NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第7話


高志の連絡を受け、30分後には葉月がノルンに無事到着する。
臨時休業の札を出してあるが、店内に二人の影を見つけ、そのまま店に入っていった。
「電話を受けてすぐに来たけど……高志さん大丈夫ですか?」
カウンター席に座る高志を心配して声を掛ける。
「何とかね。普通にしていられるまでには回復したよ」
「そうですか。良かったね卯月……」
葉月は卯月の方を見ると、彼女の様子がいつもと違うように感じた。
正確には怒っているような感じだ。
「卯月……どうしたの?」
「どうしてブレスレットのことを教えてくれなかったの?」
「『これ』のこと?」
葉月は右手のブレスレットを見せる。
「そう」
じ〜っと半ば睨むような感じで見つめる卯月に葉月は高志に助け船を求めようと見る。
「すまない。俺もそのことで責められていたんだ」
「そうですか……(^^;」
葉月は軽くため息をつくと、卯月の方へと向き直った。
「実はね澪さんに口止めされてたの。私がこれを持っていることも含めてね」
「どうして?」
「それは……」
「あたしが説明した方が良いかもね」
その声に二人は振り向く。
「「澪さん!」」
「みんな、久しぶりだね」
澪は片手を上げて軽く挨拶をした。
「タイミングがいいな」
「まね。タカ、結構元気そうだね」
「そんなこと無いよ。『大地の石』を奪われて気落ちしてるから」
「そっか……」
澪は高志の肩を2回軽く叩いた。
「澪さん、説明してください。どうしてなんですか!?」
最初から脱線している澪に卯月は強く詰め寄る。
「答えは簡単。あなた達の為だよ」
「私達の……為?」
「そう。葉月にも色々あってね……」
そう言いながら葉月の方を見ると、卯月もまたその視線を追うように葉月を見る。
その時、葉月は辛そうな表情をしていた。
それは恐らく彼女を一生苦しめる、忘れたくとも忘れられない過去を思い出しているに違いない。
「詳しいことは言えないけど、とにかく葉月はあなた達のために『水の石』を手にしたの」
「でもなんで……」
「それはあなた達を守るための『力』であると同時に、あなた達を危険に巻き込んでしまう恐れがあるから」
「?」
「いつか分かるよ。持っている事を黙っていたと言うこともまたあなた達の為だと言うことを理解しておいて」
「そんなこと言われても……」
「ごめんね、卯月……」
「姉さん……」
「今はまだ私自身の心の整理がついてないから上手く話せないけど、いつか話すから分かって」
真剣な姉の言葉に卯月は渋々首を縦に振る。
すると葉月は少し微笑み卯月をぎゅっと抱きしめた。
「ね、姉さん!」
「絶対に幸せになりなさいね」
「え?」
耳元でささやかれた声。
その言葉の本当の意味するところは、今の卯月には理解できなかった。

”パンパン”

「さてと、この話は終わりって事で……タカ、何が起きたか説明して」
澪は手を叩き、しんみりとした空気を払拭すると、高志に事情の説明を求めた。
「一度に説明したいから全員揃ってからで良いか?」
「個人的に早く聞きたいんだけど」
「と言われてもな……」
「やばい?」
「やばいな」
「そっか、やばいんだ」
「ああ、やばいよ」
「……」
「……」
「時間の無駄だね」
「そうだな」
高志と澪は神妙な顔つきで頷きあう。
そんな二人のやりとりを見ていた葉月と卯月は……。
「緊急事態なのに、どうして緊張感が無いんだろう」
「それが高志さん達の良いところ何だろうけど……」
「「はぁ」」
ただただ呆れるばかりであった。

夕方になり、学校を終えた里亜と仕事を早めに切り上げた亜沙美が一緒にノルンに姿を見せた。
しかし、いつまで経っても恵理が姿を見せなかった。
電話を掛けてみても電源を切っているのか繋がらない。
そうこうしているうちに辺りはだんだん暗くなっていく。
その時電話が鳴った。
店内に緊張感が走る。
卯月がおそるおそる電話に出ると……。
「はい……」
『あ、卯月。私、恵理』
電話口から聞こえるいつもの調子の恵理の声。
「恵理! 今どこにいるの!?」
『今ね、夏樹さんの会社にいるの』
「は?」
『鷹代さんからのメールを受け取ってすぐに夏樹さんに連絡を取ろうとしたの。
でも繋がらないから『これは仕事中で電源切ってるんだなぁ』って。
で、たぶんそっちも連絡取れてないはずだからと思って迎えに来たの』
「そ、そうなの……」
『うん』
「それじゃなんで電話通じなかったの?」
『電車に乗ってるときは電源切ってるから』
「そ、そう……」
『夏樹さんと合流したらそっちに行くね』
「うん、分かった……そう伝えておくね」
『お願いね』
「また後で」
『うん!』
恵理の返事を聞いてから電話を切る。
そこにいた5人は卯月に詰め寄り、代表で高志が聞いた。
「恵理ちゃん、なんだって?」
「夏樹さんの会社にいるそうです」
「「「「「は?」」」」」
「だからね、恵理も夏樹さんに連絡を取ったらしいんだけど、連絡が付かないから会社まで迎えに行ったんだって」
卯月は少し呆れた調子で言う。
「あの娘らしいと言えばあの娘らしいけど……」
「本当にそうだね」
「まったく心配させて」
口々に文句を言うが、恵理の無事が確認できたことでみんな心からホッとしているようだ。
「夏樹が一緒なら大丈夫だろう……。
それじゃあたぶん二人は遅くなると思うから、何があったか話すよ」
高志は全員を自分の周りの呼ぶと今回の一件を話し始めた。
途中澪が何度も切れかかり、みんなでなだめたりして時間が掛かり、話し終えたときには1時間以上経っていた。
話し終えたとき、その場に沈黙が流れる。
「つまりその二人組は『石』だけでなく、その『力』も知っているってこと!」
最初に沈黙を破ったのは、未だに半ば切れかかっている澪だ。
「そうみたいだ。俺の『大地の牙』を『金剛牙陣』と呼んでいた所を見ると間違いないだろうね」
「そのコンゴウなんとかって言うのが正式な名前ってこと?」
比較的冷静な亜沙美が高志に聞く。
「だろうね。技の特性と弱点を知り尽くしている様子だったから……」
「それにタカはさっき敵さんは空を飛べるみたいな事を言ったよね」
「ああ」
「それってもしかして、風の力じゃないかな?」
「「「「「え?」」」」」
「思い出してよ。夏樹だって空中に留まることは出来なくても、4階建ての建物ぐらいだったら風の力で飛ぶこと出来たじゃない」
「だけどそれとこれとでは……」
「いや、亜沙美の言う通りかも知れない。あの最後の動きは……」
高志は中学時代、夏樹と戦ったときの事を思い出した。
スピードこそ違え、その神業的な動きはほぼ同じかも知れないと……。
「ちょっと! それじゃあすでに『風の指輪』は奪われたって事なの!?」
「それだったら先に夏樹達が騒ぐはず。しかしその様子もないと言うことは……」
「『風の指輪』は複数存在する」
「亜沙美の言う通りかも知れないな」
「そんな……」
澪は絶望的な様子で椅子に座った。
3人以外は会話の内容が半分も理解できなかったが、彼らの様子から非常にまずい状況だと言うことだけは理解できたようだ。
再び店内に沈黙が流れる。
「高志さん……」
卯月は高志に寄り添いそっと手を握る。
それは彼女なりの気遣いの表れだろう。
高志は卯月の手を握り返すと「大丈夫だよ」と答えた。
そんな二人を見ていた澪は思い出したように葉月を見る。
「葉月……」
「はい」
「水のブレスレットを今だけ返して」
「え?」
「今回の一件、あんたには荷が重すぎる。それにこれは四神将に売られた喧嘩だしね」
「でもそれでは澪さんが……」
「あたしは大丈夫。それにあんたが怪我したら卯月が悲しむでしょ」
「………」
そう言われ葉月は高志に寄り添って、心配そうにこちらを見る卯月を見た。
「分かりました」
葉月は手首からブレスレットを抜くと、澪の手に渡した。
「でも澪さんが怪我をしたらここにいるみんなが悲しみます。だから……」
「うん、ありがとう。
私だって旦那や子供がいるんだもん。そのぐらいよく分かってるから大丈夫だよ」
「……澪さん」
隣の席で話がまとまったのを見ていた亜沙美は里亜の方を向く。
「里亜、私が言いたいことは分かるね」
「どうしてもダメ?」
「ダメ」
「分かりました」
里亜はポケットから小さな袋を取り出すと、その中の『火のイヤリング』を亜沙美に手渡した。
「うん、聞き分けのいい娘は好きだよ」
「もう、亜沙美姉さんは……」
亜沙美に子供扱いされて少しふくれる里亜。
「でも亜沙美姉さんも気をつけてくださいね。もしものことがあったら美亜だって悲しみますから……」
「うん、分かってる」
そして澪と亜沙美はそれぞれ受け取った『石』を澪は右手に亜沙美は左耳に装着した。
「お前ら……」
高志はそんな二人を何とも言えない表情で見る。
「心配しなくても大丈夫だって」
「だてに四神将を名乗っていた分けじゃないしね」
「さ〜て、後は夏樹が来れば完璧だね」
「それにしても遅いよね」
亜沙美は夏樹はまだかなと窓の外を見た後、時間を確認すると8時を少し過ぎた頃だった。
「ねぇタカ、この辺りってこの時間になると人通りが無くなるの?」
「いや、そんなわけは……!!」
高志はカウンター席から立ち上がると窓に近づき外を見た。
「しまった……」
「どうしたの?」
彼の不可解な言葉に誰もが疑問を持った。
「これは間違いなく結界に取り込まれてる」
「「「「「え!?」」」」」
「昨日の状況と同じだ」
その言葉で店内に緊張感が走る。
「つまり向こうさんから来てくれたってわけだね」
「夏樹がいないのが痛いけど……」
「仕方ないね、亜沙美」
「そうだね、澪」
二人は席から立つとドアに向かう。
高志は慌てて二人を呼び止めようとした。
「私達は行くよ。あんたのペンダントを取り戻しにね」
「それにタカの話だと結界って外から中には入れないでしょ」
「だったら内側から壊すしかないじゃない」
「みんな、ここで待っててね。ちゃちゃっと片づけてくるから」
「タカはここでみんなを守ってること。いいね」
口を挟む余裕を与えないように口早に言葉を繋げ、それだけ言い残すと店の外へと出ていった。
後を追おうと高志は閉じたドアに手を掛けた。
しかし鍵が掛かっているかのようにびくともしない。
「どういう事だ!」
「「「高志さん!」」」
3人も高志の後ろでドアが開くのを待っていた。
店の窓からは二人が商店街の中央に向かって歩いていく姿が見える。
その二人の姿に焦りばかりが募る。
「ドアが開かないんだよ」
「そんな……」
「これも奴らの力なのか……」
高志は悔しそうに唇を噛み締めた。



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<あとがき>
絵夢「やっと第2ラウンドの鐘が鳴る手前まできました」
恵理「四神将復活と思ったら急展開ですね」
絵夢「早く話を進めたいんだよ〜」
恵理「おいおい(^^;」
絵夢「ちなみに夏樹達はまだしばらく登場の予定はありません」
恵理「なんで?」
絵夢「彼らが出てくると非常に困るからです」
恵理「はは……(^^;」

絵夢「それでは」
恵理「また次回を」
絵夢&恵理「お楽しみに〜」