NOVEL



ファンタシースターオンライン
『MEMORIES』

第1話 『気分は保母さん』−ナツキ−


「覚悟ぉ!!!」
金髪のハニュエールの少女がセイバーを振りかざし斬りかかってくる。
私は少女のセイバーを左で逆手に持つセイバーで受け流すと、右のWセイバーで下から斬り上げるように吹き飛ばした。
すると少女は思った以上に吹き飛び、数メートル向こう側で仰向けで倒れている。
「あや?」
私は慌てて、少女の元に駆け寄りのぞき込むと目を回して気絶しているだけだった。
「………ま、いいか」

ここはパイオニア2のギルド本部内にある訓練施設。
私、ナツキ・スライダーは暇な時間はここに来て、金髪の少女カナタ・リンクスに剣の稽古を付けている。
本人にしてみたらあの時の復讐のつもりなんだろうけどね。
こうやって相手をしているとあの娘に対して『復讐』と言う気持ちが薄れていることに驚く。
初めはマスターの希望だから仕方なしだったんだけど、気づくとあの娘もソラ達と同じ可愛い妹のように思えてきている。
私も変わったのかな……。

「ナツキさ〜ん!」
施設入り口から私の名前を呼びながらフォマールの少女が走ってきた。
彼女の名前はソラ。
私がシングルで冒険していた時に助けた娘で、それ以来自称パートナーとして行動を共にしている。
「どうしたのソラ?」
「どうしたのじゃないですよ。こいつ、またナツキさんにちょっかいを出してたんでしょ」
そう言いながらソラは足下で仰向けで気絶しているカナタをまるで汚物でも見るような目で見る。
「いつもの訓練だよ」
私が苦笑を浮かべながら言うと、彼女は腰に手を当て少し怒った表情になる。
「ナツキさんは甘いです!
こいつはナツキさんの命を狙ってるんですよ。ましてやナツキさんの敵でもあるわけじゃないですか!
それなのにどうしていつも相手をしてるんですか?」
「まぁ、何と言うか……手合わせをして欲しいと言うからやってるだけだし」
「こいつの狙いはナツキさんの命なんですよ!」
足下のカナタを指さす。
「大丈夫だよ」
「何が大丈夫なんだか……」
ソラは怒りを通り越して呆れてしまっているようだ。
そして座り込むとどこから取り出したのかケインでカナタの頭をつつく。
「まったくどうしてこんな奴の相手をしてるのかな……」
「……こんな奴で悪かったね」
カナタはソラのケインを払うとそのまま起きあがり、ソラを睨むように見る。
「気が付いたんだ」
ソラもカナタを睨むように見る。
「あんたがそんなもんで突っついたおかげでね」
「へぇ……だったら感謝して貰いたいわね」
「フン、誰が……この『暴走爆発娘』」
「………あなた……死にたい?」
「やれるもんならやってみな」
「……」
「……」
「死ね〜〜!!」
「そっくりかえしてやら〜〜!!」
互いに掴みあう直前に私はセイバーとWセイバーの柄で思いっきり二人の頭を殴りつける。
そして足下に仲良くうつぶせに気絶して倒れた。
「まったく……」
毎度のことながらホント溜め息が出る。

「二人とも良いこと? あんたたちが喧嘩することで他の人にも迷惑が掛かるんだからね」
施設の隣にあるラウンジの片隅で私は二人を正座させ説教をしている。
この二人が喧嘩したおかげで施設の一部が壊れること多数。
巻き込まれ怪我する人も多数。
その度に私も無視するわけにもいかず、毎度のようにかりだされていた。
そして私が二人を説教する光景もすでにおなじみになりつつあるようだ。
「とにかく、分かってるの?」
「「でもこいつが」」
「……二人とも……半年ぐらい入院してみる?」
切れそうになる自分を押さえつつも低い声で言う。
実際切れてるかも知れないけど……。
そして二人は……。
「「ごめんなさい!!」」
と仲良く謝る。
……返事はいいんだけどね……本当に入院させた方が私としては楽になるかも知れないな。


私は二人をあのまま放置したままギルドの全てを管理している部署の一角にある事務室にきた。
普通だったらハンターズであっても入ることの出来ない場所ではあるんだけど、私の場合いろいろあるのでここまで顔パスで来ることが出来る。
室内にはいると十数人がモニターに映し出されるデータを見ながら端末を操作している。
私は彼らに目をくれることなく部屋の中央奥の席を見たが空席だった。
「あれ?」
仕方なくその席のすぐ側に席を構える女性の元に向かう。
「ユーリさん、こんにちは。ハルカは?」
ユーリさんはハルカの秘書をしている人。
私に気づくと端末から顔を上げ笑顔で迎えてくれた。
「スライダーさん、こんにちは。フローラ室長は本日はお休みですよ」
「そうなの?」
「ええ。今日は大切な用事があるとか……。ほとんど休み無しで働いていらっしゃるのでたまには休暇もいいんですが、室長がいないと処理できない書類とかがあるので少し困ってます」
ユーリさんは頬に手を当て笑顔で言う。
とても困っているようには見えないけど……。
でも大切な用事って……もしかして……。
「もし急用でしたら呼び出しますが」
「そこまではいいよ。ハルカの行った先に心当たりがあるから」
「分かりました」
その時、ユーリさんの端末に緊急コールが入る。
「どうしました?」
ユーリは通信を開き、私も興味津々にのぞき込む。
モニターには警備隊長のカルロ君が映っている。
『そちらにナツキ・スライダーさんは行っていませんか?』
「ええ、来てますよ」
「どうしたの?」
『申し訳ありませんがすぐに訓練施設までお越しいただけないでしょうか』
カルロ君の声に混じって悲鳴と爆発音が聞こえる。
「……あの娘たち?」
『……はい』
私は溜め息をつきモニターから視線を外すとユーリの方を向く。
「そう言うわけだから行ってくるね」
「ご苦労様です」
ユーリは苦笑を漏らしている。
私は彼女に手を振りながら事務室から出ると訓練施設に急いだ。


私は訓練施設の方から逃げてくる人の流れに逆らうように走る。
正確には目の前にある物(者?)をすべてなぎ倒してるんだけどそれは内緒。
施設に近づくに連れて爆発音が大きくなる。
「あの娘たちはぁぁぁ!!!」
私はセイバーとWセイバーを抜くと、そのまま施設内に入る。
そこではいつもの光景−ソラとカナタの大喧嘩が繰り広げられていた。
それがつかみ合いや殴り合いならともかく、二人ともテクニックを乱射するからタチが悪い。
壁際に配置された警備員は怯えながらもこれ以上周囲に被害が出ないようにしている。
「カルロ君!」
入り口付近にいるこの部署を任せられている部隊の隊長カルロ・サンダーを呼んだ。
「ナツキさん、わざわざ済みません」
「それは構わないけど、状況は?」
「ご覧の通りです。一応安全のために我々以外は訓練施設の外へ待避させてあります」
カルロ君は溜め息混じりで答える。
二人は罵声を言い合いながらラフォイエやラゾンテと言った最上級テクニックを連射している。
二人の様子を見て、私も思わず溜め息が出てしまった。
「とりあえず止めるわ」
「よろしくお願いします」
私は二刀を構え直すと二人の動きから目を離すことなくゆっくりと二人に近づいていく。
テクニックをぶつけ合い、隙を見たら殴りかかる……その繰り返しを続ける二人。
セイバーやケインを使ってないところが立派かな?
それはともかく止めないとね。
……しかし二人ともどうして私に気づかないかな?
あと数メートルまで近づいた時、二人は互いを殴り合うために一カ所に固まった。
その瞬間、私は神速の動きで一気に間合いを詰め、Wセイバーで二人同時に吹き飛ばす。
数メートル先まで吹き飛ばされた二人は文字通り泡を吹いて気絶している。
服の表面がが少々焦げ付いてるが、中まで達していないから傷はないと思う……しばらく跡は残るけど……。
私は後方に待機しているカルロ君たちを呼んだ。
「終わったよ」
「ご苦労様です」
カルロ君は私に敬礼をした。
「んじゃ、後よろしく……あ、そうだ、一週間ぐらいどっかに放り込んどいて」
「しかし……」
「私が良いって言ってるんだから良いの。あの娘たちはこのぐらいしても反省しないんだから」
「分かりました。では早速手配します」
「よろしく。目が覚める前にやっちゃってね」
「了解しました」
カルロ君は部下に命令し二人を拘束したのち、目が覚めないように静かに収容施設のあるブロックへと運んでいく。
私とカルロ君はその様子を少しだけハラハラしながら眺めている。
そして姿が見えなくなると私はカルロ君に話しかけた。
「……カルロ君」
「はい」
「言っておいてなんだけど……大丈夫かな?」
「ちなみに前回は三日目で解放しました」
「今回はどう見る?」
「同じくらいかと……」
「……そう」
「でもスライダーさんも大変ですね」
「まぁね……気分は保母さんだよ」
「これからも頑張ってください」
「……頑張りたくない」
私達は顔を見合わせ思わず噴き出した。
「んじゃ、後よろしくね」
「分かりました」
私の言葉にカルロ君は敬礼で応える。
そんな彼に微笑むと踵を返し、ハルカのいると思われる場所へ向かった。



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<あとがき>
絵夢「やっと第一話です」
恵理「今回は前回と違って一人称形式なんですね」
絵夢「この方がやりやすいかなぁって思って」
恵理「確かにこっちの方がマスターは書き慣れてるからね」
絵夢「ういうい」

恵理「次は流れから言ってハルカかな?」
絵夢「その通り。実際どういう風に展開していくかは少し決めあぐねいているけどね」
恵理「そうなんだ」
絵夢「まぁ何とかなるっしょ」
恵理「あははは」

絵夢「そう言うわけで次回まで」
恵理「おたのしみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」