NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第9話


亜沙美の放った最大の技『龍牙炎舞』は、時には『火炎弾』を吐きながらエアへの攻撃を続けていた。
しかしエアは火の龍の攻撃を難なく避けながらその間合いを狭めていく。
「そろそろ決めないとやばいかな……」
エアは火の勢いを見ながらそうつぶやく。
すると彼女は何を思ったか火の龍の目の前に降り立つ。
まるで自分を飲み込めと言わんばかりに……。
亜沙美はそれをチャンスとばかりに火の龍に命じた。
「今だ、いっけ〜〜!!」
そして火の龍は一気にエアを飲み込み、その頭を中へと高々と持ち上げた。
まるで獲物をしとめた喜びを表すかのように。
「やった……」
亜沙美はようやく終わったことに少しだけ気を抜いた。
あの炎に飲まれて無事でいられる人間はいないからだ。
だが、次の瞬間、火の龍の先端から裂け始めた。
「!!」
それは球状のバリアのようなものに自分の身を包んだエアが、火の龍を左右に裂きながらその根本にいる亜沙美を目指して下りていく。
「そんな!」
亜沙美は愕然とした。
エアが無傷でいることに、そして『龍牙炎舞』が全く通用しなかったことに……。
エアが亜沙美の目の前に降り立ったとき、左右に裂かれた火の龍は完全に消滅した。
「大気を操る私にあの手の攻撃は通じない。すべて風の陣で防ぐからね」
「くっ!」
亜沙美は拳を握るとエアに殴りかかる。
だが、エアはそれを紙一重で避けると彼女のみぞおちに右手を当て気をその内部にたたき込む。
その瞬間、亜沙美はその場に崩れた。
エアは地面に倒れゆく亜沙美を両手で支え地面への激突を防ぎ、ゆっくりと横のすると彼女の左耳の『火のイヤリング』を外した。
「ごめんね……」
そうつぶやきながら……。

「向こうは終わったようだな」
青風は澪の『氷弾』を避けながら、火の龍の消滅を確認した。
澪もまたそれがどういう意味なのか瞬時に理解したようだ。
「亜沙美を……よくも!!」
切れた澪は次々に『氷弾』を発生させ、青風を攻撃する。
しかし青風は軽い身のこなしで避けていく。
「いい加減終わりにしよう。そうじゃないと君の命すら危うくなる」
「うるさい!!」
もはや彼女に何を言っても無駄のようだ。
青風はそれを悟ると、動きを止めた。
「チャンス!」
今まで避けていた彼のその不可解な行動に疑問を持たずに、澪はここぞとばかりに『氷弾』を集中させ一気に襲う。
そしてそれがもう少しで青風に届くと思った瞬間、すべての『氷弾』が何かに弾かれた。
「!!」
よく見ると青風を中心にその周囲を激しい風が吹いているようだ。
それは風に巻き上げられた埃や石の様子から分かる。
「『風破陣』……ありとあらゆる攻撃を無効にする鉄壁の陣。
それ故にこちらかも攻撃が出来なくなるので滅多に使わないのだがな」
「くっ!」
澪はそんなことに構わず『氷弾』と『夢幻水妖剣』の連続攻撃をする。
しかしすべて風には弾かれ、青風に届くことはなかった。
そんな必死な彼女を青風は何か懐かしい者を見るような目で見つめた。
「その負けず嫌いなところ……そして仲間思いのところ……ホント、あいつにそっくりだな……」
その言葉の意味するところは彼にしか分からない。
恐らくそれは彼の遙かに遠い思い出なのかも知れない。
だが次の瞬間、彼は表情を戦士の顔へと変えた。
そして『風破陣』を解くと、一瞬にして間合いを0にした。
澪は何が起きたか理解できなかった。
さっきまで5m以上離れた場所でバリアを張っていた敵が、気づくと目と鼻の先にいるのだ。
「すまんな」
「え?……っ!!」
自分の身に何が起きたか理解することもなく、彼女はそのまま意識を失った。
青風は高志と同じようにみぞおちに気をたたき込んだのだ。
崩れゆく澪を片手で支えると、彼女の右手首から『水のブレスレット』を引き抜く。
「これで後一つ……」
「青風!」
彼を呼ぶ声に振り向くと、エアが亜沙美を背負ってそこに立っていた。
「そっちも終わったみたいだね」
「ああ……」
二人は互いに自分たちが相手をした相手を見た。
そして二人をノルンまで運ぼうとしたとき、青風とエアは信じられない感覚に囚われた。
「青風……」
「ああ……結界を越えた者がいる……」
外部から誰も進入出来ないはずの結界への侵入者。
それは二人を驚愕させるのに十分であった。
そしてその侵入者は二人の目の前に立っていた。
外見は普通の青年。
だが、その内からある特定の『力』を感じる。
青年は二人を鋭い眼差しで見ると叫んだ。
「お前達か、『石』を狙っているのは!!」
「君は『煌玉』の守護者ではないようだが……
(だが、彼からはなぜか『風の煌玉』の力を感じる)」
「今は違う。それだけは言っておくよ」
「なるほど」
「二人は無事なんだろうな」
「気を失わせただけだ。こちらとしても無益な殺生はしたくないからな」
「そっか……」
青年は肩の力を抜いた。だが警戒の色はそのままのようだ。
「それなら彼女たちをそこに置いて、今日は引き上げてもらえないか」
「それは構わないが……君は一体何者だ?」
「?」
「絶対不可侵の結界を越えてこの空間に侵入するなんて、普通の人間には出来ないことだ」
「そっか……それでここには誰もいない上にあの状況か」
彼らの後方で廃墟と化した商店街を見る。
「あんた達の言う結界とは一種のバトルフィールドと言ったところか?」
「似たような物かも知れないな」
「それからさっきの質問だけど、俺にも分からん。気配を追っていたらここにいたんでね」
「気配?」
「そう、戦いの気配」
青風は彼が嘘を言ってないことはすぐに分かった。
別空間での戦い気配を感じた事だけでも信じられないことだったが、それ以上にその程度で結界を越えたことの方が信じられなかった。
それは後ろに控えるエアも同じ気持ちだろう。
「まあ、いい……」
青風はその場に澪をおろすと、エアもそれに続くように亜沙美をおろした。
「ところで君は『風の煌玉』を知っているようだな」
「ずいぶんと回りくどい言い方をするんだな」
「すべてお見通しか……。
その気になれば今ここで『風の煌玉』も借り受けることも出来るが……」
「だが、今はその気はないんだろ」
青年の言葉に青風は笑みを零した。
「なぜ、そう思う?」
「その気があれば言う前に行動を起こしてると思うけどな」
「なるほど」
「明日の正午、『はじまりの地』で『風の石』と共に待つ。
そっちも3人の『石』を持ってきてもらいたい」
「『はじまりの地』か……言われてみれば確かにそうかも知れないな。
君もまた今ここでやり合う気は無いと言うことか」
「ああ」
「分かった」
「話が通じて助かるよ」
「私の名は青風。彼女はエアと言う。君は?」
「俺は夏樹、早瀬夏樹だ」
「わかった。それでは我々は行くとしよう」
青風達が立ち去ろうとしたとき、夏樹が二人を呼び止めた。
「どうかしたのか?」
「結界を解くのはこの二人を店に運んだ後にしてもらえないか」
「?」
「このままで結界を解くとどうなるんだ?」
「破壊された町は何もなかったように元に戻り、元の空間に戻るだけだ」
「するとここを通行する人たちも出てくると言うことだよな」
そこまで聞いて夏樹の言わんとすることを理解した。
「分かった。それを見届けてから結界を解くことにしよう」
「心遣いありがたい」
「良いって事だ」
そう言い残すと、二人は風のごとくその場から姿を消した。
「さて、どうやって運ぶか……」
夏樹が思案に暮れていると背後でドアのカウベルの音が聞こえた。
振り向くと高志、卯月、葉月、里亜の4人が姿を見せた。
「「「「夏樹(さん)!!」」」」
「やっぱりお前達も取り込まれていたのか」
「お前、どうやって……」
「説明は後だ。とにかく二人を店に運ぶぞ」
「ああ」
4人は頭に『?』を浮かべながらも夏樹の指示に従い、意識を失ったままの澪と亜沙美をノルンに運び込んだ。
それと同時に商店街に人の声が戻ってきた。
「元に戻ったか……」
窓の外を歩く人の姿を見て夏樹は安堵の息を吐く。
そして4人もまた澪と亜沙美を奥のリビングへと運ぶと、店内で同じように身体の力を抜いた。
そんな中、店の真ん中で恵理がきょろきょろと周囲を見ながら立っていた。
「え?え?え?え?え?」
どうやら混乱しているようだ。
今まで誰もいなかった店内に急に夏樹を含めた5人が現れたのだからビックリするのは当然かも知れない。
高志達は夏樹がいるんだから恵理がいて当然だろうと思っていたらしく、急に現れた彼女に対してもそれほど驚いていないようだ。
「夏樹さん、いったい?」
恵理は不安そうに夏樹に話しかける。
「さっきまで全員、敵さんの結界に取り込まれていたんだよ」
「夏樹さん、大丈夫だった?」
「ああ、俺はな……だが……」
夏樹はここに来てから二人とのやりとりまでをその場にいる人たちに話した。



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「さ〜てと第2ラウンド終了です」
恵理「二人とも手も足も出なかったね」
絵夢「まぁ出る方が変なんだけど……」
恵理「それにあの『風破陣』ってなに? 卑怯じゃない?」
絵夢「と言われても青風と言えば『風破』だからねぇ」
恵理「なにそれ?」
絵夢「ジルフェを使う青風が『風破』の名の付く技を使うのは変な話なんだけどね。昔から使ってきた物だけに陣の名前は変えられないみたい」
恵理「訳分からないよぉ(^^;」
絵夢「青風の話をしたら10年以上掛かるので省きます」
恵理「おいおい」

恵理「ところで良く『陣』って言葉が出てきたけどあれは?」
絵夢「簡単に言うとバリアのような物と思ってもらえると分かり易いかも」
恵理「バリア?」
絵夢「そう。それぞれの特徴は本編に書いてあるのでそれを参照」
恵理「それを発動させると普通の人に勝ち目は無いね」
絵夢「そうなるけど……澪や亜沙美は『陣』の使い方は知らなかったし、高志にしてもその特性を理解してなかった」
恵理「結局、力を使いこなしてないってこと?」
絵夢「正解。彼ら3人の敗因はそこにあるの。『陣』は力を使う上でのすべての基本だから。でもそれ以上に力を制御するために『気』のコントロールが最低限必要なんだけどね」
恵理「はぁ……奥が深いんだね……」
絵夢「……わかってる?」
恵理「え? え〜〜と……あはははは……」
絵夢「ま、いいや。この話も青風に深く関わってる話だから長くなるから省略」

絵夢「それではまた次回も」
恵理「お楽しみに〜」