NOVEL



ここは夢園荘NextGeneration
Wonderful Street

十一月(二)


「本当にこれを着ていくのか?」
俺は恵理が差し出した服を見て困惑する。
「歳を考えるとちょっとな……」
「大丈夫だよ。夏樹さん、十分若いから。それに娘達の文化祭に行くわけだからそれなりの服装で行った方が良いと思うの」
「それなりって……この服はそう言う問題じゃないと思うが……」
大丈夫だよと言って無理矢理手渡された服。
着ないと今は笑っている恵理が泣くか拗ねそうだから仕方ないか……。
ちなみに恵理はと言うとしっかりと支度を終えている。
「なに?」
「いや、何でもない」
小さく溜め息をつくと着替えることにした。





俺達が学校に着くとその巨大な門にビックリした。
「ここ、確か女子高だよな」
「……うん」
「共学でもここまでやらないぞ」
「私もそう思う」
「恵理の頃は……」
「正門に少し飾り付けただけ」
「……だよな」
「「う〜〜ん」」
門の前で悩む俺達。
「夏樹、恵理ちゃん、そんなところで何やってるんだ?」
「夏樹さん、恵理、おはようございます」
そこへ高志が卯月と一緒にやってきた。
「2人ともおはよ。いや〜飛んでもない門だなと……」
「高志さん、卯月、おはよ〜〜。これすごいよね」
「俺から見たらお前達の格好の方が飛んでもないぞ」
「2人とも目立ってますよ」
「やっぱりそうか……」
「そんなこと無いよ〜! 私も夏樹さんもこんなに似合ってるんだから!!」
恵理が1人で反論する。
思わず苦笑いが出るが、恵理は頬を膨らませてる。
俺達がどんな格好をしているかというと俺は高校時代の学ランを、そして恵理は高校時代のセーラーカラーの小豆色の制服を着ている。
本当にまさか45にもなってこれを着ることになるとは思わなかったよ。
「なぁ夏樹……恵理ちゃんか?」
「ああ……」
「大変だな」
「……仕方ないさ」
高志は同情の眼差しで俺の肩をポンと叩く。
「で、でも恵理もそうだけど、夏樹さんも高校生で十分通じるんですね」
恵理の様子がやばいので卯月がフォローを入れる。
するとすかさず恵理は機嫌を直して「でしょでしょ!」と卯月の前で文字通り飛び跳ねている。
「恵理、あまり飛び跳ねると下着が見えるぞ」
「え……あ!」
飛び跳ねることで捲れるスカートの奥に黒い布地が見えたので注意すると、恵理はスカートを押さえて「エッチ〜」と照れ笑いする。
この制服をデザインをしたのは俺だが、スカート丈はもう少し長くても良かったかも知れないと20年以上も前のことを一瞬後悔した……。
「そろそろ中に入らないか? ここでしゃべっていると余計目立つ」
いい加減見せ物となりつつあることに気づいた高志が俺達を促した。
「そうだな、行こうか」
「は〜〜い!」
恵理は元気よく手を挙げると、俺の腕に自分の腕を絡める。
すると卯月がなんとなく羨ましいような顔をする。
「どうしたんだ?」
卯月の変化に気づいた高志が声をかける。
「え〜っと……私も恵理の真似するね」
と、高志の腕に自分の腕を絡めた。
「な!?」
高志は慌ててその腕を振り払おうとするが、卯月は離すまいとしっかりと腕に抱き付きじ〜〜っと高志を睨んでいる。
「夫婦でしょ」
「……はい」
卯月の押しに高志が負けた。
「恵理の影響が目に見えて分かるな」
「え〜〜私、別に何もしてないよ?」
「何となくの話だから気にするな」
「ん〜〜〜〜〜っと、うん、気にしない!」
恵理は元気よく頷いた。

門の内側で家族チケット(女子高だけに入場は厳しい)を渡し、校内マップを受け取ると高志達と別れた。
どうやらすぐに和沙ちゃんの様子を見に行きたいようだ。
「そういえば受付の人、変な顔してたね」
「そりゃ制服で来ればそう言う顔をもするさ」
「そうかなぁ?」
恵理は自分の制服姿をまじまじと眺めながら首をかしげる。
その仕草に思わず笑みが零れる。
「どうしたの?」
「可愛いなって思ってね」
「もう……ありがとう」
恵理は照れながらも嬉しそうに笑った。
本当に幸せだなと改めて感じる。
「ここからだと春香のクラスが近そうだから、そこから行くか?」
「うん!」
俺達は腕を組んだまま校舎に入っていった。



「お、お、お、お、お……」
春香のクラスへ来ると、入り口の所で呼び込みをしていた春香が俺達の姿を見た途端、指を指して意味不明な言葉を繰り返している。
「『お』がどうかしたのか?」
「春香がおかしくなっちゃった?」
「ちが〜〜〜う!!! お兄ちゃんもお義姉さんもなんて格好してるの!!!!」
春香はここが往来だと言うことを忘れているかのように大声で叫ぶ。
「見たまんまだぞ」
「リボンの色変えた方が良かったかな?」
「恵理にはそれが一番似合うけど」
「ホント?」
「ああ」
「わ〜い!」
「2人ともいい年して何バカップルしてるの!!!」
再び春香が怒鳴る。
なんか今日は気が短いな……嫌な事でもあったんだろうか?
「春香、怖いよ〜」
恵理が俺の後ろに隠れるようにして言う。
「あ、あのですね……。まぁお兄ちゃん達が人目をはばからずいちゃついているのは知ってるから良いんですが、にしても二人して制服で来ること無いと思うの!!」
「あ〜そう言うことか」
俺はポンと手を叩く。
「しかもお義姉さんだけならともかくお兄ちゃんまで着てくるなんてどう言うつもり!?」
「どうもこうも恵理が選んでくれたんだぞ」
「あ〜はいはい。お兄ちゃんはお義姉さんが一番だからね」
「なんか春香が不良っぽくなってるな。親父達が悲しむぞ」
「そうだぞ〜春香〜〜」
「誰のせいなの! 誰の!!」
「春香〜何騒いでるの?」
教室の中から春香のクラスメイトと思わしき娘が顔を見せる。
「あ、ごめん。でも……」

「その人誰っ!!! 春香紹介してぇ!!!!」

どこからその声を出しているのかと疑問を持つほどの大声。
思わず俺も恵理も耳を塞いでしまった。
しかし春香は平然としているところから、この娘はもともとこういう娘と判断しよう。
「私の兄とお義姉さん」
「そうなんですか〜。私、橘こずえと言います。春香とはいつも仲良くさせてもらってます」
あ、なんか後ろからやばい感じが……。

「だめぇぇぇぇぇ!!!!」

案の定、後ろにいた恵理が俺に前に出て、相手を威嚇している。
「夏樹さんは私のものなんだから!!!!」
その恵理の行動に、彼女は困惑の色を見せ春香の方を見る。
「この人ってリボンが赤だし3年生の先輩じゃ……」
「ただのコスプレ」
「へ?」
「2人は夫婦で、兄は45歳でお義姉さん……と、この言い方がまずかったのか……義理の姉は36歳」
「え、だってどう見たって高校生じゃ……」
「人間見た目じゃないって事よ」
狼狽える橘さんと腕を組んで何かを悟っている様子の春香。
対照的でなんか面白い。
「恵理、もう大丈夫だぞ」
まだ威嚇を続けている恵理の頭に手を置くと、きょとんとした顔で俺をみる。
ジッと見る恵理の頭をそのまま撫でてやった。
すると「あは」と照れ笑いをする。
どうやらもう大丈夫のようだな。
俺はそのまま左腕に空間を作ると、恵理は嬉しそうにその腕に抱きつくように自分の腕を絡める。
「お兄ちゃん達、見ていくんでしょ」
その声に春香を見るとどこか呆れているように見えるがきっと気のせいだろ。
「ああ、そのために来たんだからな」
「どうぞ」
春香に促されるまま入り口に掛かった暗幕を通り抜け中に入るとそこはお化け屋敷だった。

お化け屋敷から出ると恵理は少し青ざめた顔で涙目になっている。
「あれ、苦手だったか?」
「苦手じゃないけど、こんにゃくが……」
「ああ……」
お化け屋敷お約束のこんにゃく攻撃で首や耳やらに当たって気持ち悪かったらしい。
「次行こうか」
「うん」
「それじゃ、春香」
入り口の方で呼び込みをしている春香に簡単に挨拶をしておく。
「グランドの方で楓がかき氷屋をやってるから言ってみたら」
「かき氷屋? まぁ良いか……サンキュー!」
俺達はグランドの方へを向かった。



グランドでは各運動部が趣向を凝らした屋台を出している。
その中を歩いていると……まぁ校内でもずっと感じていたんだが、好奇の視線に晒されている、そんな感じがして微妙に落ち着かない。
でも腕に抱き付くようにしている恵理は全く気にしていないようなので問題ないだろう。

「「かえで〜」」
俺達は屋台の前で呼び込みをしている楓の姿を見つけ声をかける。
すると楓はこちらを振り向き一瞬驚いたような顔をするが次の瞬間……。

「お父さん、格好いい!! お母さん、可愛い!!」

楓の大声に一気に注目の的となる。
まったく……。
「楓、いきなり大声を出すな。びっくりする」
俺は楓の頭をこつんとすると楓はぺろっと舌をだす。
「だってお父さん達の格好にビックリして、感じたことをそのまま言っただけだよ」
「まぁそれなら良いか」
「楓、私、可愛い?」
「うん、可愛いよ〜」
「やった〜」
誉められた恵理は嬉しそうにに抱きしめる腕に力が入る。
「良かったな」
「うん!」
俺の言葉に恵理は大きく頷くと、楓が羨ましそうに「う〜」と唸っている。
「どうしたんだ?」
「お母さんばっかりずるい……」
「だけど楓には篤志君がいるだろ?」
「うん……ってなんで知ってるの?」
楓はパッと驚きの表情をすると恵理が優しく言葉をかける。
「私達はあなたの親なんだよ。知らないと思った?」
「そっか……でも冬佳には内緒にして。お願い」
「どうして?」
「冬佳、私があっくんと一緒にいるの嫌みたいだから」
「ふ〜〜ん……夏樹さん、どうしようか?」
恵理が何かたくらんでいるようだ。
それに乗るのも良いだろう。
「そうだな……楓の所はかき氷……なのか?」
季節はずれも良いところだな……。
楓も控えめに「う、うん」と頷いているし、まぁいいか。
「楓のおごりな」
「え〜!?」
「楓ちゃ〜ん、いいでしょ」
「ううう、2人ともずるいよ……」
「そう言うことでかき氷の苺一つにスプーン二つな」
その注文に楓は深く溜め息をつくと「分かりました」と言って屋台の奥にいる娘に頼んだ。
そしてすぐに楓からスプーンが二つ刺さったかき氷を手渡された。
「ありがとう」
「毎度ありがとうございました」
大分不満だらけの口調。
俺は恵理に合図を送ると、恵理は小さく頷いた。
「楓、手を出して」
「?」
恵理の言葉に楓は首をかしげながら片手を出すと、楓の掌に200円を握らせる。
「え、お母さん?」
「50円はあげるね」
そう言うとウィンクして俺の所に戻ってきた。
「さて、これをどこかでゆっくりと食べたら冬佳達の所に行こうか」
「うん!」
さて何処が良いかなと見渡すと屋台村の外れにテーブルが用意されていたのでそこで食べることにした。
しかし、その間もずっと好奇の視線を感じていた。
まったく何なんだろうな……。



最後に冬佳と和沙ちゃんがいる2年3組に来た。
出し物は喫茶店と、お化け屋敷に並ぶ文化祭お約束の出し物だ。
中に入るとなかなか盛況のようだが、その中に4人テーブルに座る高志達の姿を見つけたので相席することにした。
「よ、高志」
俺は高志の横、恵理は卯月の隣に座りながら挨拶する。
「もう回ってきたのか?」
「まぁ春香と楓の所を順に回ってきて、ここに来たんだが」
「なるほど」
「ところでお前達はずっとここにいたのか?」
「まさか、俺達も適当に回ってきたよ、な」
高志は向かいに座る卯月に言うと「ええ」と返した。
「いろいろと回ってから、和沙の様子を見に来たんですよ。なんとなく学生に戻った気分」
「卯月だってまだまだ若いんだから大丈夫だよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
恵理の言葉にその気になりつつある卯月。
そんな彼女の様子を見て高志は苦笑している。
「……いらっしゃいませ」
その声にそちらを見ると和沙ちゃんが注文を取りに来ていた。
「よっ! 調子はどう?」
「調子はいいです。それよりも注文をお願いします」
なんとなく引き気味に感じるがまぁ気にする必要もないか……。
「それじゃ、ホットとオレンジジュースを頼む」
「はい、かしこまりました」
和沙ちゃんはそのまま行ってしまった。
「高志、和沙ちゃん、ずいぶんとよそよそしかったな」
「こういう場で親に会うとああいう感じになると思うぞ」
「そうか?」
「難しい年頃だと思うよ」
高志は肩をすくめながら言う。
そして卯月も苦笑している所をみるとそう言うものなのかなと思った。
そうこう話していると、今度は冬佳がホットとオレンジジュースを持って現れた。
「お待たせしました!」
テーブルの上に零れないように、丁寧に置くが語尾が微妙に荒れている。
それを小さな声で言うと、「誰のせい?」と小声で返してきた。
「なんでそんな格好をしているの!」
「似合わないか?」
「そう言う問題じゃなくて」
「楓はちゃんと誉めてくれたの〜」
「お母さんも……もう、この話は帰ってから!」

冬佳は話を一方的に打ち切ると奥へと戻っていってしまった。
「おかしな冬佳ね」
「そうだな」
恵理と俺は首をかしげた。
すると高志と卯月が口を開く。
「だから、あれがまっとうな反応だって」
「似合うからって2人とも歳を考えて」
その言葉に恵理は「う〜ん」と考え、俺は苦笑を漏らすだけだった。



その後、4人で時間まで回り家路に着くことにした。
その帰りのバスの中で俺はずっと気になっていたことを高志に聞いた。
「そう言えば今日冬佳達のクラスで飲んだコーヒーがどことなくお前の淹れたものに似ていた気がしたんだけど」
「え、ああ。俺が和沙達に教えたからな」
「どうりで」
「お前に教えてもらえば良いだろうと言ったんだけどな」
高志は苦笑を漏らす。
「まぁ良いんじゃないか。コーヒーの美味しい喫茶店のマスターなんだから」
「よく言うぜ。その俺に仕込んだのはお前のくせに。そうだ、久しぶりに淹れて欲しいな」
「夏樹さんのコーヒー?」
前の席に座っている恵理と卯月が俺達の会話に入ってきた。
「私、飲んでみたい!」
「私も」
「ほら、2人もこう言っていることだし」
3人が俺に詰め寄ってくる。
「おいおい、機具もなければ豆も無いんだぞ。どうやって……」
「それならうちのを使えば良いと思いますよ。ね、高志さん!」
「卯月の言うとおりだ。なぁこれから淹れてくれよ」
「夏樹さん、飲みたい!!」
もう、こうなると淹れないといけない雰囲気になっている。
あれは軽く溜め息をつくと高志に聞く。
「生豆はあるのか?」
「もちろん一通り揃ってるぞ」
「分かった。このままノルンに行くか」
「「「やった!!」」」
3人はバスの中と言うことを忘れているかのようにハイタッチで喜ぶ。
一応「ここ数年、豆からやってないからまずくても知らないぞ」と付け足したが、誰も聞いていないようだった。
まぁどうなっても責任は取らないからな……。



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<あとがき>
恵理「制服で娘の文化祭に行く親って……」
絵夢「それが恵理であり恵理に甘い夏樹と言うことだろうな」
恵理「折角メインなのに……」
絵夢「まぁ冬佳や春香の反応が全うだろう」
恵理「4人ともあとで大変だったろうな……」
絵夢「間違いなく(笑)」
恵理「あ〜あ……」

絵夢「と言うことで11月はこれで終わり、次回から12月になります」
恵理「だんだん季節感が無くなっていく……」
絵夢「これを発表してる時が7月も終わり頃だからね……」
恵理「物語が実際の時間にあうことはまずないから良いのかな?」
絵夢「そうそう。そういうわけでまた次回もよろしく!」
恵理「みなさん、まったね〜♪」

冬佳達のリボン 青 赤 青 緑