NOVEL



ここは夢園荘

里亜の章

キ〜〜ンコ〜〜ンカ〜〜ンコ〜〜ン
本日終業のチャイムが学校中に響き渡る。
クラスメイト達は長い緊張感から解放され、鞄を持って早々に教室を出て行く人、友達と談笑する人、これからクラブの人、いろいろ。
そして私は……。
「み〜あちゃん、私達の愛の巣に早く帰りましょ」
「あ、愛の巣って」
なんか美亜ちゃんの笑顔が引きつってる気がするけど気のせいだよね。
「だって私達が住んでいるのはドリームガーデン、夢の楽園なんだもん。そうそこはめくるめく夢の世界」
私の頭の中は美亜ちゃんとのことでいっぱい、幸せいっぱい……。
「おねぇ〜さま〜〜」
背後から聞こえるこ、この声は……。
私はおそるおそる後を振り向く。
「佐由理ちゃん、なんでしょう?」
「お姉さま、すっごくおいしいケーキ屋さんを見つけたんです。一緒に行きませんか? もちろん美亜さんも一緒に」
そこには人付き合いは良い方の私がもっとも苦手としている小梅佐由理ちゃんがいた。
しかし、苦手と言いながらも私は今『ケーキ』と言う単語に反応していた。
……私の好きな物。しかも凄く美味しいと言うなら食べてみたい。
でもこの佐由理ちゃんは確かに苦手な娘だ。
凄くいい娘なんだけど、私のことを『お姉さま』と慕ってくるその瞳はまさしく恋する乙女。
だからちょっと身の危険を感じて怖いんだよね(^^;;
ってこんな事を美亜ちゃんに言ったら『私は里亜ちゃんの方が怖い』と言われそうだけどそれはあえて無視する。
「ね、お姉さま。行きましょう」
そ、そんなウルウルした瞳で私をじっと見つめないでよぉ(;_;)
私は美亜ちゃんに助けて貰おうとちらっとアイコンタクトを送る。
「ん、行って来たら」
「ちょ、ちょっと美亜ちゃん?」
「私これから夏樹さんとデートなの」
デ、デートぉぉ!
私の美亜ちゃんと夏樹さんがぁぁ!!
「何で!? どうして!? どうなって!?」
「里亜ちゃん、おちつて。もう冗談が通じないんだから」
「じょ、冗談?」
「そ、彼女にプレゼントしたいから、それを選ぶのを手伝って欲しいということなの。この間のお礼も兼ねてだけどね」
「そうなの……あははは……」
ちょっと気が抜けてしまった。
この間のお礼というのは『美亜の章』参照ね。
「じゃ、じゃあさ、私も一緒に……」
「佐由理ちゃんが後で泣きそうな顔してるよ」
「え……」
後を見ると佐由理ちゃんが瞳に涙をためてジッと私の答えを待っている。
「あ……えっと……」
「佐由理ちゃん、そう言うわけだから里亜ちゃんの事よろしくね」
「ハイ!」
そ、そんなぁぁ、美亜ちゃ〜〜〜ん(;_;)
私の願いもむなしく美亜ちゃんは笑顔を残して教室から出て行ってしまった。
うう……美亜ちゃんのばかぁぁ(涙)
「ではお姉さま、行きましょ」
佐由理ちゃんは嬉しそうに私と腕を組んできた。
私はあきらめの境地で「はい」と頷くしかなった。

「本当にすっごくおいしいね」
「私も偶然見つけたんですよ。美味しいケーキ屋さんを探して隣町まで行っていたのに本当に灯台もと暗しという感じです」
私と佐由理ちゃんは彼女の案内で来た駅前のケーキショップで仲良く談笑していた。
今さっきまで落ち込み半分あきらめ半分だったのに、ケーキが目の前に出された途端にころっと機嫌が良くなって、ホント現金な性格かも。
でも美味しいから幸せなの。
「それでお姉さま……」
私の目の前でケーキを食べながら一生懸命に私に話しかけてくる佐由理ちゃん……決して悪い子じゃないんだよね。
むしろ凄くいい娘。
私もこんなにいい娘に慕われてるんだから幸せ者なのかな?
そう言えば彼女に初めて会ったのは、この街に来てすぐぐらいだったかな?

高校に上がってすぐの時に、なんとなく1人でぶらつきたくなって散歩がてら歩いていた。
すると、駅前のロータリー付近でナンパ男にしつこくつきまとわれてる女の子を見つけた。
「わ、私用事がありますから……」
「そんなこと言わないでさ、俺と遊びに行こうよ。格好いい車に乗ってるだぜ」
「だから、私……」
はっきり言って私はああいう男が大嫌いだった。
私は鞄の中に入れてあるサングラスをかけると、二人に近づいていった。
「ちょっとあんた、あたしの連れになんかようなのかい」
従姉仕込みのドスの利いた声で男に言う。
二人はちょっと呆然とした様子だったが、私のアイコンタクトに女の子は気づいてすぐに話を合わせてくれた。
「お、お姉さま、この人しつこくて……」
お姉さまって……ま、いいか……。
「ふ〜〜ん……あんた、あたしの連れに手を出して覚悟は出来てるんだろうね」
「あ、あの……」
まだ16歳だったけど、その昔地元では従姉と共にある程度名前が売れ、そして従姉の二つ名を継承した私のにらみにナンパ男は言葉をつまらせた。
でもこのことは美亜ちゃんには内緒なの。
もともと小さいときから体の弱かった美亜ちゃんを守るために強くなったんだけど、それで美亜ちゃんを怖がらせたりしたら大変だからね。
それはともかく、私はサングラスの奥からじっとこのナンパ男を睨み続けた。
「あ、あはは……お、俺ちょっと用事思い出しちゃったなんてかな……」
「………」
「ま、またね〜〜〜!!」
ナンパ男は脂汗を流しながら後ずさり逃げていった。
あの手の男ってこれで逃げるから楽だよね。実際……。
「ありがとうございました」
「礼なんて良いよ。たまたま通りがかっただけなんだから」
私はサングラスをはずし鞄にしまうと優しくそう言った。
「でも……」
「それにあなたも嫌なら嫌ってはっきり言わないとダメだよ」
「はい、そうなんですけど、どうしても気が弱くて……」
そこで彼女は言葉を止め、じっと私の顔を見る。
「私の顔に何かついてる?」
「もしかして城田さんですか?」
「え?」
「やっぱり、私同じクラスの小梅佐由理です」
「そ、そうなんだ。私、人の顔覚えるのに時間がかかる方だから」
本当のこと。でもその分美亜ちゃんはそう言うことは得意なんだよね。
双子で互いの能力を補完してるのって神様のいたずらなのかな?(^^;
「そうなんですか……でもこれで私のこと覚えてもらえましたよね」
「ま、まぁね……」
なんかさっきまでナンパ男に対しての態度と違うような……。
「そ、それで……あの……城田さんのこと『お姉さま』と呼んでも良いですか?」
「ハイ?」
私は一瞬耳を疑った。
今、この娘なんて言ったの?
「私、お姉さまみたいな人に憧れていたんです」
「あ、あの小梅さん?」
「ダメ、佐由理って呼んでください」
この娘の目、完全にやばい。
これが噂に聞くレズと言う奴……ずっと美亜ちゃんと愛の営みを繰り返している私の台詞じゃないけど……。
「私、そういうのに興味ないから……」
「お側にいることを許していただけるだけで十分なんです」
「だから、気持ちは嬉しいんだけど……」
瞳を潤ませてジッと私を見つめる。
思わず後ずさる。
その時、ふと周りから複数の妖しい視線を感じた。
……しまった……ここ駅前だ……。
私はこの場から何とかして逃げ出さないといけないと一計を案じた。
「小梅さん、この話はまた明日学校でと言うことで良いかな?」
「はい」
完全に恋に恋する乙女の目してる(;_;)
「そう言うわけだからまた明日ね」
「はいお姉さま。また明日」
そのお姉さまっていうのやめて〜〜〜。
私は早くその場から離れたくなって思わず走って夢園荘まで走って戻ってしまった。
部屋に戻って、落ち着いたところで気づいた。
結局、問題を先送りにしただけだったと言うことに……。

「それでね……あれ、お姉さま?」
「え、何?」
「もう聞いてなかったんですか?」
佐由理ちゃんが頬を膨らませて抗議する。
でもそんな仕草もちょっと可愛いかも。
「ごめんね、ちょっと考え事してたから」
「ふ〜ん、ま、いいや。それでですね……」
再び話し始めようとしたとき、店内に見知った人が入ってきた。
彼女もまた私に気づいたようだ。
「あれ、何、里亜もここのケーキにつられてきたの?」
「違う違う、この娘に教えてもたったの」
「この娘? あれ、佐由理?」
「え、あ〜〜〜恵理さん!」
「やっぱりそうなんだ、久しぶりだね」
彼女、樋山恵理はそう言いながら、空いてる席に座った。
学校帰りらしく、小豆色の制服を着ている。
「何、二人とも知り合いなの?」
「まぁね。中学3年間ずっと同じクラスだったんだ」
私や美亜ちゃん、佐由理ちゃんが通う学校は中学高校大学とエスカレータ式の女子校で、恵理ちゃんももともと同じ学校に通っていたんだけど、中学から高校に上がるときに突然、『エスカレータ式は性に合わない』と言って1人別の高校、しかも新設校を受験してその学校に行ってしまったの。
本当の理由はその学校の制服の方が可愛いからと言うことらしいけど……そう言う理由の方が恵理ちゃんらしくて納得できるんだよね。
「里亜、今ひどいこと考えてなかった?」
「え……気のせいでしょ」
「そう?」
凄く感が鋭い娘でもあります、ハイ。
「恵理さん、新しい学校はどうですか?」
「どうって……ん〜〜〜あまり変わらないよ。私の行ってるところも女子校だし。でも制服は気に入ってるけどね」
ほらね。
「里亜……今、何考えてた?」
「なんでもないって(^^;;」
モノローグに突っ込み入れないでよぉ。
「もしかして里亜と佐由理って同じクラスなの?」
「ハイ、お姉さまとは高校に上がってからずっと同じです」
「お……お姉さま?」
恵理ちゃんが複雑そうな顔で私を見る。
「恵理ちゃん、これはね……」
「ふ〜〜ん……。里亜、頑張りなよ」
「恵理ちゃ〜〜ん(;_;)」
「お待たせしました」
私が泣きつこうとしたとき、恵理ちゃんがいつの間にか注文したケーキと紅茶が運ばれてきた。
「いつ頼んだの?」
「里亜が私のことでひどいことを考えてたとき」
「そんな、冷静に素で答えないでよ」
「だって事実でしょ」
「そんなことないよぉ」
「ま、いいけどね」
なんでモノローグに突っ込みを入れられるの(;_;)
もしかしたら恵理ちゃんも苦手な娘の1人なのかなぁ……。
「ところで佐由理、里亜には優しくしてもらってるの?」
何て事を聞くかな、この人は。
「優しくと言うか……普通かな? でも私幸せです」
「そ、よかったね」
「ハイ!」
何か意味深な会話……。だけど佐由理ちゃん凄く幸せそうな笑顔……。
「里亜」
「え?」
「美亜だけじゃなく、佐由理も大切にしなきゃダメだよ」
「え……」
「この娘……私の口か言う事じゃないか……。とにかくそう言うわけ」
恵理ちゃんは?マークが浮かんでいる私の肩を軽く叩く。
「さてとおじゃま虫は退散するとしますか」
そう言うと彼女は席を立った。
「ケーキは?」
「もう食べた」
「いつ?」
「さっきまた苦手がどうのって考えてたでしょ。その時」
「う〜〜〜〜」
恵理ちゃんって何者なの。
「そう言うわけだから、佐由理も元気でね。たまにはドリームガーデンに遊びおいでよ」
「ハイ!」
彼女は自分の分のレシートを持つとそのままレジで会計をすまし、私達に手を振りながら店を出ていった。
「久しぶりでしたけど、全然変わってませんね」
「そう……だね……」
「どうしたんですか?」
「なんでもない……」
やっぱり恵理ちゃんって苦手……。
「この後、まだ時間は大丈夫ですか?」
「時間? 今日は食事当番じゃないからまだ少しは大丈夫だけど」
「でしたら買い物に付き合ってほしいんですけど」
「いいよ。何処に行くの?」
「駅ビルにあるアンティークショップです」
「じゃ、遅くなる前に行こうか」
「ハイ、お姉さま!」
私達は店を出て駅ビルに向かった。

あの時……恵理ちゃんが言葉を濁した時、いつも笑っている佐由理ちゃんの表情に影が差したような気がした。
何があったのか結局分からないままだったけど、いつか佐由理ちゃん自身の口から話してもらえるかな?
その時、本当の友達になれるかも知れないと、腕から伝わってくる彼女のぬくもりを感じながらそう思う私だった。


だけど本当に私は美亜ちゃん一筋なの〜〜〜(;_;)


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<あとがき>
恵理「ついに2話目にして本編に登場で〜〜っす!」
絵夢「里亜をからかって遊んじゃって、そかもモノローグにまで突っ込みを入れて」
恵理「だって里亜ってすぐに顔に出るタイプなんだもん」
絵夢「だからって(^^;;」
恵理「ところでマスター、私はいつになったら主人公になれるの」
絵夢「未定」
恵理「マスタ〜〜〜」
絵夢「く……首しめるなぁ!」
恵理「う〜〜だってぇ」
絵夢「そのうち順番が回ってくるから、それまで待つ」
恵理「……はい(しぶしぶ)」
絵夢「それでは次回お楽しみに〜〜」
恵理「……たぶん次回も私はちょいやく……」