NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第二十四話 <葉月 II>


歩君の病室に入っていくまなみ達を見送ると側にある長椅子に座った。
そこで中から聞こえる笑い声からうまくいったことを知った私は軽く息を吐く。
「中に入らないのか?」
私は声のする方を見ると丁度、踊り場から出てきた夏樹さんの姿があった。
両手にこコーヒーとストロベリージュースのパックジュースを一つづつ持っている。
「もうしばらくしたらあいつらも来るって。今度は卯月も来るって言うから久々に姉妹が四人揃うな」
「そうですね」
どうやら夏樹さんは先に帰らせた高志さん達に連絡していたみたいです。

歩君の手術が無事終わり病室に運ばれた後、夏樹さんから高志さん、澪さん、聖君の三人はノルンで待機するように言われた。
最初は渋っていたけど、病院に迷惑が掛かるといけないという事で納得させたみたい。
本当は恵理さんもノルンで待機するように言われたんだけど、こちらは駄々をこねて夏樹さんが折れる形になったみたい。
本当に夏樹さんは恵理さんに甘いんですから。

「少し寂しいか?」
「え?」
「いや、そんな気がしてな」
夏樹さんは私の横……と言っても一人分空けて座った。
「夏樹さんに隠し事は出来ないことは重々承知してますから言ってしまいますが、正直寂しいですね」
「ほら」
そう言うと片手に持っていたストロベリージュースを手渡した。
「え……あ、はい」
私はそのまま素直に貰うと、膝の上に置いた。
「そんな気分だと思って買ってきたんだ」
「そんなって……」
ストロベリージュースは私が嬉しい時に飲みたいと思う飲み物……。
「寂しい反面嬉しいと思ったんだけどな」
「どうしてそう思うんですか?」
先ほど私は『寂しい』と言ったばかりなのに……。
「母親代わりで今までずっと面倒を見てきた妹達がそれぞれ大切な人を見つけて独り立ちしていくんだ、嬉しくないのか?」
夏樹さんの言葉にクスッと笑みが零れる。
「まったく夏樹さんは何でもお見通しなんですね。本当に意地悪な人ですね。あなたのことを好きにならなくて良かったです」
やや怒ったような口調で言うと、パックの裏に付いているストローを外して伸ばして刺すとジュースに口を付けた。
「別にそう言うつもりじゃ無いんだけどな。でも話にしか聞いてないけどまなみちゃん大分暴れたみたいだね」
私はストローから口を離し夏樹さんの方を見る。
「ええ……たぶんなんですけど、あの娘は今ままで感情を封印していた。それが今回の事で感情が一気に溢れたと思うんです」
「そんなところだろうな。一気にあふれ出た感情に混乱したのかも知れない……どちらにしてもまなみちゃんのみが知るところだな」
「ええ、そうですね。でも今回のことはあの娘にとって結果的に良い方向に向かっているようなので結果オーライと言ったところでしょうか」
「そうだな」
夏樹さんはそう答えると先ほどの私と同じようにストローを外しパックに刺して飲んだ。
すると一口飲んだだけで眉をひそめてすぐにストローから口を離した。
「どうしたんですか?」
「……甘い」
夏樹さんが飲んでいるのは普通のコーヒー牛乳ですが……。
「あ、そう言えば夏樹さんはいつもブラックなんですよね」
「コーヒー飲みたさに失敗したな……」
「夏樹さんにしては珍しいですね」
「全然寝てないからな……疲れてるのかも知れないな」
「ふふ」
げんなりしている夏樹さんの横顔に自然に笑みが零れる。
その時、病室のドアが開き、恵理さんが顔を出した。
どうやら夏樹さんを呼ぶために顔を出したみたいですが、夏樹さんの表情に不思議そうな顔をしている。
「夏樹さん、どうしたんですか?」
「ん……これ上げる」
夏樹さんは飲みかけのコーヒー牛乳を恵理さんに渡した。
「いいの?」
そう言いながら一口付ける。
するとすぐに理由が分かったみたい。
「買うの失敗したんだ」
「うん」
「夏樹さん、疲れてるんだね」
「寝てないからな」
「私、3時間寝たよ」
「……今夜は寝かさない」
夏樹さんの問題発言……。
「夏樹さん、葉月さんのいる目の前で何て事を言うのよぉ」
少し顔が赤いけどすごく嬉しそうに言う恵理さん。
「イヤか?」
「楽しみ〜」
……こう言うのをバカップルと言うのでしょうか。
「葉月さん、今変なことを思いませんでした?」
恵理さんがじ〜っと私の顔を見る。
「あ……何も考えてませんよ〜」
「それなら良いんですけど……それよりも夏樹さん、葉月さん、中に入らないんですか?」
「ああ、そうだな」
夏樹さんはそう言うと立ち上がった。
そして私もそれに続いて立ち上がろうとした。
その時、突然吐き気をもようした。
私は慌ててトイレに駆け込んだ。
「「葉月(さん)?」」
夏樹と恵理さんが心配そうに声をかけてくれた。
「たぶん……大丈夫です」
二人に心配させまいとそう答える。
すると恵理さんが何か気が付いたようにポンと手を叩く。
「あの葉月さん、もしかして赤ちゃん?」
「え?」
その言葉に私は無意識にお腹の上に手を置く。
「と言うことは……ナースステーションに行って来るよ」
夏樹さんも嬉しそうな顔をしてナースステーションの方へ行こうとする。
「な、夏樹さん。まだそうと決まった訳じゃ……」
「でも心当たりはあるんだろ」
「……うん」
「葉月さん、おめでとう!」
恵理さんは私の両手を取って自分のことのように喜んでいる。
そうこうしている間に夏樹さんはナースステーションに歩いていった。
でも私はと言うと、あまり実感が持てないでいた。
夏樹さんの言うとおり、心当たりというか確かにもう2ヶ月ぐらい来てないから……。
「やっぱり赤ちゃんだよね」
「違うんですか?」
「ううん、ただちょっと驚いてるだけ」
私は照れて言う。
その時、睦月がトイレに飛び込んできた。
「葉月お姉ちゃん、赤ちゃん出来たんだって!」
「まだ、はっきりした訳じゃないんだけど……でもどうして?」
「さっき夏樹お兄ちゃんが教えてくれたの。おめでとう、葉月お姉ちゃん」
睦月も私の手を取って喜んでくれた。
私はただただ照れ笑いをするだけでなんと返して良いか分からなくなっていた。

その後検査の結果、妊娠していることがはっきりして、その場にいた全員で大騒ぎになったのはいつもの事なのかも知れない。
そして、誰が連絡したか分からないけど(たぶん夏樹さん)雄三さんが病院に駆けつけてくれて一緒に喜んでくれた。

でも正直言うと今の時点ではまだ実感は湧いていない。
だけど、これから少しずつ大きくなっていくお腹に全身で喜びを感じることが出来ると思う。
これから私は本当のお母さんになれるから。



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<あとがき>
絵夢「と言うわけで、影のヒロイン−葉月のストーリーでした」
恵理「葉月さんが影のヒロインって……」
絵夢「だってこのFAのヒロイン(のはず)の睦月とまなみの心のケアが出来るのは葉月しかいないからね」
恵理「なるほど……納得」
絵夢「納得してもらった所で、次回エピローグになります」
恵理「……あ、そうだった!」
絵夢「そんなわけで次回も見てみてください」
恵理「私、活躍できる?」
絵夢「謎」
恵理「う〜〜〜〜〜〜〜〜」
絵夢「まったね〜〜〜」
恵理「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
絵夢「止めないよ」
恵理「けち」