NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第一話 <恵理>


夢園荘の隣に立つ2階建ての一軒家。
そこは私、早瀬恵理が愛する旦那様の夏樹さんと、楓と冬佳と言うもうすぐ4歳になる可愛い双子の娘の4人で暮らす家。

今の時間は午後1時過ぎ。
外では過ぎていこうとする8月を惜しむかのように蝉が鳴いている。
でもあと1週間で9月だと言っても暑いのは変わらないけど。
それはともかく今日は平日なので夏樹さんは会社に行っている。
話を聞くとお義父さんから社長を押しつけられそうになっているみたい。
なんか大変そう。
それで夏樹さんのいない午後の一時を私は、リビングで枕を並べてお昼寝をする楓と冬佳と卯月の所の一人娘和沙ちゃんを時折団扇で仰ぎながら見ていた。
なんで和沙ちゃんがここにいるかというと、卯月の家は喫茶店をやっていて昼間は忙しくてあまり面倒を見られないので、この時間はいつもうちで預かっていると言うわけ。
誕生日は二人とは4ヶ月遅れなんだけど、こうして仲良く寝てるところをみるとなんか三つ子って感じ。
私は3人の側に座ってジッとその寝顔を見つめる。
「そう言えば学区がすごく離れてるから幼稚園に入ったら遊ぶ時間が減っちゃうかもしれないね……」
窓から御簾を通って入ってくる風が3人の頬を撫でる。
楓はそれをくすぐったそうにし冬佳にくっつくように丸くなり、冬佳は気にもしないで仰向けのまま、そして和沙ちゃんは何故か枕を抱きしめている。
その姿に似たような環境で育っても性格や行動がこうも違ってくると言うのを実感する。
「でも和沙ちゃんは卯月似だって分かるけど……楓が私で冬佳が夏樹さんってみんなが言うけど、そうかなぁ」
私は首を傾げる。
”ピンポーン”
その時、玄関のチャイムが鳴る。
この程度の音でこの子達が起きることはないけど、一応起きてないか確認してから私は立ち上がり玄関に向かった。
玄関を開けると葉月さんが綺麗に包装された箱を持っていた。
「こんにちは恵理ちゃん」
「葉月さん、こんにちは。睦月ちゃんとまなみちゃんでしたらこの時間は部屋にいると思いますが……」
「いえ、今日は夏樹さんと恵理ちゃんに用事があって来ました」
「私達に……ですか?」
「ええ。あの娘達が夢園荘でお世話になるのでそのご挨拶にと思いまして」
葉月さんはニコリと微笑む。
結婚してからますます綺麗になってる気がする。
なんか羨ましいなぁ……。
「あの、なにか?」
ジッと見る私を不思議そうな顔で聞いてきた。
それに私はハッとしてすぐに取り繕う。
「いえ、何でもありません」
「そうですか」
そしてまたニコリと微笑む。
よかったぁ……気にしてなくて……。
「それで、これはつまらないものですが、どうぞ」
葉月さんは持ってきた箱を私に手渡した。
「わざわざ済みません。
あ、こんなところでなんですから上がってください。子供達が寝てるのであまりにぎやかには出来ませんが……」
「お構いなく。私はこれから用事で行くところがあるので」
「そうですか」
「では、これで失礼します」
「今度、夏樹さんと子供達と一緒に伺いますね」
「はい」
葉月さんはそう言いながら会釈をして外へと出た。
私も門の所まで見送るために外に出ると、雄三さんが運転する自動車がそこで待っていた。
そこで少し言葉を交わすと、二人は自動車でどこかに出かけていった。
それと入れ違うように睦月ちゃんとまなみちゃんが自動車が走り去った方から歩いてきた。
「「恵理お姉ちゃん、ただいま〜」」
二人は私の姿を見るとそう言った。
「お帰り。二人とも出かけていたんだ」
「「うん」」
ホント、この二人は仲の良い姉妹みたいだよね。
小さいときから一緒だから『みたい』って言うのはおかしいかな?
私は思わずフフッと微笑んだ。
「いきなり笑ったりしてどうしたんですか?」
睦月ちゃんが聞いてくる。
「ただの思い出し笑いだよ」
「変な恵理お姉ちゃん」
「きっと夏樹お兄ちゃんとのことを思い出してたんだよ」
「それって?」
「ほら、やっぱりお姉ちゃん達って夫婦っていうよりも恋人に近いし」
「あ、なるほど〜。二人の子供を寝かしつけた後は恋人の時間〜」
「そうそう」
なんか二人は私を餌に盛り上がってるし……。
でも二人がこういう話を平気でするようになるなんて、成長した証拠なのかなぁ……。
って感心してる場合じゃない。
ほっとくとどんどん話が発展して……あ、気づくと二人ともさらにエスカレートした話しに顔を赤くしてきゃ〜きゃ〜盛り上がってるし……。
「二人とも〜、別にそう言う分けじゃないんだけど……」
「え、違うんですか?」
「残念」
「でも夜はすごいんじゃ……」
「そりゃまぁ……って私の話じゃなくて!」
二人ともそう言うことに関しては好奇心旺盛なんだから。
「そんなことより、さっき葉月さんが来たの」
「「葉月お姉ちゃんが!?」」
「そう、二人が迷惑をかけるかも知れないけどどうぞよろしくってね」
「迷惑なんてかけませんよ。ね」
私の言葉に睦月ちゃんがニコニコとしながらまなみちゃんに言う。
「ん〜葉月お姉ちゃんの言うことも分かるような気が……」
「まなみ〜」
「え?」
睦月ちゃんは素早くまなみちゃんの背後に回ると、拳をこめかみに当ててグリグリする。
「うわ、痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ。お姉ちゃんごめんなさ〜い」
「睦月ちゃんもその辺にして、あまりここで騒ぐとご近所に迷惑だよ」
「え……は〜い」
私が注意すると睦月ちゃんは素直にまなみちゃんを解放した。
「お姉ちゃん、酷いよぉ」
「まなみが一言多いの」
「も〜」
”パンパン”
私は手を叩いて二人の注意をこちら向ける。
「二人ともそのぐらいにして、ところで何処に行ってたの?」
「アルバイト探しです」
「折角1人暮らしを始めるんですから、生活費ぐらいは稼がないと」
「そう、それで良いの見つかった?」
「一応、ね」
「ね〜」
二人は顔を見合わせて言う。
「どこ?」
「「内緒で〜す」」
「絶対に」
「「うん!」」
「どうしても駄目なの?」
「ん〜その内分かると思いますよ」
「そうだよね」
「ふ〜ん……じゃ、それまで楽しみにしてるわね」
「「は〜い」」

「お母さ〜ん!」

玄関の方から私を呼ぶ冬佳の声がする。
振り向くと冬佳が少し眠い目を擦りながらこちらを見ていた。
「あ、冬佳が呼んでるから行くわね」
「「はい」」
最後まで声を揃える二人。
……もしかして練習してるのかな?
そんな雑念を振り払い、私は冬佳の元に行き、視線の高さを合わせてしゃがんだ。
「どうしたの?」
「電話だよ」
冬佳はそう言うと、左手で持っていたコードレスフォンを私に差し出した。
「ありがとう」
私はそれを受け取ると電話に出た。
「はい、お電話変わりました」
『絵夢不動産です』
「これは、いつもお世話になってます」
『いえいえ、こちらこそ。それで用件なんですが、二人ほどお願いしたいんですが、部屋の方が大丈夫でしょうか?』
「部屋は空いてますしそれは大丈夫です」
『それは良かった。二人とも入居予定は来月の頭になるようなのでお願いします』
「はい、、それでどういう感じの娘たちなんですか?」
『えっとですね……』
その直後、私は少し目の前が暗くなった気がした。
「ちょ、ちょっと待ってください。そのことで夏樹さんは……主人はなんと?」
『いや〜連絡が付かなくて、それで直接そちらに電話した次第なんです』
「そ、そんなぁ……」
『ご主人と相談して、もし駄目でしたらこちらでなんとかしますから。でも二人とも可愛いんで大丈夫ですよ』
「大丈夫ってそう言う問題じゃ……」
『そう言うわけでよろしくお願いしま〜す』
「しま〜すってちょっと、ちょっとぉ!」
”ツーツーツー”
「…………」
私は電話を耳に当てたまま少し固まった。
「お母さん?」
冬佳は私の服の裾を心配そうに引っ張る。
「え、ああ。大丈夫よ」
「それならいいけど……」
心配そうに私の顔を見る。
「大丈夫だって」
私は冬佳を安心させるように頭を撫でた。
「さ、お昼寝の続きをしようか」
「ん……もう、はっきりと覚めちゃったよ」
「そっか。二人は?」
「まだぐっすり寝てる。和沙はあと30分は起きないと思うし、楓には私が使った枕を抱かせてあるからしばらく起きないよ」
「そ、そう(汗)」
そのはっきりとした言葉は、毎度のこととは言え我が娘ながら驚く。
「?」
やや複雑な表情をしている(と思う)私に冬佳は不思議そうな顔をする。
私はすぐに気を取り直し、笑顔で冬佳を見た。
「それじゃ、二人が起きるまでに3時のおやつを一緒に作ろうか?」
「うん!」
冬佳は満面の笑みで答えると、玄関からなるべく静かに台所に向かう。
「もうすぐ4歳とは言え、なんか大人びてるよね」
そろりと行く後ろ姿を見ながら私は苦笑を漏らす。
冬佳の姿が台所に消えると隣に建つ夢園荘を見上げた。
「電話のこと夏樹さんが帰ってきたらすぐに相談しないと……それからあの娘達が何て言うか……なんか問題山積みって感じだなぁ」
軽く溜め息をつくと、お菓子づくりの為、冬佳が待つ台所に向かった。

その後、冬佳の言ったとおりおやつのクッキーが焼き上がった頃、楓と和沙ちゃんは目を覚ます。
そして4人でティータイムを過ごして夕方まで遊ぶと、和沙ちゃんを送りがてらみんなで夕飯の買い出しに出た。


深夜、夏樹さんに電話のことを相談すると「住人がOKなら良いと思うよ」と言った。
なんか思った通りの答えと言うか、夏樹さんらしい答えかも(^^;



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「最初は恵理からスタートです」
恵理「私ってばちゃんとお母さんしてる〜」
絵夢「君、違う」
恵理「いいじゃない」
絵夢「ま、早瀬恵理はちゃんとお母さんしているのは当然でしょう」
恵理「でもプロローグ2でもあったけど補導されるんだよね」
絵夢「うむ。恐らく子供を連れていても補導されるかも知れない」
恵理「どれだけ若いの?」
絵夢「でもこの時点で23だからね」
恵理「ん〜そっか……」

絵夢「であ次回は誰にしようかなぁ」
恵理「まだ決めてないの?」
絵夢「ん〜候補はあるんだけど、決まらない状態」
恵理「あら〜」
絵夢「今後のストーリーの事もあるから部屋順というわけにもいかないしね」
恵理「そっか、それは大変だ」
絵夢「そう言うわけでまた次回まで」
恵理「おったのしみに〜」