NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第2話


今から8年前。
もうすぐ冬も近く、だんだんと寒くなっていくある日。
その日は朝から雨が降っていた。
そのせいで普段よりも寒く感じる。
墓地の端の方にある大きな木の下にある『樋山家』と書かれた墓。
その前に10歳の恵理が傘も差さずに、雨に濡れたまま座っていた。
その場で何かするわけでもなく、ただジッと彼女は両親が眠る墓を見ていた。
彼女はいつからここにいるのだろう……。
着ている服はたっぷりと水分を含み、冷たい雨で彼女の唇は紫に色に変色している。
それでも彼女はそこから動こうとしない。
その時、彼女を被うように傘が差し出された。
恵理は自分に降りかかるはずの雨が当たらなくなったことに気づき、その傘の持ち主を見る。
するとそこにはスーツを着た男性と品の良さそうな女性が恵理を心配そうに見ていた。
「こんな雨の中どうしたんだい?」
「こんなに濡れてしまって……」
女性が自分の鞄の中からハンカチを取り出すと、恵理の前に座り濡れた顔を拭く。
「………」
だが恵理は反応を示すことなく、再び墓を見つめる。
「いつまでもこんな所にいたら風邪を引くよ。だから……」
「いいの……」
感情のない、か細く意識してなければ聞き逃してしまいそうな声。
「「え?」」
二人は声をそろえて聞き返す。
「いいの……だから私の事は放っておいて……」
「何があったかは知らないけど、いつまでも濡れたままでこんな所にいたら……」
「そうしたら、お父さんとお母さんの所にいけるからいいの……」
少女の口から出た言葉に二人は驚きを隠せなかった。
こんな小さな女の子が自らの死を願っていることに……。
「恵理ちゃ〜〜ん!!」
その時、墓地の入り口の方から若い女性の声が聞こえた。
そして女性はまっすぐこちらの方へと来た。
「やっぱりここにいたのね。傘持ってきたから早く帰りましょ」
「……」
恵理は差し出された傘を受け取ると、黙って立ち上がり傘を差して歩き始めた。
「ご迷惑おかけしました」
女性はそんな恵理の様子に軽くため息をつくと、彼女を心配した二人に頭を下げた。
「あの娘はいったい……」
「あの娘、施設を抜け出してはここに来るんです」
「施設?」
「ええ、いわゆる孤児院でして……」
「それで……」
「はい……それでは私はこれ行きます。本当にご迷惑おかけしました」
女性は再び頭を下げると、先に入り口のところで待っている恵理に追いつき、そして一緒に出ていく。
「あの娘……」
「ああ……似ていたな」
その場に取り残される形となった二人は短く言葉を交わした。

数日後、再びスーツの男性は墓地を訪れた。
そしてあの場所に行くと、やはり恵理は墓の前で座っていた。
「また来ていたんだね」
彼は優しく恵理に声をかける。
だが恵理は全く反応を示さない。
そして沈黙……。
恵理はジッと墓を見つめ、そして男性はそのやや斜め後ろで座り墓に手を合わせた。
「……お父さんとお母さんの知り合い?」
彼女は振り返らずに、以前会ったときと同じ調子で言う。
「いや、君に用があってね」
「?」
「君さえ良ければ、うちで引き取りたいと思ってね」
「………」
「こちらは養子でなくても里親としてでも構わない」
「………」
「君のことは施設で聞いたよ。随分と酷い扱いを受けてきたそうだね」
その言葉に恵理はビクッと反応した。
かすかな反応であったが、初めて見せた反応でもあった。
「同情なんていらない……」
そして、初めて感情の入った声。
「そんなんじゃないよ」
「だったら何故……」
恵理はパッと振り向くと男性の目をジッと見る。
「私には何もない!
お父さんとお母さんのもの全部、奴らに取られた
そして取る物がなくなったら捨てられた!」
「………」
「私には何もない。
私を引き取ってもおじさんにメリットなんて無いよ」
「メリットとかそんなんじゃないんだよ。
ただ純粋に君を引き取りたい、だたそれだけなんだ。
君が今まで受けてきた扱いを見れば、大人の私の言うことなど信じられないかも知れない。
だがこの気持ちは本当なんだよ」
男性は恵理の感情を受け止め、それでもなお優しい口調で言う。
「………」
「………」
恵理はジッと男性の目を見る。
男性もまた、その視線をそらさないようにしていた。
「おじさんの言ってること……だいたいは本当なんだね」
「?」
「だけど隠してることもあるでしょ。それを聞かせて」
「!?」
「私には人の考えてること、分かるから……」
「なるほど……君には隠し事は出来ないと言うことか……」
「あんまり驚かないね」
「ありのままを受け入れる主義でね」
「……変わってるね」
「よく言われるよ」
「………それで」
「ああ、そうだな。
実は私達に息子がいるんだが、最愛の者を失ってすべてを拒絶してしまっているんだ」
「それを私にどうにかして欲しいと……」
「いや、彼の側で様子を見ていて欲しい。それだけだ」
「………それだけ?」
「ああ」
「……………嘘は言ってないんだね」
恵理は信じられないと言った表情をした。
もっと無理難題を言われると思っていたのに、たったそれだけとは拍子抜けだった。
「でもそちらは二の次で良いんだがな」
「ずいぶんと冷たいんですね」
「そう言わないでくれ。
私達もどうにかしようとしたが、うまくいかなくて……。
だが幸いにも彼には良い友人に恵まれているようなんだ。
だから申し訳ないが、息子の事は彼らに任せてあるんだ」
男性は少し自嘲気味に言う。
恵理は視線を落として少し考えると再び顔を上げた。
「その話、いいですよ」
「いいのかい?」
「はい。名前は何と言うんですか?」
「息子の名前は『夏樹』という」
「夏樹さん……」
彼女はその名を心に刻み込んだ。

その後、恵理は夏樹の両親−早瀬夫妻に世話になる条件を出した。
○養子にならず『樋山』の姓をそのまま使う。(つまり里親ということ)
○かかった養育費は働けるようになったとき、一生かかっても返済する。
以上に2点だった。
これは人を信じていなかった当時の彼女らしい条件だったかも知れない……。
それから恵理は早瀬夫妻の元でごく普通の少女として育っていく事になる。
しかしこの時夏樹はすでにアパートで1人暮らしをしていて、家には全く帰ってこなかったため、二人は面識の無いまま時が流れていくだけであった。
恵理が小学6年の夏頃、夏樹は父親から手紙で言われるままに夢園荘の管理人となる。
それから月日が流れ約束の日が来た。



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<あとがき>
恵理「だからどうしてこういうところで切るの」
絵夢「引きの妙技と言って欲しいな」
恵理「そんなこと言って、本当はネタにつまってるんでしょ」
絵夢「ご心配なく、ちゃ〜〜とラストまで決まってるよん」
恵理「ならいいけど……(あやしいな……)」
絵夢「♪」

恵理「でも私って本当に可哀想な娘なんだね」
絵夢「君じゃないって」
恵理「いいじゃない、同じ名前同じ顔なんだから」
絵夢「あのねぇ」

絵夢「と言うわけで次回はこの後の話を少しやって、再び時間を元に戻します」
恵理「そうなの?」
絵夢「このままだと話が進まない」
恵理「そっか、では次回も」
絵夢「お楽しみに〜」