NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

エピローグ <歩 II>


ボクが退院してから三ヶ月が過ぎた。
結局リハビリやら何やらで退院まで約一ヶ月かかった。
しかも退院したとはいえ、週に三日ほどリハビリの為に通院している。
それでも医者に言わせると脊髄損傷からこんな短期間で松葉杖を使ってでも歩けるようになったのは奇跡に近いと言われた。
僕自身その辺のことは良く分からないんだけど、松葉杖一本で歩けるようになった今でも右足にしびれが残っている事を考えると相当酷い怪我だったんだと再認識する。

そして今日、学校が休み土曜日は病院にリハビリに行く日。
やることはマッサージと筋肉への刺激が中心。
歩けるようになっているので歩行訓練は必要無いんだよね。

ボクは今、出かける準備をしているまなみちゃんを待って夢園荘の庭に置いてあるベンチに座っている。
このベンチはボクが入院する前には無かったんだけど、話を聞くと夏樹さんが日曜大工で作ったらしい。
夏樹さん曰く、暇だったからと言っていた。
でも理由はどうあれ、こうして青空を見上げながらのんびり出来るのは良いかも。

「まなみちゃんを待ってるの?」
空を遮るように由恵さんが突然のぞき込んできた。
「わ、由恵さん」
「わって酷いなぁ」
由恵さんは腰に手を当て笑いながら文句を言う。
「す、すみません」
「それは別に良いけど、まなみちゃんを待ってるの?」
「はい。すこし準備に時間がかかっているみたいで」
「そうなんだ」
由恵さんはまなみちゃんの部屋を見上げて、少し考えると悪戯っ子のような笑みをうかべてボクを見る。
「早く来るといいよね〜」
「あ……は、はい……」
「なに口どもってるのかなぁ……心配しなくても今日は明日のお見合いのための準備で忙しいから大丈夫よ」
「お見合いするんですか?」
「うん、この間両親が見合い写真持ってきてね……実際周りのみんなは結婚するわ彼氏作ってるわでちょっと焦ってるところあるから、渡りに船なんだけどね」
「そうするとそのまま結婚するんですか?」
そう言うと由恵さんは笑い出した。
「まさか。でもいい人だったらそれもありかな?」
「はは……」
「あっと、もうこんな時間か。それじゃ美容院の時間があるから行くね」
由恵さんはそう言い残すと門から出て行った。

「由恵さんは相変わらずだね」
背後から聞こえる声の方を向くと、みなもさんがベンチの背に手を置いて立っていた。
「あ、みなもさん……いつのまに……」
「おはよう」
「え……っとおはようございます」
「うん」
みなもさんはニコリと笑う。
「あ、そうだ」
そう言いながら、ハンドバックからチラシを出して見せてくれた。
ボクはそれを見て固まる。
「………………あの、これは?」
「ん、ただのおもちゃだよ。今それを売っているお店で働いてるの」
「そ、そうなんですか……」
「まなみちゃんに使ってみたらどうかなってね。まぁ気が向いたらいつでも言ってね」
みなもさんはそう言うと再びチラシをハンドバックに仕舞った。
「はぁ……」
「私、そろそろ仕事に行かないといけないからまたね」
ボクの曖昧な返事にもみなもさんはニコリと微笑み門から出て行った。
その後ろ姿をボクは乾いた笑顔で見送っていたに違いない。
たしかに『おもちゃ』とは言われてるけどあれは……。

「歩君、こんなところで何を固まってるんだい?」
その声に振り向くと丁度しんさんが入り口から出てきた所だった。
「いえ、ちょっと……」
ボクの曖昧な返事にしんさんは小首をかしげるだけだった。
「それにしてもしんさん、寒くないですか?」
「ん……ああ、髪の毛の話か?」
「はい」
しんさんは今年に入ってすぐに長い髪をバッサリ切ってしまった。
理由はよく分からないけど、たぶん睦月さんが関わっていると容易に想像できる。
「少し寒いが、そのうち馴れるだろう」
「そうですか。それで今日はこれからどこかに出かけるんですか?」
「睦月さんの誕生日が近くて、今日は土曜日でもあることだから祝おうということになってね」
「はぁ、そうなんですか。つまり二人っきりで祝おうと言うことですね」
「二人っきりって……まぁ仕方ないことではあるがな」
「……ふ〜〜〜ん仕方なくなんだ」
しんさんの背後から睦月さんの怖い声が聞こえた。
そしてしんさんがおそるおそる振り向くと、その動きが固まった。
ボクからはしんさんが影になって睦月さんの姿は見えないが、何となく想像が付く。
「いや、今のは言葉のあやという物であって。別に私は仕方なくとは思っていないわけで……」
「いいよ。私、一人で行くから。歩君、またね〜〜」
しんさんは慌てて言い訳するが、聞く耳持たない様子でボクに挨拶をするとそのままスタスタと歩いていってしまった。
「む、睦月さ〜〜ん」
しんさんはなんとも情けない姿で睦月さんの後を追っていった。
なんか……変われば変わる物だな。

「「「歩お兄ちゃん、こんにちわ」」」
「楓ちゃん、冬佳ちゃん、和沙ちゃん、こんにちわ」
楓ちゃんと冬佳ちゃんと和沙ちゃんが頭をちょこんと下げて挨拶してきたので、ボクも頭を下げて挨拶を返す。
「こんにちわ。ひなたぼっこ?」
3人に少し遅れて恵理さんが声をかける。
「こんにちわ。いえ、これからリハビリに行くところで、今まなみちゃんを待っているです」
「なるほどね」
恵理さんは少し考えると悪戯っ子のような笑みを浮かべるた。
「ところで歩君。あれは実践してるの?」
「あれって……ああ……一応毎日……」
「そうなんだ。えらいえらい」
恵理さんはそう言いながらボクの頭を撫でる。
「「「えらいえらい」」」
そして恵理さんと一緒に三人も撫でる。
この娘達、意味分かって……無いよね(汗
「とにかく女の子は好きな人から『可愛い』って言われれば言われるほど、どんどん可愛くなるんだからね」
「はい」
「うん、良い返事。がんばってね〜」
「「「がんばれ〜」」」
そして恵理さん達はどこかに出かけていった。

それから数分して、入り口からまなみちゃんが出てきた。
まなみちゃんは薄ピンク色でひらひらがたくさん付いたワンピースを着ていた。
「待った?」
ボクの側にやってきてやや細めの声で言う。
だけどボクはまなみちゃんの姿に目を奪われ言葉を無くしていた。
「どうしたの?」
そんなボクにまなみちゃんは心配そうに声をかける。
「いや、あの……まなみちゃんがすごく可愛いから……」
「か、可愛いって……あの……えっと……あう〜〜〜〜……」
まなみちゃんはボクの『可愛い』と言う言葉に反応して顔を真っ赤にして俯く。
「その服も可愛いから余計まなみちゃんが可愛く見えてたのかも」
「あの……この服は空さんからもらって……えっと……えっと……だから……えっと……」
両手を左右に広げて上下にブンブンと振り回してなんとかしようとしている。
「だから……私は可愛くなんて……」
「まなみちゃんはすごく可愛いよ」
その言葉にまなみちゃんは顔をこれ以上ないぐらいに顔を真っ赤にした。
「あう〜〜〜〜〜あっちゃんの意地悪〜〜〜〜〜」
「意地悪って酷いな、正直に言ってるだけなのに」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「唸ってないで手を貸して。早く行かないと先生に怒られちゃうから」
「……うん」
まなみちゃんは差し出した左手を握るとボクが立ち上がるのを手伝ってくれた。
そしてボクは右腕で松葉杖を持って身体を支える。
すると自然にまなみちゃんが左腕に自分の腕を絡め、ボクが歩きやすいようにサポートする。
「ありがとう」
「うん」
まなみちゃんはまだ赤い顔がボクから見えないように俯き加減で答える。
「まなみちゃん、ちょっと顔上げて」
「?」
ボクの言葉にまなみちゃんはゆっくりと顔を上げる。
『ちゅっ』
ボクはその頬にキスする。
すると、まなみちゃんは顔をこれ以上ないぐらいに真っ赤にして俯いてしまった。
「あっちゃんの意地悪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「だってまなみちゃんがあまりにも可愛いからついね」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「早くいこ」
ボクはそう言って足を踏み出す。
まなみちゃんは顔を赤くして唸りながらもちゃんとサポートしてくれる。
そして僕たちは病院へとむけ夢園荘を後にした。

ボクはまなみちゃんの今の様子にすごく嬉しい気持ちになる。
ちょっと前まで無関心……とは言い過ぎかも知れないけど、そんな感じだったまなみちゃんがここまで感情を表に出してくれるから。
確かにあの事件はボクの身体に大きな後遺症を残した。
でもそれ以上の物をこうして手にすることが出来たから良かったと思う。
これからどうなっていくか分からない。
でもまなみちゃんがこうしてずっと側にいてくれれば、それだけでなんでも乗りこえていけると思う。



Fin


<あとがき>
絵夢「『ここは夢園荘AfterStory −Fragment Age−』はこれで終わりです」
恵理「これで終わりなの?」
絵夢「このラストを皆さんがどのように受け取るかは分からないけど、睦月としん、まなみと歩がくっつき、葉月に子供が出来たと言うことで決着がついてるからね」
恵理「なんか物足りないなぁって気もするけど……」
絵夢「まぁそれはそれということで(^^;;」

恵理「それで次のシリーズは?」
絵夢「『ここは夢園荘NextGeneration −Wonderful Street−』だよ」
恵理「あ、もう決まってるんだ」
絵夢「うむ」
恵理「よ〜し、つぎこそ活躍するぞ〜」
絵夢「がんばれ」

絵夢「では次のシリーズも」
恵理「お楽しみに〜〜〜」
絵夢&恵理「まったね〜〜〜」