NOVEL



ここは夢園荘 サイドストーリー

中学生日記


土曜日の放課後、人気のない屋上で俺は鞄を枕代わりにして寝ころび空を見上げていた。
ただ何をするわけでも無く、ただ空を見ているだけ……。


この学校−葉輪中学校の屋上は比較的自由に出入りが出来るため、昼食時や放課後は良く人が来るのだが、さすがにもうすぐ12月になろうというこの時期に屋上に出てくる奴はいない。
だからこそ、一人になりたい時にはもってこいの場所だ。

俺の名前は早瀬夏樹。
もうすぐ受験をひかえている中学3年生なのだが、何となくここでぼ〜としている。
もう一つ付け加えるなら来週と言うか明後日の月曜から2学期の期末試験が始まる。
そのせいか、クラスメイト達はやけに殺気立っている気がしたな……。
今更慌てても手遅れのような気がするけどね。


「流れる風に身を任せつつ……か」
そうつぶやくと、右手薬指にはめている指輪を見る。
『風の指輪』とも『風の石』とも呼んでいる指輪。
しばらく見ると、再び右手を枕代わりにするために頭の後ろに廻し、再び空を見る。

「お兄ちゃん、見つけた!!」

屋上……と言うか学校中に響き渡るんじゃないかと言うぐらいに大きな声で俺を呼ぶ女の子の声。
俺は首だけを動かして、屋上の出入り口の方を見ると、そこには眼鏡を掛け長いストレートヘアの女生徒……妹の冬佳が少しだけ息を切らして鞄を持って立っていた。

冬佳は俺のより二つ下で現在中学1年生。
実の兄が言うのも何だけど、可愛いくいわゆる美少女系なので結構もてるらしい。
でも当の本人は全く無関心。
それもこれも俺という存在があるからだな。

「よぉ」
俺は上半身を起こすと片手を上げて軽く声を掛ける。
「『よぉ』じゃないよ。鷹代さん達が探してたよ」
冬佳はややあきれ顔でそう言いながら近づき、俺の横に肩を付ける形で座った。
「タカ達が?」
「うん。なにか約束してたんじゃないの?」
「う〜〜〜ん。何かあったかな?」
「もうお兄ちゃんはぁ」
「と言われてもなぁ」
その瞬間視線が合い、時間が止まり、互いに思わず噴き出した。
「たぶん大した用事じゃないよね」
「そうだな……しっかりと忘れてるからな」
「あはは……」
「ははは……」
そう笑いあっていると冬佳は伸ばしている足の上に乗ってきて両腕を俺の首に絡める。
「ねぇお兄ちゃん、キスして良い?」
「ここ学校だぞ」
「う〜〜誰も見てないからいいの」
そう言うやいなや軽く唇を重ねてきた。いわゆるフレンチキス。
冬佳はゆっくりと唇を離すと、俺の顔を見てほんのり頬を染めぺろっと舌を出す。
これは冬佳の照れ隠しのときの癖のようなもの。
そんな彼女を見て愛おしく感じ、今度は俺の方から唇を重ね、口内に舌を入れると冬佳もそれを待っていたかのようにすぐに絡めてきた。
先ほどまで聞こえていた雑音は聞こえなくなり、互いを求める濃厚なキスの音と熱い息遣いだけが聞こえる。
そうしている内に冬佳を抱きしめる右手が背中をゆっくりとなぞるように下に移動し、お尻に触れる。
一瞬ビクッとしたようだったけど、すぐに力が抜け再び俺を求める。
その時……。

「この際、実の兄妹というのは目をつぶるとしても……」
「二人が愛し合ってるのは分かってるから」
「ここが学校だってこと忘れないでほしいものだよね」
聞き覚えのある三つの声。
俺は冬佳から唇を離し、そちらを見る。
そこには腰に手を当て呆れている女生徒一人、その後ろで顔を赤くしている女生徒一人、そしてあきれ顔で言葉を失っている男子生徒一人の計3人がいた。
3人とも俺の知り合いで、榊澪、川原亜沙美、鷹代高志と言う。
冬佳が来た時に俺を探していると言う『タカ達』というのはこの3人のことだ。
それぞれ鞄を持っていつでも下校できる状態だ。
……しかし一緒に帰る約束なんてしてたっけ?
「もっとぉ」
………冬佳はまだ夢心地だけどまぁそれはおいておこう。
「いや〜、つい夢中になっちゃってさ」
澪に軽く言う。
「あのねぇ」
だが、俺の言葉に彼女はさらに呆れた。
……ま、当然か。
そうこうしていると3人は入り口のドアを閉めて俺達の周りに集まり座り込んだ。
その間、我を取り戻した冬佳は不満げな顔をしながら俺の後ろにまわって、抱き付いている。
「それはともかく、ほどほどにしといた方が良いと思うけどな」
とタカの言葉。
「鷹代さん……私達の仲を邪魔する気?」
「そう言うつもりは……」
半眼で睨む冬佳にタカは顔を引きつらせる。
そんなタカに一応助け船を出す亜沙美。
「冬佳ちゃん、あまり睨んだらタカが可哀想だよ」
「だって〜」
「二人が仲が良いのはよく分かってるから、出来れば家でやって欲しいなってことなの」
「だってお兄ちゃん」
「一応自重します」
「……言葉だけでしょ」
「鋭いな澪」
「ふ……当然でしょ」
澪は無意味に髪をかき分けながら言う。
たぶん格好付けてるつもりだな。
そんな彼女を無言で見つめる4組の眼差し。
「な……何よ」
「夏樹、澪ってばまた女の子からラブレター貰ってたよ」
突然亜沙美が思いだしたように言う。
それを聞いた澪は亜沙美を黙らせようとしたがすでに手遅れ。
「ほぉ……相変わらずモテモテですね、澪さん」
「澪さんって私のクラスの中でもファンが多いんだよ」
「そうなんだ、冬佳」
「うん」
「「「へぇ〜〜」」」
今度はおもちゃを見つけた子供のような4組の眼差し。
「だから何なのよ!」
澪は顔を赤くして怒鳴るがそんなのはお構いなしで話を続けた。
「本性を知ったら幻滅すると思うけどな?」
「知ってるんじゃないのか?」
「私は知ってると思うよ」
「クラスの娘は知らないっぽいよ」
「ああ、それは大変だな」
「知らせない方がその娘の為だね」
「「うんうん」」

”バンッ!! バンッ!! バンッ!! パコ”

澪が手持ちの鞄でそれぞれの頭を殴っていく。
なお最後のパコというのは冬佳に対しての物である。
「いきなり殴るなぁぁ」
「……痛い」
「澪、酷いよぉ」
「なんで私まで……」
それぞれが殴られた場所をさすりながら文句を言うと……。
「当たり前でしょ、人をいつまでもおもちゃにしないで!!」
「でもなぁ、タカ」
「そうだな、亜沙美」
「だと思うよね、冬佳ちゃん」
「うん、お兄ちゃん」
「あんたらいい加減にしなさい」
「「「「はい」」」」
これ以上からかうのは危険のようだ(笑)

「ところで冬佳から聞いたんだけど、俺に何のようだ?」
俺はふとこいつらが俺を捜していると言うことを思い出して聞いた。
「ああ……(ぽん)」
澪は本当に今まで忘れていたかのように軽く手を叩く。
他の二人は……澪と似たような行動を取るところ見ると本当に忘れてたな。
「来週から始まる期末試験のための勉強会をしようと思ってさ」
「やれば?」
「そのためにはどうしても夏樹が必要なわけよ」
「?」
「夏樹、中間の順位は?」
全然分からない俺にタカが聞いてきた。
「学年トップ」
「だからだよ」
「つまり私達の先生をして欲しいの」
今度は亜沙美が真剣な顔で寄ってくる。
「もしかしてお前ら……そんなにやばいのか?」
「「「…………はい」」」
何故か正座で小さく頷く3人。
俺は半分呆れ果てて溜め息をついた。
「仕方ないな……うちでやるか?」
「ホント!」
「やったぁ」
「助かったぁ」
……こいつら(-_-;
「……お兄ちゃん」
背中に抱き付いている冬佳が俺を呼ぶ。
「ん?」
肩越しに振り向くと、何故か不満げな顔をしている。
「続きは?」
「……とりあえずこいつらを見ないと駄目だろ」
「……うん」
その時、俺はあることを思い出した。
「冬佳……」
「ん?」
「前回、赤ぎりぎりの教科があったな」
「え」
その瞬間、途端に顔色が変わる。
「3人教えるのも4人教えるのも変わらないから、一緒にやるぞ」
「いや……その、私は……」
「たしかその教科って初日だったよな」
「そ、そうだけど……」
「補習する?」
「……わかりました」
この時の冬佳は恐らく心で思いっきり泣いているに違いない。
でもこんなところで赤を取って冬休みを補習でつぶされたら冬佳と過ごし時間が減るわけで、そんなことは俺としても嫌だから今回は心を鬼にさせてもらいましょう。
「んじゃ、帰りましょうか!」
「「「おお!!」」」
「……おお」
冬佳だけやや落ち込み気味だけど、まぁそれは見ないことにして……。
俺達5人は勉強会のために我が家へと向かうことにした。

ここから先は想像にお任せしよう。
ヒントとしてはこのメンツが揃って脱線しないわけがないということ……。
……赤点を取るのが一人も出ないことを祈るだけだな。



Fin


<あとがき>
絵夢「今回は夏樹達が中学時代の話です。冬佳ちゃん現役です」
恵理「夏樹さんと冬佳ちゃん、ベタベタだね(^^;」
絵夢「ちなみに二人ともこの時点ですでにやることやってます」
恵理「……だよね。なんかそのまま3人が邪魔をしなければ行きそうな勢いだったもんね」
絵夢「18禁小説だったら間違いなく行ってるんだけどね」
恵理「マスター……あなたって人は(;_;)」

恵理「でもどうして今回過去の話なの?」
絵夢「このサイドストーリーも20回目なのでそれを記念してと言うことかな?」
恵理「あ、もうそんなにやってたんだ」
絵夢「自分でも驚きだわ」
恵理「ん〜良くやった」
絵夢「ありがと」

絵夢「ここでまた募集しようかなと思ってるの」
恵理「ネタ?」
絵夢「うい、ネタが尽きてしまって……ネタ帳も行方不明だし」
恵理「あはは……(^^;」
絵夢「読みたいと思うストーリーをメールかBBSでお願い」
恵理「お願いします」

絵夢「であそう言うわけで次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」