NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第十二話 <睦月 III>


今日もアルバイトが終わる。
ただいま19時を少し回ったぐらい。
数日前までまだ明るかったのに、今はもうやや薄暗い。
時折吹く風は冷たく、確実に季節は秋に向かってるんだなぁと思う。
そして駅前のバスターミナルでバスを待つ私の心にも秋の風が吹く……。


私、水瀬睦月はバスが来るまでの間、ベンチに座りノートを広げて詩を書いていた。
「やっぱり私才能無いのかも……」
出来上がった詩を見て乾いた笑いしか出ない。
私は溜め息をつき、ノートを閉じる。
何年か前に夏樹お兄ちゃんに詩の投稿雑誌を紹介してもらい投稿を始めたわけだけど未だに採用無し。
それでも今も続けてるのは大ファンの涼風鈴先生のようになりたいから。
涼風鈴先生はすばらしい詩をたくさん世に出していて、多くの人に心の癒しを与える女性。
写真はもちろんサイン会も全くしない表に決して顔を出さない人だけど、きっとすばらしい女性に違いない。
そんな素敵な女性に憧れて書き始めた詩……そして投稿を続けている。
「はぁ……」
再び深い溜め息。

「おや、水瀬さんじゃないですか」
その声に顔を上げると、目の前に長身の女性……じゃなかった新人の高原君の姿があった。
小脇に本や筆記用具などが入った半透明のケースを抱えている。
しかし……長袖のシャツにソフトパンツの姿をしていても男装の麗人に見えるのがすごい。
でもこんなに綺麗だなんて羨ましいよね。
私はじ〜〜〜っと高原君の顔を見上げる。
するとその内、彼の表情が引きつりだした。
「あ、あの……」
「ごめん。余り綺麗だったから見とれてた」
「はぁ……」
高原君は複雑な返事をする。
男の人に『綺麗』と言うのは誉め言葉じゃ無いのは知ってるけどどうしてもね。
「高原君も今、帰りなの?」
「ええ、図書館で勉強をしていたもので」
「そうか受験生なんだよね。頑張ってね」
「はい」
「………」
「………」
会話が続かない(^^;
しかも高原君はベンチに座ろうとしない。
ベンチに座る私と少し離れて立つ高原君。
この構図って他の人から見たらどう思うかな……。
「……ねぇ」
「はい?」
「座ったら」
「いや、それは……」
何故か言葉を濁す。
その反応に少しだけカチンと来た私は少々強めに言った。
「そこに立たれていると私が落ち着かないの。どうせ同じバスを待ってるんだから座りなさい」
「……はい」
高原君は小さく返事をすると、人二人分空けてベンチに座った。
背筋を伸ばし真正面を見据える姿……その横顔はやっぱり綺麗だけど……。
「高原君……もしかして女の子が苦手?」
彼の今までの行動を見て思ったことをズバリ聞いてみた。
すると一瞬驚いた様子でこちらを見てすぐに視線を逸らした。
「それは……」
「苦手なら苦手でも構わないけど、でも明らかに避けてるというかそう言う態度ってはっきり言ってむかつく」
私は一気にそう言った。
彼は今まで廊下で会っても簡単な挨拶だけでまるで逃げるように行ってしまう。
最初は緊張してるのかなと思っていたけど、1週間以上もそんな態度を取られるとさすがに私も切れる。
そしてその言葉に彼はハッとした顔でいきなり立ち上がると頭を下げた。
「これは失礼した。私の無意識の行動があなたを不愉快にさせていたとは全く気づかなかった。何とわびればいいのか……」
「いや、別にいいんだけど……」
まさかここまで過剰な反応をするとは予想外。
さらに彼の行動が周りの視線を集める。
ただでさえ長身で人目を引く風貌なのだから余計目立ってしまう。
「いやしかし!」
「とにかく頭を上げて、座ってよ!!」
思わず大声で叫ぶ。
これ以上衆人の視線に晒されるのは嫌。
「分かりました」
高原君は素直に従い、ベンチに座った。
それでもやっぱり二人分空けて座り、まっすぐ前だけを見ている。
私はジッと高原君の横顔を見る。
「……女性恐怖症なの?」
「そう言うわけではないのだが……」
「そうなんでしょ」
「……」
もう一度聞くと、今度は黙ってしまった。
沈黙は肯定……やっぱりね。
「私は歯に衣着せるような事はあまり好きじゃないからはっきり言うよ。その変な話し方も虚勢なんでしょ」
「そ、それは……」
視線を少しずつ下に落とし始める。
「図星だね」
「……」
再び黙るけどまず間違いないな。
私は軽く溜め息をつくと彼から視線を外し前を向いた。
「夢園荘のみんなを嫌っている訳じゃないことだけ分かれば十分だよ」
「決してそんなことは無い!」
高原君の否定の言葉に私は彼を見る。
そこには真剣な顔で私を見る姿があった。
「……初めてまともに私の顔を見てくれたね」
「え……あ、いや……」
途端に言葉を濁しながら視線を外しまた前を見る。
「ふふふ……そっか、高原君は女性恐怖症と同時に照れ屋なんだね」
私はあまりにおかしくて小さく笑った。
「………」
無言の彼の横顔はバスターミナルの照明のせいか少しだけ顔が赤く見えた。
私は座ったまま横に動き彼の肩にくっつくまで近づく。
「!?」
ビックリする高原君の顔を見上げる。
「私が君の恐怖症を治してあげようか」
「あ、いや、あの……」
「私の方がお姉さんなわけだし、どうかな?」
「だから、その……」
そこで私は思わず笑い出してしまった。
きょとんとする高原君。
「ごめん、冗談だよ」
「あ、はぁ……」
複雑な表情をする。
「怒った?」
「いえ、そう言うわけで……」
「はぁ良かった」
私はきちんと座り直すと、高原君の顔を見た。
「恐怖症じゃなくて、ただ苦手なだけみたいだね」
「あ……まぁそうなるのかもしれない」
相変わらず妙な言い回しをする人だな。
私は軽く溜め息をつき、立ち上がり高原君の真正面に立つ。
「高原君、君は男なんだから例え相手が苦手な女の子であっても、自分の言いたいことははっきり言った方が絶対に良いと思うよ」
「それは分かってはいるのだが……」
高原君はそこで言葉を止め少し考える仕草をする。
そして約一分……ぐらい。
「もし良かったらどうして私がこうなった聞いてもらえるだろうか?」
高原君は顔を上げると真剣な表情でそう言った。
私は「良いよ」と一言言うと彼の隣に座った。

それから、幼少の時から今までの事を話してくれた。
二人の姉に着せ替え人形のように扱われていたこと。
さらに逆らおうものなら恐ろしい罰が待っていたこと。
そこに澪さんまで絡んでいろいろと口では言えない状況だったこと……。

「高原君……苦労したんだね」
思わず彼の肩を叩いて同情してしまった。
「ええ」
「しかし澪お姉ちゃんが従姉だったとは意外な繋がりだね」
「そうですね」
その時、バスがバスターミナルに入ってきた。
「それじゃ行こう」
「はい」
私達は一緒にバスに乗り込んだ。
乗ったは良いんだけど、私は一人で二人用の座席に座り、高原君は一つ前の一人用の座席に座った。
乗客が少ないから問題ないんだけど……。
「一緒に座ったら?」
「いや……それは……」
「ま、いいか。それよりも、高原君は私と同じ大学を目指してるんだよね」
「ええ……あれ、それは話したことは無かったはずですが……」
「卯月お姉ちゃんから聞いたの」
「卯月さんというとノルンの」
「そう。だからもし分からないところがあったら、私が暇な時に限るけど教えてあげるよ」
「それはうれしいですが良いんですか?」
「いいっていいって、これでも現役合格者なんだから」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます」
「うんうん」
それから夢園荘の最寄りのバス停に着くまでに交流を深めた。
短い時間だったけどこうして話してみて結構良い人だと言うことが分かっただけでも収穫かな?
相変わらず話し方は妙だけど……。



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<あとがき>
絵夢「睦月としんがきゅ〜せっきん!」
恵理「両方ともそう言う気配はない感じだけど、どうなるんだろう」
絵夢「頑張って頂きましょう」
恵理「どっちに」
絵夢「しんに」
恵理「そうかも」

恵理「睦月ちゃんはまだ涼風鈴が女性だと信じてるんだね」
絵夢「誰かが言わない限り、その思いは絶対に変わらないでしょう」
恵理「言えないよね」
絵夢「言ったらどうなる事やら」
絵夢&恵理「う〜〜〜ん」

絵夢「であまた次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」