NOVEL



ここは夢園荘NextGeneration
Wonderful Street

十月(二)


身体が重い。
と言うか身体の自由が利かない。
まるで何故か誰かに抱きしめられているように感じる。

私はゆっくりと目を開ける。
「知らない天井だ……」
遠い昔流行ったらしいアニメのセリフを言ってみる。
……虚しい。
とりあえず、私達2年生は修学旅行で長崎に来ていてここは私達が泊まっているホテルの一室。
……それは良い。
それは良いんだけど……私はゆっくりと顔を横に向けると、そこには非常に見慣れた顔をした女の子がすやすやと寝ている。
彼女は私を抱き枕にしているようだ。
「なんで、楓がここにいるの?」
本来ならここにいないはずの双子の姉に聞くが寝ているので反応が無い。
私は家にいるときと同じように彼女を引き離すと、代わりに布団を抱きしめさせベッドから抜け出した。
そしてベッドの傍らに座ると部屋の備え付けの机の上の時計を見る。
「5時半か……」
私がいつも起きる時間だ。
ただしこの修学旅行中の起床時間は7時半という事になっている。
つまりあと2時間は寝ていても問題ない。
だけど一度起きてしまった上、楓が占領しているベッドに戻る気にもなれない。
私は軽く頭を振って頬を叩いてしっかりと目を覚ますとベッドに布団を抱き枕にして穏やかに眠る楓を見る。
「それにしても楓を部屋に入れたの誰よ……」
部屋全てオートロックのため、鍵を使わない限り内側からじゃないと開けることは出来ない。
つまり、左右のベッドで寝る和沙と小石のどちらかが中に入れたと言うことになる。
私は軽く溜め息をつくと、2人が起きてから聞くことにしてシャワーを浴びることにした。

タオルと替えの下着を持ってユニットバスに入り服を脱ぐと熱めのシャワーを頭から浴びる。
「気持ちいい……」
しばらくそうしているとふと両手を自分の小さい胸に当てる。
掌に少し足りない(と言うことにしておいて!)胸。
昨日1年生の時以来久しぶりに夕紀の胸を揉んだけどまた大きくなっていたな……。
そういえばお風呂上がりに見ただけだけど和沙も大きくなっていたような気がする。
楓は……まぁ毎日見てるから良いとして、小石も小さいと言っても私より大きいし……。
ううう……まだ17歳なのに成長止まっちゃったのかなぁ。
やや強めに揉んでみる。
すこし痛いので力を緩める。
するとなんか物足りないのでまた強めに揉んでみる。
そんな感じに緩急をつけているとだんだん変な気持ちになってくる。
そこでハッとして手を止めた。
「私、何やってるんだろう……ううぅぅぅ……」
……ああ、自己嫌悪。

身体を拭いて乾かして新しい下着を身につけると、まだ濡れている髪を乾かすために頭からタオルを被ると汚れ物を持ってユニットバスから出た。
すると備え付けの机とセットで置いてある椅子に和沙が座っていた。
私は他の2人を起こさないように小さい声で「おはよう」と挨拶した。
そして和沙も小さい声で「おはよう」と言うけど、そこでなぜかそこで口を噤んでしまった。
「どうしたの?」
「シャワーを浴びていたのは知っているんだけど、何も下着のまま出てこなくてもと思って」
「女の子しかいないのになんで?」
「なんでと言われても」
そこで和沙は苦笑を漏らす。
私は小首をかしげながら汚れ物をビニール袋に入れカバンに仕舞うと、靴下を取り出して先ほどまで和沙が寝ていたベッドに端に座って履く。
片方を履いた所で和沙の視線を感じて顔を上げる。
「どうしたの?」
「あ、うん、なんかエッチだなぁって」
「何言ってるんだか」
私は苦笑しながら、制服を仕舞ってあるクロゼットから自分の制服を取り出すと身につけた。
そして和沙の正面に立つと質問した。
「ねぇ和沙、楓をこの部屋に入れたの誰?」
「それ私、連れてきたのは春香」
それを聞いて私は暫し言葉を失う。
この2人は……。
私の冷たい視線に気づいたのか和沙は慌てて言葉を続ける。
「春香から携帯に楓が抱き付いて寝られないからってメールが来て、だから、その……」
そこで和沙は笑って誤魔化している。
その姿に私は深く溜め息をつくと「もう良い」と言う。
誰かに抱き付かないと寝付けないあの娘の癖はもうずっとこのままのような気がするから……。

それから和沙が支度前にシャワーを浴びて、その間に小石が起きて楓がここにいる事情を説明したりいろいろとやっている内に7時になった。
私はまだ起きない楓をいつも通りたたき起こすと、引きずるように部屋まで連れて行く。
そして私の顔を見るなり引きつりながら挨拶をする春香に楓を押しつけて自分の部屋に戻った。
すると和沙と小石が少し怯えたような笑みを浮かべている。
「どうしたの?」
「起こす時って容赦が無いんだなぁって……」と和沙。
「実の姉妹だから出来ると言うことだよね」と小石。
「思いっきりくすぐって起こしただけでそこまで言うこと無いのに……」
私は思わず苦笑する。
楓はまだすんなり起きる方だからあの程度で済んでいるわけで、お母さんだと手強すぎて思いっきり頭を殴っているなんて言えないな。

その後、8時に大ホールへ移動して朝食。
9時半にバスに乗り込んで市内の中央公園へ移動して解散、ここから先は1日各グループに分かれて市内観光となる。
私のグループは私−早瀬冬佳、鷹代和沙、氷川小石、橘恵、長崎南、多摩鈴菜の6人。
そして鬱なことにグループ代表は私だったりもする。
「それでまず最初は何処だっけ?」
私は地図を持つ小石に聞く。
「えっと……市電に乗って出島の方だね」
「一日券を買った方が得な感じだよ」
いつの間にか計算機を叩いている恵がそう提案する。
それに対して特に反対する理由もないし、市電を多用するのは間違いないので賛成した。


出島……今から400年以上前に海外との貿易港として作られた人工島。
当時の船は外海に出ることなく陸地が見える範囲で移動していたため、大陸に一番近いこの長崎に最大の貿易港が作られた。
今では首都である京都の近くと言うことで名古屋と大阪にその地位を取られ、観光地の一つとなっている。

「ふわ〜、こんな所から京都まで荷物運んでいたんだね〜」
6人中一番背が低く中学生とよく間違われる鈴菜が驚きののんびりとした声を上げる。
彼女のことをよく知らない人が聞いたら絶対に驚いてないと言うと思うが、のんびりした口調が鈴菜の最大の特徴なのでどうしようもないね。
「昔の人は苦労が好きだったんだよ」
鈴菜の横でいい加減な事を言うのが南。
そして先月の体育での賭けの首謀者の1人。
「そんな分けないでしょ!」
南にツッコミを入れるのが恵で、彼女もまた賭けの首謀者の1人。
要はこの2人が中心になって賭けが行われたわけだけど、どうでも良いと言えばどうでも良い話。
私も同じ立場なら絶対に参加してるからね(笑)
「でも面白いものじゃないわね」
つまらなそうに出島の中心にある貿易館を眺めながら小石がつぶやく。
古い建物がデンと建っているだけで他には何もないのだから同意する。
そんな中で和沙は展示してある模型はじ〜っと眺めていた。
こういうのが好きだなんてちょっと意外だな……。
「和沙ってこういうの好きだったの?」
「入館料払って入ってるんだから勿体ないじゃない」
……さすがだ。
ということで和沙がじっくりと見ているので、私達はそれに付き合って見て回るがさすがにあくびが出てくる。
すると急に和沙が顔を上げて私達を見る。
「時間早いけど、中華街の方で早々お昼ご飯にしちゃう?」
「良いの?」
「私も飽きてきたから」
”なんじゃそりゃ!”
……この瞬間全員が心の中で和沙にツッコミを入れたに違いない。


歩いて行ける距離なので徒歩で中華街へ移動となった。
恵と南が「市電で行こうよぉ」と文句を言うが、それを使うと遠回りの上歩く距離が伸びると言う罠が待ちかまえている。
と言うことで2人の提案は速攻で却下と言うことになった。

中華街は読んで字のごとく、中華料理のお店がたくさんある場所。
「え、それだけ?」
「だってお腹空いたんだもん」
「冬佳も食い気が先行するんだね」
「和沙ほどでも無いよ」
「もう」
と言うことで何処に入るか適当に決めてお店に入った。

そして1時間後……。
6人が6人とも食べ過ぎで口を押さえている。
正直食べ過ぎ……適度に運動して発散しないとまずいなぁ……。
そう思いながら自販機でミネラルウォータを買う。
それを取った時、何か嫌〜な感じが背筋を走る。
私はまっすぐに立つと空を見る。
「……楓……春香?」
「どうしたの?」
和沙が私に問いかけてきたが、私は無視する。
それよりも非常事態だ。
「みんなごめん、非常事態なの! 先に次の場所に行ってて、必ず追いつくから!!」
私はそう言い残すと目的地に向け走り始めた。
すると目の前に建物が有りまっすぐに進めない。
「ちっ! 邪魔っ!!」
身を屈め、そのまま4階建ての屋根の上へとジャンプする。
そしてそのまま屋根づたいにまっすぐに向かった。


私が辿り着いた場所。
そこはやや薄暗く人が滅多に来ないような路地裏。
その奥に7人の気配を感じる。
楓と春香……それから知らない5人の気配。
その中で楓の気配が微弱過ぎるのが気になる。
ゆっくりと奥に進むと何処の男子生徒か知らないけど他校の奴らが楓と春香を追いつめていた。
「あんたたち、何をやってるの!」
私の声に全員私に注目する。
「冬佳!!」
春香が私の名を呼ぶ。
そしてその腕の中で頬を赤く腫らして気を失っている楓の姿があった。
「楓……」
その姿を見たとき、私の中でフツフツとわき上がるものを感じる。
「制服が同じだから君もあの2人のお友達なんだね。俺達と遊ばないかい?」
5人の内の1人が私に近づき気安く私の肩に手を置く。
「……触るな」
「はぁ?」
「汚い手で触るなぁ!!!」
私の肩を触る手が燃え始めた。
いや、私の怒りが炎として姿を現したと言った方が正解だろう。
その証拠に私の右の掌に炎が燃えている。
「うわあああああ!!!」
男は燃え上がる左腕を押さえて足下で転がる。
「うるさい」
私はさっき買ったミネラルウォータのペットボトルから水を零すと、そのまま水の鞭を作りそいつに叩き付けるように左腕の火を消してやるついでに壁へと吹き飛ばす。
するとそのまま気を失った。
実際本気で火をつけた訳じゃないから、火が消え去った後の左腕は服も含めてまったく燃えた気配はない。
でも熱は伝わっていたはずだから軽い火傷はしてると思うけどね。
気を失い倒れるそいつから視線を残り4人へと変える
「な、なんだこいつ……」
「化け物か」
等々口々に言っている……なんかむかつく。
私は火の鞭と水の鞭を両手に持ち近づく。
すると楓達に一番近い奴がポケットからジャックナイフを取り出し刃を出すと2人に突きつけた。
「動くな。こいつらがどうなっても良いのか!」
「屑は所詮屑か……」
私は地面をコツンと蹴る。
その瞬間、4人の足がアスファルトに固定された。
「「「「な、なんだ!!」」」」
「私が使えるのは火と水だけじゃないんだよね」
私の言葉にナイフを持った屑が春香目掛け突き刺す。
しかしその手前で見えない壁に遮られナイフの先端が砕けた。
「!?」
私は火と水を捨てると、一気に4人の中に入り込み一撃で倒すために鳩尾に気を込めた拳と蹴りを入れる。
そしてその瞬間誰もが何が起きたか分かっていないまま地面に倒れ込んだろう。
本当なら八つ裂きにしてやりたいところだけど、それをすると面倒なので内部に衝撃を与えるようにしているから表面はまったく無傷という便利な戦い方。
私はリーダーと思われるナイフを持った奴が倒れる側にしゃがむと、首元の制服を掴み気づかせる。
屑は私の顔を見るなり怯えたように口をガタガタ動かし何を言っているか意味不明だ。
「生徒手帳出して」
「あ、は……はい……」
屑はずいぶんと素直に生徒手帳を私に手渡す。
私はそれを借りると屑から手を離し立ち上がる。
そして生徒手帳に書かれている名前から学校名や学校の住所、電話番号まで控えるとそいつに投げて返す。
「あんた達5人が女の子1人に手も足も出せず負けたなんて言ったら立つ瀬もないでしょ。この一件黙っていて欲しければ、あんた達もこの一件忘れること」
「あ……え……」
「良いね!!」
「あ、はい!!」
ドスを利かせた言葉にそいつはちゃんと返事をすると、気を失っている奴らを慌てて起こしてその場から急いで逃げていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで睨み付けていたが、見えなくなると深く溜め息をついて春香を軽く睨む。
すると春香は少し怯えたように「ごめんなさい!」と謝るので、私は思わず吹き出してしまった。
「何があったかちゃんと説明してくれるよね」
私は2人の前に座ると、未だ気を失っている楓の赤く腫れた頬に触れながら春香に聞く。
「うん……」
彼女は小さく頷き、こんな事になった経緯を話してくれた。

簡単に要約するとこういう事らしい。
最初6人で行動をしていたけど、満員の市電に乗ってしまった時に目的地で降り損なって他の4人とはぐれてしまった。
そして電話で連絡を取りながら合流しようとしたときにあの5人にナンパされる。
最初は無視するがあまりにしつこく逃げ回っている内にここに追いつめられた。
それで楓が逆らって殴られ気を失った。

「何というか、本当にごめん!」
春香は座ったまま深く頭を下げる。
「別に春香のせいじゃないよ」
「だけど……冬佳が楓をどれだけ大切にしているのか知っているのにこんな事に……」
「どうせ楓が自分から向かっていったんでしょ。この娘、優しいから」
私は気を失う楓を春香から預かり背負い立ち上がる。
「あ、それからさっきのことは他言無用ね」
「……う、うん」
春香も立ち上がりながらこくんと頷き、私の横に並ぶと一緒に歩き始めた。
「自然発火って自然現象があるでしょ。あれと同じだよ」
私はニコリと笑いながら言うが、春香は複雑な表情をする。
しまったなぁ……怒りに冷静さを失ったからって春香の見てる前であれをしたのはまずいよね……まぁ誰にも言うことはないと思うけど。
「ねぇ冬佳……」
「ん?」
「冬佳は冬佳だよね……私のことが嫌いな冬佳だよね」
「私は私だよ。私以外に誰が居るって言うの? それから一つ訂正させて」
「?」
「私は別に春香の事が嫌いな訳じゃないよ」
「え?」
私の言葉は意外だと思ったのか驚きの表情で足を止めた。
数歩先に進んだ私も足を止め振りかえる。
「なんで嫌いだと思うの?」
「だって昔から私のこと『おばさん』とか言って、まるで目の敵みたいに……」
「お父さんの妹ならおばさんでしょ」
「だから!」
「私、絶対に嫌いな人と言葉を交わすことはないよ」
「冬佳……」
「私は春香の事も好きだよ。だけど私の中にお父さんの妹でお父さんを『お兄ちゃん』と呼ぶあなたを許せない『感情』も存在するって事」
「なに、それ?」
「大丈夫、私にもその『感情』は理解できないから」
「???」
春香は私の言葉に首をかしげる。
私はクスッと笑うと春香に彼女たちの待ち合わせ場所へと促す。
「一緒に来るの?」
「気を失った楓が起きるまでね」
「あ、なるほど……あ、そうだ冬佳」
「ん?」
「ありがとう」
突然頭を下げる春香に少し驚くが私は彼女に微笑みかける。
「気にしないで、2人に何もなくて本当に良かったから。ねっ♪」
「うん」
「さ、行こう!」
「うん!」

30分後、私達は2人のグループと無事合流。
しかし合流したときにはすでに楓は起きていた。
「なんで教えてくれないの!」
「だって冬佳の背中が温かくて気持ちよかったんだもん」
「あのねぇ……」
「怒らないでよ〜」
楓の笑顔に私は軽く溜め息をつくと、彼女の赤い頬に右手を当てる。
そして私は気を送り手を離すと赤みが引いている。
「?」
「もう痛くないでしょ」
「うん!」
その明るい返事に私は頷くと他の人達に後を任せて、自分をスケジュール通り動いていると思われる和沙達と合流すべく市電に乗り込んだ。
その時、楓のグループの他4名から「格好いい!」だの「素敵〜!」だの黄色い声が聞こえたのは気のせいと言うことにしておく。
いちいち気にしてたら鬱が入るから……。



その後、私が和沙達と合流したとき、彼女たちはグラバー園でハート石を真剣に探していたのはまた別の話。



→ NEXT


<あとがき>
恵理「冬佳ちゃん……4つの力を全部使えるの?」
絵夢「そうだよ」
恵理「むちゃくちゃだね」
絵夢「でもやっとここまで来たなぁって感じなんだけどね」
恵理「はぁ……」

恵理「そういえば歴史も大分改ざんしてるんだね」
絵夢「改ざんもなにもこの世界ではこうなってるんだから仕方ないだろう」
恵理「う〜〜ん、確か首都は京都なんだよね」
絵夢「そうだよ」
恵理「誰のせい?」
絵夢「青風とエア」
恵理「なるほど……」

絵夢「さて意外と長くなりそうな修学旅行辺。まだ終わりません(w」
恵理「一ヶ月2話じゃ無いの?」
絵夢「そのつもりだったんだけど、あと1回か2回ぐらいやろうかなぁって」
恵理「そうなんだ」
絵夢「と言うことで次回もどうぞよろしく〜」
恵理「みなさん、まったね〜」