NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第十九話 <四神将 I>


ノルンを飛び出した夏樹は花束を持った青年にぶつかりそうになりながらも咄嗟に身をかわすと、振り返ることなくまっすぐ駅と商店街の間にある信号機を目指し走っていった。
「今の……夏樹……さん?」
夏樹がかわしていった青年は唖然とした顔でその後ろ姿を見送った。
「一体、何が……」
彼がそうつぶやいていると目の前のノルンから高志、澪、亜沙美の3人も飛び出してきた。
「「「「うわっ!!」」」」
衝突しそうになる4人。
だがそこは四神将と呼ばれた3人。
咄嗟に身をかわし避け、そして青年も身をかわして衝突を防いだ。
「高志さん達まで一体どうしたんですか?」
青年は3人に声をかけた。
その声に3人は彼の方を向いた。
「誰かと思ったら聖か」
「聖君、久しぶり〜ってこんなことしてる場合じゃないんだ」
「夏樹はどっちに行った?」
「え、駅の方ですが……」
「「「ありがと!」」」
3人は聖に礼を言うと夏樹の後を追った。
聖はその後ろ姿に不吉な予感を感じ、後を追おうと思い走り始めようとした時、再びノルンの扉が開き恵理と卯月が出てきた。
「坂本さん?」
恵理はたぶんそんな名前だったはずと言った口調で聖の名前を呼んだ。
例え親友の空と付き合っていようと彼女にとってはその程度の認識しか無いようだ。
「恵理さんに卯月さん、こんにちは。一体何があったんですか?」
呼ばれた本人はそのことに全く気づかなったようだ。
「突然夏樹さんが怖い顔で立ち上がったと思ったら外に……」
「その後に続いて高志さん達も出て行ってしまったんです」
恵理と卯月はさっきの事を簡単に説明した。
「それで夏樹さんは……みんなは何処に?」
「駅の方に行きました。これから僕も行くところです」
「私達も一緒に行きます」
「でもお店の方が……」
「だいじょ〜ぶ、冬佳がいるから」
「そうだね」
卯月はそう答えながらドアに掛かっている看板を『営業中』から『準備中』へ変えた。
その時、聖は『冬佳ちゃんって確かまだ3歳か4歳ぐらいだったような……』と心の中で思っていた。
「ま、まぁそう言うことなら一緒に行きましょう」
「うん」
「よろしくお願いします」
対照的な返事をする二人であった。


「しん、歩!!」
夏樹は道路で頭から血を流し倒れている歩と自分も頭から血を流しながら歩を抱きかかえるしんに駆け寄った。
「夏樹さん……私は……」
しんは夏樹の顔を見ることが出来ず意識のない歩を見て悔しそうにつぶやいた。
「歩を轢き、二人をさらった連中の自動車が走っていったのは向こうだな」
夏樹はそちらの方を睨みながら言う。
しんはその言葉に驚き顔を上げる。
「そうですが……どうして……」
「夏樹〜〜〜!!」
夏樹はその声に振り向くと信号向こうに高志達の姿を確認した。
「タカ、しん達を頼む。俺は奴らを追う!」
そう言うと夏樹を中心に風の渦……小さな竜巻と言える物が発生した。
そして次の瞬間、彼の身体は宙に舞い自動車が走っていったと思われる方向へと飛んでいった。
その光景にしんは呆然と見送り、高志達は少しだけ呆れた。
「ま〜ったく、人がいないからってずいぶんと派手なことを……」
そう言いながら高志は駆け足で二人の側に寄ると、冷静に歩の様子を見る。
「こいつは酷いな。亜沙美、救急車を呼んでくれるか」
「うん、分かった」
亜沙美は近くの公衆電話ボックスまで行き119番を押した。
「あたしが応急処置をするから」
澪はそう言うとしんから歩をそっと預かると歩の服の袖を破ると止血のために頭に巻き始めた。
彼女のある意味荒いやり方に少し驚くしんに高志は何があったのか聞く。
しんは事の顛末を簡潔に話し始めた。
そして話がすむと高志は澪の方を見た。
「分かってる。車を持ってくるよ」
応急処置をしながら話を聞いていた澪は立ち上がると駐車場の方へを走っていった。
それと入れ替わるように亜沙美が戻ってきた。
「どうやら睦月ちゃんとまなみちゃんがさらわれたらしい。俺と澪は先行してる夏樹を追うから二人を頼めるか」
「二人が!? 私も行くよ!」
「と言ってもな……」
高志の言葉尻を取るように彼らを呼ぶ声が信号向こうから聞こえた。
そこには信号が変わるのを待つ3人の姿……。
「聖はともかく、卯月や恵理ちゃんまで……」
そうつぶやいている間に信号は変わり、3人は高志達の元に駆け寄った。
「高志さん、一体何が……!?」
聖が真っ先に口を開き、何があったのか聞こうとしたとき、後ろの方で応急処置はされているものの血まみれのしんや歩の姿に驚きを隠せなかった。
「君たちはさっきの……誰がやったんだ!!」
そしてその直後、卯月が気を失った。
「卯月〜〜〜!!」
恵理がその場に崩れる卯月を抱きかかえ、名前を呼んだが反応は無い。
「恵理ちゃん……卯月はこう言うの駄目なんだよ」
「そ、そうなんですか?」
恵理は何とも言えない顔で卯月の顔を見つめた。
よく見ると少し引きつっているようだ。
彼らの間に妙な空気が流れ始めたとき、誰かが気の抜けるような声で彼らを呼んだ。
「鷹代くん達じゃないか、どうかしたのかい?」
高志達が振り向くと反対車線に茶色いセダンに乗ったスーツ姿の渋め中年男性は窓を開けてこちら見ていた。
「「豪徳寺さん!」」
高志と亜沙美は声を揃えて彼の名前を呼んだ。
豪徳寺は刑事で彼ら四神将がまだ現役だったころからの知り合いだ。
「いいところに来た!」
高志は彼の元に駆け寄ると簡単に事情を説明した。
「仲間が轢かれた上、女の子二人が拉致られたんです」
「なに!!」
「あそこで倒れてるのがそうです。救急車を呼んだんで彼らは大丈夫なんですが……」
「すぐに緊急配備する。で、逃げた車の特徴は?」
「何でも窓を全部黒のフィルムを張った黒いワゴン車だそうです」
高志はさっきしんから聞いた自動車の特徴を言うと豪徳寺は短く分かったと答え、窓を閉め発車しようとした。
すると彼は何を思い出したように再び窓を開けた。
「お前ら無茶するなよ……と言っても絶対にやりそうだから、一言だけ言っておく……怪我だけには気を付けろよ」
豪徳寺はそう言い残すと赤色灯を廻しながら走っていった。
それとすれ違うように駐車場から澪が自動車に乗って戻ってきた。
澪は窓を開けるとすれ違った自動車の事を聞いた。
「今の……豪徳寺さん?」
「ああ、成り行きで警察にも協力してもらうことになったんだ」
「なるほどね。んじゃ行こうか」
「ああ」
高志は助手席側に回ると亜沙美を呼んだ。
「うん、今行く。あ、でもどうやって夏樹の後を追うの?」
「「……あ」」
亜沙美のもっとも質問に二人は顔を見合わせる。
「夏樹さんの居場所なら私、分かるけど……」
亜沙美の後ろで卯月を介抱している恵理が小さいけどはっきりと聞こえる声で言った。
「「「え?」」」
「今、一号線から中央町の交差点を右折したところで事故渋滞に巻き込まれている黒い自動車の上空にいるよ……あ、2台ほど前に動いた」
恵理の口調はまるでその場で見ているような口調だった。
そんな彼女に絶句する3人。
すると高志は恵理の左手薬指で青く光る指輪を見つけた。
「恵理ちゃん、その左手のって『風の石』?」
聞かれた恵理は左手の指輪を見て「うん、そうですよ」と答えた。
「どういう事?」
「俺に聞くな」
「でも夏樹はさっき……」
3人がこそこそと話し始める。
夏樹はさっき風に乗って飛んでいった。
その光景を目撃した彼らはそれは『風の石』の力に依る物だと思っていたのだ。
夏樹はいつの間にかは分からないが、恵理から『風の石』を借りていた、そう自分たちを納得させた。
だが実際は……。
「あいつは自分の力で風を起こしたんだよな……」
「そうなるよね……やっぱり……」
「あの青風の時と言いなんだかなぁ……」
夏樹の人間離れ具合に呆れ始めた3人だった。
「あの……そろそろ追わないと間に合わないと思うんですけど……」
そこに恵理が進言した。
「あ、そうだね。恵理ちゃん、道案内お願い。それから亜沙美は残って卯月と子供達を頼む」
「そう言うことなら仕方ないよね……」
亜沙美は渋々と引き受ける。
その時、ようやく救急車のサイレンの音が聞こえた。
「それから聖」
「はい」
「二人に付いて病院まで行ってくれ」
「分かりました」
高志は聖の返事を聞くと、恵理を後部座席にそして自分は助手席に乗りこんだ。
そして二人が乗ったことを確認すると澪は車を発進させた。
「恵理ちゃん、中央町の右折したんだね」
運転しながら澪が恵理に尋ねる。
「うん、もうすぐ渋滞を抜けそうだよ」
「そのまま行くとインターチェンジか……高速に乗られたらめんどうね」
「確かに……そのまま星川の方に行ってくれれば良いんだが……。澪、258号の方から回った方が良いかも知れないな」
「オッケ」
澪は高志の言うとおりに一号線から258号線から回る道を選び車を走らせた。

救急車が到着し、救急隊員が歩を担架に乗せ車内に運び、それに続くようにしんと付き添いの聖が乗り込んだ。
「聖君、頼むわね」
まだ気を失ったままの卯月を背負った亜沙美が言う。
「はい、任せておいてください」
聖は力強くそう答えると、亜沙美は笑顔を送った。
そして救急車は後部ドアを閉め病院へとサイレンを鳴らして走り出した。
亜沙美は救急車が三叉路を曲がるところまで見送るとノルンへと歩き始めた。
「しかし……あれだけの騒ぎで野次馬が誰もいないってある意味すごいことかも……」
率直な感想をつぶやく。
「それに……」
言葉を続けようとしたとき、亜沙美達は懐中電灯で照らされた。
「?」
亜沙美は眩しいと思いながら目を細め懐中電灯を持っている人物を見ると、それは駅前の交番にいるお巡りだった。
「あの、どうかなさいましたか?」
優しい口調で亜沙美達に聞く。
「……どうかなった後なんだけど」
「?」
「今、そこで事故があって、彼女それを見て気を失ったからノルンまで運んでるところ」
「え、本当ですか!?」
本気で驚くお巡りに亜沙美は少しあきれ顔だ。
「そう言うときにあなたは交番にもいないで何処に行ってたんですか?」
「巡回をしてまして……」
「はぁ……」
亜沙美が再び呆れた声を出したとき現場に警察車両が到着し、中から鑑識と思わしき数人の人達が降りてきて、そのまま現場検証を始めた。
「豪徳寺さんが連絡してくれたんだ」
目の前にいるお巡りに聞こえないように口の中だけでつぶやくと、亜沙美は彼を見た。
「それじゃ私達は行くわね」
「あ、はい!」
亜沙美は溜め息を軽くつきながらノルンへと歩いていった。

ノルンにつくとドアの看板が『準備中』になってることに気づき苦笑を漏らす。
そして店内に入ると、奥の住居へのドアを開け中に入っていった。
すると居間で遊んでいた3人が寄ってきた。
「お母さん、どうかしたの?」
亜沙美に背負われた卯月を見て和沙が心配そうに聞く。
「ちょっと色々とあってね」
亜沙美はどう言って良いのか分からず曖昧な返事をする。
そして卯月をその場にゆっくりとおろし横にした。
「お母さん……」
和沙が卯月の顔をのぞき込む。
「私、ふとんをもってくるね。楓てつだって」
「うん」
冬佳はスクッと立ち上がると楓と一緒に2階へと上がっていった。
「ホント、しっかりした娘……」
冬佳の後ろ姿を見ながらそうつぶやいた。
「あ、そうだ。和沙ちゃん、電話借りるね」
「うん」
和沙は卯月を見たまま短く答える。
母親の事が心配で心配でたまらないのだろう。
亜沙美は電話のある居間の隅まで静かに受話器を取り、プッシュホンを押した。
かける場所は夫と子供のいる場所……早川家だった。
どうして二人が澪の家にいるかと言うと、たまたま家族で遊び行ったらそのまま亜沙美だけ澪に拉致られハッキングの手伝いをさせられたというわけだ。
問題は彼女が二人を今の今まで忘れていたことだろう。
それはさておき電話をすると、夫は澪の義理の両親と意気投合し飲み会に、子供も澪の子供達と遊んでいるとのこと。
まだしばらく遊んでいても大丈夫だという風に澪の義理の母親が伝えてくれた。
丁寧に挨拶すると受話器を置き深い溜め息をつく。
「あのご両親って本当に澪と血が繋がってないのかな……ま、いいか」
そうつぶやくと、後ろ−卯月が横になる方を見た。
すると冬佳と楓が起こさないように布団を掛けていた。
「いつの間に持ってきたんだろう?」
2階から布団を運んできたのは分かるが、大人ですら運ぶのに苦労する掛け布団を4歳になる女の子二人で運んできたことに疑問を持った。
「冬佳ちゃん……」
「?」
「どうやって布団を……」
亜沙美はそこで言葉を切った。
恐らく上から落としたんだろう。音が聞こえなかったのは電話をしてたからと勝手に解釈することにした。
なんとなく聞いてはいけない……そんな気がしたから……。



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<あとがき>
絵夢「さてと、これからどうなるんでしょう」
恵理「亜沙美さんは蚊帳の外〜」
絵夢「まぁ彼女に澪並の行動力があれば何とかなったかもしれないんだけどね」
恵理「あはは(^^;」

恵理「前回、しん君と歩君を助けたのって聖さんだったの?」
絵夢「その通りです。なんで彼がここにいたのか、そしてなぜ花束を持っていたのか、それはいつか明らかに……」
恵理「その言い回しだとならないね」
絵夢「よく分かってるね」
恵理「マスターとは付き合い長いから」
絵夢「ふふふ(^^)」

絵夢「では次回<四神将 II>をお楽しみに〜」
恵理「さらわれた二人が無事だと良いんだけどね」
絵夢「ふふふふふふ」
恵理「不気味だよ、それ(-_-;」
絵夢「では」
絵夢&恵理「まったね〜」