NOVEL



ここは夢園荘

プロローグ

夢園荘(ゆめぞのそう)、通称『ドリームガーデン』
これが俺『早瀬夏樹』が管理人をしているこのアパートの名前。
外観は築20年ほどの鉄筋4階建てのごく普通のアパートだが、各部屋ロフト付きワンルームでちょっとしゃれた感じだ。
アパートと言うよりもワンルームマンションと言った方が正解かも知れない。
この夢園荘はもともと親が余った土地の活用利用とか言うことではじめたことだったのだが、当時大学を卒業しても就職浪人でフリーターに決定していた俺に半ば無理矢理に管理人を押しつけた。
そしてその直後、両親は親父の転勤の関係で日本を離れ今は悠々と外国暮らしをしている。
今考えれば、すべてを見越した上でこの夢園荘を作り、俺に託したのかもと……あの人生行き当たりばったりのような感じの親にそこまで深い考えはないか……。
それに悪いことばかりじゃない。なんと言ってもここの住人は女の子ばかり。
女性専門のアパートでは無いはずなんだけど、なぜか来る子はみんな女の子。
ここを紹介してくれている不動産屋に問題があるみたいだけど、こちらとしても男が住むよりかは遙かに良いと思っているので苦情も言わない。
とは言え確かに最初の頃気になってその辺のことを調べてみた。すると親が一枚どころか10枚ほど噛んでいるらしかった。本当に面白がっているとしか思えないな……。

「おはようございま〜〜っす」
入り口のあたりで打ち水をしていると、後から元気な挨拶がする。
「ん、おはよ。里亜ちゃんと……美亜ちゃん?」
振り向きながら挨拶を返すと、同じ顔、同じ髪型をした双子の姉妹が同じセーラー服を着てそこにいた。
明るく笑顔を見せる妹の城田里亜と朝から疲れ気味の姉の城田美亜。
二人とも13歳のときからここにいるため、現在この夢園荘の古株でもある。
「夏樹さん……おはようございます」
「ああ、おはよう……美亜ちゃん、大丈夫?」
「はい、なんとか……」
「里亜ちゃん、無理させてない?」
「そんなことないですよ〜。だってだっていつだって私は美亜ちゃんを大切に可愛がっているんだから」
両手を頬に顔を赤らめながら当てて身体をくねらせながら言う。
「里亜ちゃ〜〜ん」
美亜は困ったように彼女の名前を呼ぶ。少々顔が赤くなっているようだ。
「なに?」
「夏樹さんの前なんだからもう少し……ねぇ」
「大丈夫だって、ねぇ夏樹さん」
「何が『ねぇ』だかは分からないけど、時間大丈夫なのか?」
「え?」
その言葉に二人同時に腕時計を見る。
「やっば〜〜〜い。ごめんねぇ夏樹さん、続きは夜ね。それじゃ行ってきま〜〜っす!」
「り、里亜ちゃん待って、それでは行って来ます」
「ハイ、行ってらっしゃい」
慌ただしく駆けていく二人を溜め息混じりで見送った。

「おっはよ〜〜っ!」
ぱっか〜〜〜ん!!!
元気な声が聞こえたと同時にと共に後頭部に走る激痛。
「…………う……」
「な、夏樹さん、大丈夫ですか?」
頭を抱えうずくまる俺の頭を撫でながら優しい声がかかる。
「ありゃ、痛かった?」
殴った凶器であろう鞄と俺の頭を見比べながら言う。
「そ……」
「そ?」
「空〜〜〜っ! もう少しみなもちゃんにみたいにお淑やかに出来ないのか!!」
「夏樹さんが怒ったぁ」
「当たり前だ!」
なでなで……。
「もう、毎朝のスキンシップじゃない。私と夏樹さんの仲なんだし」
なでなで……。
「他人が聞いたら誤解するようなことを言うな」
なでなで……。
「あの夜のことは遊びだったのね。およよよ」
なでなで……。
「あのなぁ」
なでなで……。
「…………」
なでなで……。
「…………」
なでなで……。
「あのみなもさん?」
なでなで……。
「少しこぶになってますね」
「…………」
「姉さん、夏樹さんが可哀想ですよ」
「…………」
「どうしたんですか? 二人とも」
黙ってみなもの顔を見る俺達に首を傾げる。
「相変わらずマイペースだなぁと」
「うんうん」
互いに頷きあう俺と空。
「でもこのぐらいでないと姉さんと対等に渡り合うことは出来ませんから」
さりげなくひどいことを言っているような気がするのは俺だけだろうか?
「う……もしかしてみなもちゃんひどいこと言ってる?」
気のせいではなかったらしい。
この姉妹は陽ノ下空と陽ノ下みなもと言いこちらも美亜達同様仲が良い。
向こうが双子に対して、こちらは二つ違いの姉妹だ。
空は高校2年で城田姉妹と同い年だが、違う高校に通っているようだ。
そして妹のみなもはこの近くの中学校に通っている。
「ところでこの間頼んだデザイン画、出来てる?」
空が俺の右腕に胸を押しつけるようしてに自分の腕を絡ませくっつくと上目遣いで聞いてくる。
恐らくこれでさっきの事を水に流せとでも言うのだろう。
「ん、ああ出来てるよ」
「ホントに? ありがとう夏樹さん」
「姉さん、早くしないと遅刻しますよ」
みなもが腕時計を見ながら言う。
自分のペースは何があっても崩さないようだ。
「え、マジ?」
「はい」
「じゃ、学校から帰ってきてから取りに行くから。行こ、みなも」
「はい。それでは行って来ます、夏樹さん」
「はい、いってらっしゃい」
二人は美亜達と比べて学校が近いのか早足ながらも歩いて出ていった。

腕時計を見る……『8:20』
「そろそろかな……」
玄関口でホースを片づけながらつぶやくと、階段の方から駆け下りてくる女の子の姿が目に入った。
樋山恵理、それが彼女の名前。
春頃から夏休み前までの4ヶ月間、別の学校の体験学習(?)に行っていてその間そこの女子寮に入っていたが、期間を終え無事戻ってきた出戻り娘。
この4ヶ月間に直ると思ったんだが、朝が弱いのは変わらずに毎朝寝坊する。
しかし、これでも城田姉妹同様13歳の時からここにいる古株の一人には違いない。
「う〜〜〜遅刻する〜〜〜!!」
「また2度寝したのか」
「う〜〜夏樹さん、起こしていって言ったのにぃ」
足を止め恨めしそうに言う。
「7:30頃に言われた通り、部屋の中にまで入ってちゃんと起こしたぞ」
「う〜〜〜あれやっぱり夢じゃなかったのぉ」
「サンドイッチ喰うか?」
俺はコンビニの袋を差し出す。
「え、良いの?」
突然明るい表情になる。
「余り物だけどな」
「ラッキ〜〜〜! ツナサンドか……明日はカツサンドが良いなぁ」
「ば〜か、今日だけだ」
「う……冗談なのに……」
「のんびりしてて良いのか、遅刻するぞ」
「え、やばい。サンドイッチありがとう! じゃ、行って来ま〜〜〜す!!」
陸上で長距離をやってるだけあって足が速く、もう姿が見えない。
……ホント、慌ただしい奴。

この5人が現在この夢園荘の住人。
そして……。
「おはようございます」
そこには和服を着た女性がいた。
女性と言ってもまだ二十歳そこそこでまだまだ女の子と言っても通用するだろう。
彼女の名前は水瀬葉月。
裏の神社で巫女さんをしている。と言うか生まれた家が神社だったためにそのまま巫女さんをやっているという感じだろう。
彼女は3姉妹の長女で下の二人、卯月と睦月も学校に行きながら手伝っているようだ。
「おはようございます。今日もいい天気ですね」
「そうですね。ホント、朝からにぎやかで良いですね」
「にぎやかと言うかやかましいというか……」
「ふふふ」
「お兄ちゃん、おはよう」
「まなみちゃん、おはよう」
この子は桜まなみと言って、葉月の従妹にあたる娘だ。
いわゆる家庭の事情で水瀬家にいるらしい。
「今日は学校は?」
「んっと、そうりつきねんびでお休みなの。だから今日は葉月お姉ちゃんのお手伝いをするの」
「そうか、偉いんだね」
頭を撫でてやると、くすぐったそうな表情で照れた。
「それでは早瀬さん、これで」
軽く一礼する。
「はい」
「ばいばい、お兄ちゃん」
その横で手を振るまなみちゃん。
「ああ、またね」
俺の言葉に葉月は再び軽く頭を下げると二人は手を繋いで神社の方に歩いていった。

「さぁてと、新しい入居者が来る前に入り口を片づけないとな」
恵理のお陰で片づけの途中になっていたホースを用具入れにしまい、管理人室でもある自分の部屋に戻ろうしたとき、ふと入り口の前に女の子が二人立っていることに気づいた。
俺はその二人に近づく。
1人は活発そうな感じで、うちの娘達で言ったら空か恵理と同じような印象だ。
そして、もう1人は緊張しているのか周りをきょろきょろと見回している。
「どうしました?」
俺は努めて優しく聞いた。
「あの、ここが夢園荘ですか?」
活発そうな娘が口を開く。
「あなた達が今日、入居する榊由恵さんと葛城唯菜さんですね」
「「はい」」
「不動産屋さんからちゃんと聞いてます。ようこそ、夢園荘へ!」


……そしてここから新しい物語が始まる。


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<あとがき>
絵夢「ついに始まりました『ここは夢園荘』です。これから彼女たちがどんな物語を描いていくかお楽しみ」
恵理「マスター、私の出番ってあれだけ? それにあれだと私、毎日寝坊してるみたいじゃない」
絵夢「毎日してるだろ」
恵理「う……た、たまにちゃんと起きるもん」
絵夢「月に一度あるかないかだな」
恵理「そ………それは…………………(^^;; それでは皆さん、次回をお楽しみに〜」
絵夢「……強引に締めて逃げたか……」