NOVEL



ここは夢園荘

葉月の章

暗くて広い場所。でも知らない場所。
二人の知らないお兄ちゃんが私を裸にして、自分たちの物を突き刺してくる。
お腹の下当たりから身体を突き抜けるような鈍い痛みが走る。
痛くて叫んだ。
うるさいと殴られ、口をふさがれ何かどろりとした気持ちの悪い物を無理矢理飲まされる。
気持ち悪くて吐き出すと汚いと言われまた殴られた。
お腹の中に何かなま暖かい物を入れられた。
気持ち悪い。
私の下にいた人が離れた。
今度は私の口をふさいでた人が私を下から突き立てる。
下にいた人は私の口に気持ち悪い棒を無理矢理入れてくる。
痛い。
でも声を出せない。
でも痛い。
殴られるのは嫌だから声は出せない。
何も考えられなくなっておとなしくなった私。
二人は次々に何かを下から突き刺してくる。
分からない……。
もう何も分からない……。

”バン”

大きな音。
暗い場所に光が射し込んでくる。
「あんた達! 何をしてる!」
女の人の声。
「何だてめぇ!」
「四神将、水の神将!」
「な、まさか……」
「所詮女だ、こいつもやっちまおう」
「お、おう!」
「相手を見てから物言いな、このロリコン野郎!」
二人は私から離れた。
逃げなきゃ……でも身体が動かない。動けない。
何かがつぶされるような音が聞こえた。
テレビで良くある『ひきがえるをつぶしたような音』
女の人が動けない私に自分の来ていた上着を掛けて優しく抱きかかえてくれた。
「もう大丈夫だからね」
そう声を掛けてくれた。
「あ……り……が……と……う……」
やっとの思いで声を出してお礼を言うと女の人は優しく頷いてくれた。
女の人の肩越しから不自然な格好でうずくまっている二人の姿が見える。
「あの……人……たちは……?」
「二度とこんな真似が出来ないようにつぶしてやったんだ」
「つぶ……す?」
「そのうち分かるよ」
女の人……お姉さんは複雑そうな笑みを漏らす。
「澪! ……あ〜あ、加減って物知らないかな……」
「澪だもん、仕方ないよ」
「ま、もうこんな真似はしないだろうけど……つぶすのはやりすぎだよな」
後から男の人二人と、女の人一人が入ってくる。
このお姉さんの知り合い?
「夏樹、亜沙美、二人ともあたしの事どう見てるの? それにタカ、ここまでやらないと泣く娘が増えるだけなんだからね」
私を抱きかかえたまま、少しふくれたような口調で言う。
「物事は何でも程々にって事だよ。今回はこれでOKって事にしようか」
「そうだね。後は警察のお仕事」
「澪、後のこと任せて大丈夫か?」
「この娘のこと?」
「「「そう」」」
「三人一緒に言わなくても……。でもいいよ。元々は私の単独行動だしね」
お姉さんはもう一度私にほほえみかけてくれた。


「早瀬さんや澪さん達と初めて会ってからもう12年になるんですね……」
「もうそんなになるか?」
聞きたいことがあって家まで来てもらった早瀬さんに、澪さんから頂いた手紙を見せた

私は水瀬葉月。
小学生の時に心に傷を負いました。
でもそれを救ってくれたのが澪さんであり、早瀬さん、鷹代さん、亜沙美さんの四人でした。
あの四人に出会わなければ今頃どうなっていたか分かりません。
そしてそれから澪さんは数ヶ月の間、自分の心に閉じこもった私を励まし続けてくれ、立ち直った私に澪さんは自分の身を守る方法、そして妹たちを守る方法を教えてくれました。
今私の手首には澪さんから頂いた『水のブレスレット』が光ってます。

澪さんから頂いた手紙にはもうすぐ二人目が生まれると言うことが書いてある。
「しっかし、二十歳で結婚して二児の母か……早いもんだな」
「そうですね」
「ちょくちょく連絡は取ってるの?」
「こうしてたまに手紙でやりとりするぐらいです」
「俺の所には一通もよこさないくせに……」
ちょっとすねた感じ……なんか子供っぽくて可愛いかも……。
私は思わずクスッと笑みをこぼした。
「何?」
「いえ、澪さんから電話も通じなければ手紙も届かないって言ってましたよ」
「………」
早瀬さんはしばし考え込んでぽんっと手を叩いた。
「郵政省に転居届けだしてないや」
「それでは届きませんね」
「それ以前に、他の連中は誰も教えてないのか?」
「そうみたいですね」
「……君もだね」
「分かります?」
「分かるよ。ま、いいけど……今度こちらから連絡しておくよ」
「それがいいと思います」
五年前、私と鷹代さんの二人で澪さんや亜沙美さんに早瀬さんが夢園荘の管理人になったことを黙っておこうと決めたのですが、怒られるのでここでは内緒です。
「ところで本題なんですが、この『石』のこと教えていただけませんか?」
私は手首に光る『水のブレスレット』を早瀬さんに見せた。
「それか……澪は何て言ってた?」
「早瀬さんに聞けば分かると……でも私忘れっぽくていつも忘れてしまうんです」
「なるほど……」
早瀬さんはクスッと笑みをこぼす。
もしかしたら馬鹿にされたかな? でも早瀬さんに限ってそれはないでしょう。
「澪が持ちそして今君が持つ『水のブレスレット』、亜沙美が持ちそして今里亜が持つ『火のイヤリング』、タカの持つ『大地のペンダント』、そして俺が持つ『風の指輪』……これら四つはもともとこの水瀬神社の御神体なんだよ」
「御神体? ……でもこの神社の御神体は社に安置されている鏡では?」
「表向きね。忘れ去られた物だったみたいだから誰も知らないのも当然だと思う」
「そんな、どうして……」
「まだ俺が10歳ぐらいだったかな? このあたりの山林って俺にとっての遊び場だったんだ。その時偶然見つけた小さな洞窟……神社の裏の奥の方に子供がやっと入れるぐらいの小さな穴が空いてるだろ、そこだよ」
「はい。ただの洞穴かと思っているんですが」
「実はその奥に祠があってね。そこに封印されていた箱を開けてしまったんだ」
「その中にこれらの『物』が……」
私は自分の手首の『水のブレスレット』を見つめた。
「そう。俺はしばらくそれらを眺めた。すると突然光り出して四つともどこかに行ってしまったんだ。俺は慌てて箱を元通りにすると逃げ出した。それから家に帰った後そのうちの一つ『風の指輪』が俺の指にはまっているのに気づいたんだ」
「そして他の三つはそれぞれの所へ……」
「で、中学に入ってからそれら四つのアイテムを持った四人が惹かれるように集まった……と言うわけ」
私は早瀬さんの話にどう反応して良いか分からなくなった。
「当時、何度もこっそりと返しに来たんだけど気づくと指にはまっていてね、そうこうしているうちに『これ』が俺の身を守ってくれることに気づいたんだ」
「そうだったんですか……『これ』……一体何なんでしょうか」
「それは俺にも分からない。ただ一つ言えることはそれぞれのアイテムにはまっている『石』に秘められた風・火・水・地の力が持ち主を守護し力を貸してくれるものだと言うことだけ」
「そうですか……」
私はそれ以上言葉を繋げることが出来なかった。
澪さんは『気づいたら持っていた』程度しか教えてくれなかったので、思っていた以上の話に頭が混乱していると言うのが正直なところかも知れない。
「ま、難しく考えること無いよ。せいぜいお守り程度に考えればいいと思うよ」
「そんなに簡単で良いのでしょうか。それにこれは御神体なんですよね。本当に……」
「返せと言われれば返すのが常識なんだけど……困ったことにこれはずれないんだ」
指からはずそうとしながら苦笑を漏らした。
「でもさっき、何度も返しに来たって……」
「昔、力を暴走させたことがあってね……それ以来……」
早瀬さんは凄く寂しそうでそして凄く悲しそうな目をしていた。
「早瀬さん……」
私は早瀬さんの指輪に視線を落とした。
(あれ?)
私の『水のブレスレット』の『石』は綺麗な水色の輝きを放っているのに対して、早瀬さんの『風の指輪』の『石』は暗く沈んだ色をしていた。
「早瀬さん、その『石』の色……」
「ん? ああ、外れないついでに力も無くしたみたいでね。本当は綺麗な青だったんだけど……」
そこで早瀬さんは言葉を切った。
もしかしたら私、触れてはいけないことに触れてしまったのかも……。
「ご、ごめんなさい」
「え?」
「もしかして私、早瀬さんの気に障ることを……」
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしてただけだから」
「それなら、いいんですけど……」
私は気まずい雰囲気に包まれた。
「ところでまなみちゃんから連絡あった?」
「え?」
「だからまなみちゃん」
場の雰囲気を変えようと早瀬さんが気を利かせてくれたのでしょうか?
違ったとしてもありがとうございます。
「あ、元気でやっていると電話がありました」
「そうか」
「それで休みになったら遊びに来ると言ってました」
「うん。元気そうで何よりだね」
「はい」
「卯月もそれなりにやってるみたいだしな」
「鷹代さんに迷惑を掛けてないか心配で……」
「大丈夫だよ。なかなかしっかりしてるし、やっぱり葉月の教育の賜物か?」
「私は何も……」
ちょっと照れてしまう。
「そして睦月もまだ道を模索しているようだけど、いつか見つけるだろうね」
「そうですね」
「そろそろさ」
早瀬さんはまじめな顔で私を見る。
「はい?」
「そろそろ自分の事を考えても良いんじゃないのか?」
「え……」
「今まで、ずっとあの娘達の為にいろいろやってきたけど、自分の幸せ考えても良いんじゃないのか?」
「でも私は……」
私の頭の中をあの時のことがよぎる。
「気持ち、分からなくはないけど……でももうあれから12年も経つんだ。きっと澪も同じ事を言うと思うよ」
「……そうですね。きっとそうですね。早瀬さん、頑張ってみます」
「ああ」
私の前向きな答えに早瀬さんは笑みをこぼす。
「ところで早瀬さん」
「ん?」
「恵理さんのこと、どうなんですか?」
「……は?」
とぼけようとする早瀬さんにズイッと顔を近づける。
「とぼけてもダメですよ」
「あ、あは……」
「笑って誤魔化してもダメ」
私は元の体勢に戻ると早瀬さんをじっと見つめたまま言葉を続けた。
「早瀬さんだって恵理さんの気持ちぐらい知ってるはずです。早瀬さんが鷹代さんほど鈍くないことは知ってますから」
「それ、タカに悪いよ」
「話そらさない」
「はい……」
「で、正直どうなんですか?」
「今はまだと言うところだな……」
「『今は』と言うことは『いつかは』あると言うことですね」
「言葉尻を取るね」
「私は真剣に聞いているんです。今のままでは恵理さんが可哀想です。それに女として早瀬さんのはっきりしない態度って許せないんです」
ちょっと興奮してるかも知れない……私らしくないかな……でも、ここできちんと言わせないと私の気が収まりません。
「今はけりを付けないといけないことがあるんだ。止まっていた時間を動かす為、一歩を踏み出すために……。そのすべてに片がついたら……今はそれしか言えない」
早瀬さんの真剣な言葉に私は何も言えなくなってしまった。
欲しかった答えとは違うけど、早瀬さんは早瀬さんなりに真剣に考えていると分かったから……。
「この答えで納得してくれるかな?」
「仕方ないですね」
「ありがと」
早瀬さんは私と視線を合わせる。
「それにしてもお互い、問題が山積みかもな」
「そうかもしれません」
「お互いに頑張ろうな」
「はい」
早瀬さんは時計に目をやる。
「さてと……これからノルンに行くけど、どうする?」
「そうですね……たまには卯月の様子も見たいのでご相伴します」
「OK」
「では外で待っていてください。支度しますので」
「ああ」
早瀬さんが立ち上がり出ていくのを確認して、私は部屋に戻り支度を始めた。

早瀬さんにはああ言いましたが、この10数年妹たちの幸せだけを考えて生きてた私にはまだ自分の時間を取り戻せそうも無いかもしれません。
それでもゆっくりでも良いので一歩ずつ前へ踏み出して行こうと思います。
私自身の未来のために……。


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<あとがき>
絵夢「補足説明・・・四人と葉月との出会いは12年前で夏樹が力を暴走させたのが9年前ですが、当時葉月と会っていたのは主に澪だけでした」
恵理「どうしたの?」
絵夢「力を暴走させてから夏樹自身、葉月と会ってませんし、澪やほかの二人もそのことは葉月には話してません」
恵理「マスター?」
絵夢「そして約五年前に夏樹が夢園荘の管理人に就任(?)したときに葉月と再会しました」
恵理「お〜〜い」
絵夢「結局の所、葉月は夏樹の力の暴走のことは何も知りません」
恵理「マスターが壊れたぁ」(;_;)
絵夢「人聞きの悪いことを言うな!」
恵理「だっていくら呼びかけてもなんかよく分からない独り言を言ってるんだもん」
絵夢「こういう説明をしておかないといろいろと大変なんだよ」
恵理「そうなの? でもこういうところで説明するって事はマスターの力不足の証明だよね」
絵夢「………次回、いよいよお前の番だったんだけど止めるか……」
恵理「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……マスターごめんなさい」m(__)m
絵夢「そう言うわけで次回、未定になりましたがお楽しみに」
恵理「マスター機嫌直してよぉ」(;_;)