NOVEL



ここは夢園荘 サイドストーリー

風の心(中編)


夏樹さんに抱き付いた女の人……。
彼女は私達が今お世話になっている保養施設を管理している小島さんのお孫さんで、名前を小島雪。年は23歳で大学卒業後、そのままコネでここに就職したと言うことらしい。(でも夏樹さんの様子からこのことは知らなかったみたい)
ということから夏樹さんとは小さいときからの知り合い……何か羨ましいな……。
でも最後に会ったのは、冬佳さんのお葬式の時以来だから10年ぶりなんだって。
夏樹さん曰く「あのあとしばらくの間、親類・親族関係に会うのを拒絶してたからな。でもここ数年はその存在を忘れていた(笑)」とのこと……ちょっといい加減?
それはさておき、雪さんは仕事があるからとあのあとすぐに私達と別れた。
そして私達は予定通りに私と夏樹さん、鷹代さんと卯月、空とみなもちゃんに別れてボートに乗った。
私は夏樹さんと一緒にボートに乗ることが出来て楽しかった。楽しかったけど、何か心に引っかかる物があった。
それは彼女が別れ際に私に対して見せたあの目……あの突き刺さるような視線。

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「ところで夏樹くん、彼女誰? 腕組んでる所を見ると彼女とか」
「ん? 彼女は樋山恵理、俺の彼女だよ」
「ふ〜〜ん……恵理ちゃん、よろしくね」
「あ、はい……こちらこそ……」
「じゃあ私、仕事があるから行くね」
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あれは何?
好奇の視線とは違う。
分からないけど……あれは、私の心をかき乱す……私を不安にさせる……視線……。
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散歩から帰ってきた私達を小島さんご夫妻と雪さんが出迎えてくれた。
そこで再び感じる雪さんの嫌な視線。
私は夕飯までの時間、気分が悪いという理由で一人部屋に戻る事にした。

「私、どうしちゃったんだろう……」
ベッドに寝転がり天井を見上げながら溜め息混じりの言葉が漏れる。
「だけど、あの感じ……」
「大丈夫か?」
天井を眺めていた私の視界を防ぐように現れた黒い影が声をかけてきた。
「え……わぁ!!」
突然の事に私は思わず声を上げ飛び起きる。
影が咄嗟に身を引いてくれたお陰で、互いの頭がぶつかるということは避けることが出来たみたい。
「そんなに驚くことか?」
その影が呆れたような声を出す。
私はそちらの方を向くとやっぱり夏樹さんだった。
「だっていきなりだったんだもん」
私は口をとがらして抗議する。
「なんか湖に行ってから様子が変だったから心配して来たのに、そう言う言い方は無いと思うんだけどな」
「う……ごめんなさい……」
「良いんだけど、大丈夫か?」
私が座っているベッドに腰を下ろしながら、夏樹さんは心配そうに私の顔を見る。
「うん、大丈夫」
「ホントか?」
「う、うん……」
「恵理……」
夏樹さんは真剣な眼差しで私を見る。
私はその眼差しから私は目をそらせることが出来なかった。
それは得も知れぬ不安を抱えていたけど、夏樹さんに心配をさせたくないと言う気持ちから。目をそらすことはイコール心配事があると言うことだから……。
どれだけに時間、見つめ合っただろう……。
夏樹さんは目を伏せると溜め息を一つ付いた。
「ったく……お前がそう言うなら大丈夫か……。でももし何かあったらすぐに相談しろよ」
「うん、大丈夫だから。でももしもの時はちゃんと頼るから安心して」
「分かった」
そして自然とお互いの視線が交差する。
何となくなんかいい雰囲気になってきた感じ。
でも……。
”コンコン””カチャ”
「夏樹いるか?」
ノックして私達の返事を待たずにドアを開ける鷹代さん。
もし……あの最中だったらどうするつもりだったんだろう(-_-;
「もう鷹代さん、返事を聞く前にドアを開けないでください」
「いや〜〜すまんすまん」
「すまんって、もう夏樹さんからも何か言ってくださいよぉ」
「ん〜〜〜でもタカだしなぁ」
それじゃ、答えになってないよ。
しかも夏樹さんはそう言うのは全然気にしてないみたい……。
仕方ないか……はぁ……。
「急に疲れたような顔をしてどうしたんだ?」
「ん……ただに気疲れだから気にしないで」
「「?」」
夏樹さんと鷹代さんは互いに顔を見合わせて不思議そうな表情をした。
「ところで何のようだ?」
「ああ、ちょっと鍵開けをやって欲しいんだ」
「鍵開け? 鞄のか?」
「当たり」
「……仕方ないなぁ……恵理、ちょっと隣に行って来るよ」
「うん」
夏樹さんは私の返事に笑顔で頷くと鷹代さんと一緒に部屋を出ていった。
「でも何で鞄の鍵を開けるのに夏樹さんを呼びに来たんだろう?」
当然の疑問に首を傾げるが、答えは後で夏樹さんから聞けばいいか……。
私は頭を振って?マークを振り払うと、再びベッドに寝転がり天井を見上げながらしばらくぼ〜っとする事に……。
「ん〜〜〜〜……どちらにしても、こんなの私らしくないよね」
私は考え直すと体を起こしベッドから飛び降り、部屋から出ることにした。

2階の部屋から1階のロビーに降りてみると……誰もいなかった(-_-;
「あれ? みんな、部屋にいるのかな?」
私は仕方なく階段を上ろうとした時、全身に嫌な……あの時の視線を感じた。
その視線の方を見ると、ジッと私を見つめる雪さんの姿があった。
「あの……何の用でしょうか?」
私は何とか冷静でいようと、乱れる心を無理矢理押さえる。
「用というわけじゃないんだけど……あなたに興味があって」
彼女はそう言いながら近づいてくる。
「私に?」
「そう。どうやってあの夏樹くんを物にしたのかなってね」
「物にって……私は別に……」
「ふ〜〜ん」
痛いほど突き刺さる視線を感じる。
まるで私を品定めするような感じ……でもここで負けたらダメ……。
でも心が痛い……。
「あなたがしてるその指輪、夏樹くんのでしょ。どうしたの?」
「夏樹さんからのプレゼント。告白してくれた時に貰ったの」
「そうなんだ」
「あなたは一体何が言いたいんですか?」
爆発しそうな感情を押さえて淡々と言葉にする。
「別に……。ただ、あなたが何と思おうとも夏樹くんにとってあなたは冬佳ちゃんの代わりなんじゃないかなぁってね」
「とう……か……さん?」
「だってそうじゃない。夏樹くんが10歳も年下の娘を相手にするなんて、ねぇ。それに彼、重度のシスコンだったから冬佳ちゃんが亡くなってからしばらくダメだったって聞いてたし、それが立ち直ったのはあなたに出会ってからって話も聞いたことあるし……。やっぱり妹が欲しかったのかもね」
「そんな…………」
……この人、何を言ってるの?
誰が誰の代わり……なの?
私は……いもうと……?
この瞬間、私の中で何かが壊れる音がした。
そして身体の力が抜けていく感じ……。
「ちょっと! あんた、恵理になんて事を言うの!!」
階段の方から空の声……怒ってるみたい……。
「空?」
「恵理、あんなの気にしちゃダメだからね」
空が私を崩れそうな私を支えてくれる。
「私は事実を言ったまでよ」
「あんた、憶測だけで物を言わないでよね」
「誰よりも恵理を大切にする夏樹さんがそんな酷いことをするわけがありません」
別の方からの声。
「卯月、あんたどこから?」
「立ち聞きするつもりは無かったんだけど、ついね……ってそれはともかく、恵理に変な事を吹き込まないでください」
「二人ともその娘が大切なんだ」
「「当たり前でしょ!!」」
「でも夏樹くんがどう思ってるか何て、他人のあなた達が知るわけないわよね」
「それは……」
「だけど、それはあんたも同じでしょ」
「でも少なくともあなた達よりも夏樹くんとのつきあいは長いはずよ」
3人が言い争っている。
空と卯月は怒ってる。雪さんは冷静に受け流してる。
私は私を支えてくれている空からゆっくりと離れ、自分の足で立った。
「ちがう……」
「「「?」」」
「私は冬佳さんの代わりじゃない……。私は……私は……」
私は自分が分からなくなり、その場から逃げるように外へと走り出した。

何処をどう走ったか分からないけど気づくと遊歩道から外れた林の奥深く。
上を木々で被われた薄暗い場所にいた。
私は途方に暮れ、一番身近にある木の下に膝を抱え込んでうずくまった。
心が悲鳴を上げている。
心が……痛い……。
どうすればいいの……。
助けて……夏樹さん……助けて…………。


続く


<あとがき>
絵夢「2話構成にするつもりが予想以上に長くなってしまって全3話+1話と言う形になってしまいました(^^;」
恵理「これが『予定は未定であって決定ではない』と言う奴だよね」
絵夢「そうだね(-_-;;」
恵理「ところで、また私を追いつめて……。本編14,16話の『恵理の章』だけじゃ足りないわけ?」
絵夢「足りないなぁ」
恵理「あのねぇ(怒)」
絵夢「と言うわけで引き続き『インターバル 『空の気持ち』』をお楽しみに〜」
恵理「って勝手に締めるなぁぁ!!」