「礼は言わないよ。すぐにおあいこになるからね」
「分かってます。また同じ奴が来ます」
「今度はさっきのように行かないからね!!」
ケイは相手よりも速い動きで翻弄し倒し、レンは動きが止まった瞬間に力業で切り倒していった。

最後方にいるソラとフユの背後に巨大な埴輪のような生命体の大群が姿を現した。
「こいつらどこから!?」
「その詮索は倒してからにしましょう!」
「そうね……ラフォイエ!!」
ソラが放つラフォイエの炎は敵の動きを一瞬怯ますも再びゆっくりと歩き始めた。
「こういう奴ら……嫌い……」
「炎がダメならこれならどうですか。ラバータ!!」
フユの放つラバータの氷は確実に敵の動きを封じた。
「これなら行けますよ」
「それなら氷が溶けないようにしてね」
ソラは手に持っている炎杖を握り直す。
「分かりました」
彼女の意図を理解したフユはラバータを連続で放つ。
そしてソラは動きを封じ込められた埴輪を炎杖で倒していった。

「みんな元気だね」
「そうね。私達も負けていられないわね」
両手鎌の敵をナツキはダブルセイバーで、ハルカはバトルバージでなぎ倒していく。
すると2人を挟み込むように身体の左右に宝石の様な物を浮かばせている魔法使いの様な生命手が姿を現した。
「なんだと思う?」
「さぁ?」
2人が背中合わせにそれぞれの敵と対峙すると、敵の右側の宝石が光り始める。
その直後、ナツキの方はラバータ、ハルカの方はラフォイエが襲ってきた。
2人は咄嗟にナツキはラフォイエ、ハルカがラバータを反射的にぶつけ対消滅させると、持っている武器で敵を切り裂いた。
「まさか、こんな奴もいるなんてね」
「テクニックは私達だけの物じゃないという事ね」
「そうね」
「また来たわ!」
「今度はこっちから行くよ!」
ナツキとハルカは相手がテクニックを放つ前に先制攻撃をしていった。

時間にしてどのぐらいが経過しただろうか。
出現した敵は全て一掃された。
床は敵の紫色の体色で染まっている。
全員一カ所に集まり、ケイにデータの抽出を急がせる。
すると、再び敵の大群が姿を見せた。
「またかよ!」
その姿にレッドは叫ぶ。
全員は再び武器を構えるが、その前にナツキとハルカが立ちふさがる。
「ここは私達に任せて。しつこい奴は嫌われると言うことを教えないとね」
「そう言うわけだから、ケイはデータの抽出を続けて。他の人はその護衛をお願い」
それにソラが反論する。
「だけど、2人じゃ……」
「ソラ、私達の16年ぶりのすごい攻撃見たくない?」
「え?」
「と言うわけで見ててね」
その自信満々の言葉にソラも含めたその場にいる全員が言葉を失う。
ナツキとハルカはそれを了解と受け取り、敵の大群へと一歩前へ出た。
「さてとハルカ、いきますか?」
「ええ、ナツキ」
互いにアイコンタクトを取ると、武器も何も持たずに構える。

「炎と!」
「氷の!」

「「ミラージュ!!」」

2人が同時に放ったラフォイエとラバータは敵の大群の中央で衝突し、辺り一帯を吹き飛ばすほどの大爆発を起こした。
爆風は荒れ狂い、爆発の逃れた敵をも飲み込み消滅させる。

圧倒的な威力と破壊力に誰もが目を見張る。
「でたらめだ……」
そのレッドの呟きが全てを現しているだろう。
そして爆風が収まりもやが晴れると、そこにはクレーターと思わしき穴が開いていた。
「16年ぶりだけに力の加減を間違えたかな?」
「少し張り切りすぎたね」
ナツキの言葉にハルカは笑みを零しながら答える。
「さてと……ケイ、データは取れた?」
ナツキはそう言いながら振り向くと、未だショックから立ち直れないのか呆然としたまま固まっている6人の姿があった。
「どうしたの? 奴らが来る前に早くデータを取って先に進もうよ」
「え、ああ……ケイ、あとどれぐらいだ?」
最初の再起動を果たしたレッドがケイに聞く。
「もう少しです……あ、いえ、終わってました」
ケイは慌ててデータの整理をして、端末にマップを表示させた。
それを見てハルカが聞く。
「ケイ、この先はどうなってるの?」
「全部で3つのエリアから成り立っているようです。現在いる場所が第1エリアです。そして第3エリアの向こう側が不明になってます」
「つまり、そこに全ての謎があるという訳ね。ナツキ、みんなが立ち直ってから行こうか」
「そうね」
そう答えたときナツキはまるで立ちくらみでもしたかのようにぐらっとした。
「ナツキ!」
ハルカは咄嗟にナツキの身体を支える。
そしてそのナツキの突然の様子の変化に全員再起動を果たして、ナツキの元に駆け寄る。
「ごめん、みんな……ただの立ちくらみ」
「ナツキ……」
「大丈夫だよ。あれだけの大技を16年ぶりに出した後だよ。少しオーバーロードしたのかもね」
「……うん」
やや疲れたように笑うナツキにハルカは小さく頷くしかなかった。
そしてナツキはハルカから離れてちゃんと立つと、心配する笑顔を見せる。
「私はこの通り大丈夫なんだから、そんな辛気くさい顔をしない。それよりも先に進むよ。いいね!」
短い沈黙の後、意外にもソラが先頭を切って口を開く。
「ナツキさん……大丈夫ですよね」
彼女の脳裏に先日の光景が甦っていた。
あの時はメディカルルームで診てもらって異常なしだったが、再びこういう光景を見てしまうとどうしても悪い方へと考えてしまう。
これはソラがどれだけナツキの事を想っているかの表れなのかも知れない。
「なぁにソラ、私の言葉が信じられないの?」
「そう言う訳じゃ……」
そう言って俯くソラの髪をナツキはぐちゃぐちゃとかき混ぜる。
「や、やめてくださいよ」
ソラはすぐにその手を払い抗議するが、ナツキはフフッと笑うだけ。
「あなたがくだらないことを言うからだよ」
「そんなこと言っても……」
「今度は脇をくすぐってあげようか?」
「ナツキさん!」
「あはは……ねぇ今の私、どう見える?」
「どうって……いつもと変わりませんが……」
「それじゃそう言うことだよ」
そう言うとナツキはパッと振り向き、出口の方向へと歩き始めた。
ハルカも軽く息を吐くとナツキの後に続く。
しかし、数m程歩いたところでハルカ以外誰も着いてきてないことに気づいたナツキは足を止めると振り向いた。
「行かないの?」
仁王立ちでこちらを見るナツキに全員慌てて後を追った。

「そういえばさっきのはどうやって出したんですか?」
通路を歩きながらソラはナツキに聞く。
「さっきのって?」
「ハルカさんと出したアレです」
ソラは先ほど2人が使った『炎と氷のミラージュ』の事を聞いていた。
そしてソラと同じフォースのフユも参加してくる。
「ボクもそれが疑問ですよ。ラバータともラフォイエとも言ってないのに」
「ナツキさん、ハルカさん、教えてください!」
ソラとフユは2人の前に立ってジッと見る。
ちゃんと説明しないと先に進めない感じだ。
さらに後ろにいる面々も非常に興味津々な感じだ。
ナツキはハルカとアイコンタクトを取ると、彼女は(いいんじゃない?)と言うので軽く息を吐くと説明することにした。
「テクニックを使うとき、精神集中をしてかけ声と共に放つ。それはフォースであるあなた達に改めて説明する必要は無いよね。ここで質問なんだけどこのかけ声ってテクニックを使う上でなんだと思う?」
「え〜っと……それを言うことでそのテクニックが出る?」
「テクニックを呼び出すための呪文?」
ナツキの質問にソラとフユはそれぞれに答える。
「どちらも間違っていないけど正解とは言えないかな? かけ声というのはただの切っ掛け、集中力を高めて放ちやすくするためのものなの。だから……」
ナツキは普通にしゃべりながら左手の平に火の玉を作り出した。
「精神を集中させればこんな風にしゃべりながらでもこの通り火の玉を作り出すことが出来る」
そして下手投げでぽいっと軽く横の壁に投げると、ポンっと小さな爆発音と立てて消滅する。
「威力もこの通り自由自在に調整も出来ると言う感じだね。フォイエとも何とも言ってないよね」
その言葉に2人は無言で頷く。
驚きのあまりに声を出せないでいた。
それを見てナツキは言葉を続ける。
「2人も会話中で普通にテクニック名を言っただけだとテクニックは出ないでしょ。精神を集中させてちゃんと準備をしてから切っ掛けであるかけ声で放つよね。結局のところ訓練次第でかけ声無しで無言はもちろんさっきみたいに普通にしゃべりながらも出来るわけ。分かったかな?」
2人はコクッと頷くと、続けて後ろで聞いていたレンが質問をした。
「それじゃハルカさんとやったときはかけ声がありましたよね。それはどうしてですか?」
「それは簡単。2人で同時に放たないと『炎と氷のミラージュ』は成功しないの。だからタイミングをあわせるためにもかけ声は必要でしょ。でもあれってネタをばらすとただの水蒸気爆発だよ。ただ私達2人が最大の力で放つからあそこまで飛んでもないことになっちゃった訳だけどね。ね、ハルカ」
照れ笑いをするナツキに話を振られて、ハルカも先ほどの事は少しばつが悪いのか笑うだけだった。
それに釣られて他の人達も笑い出すが、ソラだけは真剣に練習してみようと心に決めていた。












通称『大聖堂』と呼ばれる場所。
誰もいないと思われるその場所に声が響き渡る。
「……感じるぞ……強き者の気配……早くここまで来い……ククククククッ」



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「ということで第1エリアは終了、次回第2エリアになります」
恵理「なんか最後のはどこかで聞いたことのあるような笑い声ですね」
絵夢「気のせいです」
恵理「お〜い(w」

恵理「でも派手な大技でしたね」
絵夢「このぐらいやらないとダメでしょ」
恵理「いや、ダメというか……」
絵夢「友情の合体技! ヒーローものには必須だぞ」
恵理「これってヒーローものなの?」
絵夢「違うよ」
恵理「あの〜?」
絵夢「ん?」
恵理「……もう良いです」

絵夢「そんなわけで次回おたのしみに〜」
恵理「ではまったね〜〜♪」