NOVEL



ここは夢園荘NextGeneration
Wonderful Street

七月(一)


明日月曜日からから始まる期末試験に向け今日は夢園荘で亜衣と亜樹の二人と勉強会をしてるの。
すっごく晴れた日曜日なのに……。
でも赤点なんか取ったらお姉ちゃん達と一緒の高校に行けなくなっちゃうし、頑張らないとダメだよね。

あ、まだ自己紹介をしてなかった。
えっと名前は原崎夏美。
パパの名前は智樹、ママの名前は亜沙美と言います。
夢園荘から歩いて1分ぐらいの一戸建てに家族三人暮らしてます。
パパはコンピュータ関係の仕事。ママも家事が済むとパソコンに向かって色々と忙しそう。
だからあまり邪魔をしないように夢園荘に来ています。
ここか水瀬神社に居るとパパもママも安心するみたい。
でももう中学3年生になるんだから、もう少し放任してくれても良いかなぁと思ってしまうんだけど、私一人っ子だから仕方ないのかな?
時々、目の前に居る亜衣と亜樹が羨ましいなぁと思うんだよね。

ついでに二人の紹介。
亜衣と亜樹は異母姉妹と言うことらしいんだけど、双子のように本当にそっくりなの。
母親同士が双子だからと言うことなんだけど、それでもここまで似るのかな?
生命の神秘だね。
しかも同じ髪型をしてるから、普段はちゃんと区別してるんだけど、時々騙されることがあるの……、
それで私の向かって右側で少しおとなしそうな感じのする娘が城田亜衣。
左側で頭を抱えながら賑やかにノートを取ってるのが城田亜樹。
二人と知り合ったのは二人が中一の時に夢園荘に来てからなんだけど、今では一番の親友だよ。

「夏美、どうかしたの? なにか分からないところあった?」
私の視線を感じたのか亜衣が顔を上げた。
「あ、えっと……これ何て読むんだっけ?」
「これは……『百舌(もず)』でしょ」
「そうなんだありがとう……って知らないと読めないよ」
「確かにそうね。ところで……」
私達は一人何をやっているか不明の亜樹を見る。
「亜樹……何をやってるの?」
「ふぉふぇ、ふぇんふぉうふぁよ」
亜衣の問いに口にカッターのような物の柄の部分を加えて答える。
「ちゃんと喋りなさい」
「まったく亜衣は固いんだから。原稿に決まってるじゃない」
口にくわえてたカッターを左に持つと、やれやれと言った表情で答える。
「一応私達明日からの期末テストの為の勉強会をやってるんだけど」
「それはそうなんだけど、夏コミあわせの締め切りもあるのよ」
「あのねぇ!」
「まぁまぁ亜衣ストップ!」
このまま行くとちょっとした言い合いになりそうだったので止めた。
言い合いと言っても、亜衣が一方的に言って亜樹は馬耳東風と言う感じ。
「まったくなんでこの娘はこんな調子で私達よりも成績が上なのかな……」
「ははは……」
亜衣は愚痴をこぼし、私は乾いた笑いしか出なかった。

今、亜樹は同人誌即売会という所で売るための本を作っている。
アニパロという物で以前見せて貰ったらすごくHな物だった。
本人が言うには「所属してるサークルがそっち系で18歳未満は買っちゃダメだからね」と笑っていたけど、描いてる本人が15歳と言うのは良いのかな……。
そして亜衣がこぼしていたとおり、いつ勉強しているのか分からないけど私達よりも成績が良く学年で5位以内をキープしている。
ちなみに私と亜衣は30位以内ぐらいかな?
なんか溜め息出ちゃうな……。

「あ……私、お茶入れてくるね」
亜衣は自分のカップを手に取った時、空っぽを確認すると立ち上がり台所へ向かう。
「私もお願い」
「うん」
私のカップもほとんど無かったので頼むと、私のカップも一緒に持っていく。
そして続くように一人別の作業をしている亜樹も頼んだ。
「あ、私も〜〜」
「あなたは自分で淹れなさい!」
「けち」
亜樹はぶつぶつと文句を言いながら立ち上がり亜衣の元に行く。
そして台所で言い合っている二人だけど、その光景は姉妹のいない私にとって羨ましい光景でもあった。
「パパもママも頑張ってくれれば良いのに……」
そう二人に聞こえない程小さくつぶやくと、開けっ放しの窓にもたれ掛かるように外を見た。
すると窓の下、夢園荘の庭に置かれているベンチで水色のノースリーブのワンピースを着た楓さんが座り本を読んでいた。
「楓お姉〜〜ちゃん」
その声に気づいて楓お姉ちゃんは立ち上がり私を見る。
「あ、夏美ちゃん。亜衣ちゃんの部屋で勉強会?」
「はい、そうです」
「勉強見てあげようか?」
「良いんですか?」
「うん、暇だし良いよ」
「それではお願いします!」
「それじゃ今から行くね」
楓お姉ちゃんは入り口の方へと歩いていく。
その後を目で追っていくと、亜樹が私に覆い被さってきた。
「なにかあったの?」
「楓お姉ちゃんが勉強を見てくれるって、今から来るよ」
「ホント?」
「うん」
「だって、亜衣」
亜樹は台所でお茶を淹れている亜衣に言う。
「うん、分かった」
そう答えると茶だんすからカップを一つ取り出し私達のカップと並べて置く。
「お湯がまだ沸かないから、来てもすぐに淹れられないけどね」
亜衣は苦笑を漏らしながらも嬉しそうに言う。

『ピンポ〜〜ン』

「は〜い、いらっしゃいま……せ……」
呼び鈴に反応して一番近くの亜衣がドアを開ける。
でもなんか言い方が変だったような……。
「こんにちわ〜〜〜!!!」
「こんにちは」
玄関の方から聞こえてくるこれ以上ないぐらいに元気な声と落ち着いた声。
私と亜樹が一緒にそちらを見ると、そこには楓お姉ちゃんだけでなく冬佳お姉ちゃんもいた。
二人は部屋に上がると、楓お姉ちゃんは私の隣、冬佳お姉ちゃんは窓側に座った。
「な、なんで冬佳お姉ちゃんがいるの?」
「夏美ちゃん、まるで私がいたらいけないような発言だね」
「そう言う分けじゃなくて、だってさっき下を見たら楓お姉ちゃんしか居なかったし……」
「ああ、そういうことね……さっきまで麗奈さんの所にいたの。それで帰ろうかなぁと思ったら廊下で楓と会って、夏美達の勉強を見に行くと言うから付いてきたの」
冬佳お姉ちゃんは何故かエッヘンと胸を反らす。
……薄着だからよく分かるけど、私と良い勝負?
「夏美ちゃん、何かな?」
「あ、いえ別に」
私は首は激しく横に振り否定する。
ちなみに冬佳お姉ちゃんの今日の服装は白のランニングシャツに紺のジーンズの長ズボンを股下でバッサリ切ったような半ズボン。
下着のラインがくっきりと浮かび上がってるし、肩ひもが見えてるんだけど良いのかな?
「まったく冬佳、遊びに来たんじゃないんだから」
「オッケ〜」
窘める楓お姉ちゃんに軽く答える冬佳お姉ちゃん。
たぶん返事だけのような気がするなぁ……。
そして亜衣が全員分の飲み物を持って来て勉強を再開した。
「楓お姉ちゃん、ここどうすればいいの?」
二人が来たことで原稿を片づけ真面目に勉強をし始めた亜樹は理科の問題を楓お姉ちゃんに聞いた。
「えっと……………………………………………………………………………………………」
「楓お姉ちゃん?」
心配そうに聞く亜樹を余所に問題を見ながら何故か固まってしまっている。
私も心配になって見ると、亜衣の質問に答えていた冬佳お姉ちゃんが楓お姉ちゃんの後ろに周り問題を見た。
「あ〜理科か……」
「冬佳ぁ」
「はいはい、無理に解こうとして固まらない」
「ううう……だって……」
「楓は亜衣がやってる社会を教えてて、こっちは私がやるから」
「うん」
そして楓お姉ちゃんは亜衣の方へ移動して、その場に冬佳お姉ちゃんが座り亜樹の質問に答えた。
「楓お姉ちゃん、理科ダメなの?」
私は疑問を口にした。
「実は……」
「楓は理数系が全滅なの」
言いにくそうな楓お姉ちゃんに代わり冬佳お姉ちゃんが答える。
「だから2年になって楓は文系コース、私が理系コースに別れたわけなの。まったく理数系って面白いのにね」
「ホント、双子なのに頭の出来は全然違うよね」
楓お姉ちゃんは溜め息をつきながら言う。
「まぁ二人でバランスが取れてるから良いんじゃないかな?」
「そう言う物かな?」
「そう言う物」
断言する冬佳お姉ちゃんに楓お姉ちゃんも含めて私達は苦笑を漏らす。
でも楓お姉ちゃんの言葉じゃないけど、本当にこの二人は双子に見えない。
性格的な違いはあるけど容姿だけならまだ亜衣と亜樹の方が双子に見える。
髪型かな? それとも服の好みかな?
私は二人をまじまじと見比べる。
「「何?」」
私の視線に気づき二人は一緒に声を出す。
やっぱり双子か……。
「あ、うん。お姉ちゃん達って双子に見えないなぁって思って」
「見えないかな?」
楓お姉ちゃんの疑問に亜衣と亜樹も私に同意して頷く。
「もう、亜衣ちゃんと亜樹ちゃんまで。私と冬佳は一卵性の双子だよ」
「でも……ねぇ……」
「もう夏美ちゃ〜ん。冬佳も何とか言ってもよ」
「ん……」
話を振られた冬佳お姉ちゃんはメガネを外し、普段ぜんぶ下ろしている前髪を真ん中でわけて、特徴的な横の髪をかきあげて耳の後ろに廻し楓お姉ちゃんの横に並んだ。
「そっくり?」
「そっくり〜〜」
亜樹がすぐに声を上げる。
確かにこうしてみると髪の長さの違いはあるけど、うり二つだった。
「私と楓じゃ服の好みを始め、ほとんど共通点が無いから仕方ないけどね」
冬佳お姉ちゃんはそう言いながら元の髪型に手櫛で戻している。
「良かったら櫛使いますか?」
亜衣がテレビ脇の鏡の所に置いてある櫛を冬佳お姉ちゃんに差し出す。
「櫛はいいよ」
「冬佳はいつも手櫛だもんね」
「朝起きたときは使ってるよ」
「え、見たこと無いよ」
「その時はまだ寝てるでしょ」
「えへ」
楓お姉ちゃんはぺろっと舌をだして誤魔化す。
その仕草がすごく年上の人に対して失礼かも知れないけどすごく可愛く見えた。
でももし冬佳お姉ちゃんが同じ仕草をやったら……どうなんだろう?
「な〜つ〜み〜ちゃん。今、失礼なこと考えてなかった?」
冬佳お姉ちゃんは半目で私を見る。
「え? な、何も考えてませんよ」
「それなら良いけど」
そう言うと少し笑う。
冬佳お姉ちゃん、その笑み怖いんですけど……。

その後、お姉ちゃん達に見てもらいながら勉強の方は一応進み、明日に備えることが出来た。
今回の勉強会で分かったことは冬佳お姉ちゃんは理数系以上に古典が得意だと言うことが分かった。
しかも古文だけでなく漢文もスラスラ読んじゃうんだもん。
私達3人は古典で困ったらすぐに冬佳お姉ちゃんに聞きに行こうと心に決めた。

「それじゃ、時間も時間だから私達はこれでお暇するね」
冬佳お姉ちゃんは時計を見ながら立ち上がった。
時間はもう5時を指している。
「もう少し良いんじゃないかな?」
だけど楓お姉ちゃんはそう言って立ち上がろうとしない。
「楓、明日から私達も試験だと言うことを忘れてない?」
「いやそれは分かってるけど……」
「それなら数学と物理だと言うことも分かってるよね」
「あう……やっぱりやらなきゃダメ……だよね」
「当然」
断言する冬佳お姉ちゃんに楓お姉ちゃんはゆっくりと立ち上がる。
「お姉ちゃん達も明日から試験だったなんて……私達知らなかったから……」
私は咄嗟に呼び止め謝る。
だけど冬佳お姉ちゃんは明るく笑って「気にしない気にしない」と言う。
「この娘、私が麗奈さんに呼ばれたのを良いことに部屋から抜け出したんだから。ね、楓」
「あの、それは……」
「私が出した課題、どの程度終わってるか夕飯食べたら見てあげるね」
「とうかぁ〜」
「泣いてもダメ! さぁ行くよ! それじゃ夏美、亜衣、亜樹、明日はお互い頑張ろうね」
冬佳お姉ちゃんはそう言い残すと、泣きながら怯える楓お姉ちゃんの襟元を掴んで引きずるように出て行った。

「なんか意外な一面……だよね」
亜樹がぼそっと言う。
私と亜衣は無言で頷き、二人が出て行ったドアをしばらく見ていた。



結果。
勉強会の成果が現れたのか、私と亜衣は初めて20位以内に入った。
そして亜樹は今回学年首位だった。
私達と亜樹とどう違うんだろう(涙)

ちなみにお姉ちゃん達の結果は……。
冬佳お姉ちゃんは「まあこんなもんでしょ」
そして楓お姉ちゃんは「あは、夏休みが楽しみだなぁ」
だそうです。
楓お姉ちゃん、現実逃避したらダメだよ。



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<あとがき>
絵夢「産みの苦しみ」
恵理「いきなり、どうしたの?」
絵夢「いや、思いの外中三トリオが動いてくれなくてな」
恵理「あ〜なるほど……でも勉強会じゃそれほど動かないでしょ」
絵夢「まぁね……」

恵理「でも冬佳ちゃんって頭良かったんだね」
絵夢「彼女の場合、知らなくても良いことまで知ってるから……」
恵理「なにそれ?」
絵夢「内緒」
恵理「それはともかく楓ちゃんは大丈夫なのかな?」
絵夢「卒業後は永久就職という手もあるからいいんじゃないの?」
恵理「だけどその前に冬佳ちゃんという壁が……」
絵夢「そう簡単には切り崩せないだろうね」
恵理「大変だなぁ」

恵理「次回はどうするの?」
絵夢「『七月(二)』ということで夏休み直前だから……考えてないや」
恵理「この人も大丈夫かな?」
絵夢「とりあえずまた次回もよろしくね〜」
恵理「まったね〜〜」