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ファンタシースターオンライン
『MEMORIES』

第6話 『そして私が』−ナツキ−


深紅のホバーバイクを駐車場に止めると私は、そのまま自分の部屋があるマンションに入る。
エレベータに乗り込み10階まで昇り降りると、私の部屋の前に見覚えのある少女が座り込んでいた。
「ソラ……なにやってるの?」
「あ〜〜ナツキさん、おかえりなさ〜〜〜い!!」
その少女−ソラは私を見ると嬉しそうに立ち上がり駆け寄ってきた。
「うん、ただいま。ところでどうしたの?」
「うんとね、これ作ったから見せに来たんです」
ソラはそう言うと持っている紙袋から30cmぐらいのぬいぐるみを取り出した。
それはすごく見覚えのある特徴をもった形をしている。
「……それって」
「ナツキさんのぬいぐるみですよ」
「わざわざ作ったの?」
「はい」
「はぁ……」
「それで……」
ソラはそう言うと紙袋に手を入れ、もう一つぬいぐるみを取り出す。
「ナツキさんにもあげようと作ったんです」
そう言って私に手渡したそれはソラのぬいぐるみだった。
「あ……ありがとう」
「あまり似てませんが大切にしてくれたら嬉しいです」
「あ……うん……」
この娘……だんだん危ない世界に入ってない?
私はそっちの気は無いんだけどな……。
「立ち話も何だし、中に入る?」
「はい!」
ホント、嬉しそうに返事をする娘だこと。

中に入り、ソラのぬいぐるみを写真などを置いてあるローボードの上に並べて置く。
そしてソラはリビングで椅子に座って私を待っている。
「前の所よりも広くていいですよね。本当に2LDKっていいなぁ」
「ソラは初めて来たんだっけ?」
「はい」
「あ、そうか……なんだかんだでお互いいろいろ忙しかったからね」
「あははは……」
私は純粋にギルドの用事で忙しかったんだけど、ソラの場合はカナタと巻き起こした問題で忙しかったんだよね。
「それじゃ、私がホバーバイクを買ったことも知らない?」
「えっ! 本当ですか!?」
「うん」
ソラは期待の眼差しを私に送る。
「ぬいぐるみのお返しにあとで後ろに乗せてあげるよ」
「ありがとうございます!」
私の言葉にソラは嬉しそうな声を上げた。

”ピーピーピーピー”

左腕の通信機が鳴る。
「ちょっとごめんね」
ソラに一言断ると、私は通信に出た。
小型モニターにはハルカがすごく慌てた様子で映っている。
「ナツキ、大変なことが起きたの!」
「どうしたの?」
「ゼロ君とカナタが大怪我を負ったの!」
「え?」
「今、本部のメディカルルームに収容して治療してるの」
「分かったわ。急いでそちらに行くね」
私が通信を切ると、ソラがどうしたのか聞いてきた。
「ゼロとカナタが誰かにやられたみたいなの。私はこれからすぐに本部に行くね」
「え、二人が?……私も行きます!」
ソラが一緒に行くと言ったことに少し驚いたが、今はそんな事を考えている場合じゃない。
私とソラは外に出ると、駐車場に止めてあるホバーバイクに跨った。
まさかこんなに早くタンデムをすることになるとは……。
「ソラ、飛ばすからしっかりと腕を身体の前に廻してね」
そう言いながら私はソラの両手を私の腹部の当たりで組むように固定する。
「あ、はい」
ソラも身体を密着するようにした。
それを確認すると、私はアクセルを一気にふかして走り始めた。
その瞬間、ソラがのけぞった感じがしたけど、今は背中にソラを感じることが出来るから大丈夫だろう。

普通に走っても30分は掛かる所を8分弱で着いた。
そしてホバーバイクを本部前の駐車場に止めると、私達は中に入っていった。

メディカルルームの前ではハルカと右手を失ったゼロがいた。
「ナツキ! それにソラも……」
「姫、申し訳ありません……」
「そんなことよりもゼロ……あなた、右腕……」
「拙者よりは大丈夫ですが、カナタ殿がまだ……」
「ハルカ、どういう事なの?」
「私だって連絡を受けてすぐに飛んできたの」
「そう……誰にやられたの?」
「分かりません。ただ黒いヒューキャストで胸に爪でひっかいたような3本の傷がありました」
ゼロはこういう感じの傷といった感じで指で示した。
「それって……」
「まさか……」
ゼロの説明を聞いて私とハルカは同時に驚きの声を上げる。
「ハルカ……あいつ、乗ってたの?」
「私だって初耳よ。第一、乗っていたら知らないわけ無いじゃない」
「そうだよね……」
私達がそう話していると、治療室からカナタが出てきた。
「カナタ、大丈夫なの?」
「ナツキ……来てたんだ……あたしは少々酷い打撲だよ」
「ちょっと、カナタ!」
私が口を開く前にソラが先に文句を言う。
「ソラもいたんだ……悪いけど今日はあんたとやる元気ないよ」
「私だって今のあなたとやる気は無いからご安心ください」
「それはそれはありがとう」
「どういたしまして」
この二人……なんだかんだ言って仲は良いんだね。
それはともかく!
「カナタ、あなた達をやった奴のことで何か覚えてない?
「そうだね……あたし達をやった奴はあんたを狙っているみたいだよ」
「え?」
「あんたとサシでやりたいから、あんたを怒らせたいから、そんな理由であたし達を襲ったって言ってたよ」
「私……を……?」
私はゼロとカナタの二人の言葉からも心当たりは一人しかいなかった。
恐らく隣に立つハルカも同じ意見だと思う。
「ハルカ……ハンターズとしては乗っていないとか?」
「それって、民間人として乗ってるって事?」
「だってハンターズとして乗っていたなら私達が知らないなんてことあり得る?」
「……無いわね」
「でしょ」
「でも、もし私達が思う通りの人物だとして、なんであなたのことを知っているの? 今のあなたを知ってるわけ無いじゃない」
「軍の連中との事、そろそろ知れ渡っていてもおかしくないんじゃない? それにカナタやゼロに対してやったことを考えると……」
「昔のあいつに戻った……」
「そう。そして私が『蒼空無心流』の使い手となれば……」
「あいつの狙いは……」
「「最強の称号」」
そこまで話して私はハッとした。
「ソラ!」
「え? はい!」
カナタと何かを話していたソラを呼んだ。
「カエデとエアは?」
「え? 買い物のあと分かれてそれっきり……」
「次に狙われるとしたらあの二人じゃない?」
「あ……!!」
ソラは慌てて通信機を取り出して、呼び出そうとした。
でもそこでピタッと動きを止めた。
「どうしたの?」
「ナツキさん……あの二人通信機壊れて修理中だった」
「「「「…………」」」」
ソラの言葉にその場にいた全員が沈黙する。
「最悪だわ」
「通信機ってそんなに簡単に壊れる物じゃないのに」
「何だかなぁ」
「拙者が探しましょうか」
口々に言う。
その時、ハルカの通信機が鳴った。
「どうしたの?」
『フローラ室長、大変です。カエデ・シュペルターとエア・スターク両名がパークエリアにて何者かに襲われ戦闘に入った模様。シティポリスにより避難完了し、現在エリア全体を封鎖しています』
「ありがとう、分かったわ……」
ハルカが通信を切ると私の方を見る。
「聞いての通りよ」
「どうしてこう最悪のケースばかり起きるんだろうね。先に行ってるわ」
「うん、お願い。私も人を集めてから向かうから」
「了解」
「ナツキ、あたしも行く」
「拙者もついていきます」
「あなた達は今は直すことだけを考えなさい」
「「でも……!!」」
何か反論しようとしたけど二人とも言葉を詰まらせた。
たぶん右目が金色に変わってるのかも。
そんなことはどうでも良いこと。
「ハルカ、後お願いね」
「ナツキも気を付けてね」
ハルカの言葉に送られて私は外へと出る。
そしてホバーバイクに跨ると、タンデムシートにソラが跨った。
「ソラ! あなた……」
「二人が怪我を負ったときに誰が直すんでしょうか?」
ニコリというソラに私は軽く溜め息をついた。
「……来たとき以上に飛ばすから飛ばされないようにしっかりとしがみついてるんだよ」
「はい!」
私はここに来たとき以上に飛ばしてパークエリアに向かった。



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<あとがき>
絵夢「物語は佳境を迎えてます」
恵理「ほわ〜、もう何がなんだか分からない状態〜〜」
絵夢「がんばれよ〜」
恵理「あい」

絵夢「そんなわけで次回の主人公はエアです」
恵理「良くわかんないけど皆さん次回をお楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」