NOVEL



ここは夢園荘

インターバル IV 『妹』

あの日。
俺達の目の前で冬佳が通り魔に刺された。
「冬佳ぁ!!」
俺は急いで駆けつけ、道路に横たわり動かなくなった冬佳を抱きかかえる。
冬佳の胸から血が止まることなく流れ、道路が赤く染まっていた。
「冬佳!」
俺の呼びかけに冬佳はうっすらと目を開け小さな声で「お兄ちゃん」と言うと、再び目を閉じ力が抜けた。
「冬佳……おい、冬佳……目を開けてくれ……」
その声はもう届いていない。
「……冬佳」
冬佳の身体をぎゅっと抱きしめると、彼女を刺した男が逃げた方向を睨み付けた。
「逃がすか……」
俺は『風の石』の力を持って風の龍をイメージした。
それと同時に俺の身体を中心に風が渦巻く。
それは次第に強くなり竜巻となり、龍が現れた。
そこまでイメージし具現した後、俺の意識は消えた。
意識を取り戻したとき、タカから俺が作り出した龍は確実に犯人を捕らえ八つ裂きにしようとした。
しかし突然龍は消え、男はなんとか一命を取り留め警察に連行されたらしい。
だけど、そんな話はどうでも良い。
俺は冬佳の様子が知りたかった。
言葉を濁す3人。
そして冬佳の眠る場所に行くと……冬佳はもう……。
その瞬間俺の中で何かが消え、感情を……笑顔を失った。

「あれから9年か……」
冬佳の眠る墓前で俺はつぶやいた。
「時間が掛かったけど、やっと決心が付いたよ。ここまで来るのに9年もの時間が必要だったなんて、ホントにどうしようもない奴だよな、俺って……」
思わず苦笑いを浮かべる。
「冬佳……良いよなこれで……」
俺は右手薬指にはまる『風の指輪』を見る。
「こいつも取れるようなったらまたあそこに封印した方が良いのかも知れないな……」
本来コバルトブルーの輝きを持っていたが、今は輝きを失い濁った色をしている指輪の『風の石』につぶやいた。
「さてと、そろそろ行くな。今度来るときは一緒に来るよ」
俺は立ち上がると懐の携帯が鳴り始めた。
取り出し液晶を見ると『タカ』の二文字……。
俺は何用かと電話に出る。
「何か用か?」
『今どこにいる? もし良かったらコーヒー飲みに来ないか? おごるぞ』
「だから何の用だ?」
『出来たら来る途中で買い物をしてきて欲しいんだ』
「買い物? お前なぁ……」
『今、ちょっと店が忙しくて手が離せないんだよ。だから頼む』
「仕方ねぇな……今いる場所が場所だけにちょっと時間が掛かるけど構わないか?」
『今いる場所って……そうか、今日は……』
「変な気を使わなくても良いぞ。もう話はすんだから。で何を買っていって欲しいんだ?」
『ああ……えっとな………』
俺はタカからの注文リストを手帳に書き記すと電話を切った。
「しかし……随分あるな……忘れずに業者に頼んでおけって感じだな」
思わず苦笑。 俺は気を取り直して携帯と手帳を懐にしまうと、冬佳の方に振り向く。
「じゃ、またな」
一言そう言うと、霊園を後にした。


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<あとがき>
絵夢「『恵理の章2』を期待していた人ごめんなさい。前回予告通り、インターバルです」
恵理「ところで夏樹さんは冬佳さんに何を話してたんですか?」
絵夢「後のお楽しみに」
恵理「……やっぱり教えてくれないんだ」
絵夢「当然でしょ。だってここでネタ張らしなんて出来るわけないよ」
恵理「それもそうか……」
絵夢「そう言うわけで」
恵理「次回も」
絵夢&恵理「お楽しみに〜」

恵理「ところで次回も私が主役で良いの?」
絵夢「と言うかお前が主役じゃないと話が進まないって」