NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第13話


半信半疑ながらも彼らが楓の生前の事を知っていることから、夏樹達は一応和解することにした。
『風の石』の引き渡しは、関係者への謝罪と事情の説明の後と言うことになった。
エアは少し心配そうな顔をしていたが、青風は何故かすっきりした表情をしている。
この時夏樹は「この二人はやっぱり良い奴なのかもしれない」と思った。
そして結界を解くと、そこには高志達関係者全員が揃っていた。
おそらく夏樹達の姿が目の前から消えてからすぐにここに駆けつけたのだろう。
高志達が青風とエアの姿を見たとき、一触即発のムードが流れた。
だがその雰囲気をすべて台無しにするような底抜けに明るい冬佳の挨拶とその姿に、彼女を知る高志、澪、亜沙美そして葉月がパニックに陥った。
死んだ人間が生前と変わらぬ姿で現れれば当然と言えば当然かも知れない……。
それから夏樹から、今に至るまでの事情の説明と青風達の謝罪でなんとかその場は収まった。
その際、青風に対して攻撃しようとした澪を全員で取り押さえ再び簀巻きにして身動き取れないようにし、その様子に青風とエアが絶句したと言うのは別の話である。
その後、ここで立ち話も何だからと言う葉月の提案で水瀬家で事情を話すことになった。

二十畳ほどある広い部屋で青風とエアを中心に彼らの話を聞くために座った。
なお澪は簀巻きの上、猿ぐつわを噛まされ部屋の隅でう〜う〜うなっている。
その様子を見る青風は一番近くにいた夏樹に話しかけた。
「夏樹君……」
「なんですか?」
「彼女は……いいのか?」
「………いつものことなんで。それにこの方がスムーズに話が進みます」
「そ、そうなのか……」
(彼らの仲間意識と言うのがいまいち分からないな)
エアも同じ事を考えているのか、澪を見てかすかに顔が引きつっているように見える
「ところで、さっき自分たちのことを『『煌玉』を創造し、この地にもたらした者』と言っていたけどそれは一体?」
夏樹はこじれる前に話を進めるために青風に聞いた。
彼にしても澪の事が気になっているのは確かのようだ。
「その通りだ」
「楓さんから聞いた話から考えても千年以上も前のことになるけど」
楓もコクコクと頷いている。
「私達はもともとこの世界の者ではない。世界から世界を渡り旅する次元旅行者。いわば高次元の存在なんだ」
「高次元?」
「一番わかりやすい言葉で言うと……『神』かな」
青風のその言葉にその場にいる者達から罵声に近いヤジが飛んだ。
さらに澪のうめき声もさらに大きくなったことも付け加えておこう。
そんな声に対しても青風とエアは予想通りの反応だなと言った感じで黙っていた。
そのヤジを止めたのは夏樹や恵理、冬佳、そして楓であった。
「信じてもらえないのは当然だろうな。いきなり『神』と言って信じる者がいたらそちらの方が怖いし」
「あなた達がそうであることの証明ができますか?」
夏樹が聞く。
青風は「そうだな」とつぶやくと、立ち上がり手を前にかざした。
「『ジルフェ』」
そのかけ声と共に一振りの剣が彼の手に現れた。
それにはその場にいる者達全員が驚いた。
「無から有を作る力……これで証明にならないか?
あいにくと世界に影響を与えないために力のほとんどを封じているために今はこのぐらいしか出来ない。
あと勘違いしているようだから言っておくが私達の『力』は『煌玉』のそれでは無く、私達が敢えて封じることなく残した私達自身の『力』だ」
そう言いながら剣が本物であることを確かめさせるために夏樹に渡す。
夏樹は青風が軽々と持っていたのでそれほど重くないだろうと思っていたが、実際持ってみると両手にズシリとした重みを感じた。
と言うよりもとても片手で振り回せる重さでは無い。
「こんなに……重い物を……」
「ああ、すまない」
青風は夏樹から剣を返してもらう。
無論片手で軽々と持つ。
「どうして?」
「鍛え方……かな?」
青風は曖昧に答えると、手の中で光へと変換し消した。
「これだけで信じて欲しいというのは虫が良すぎるかも知れないが、先ほども言ったとおりこれ以上の力を解放することは出来ない」
その言葉に全員が黙る。
青風とエアは彼らがどういう答えを出すか待っていた。
ここで信じてもらわなければ話を続けることは出来ないからだ。
そしてその沈黙を最初に破ったのは楓であった。
「私はお二人のお話を信じます。私のことを誰よりもご存じでなんですから……。
間違いなくお二人は青嵐様と空様です」
「そうだな……楓さんがそう言うなら間違いないのかも知れないな」
楓の意見に夏樹が同意する。
するとそれに続くように冬佳と恵理も同意する。
この四人が一応でも青風の話を信じたということで、他の面々も困惑しながらも信じるという方向になっていった。
考えようによっては非常に人が良い連中なのかも知れない。
そんな彼らに青風とエアは「ありがとう」と感謝の意を表し一応の和解となった。
約一名、部屋の隅でう〜う〜うなっている者は「騙されるな!」と言ってそうだが……。

「それで話は戻すけど、『石』とあなた達の関係を教えていただけませんか?」
夏樹が脱線した話を元に戻した。
「ああ、そうだな……『煌玉』−君たちが『石』と呼ぶそれは、今から千五百年ほど前に自然災害や飢えなどで苦しんでいた人々のために、時の支配者を補佐する神官の一族に与えた物なんだ」
「門外不出と言うことでね」
青風の言葉をエアが補足する。
「支配者なんかに渡したら何をするか分からないけど、普通の人たちに渡してもどうすることも出来ないと言うことから神官に渡したの。
当時、神官には不可思議な力があると信じられていたから好都合だったのよ」
それから二人が歴史の裏側の事情とも言えるような事を、まるで昨日のことのように語りだした。
聞いている夏樹達は授業で習った事とは違う新事実に困惑を隠せないようだ。
「だけど長い年月の間に、『煌玉』が権力争いの道具になってしまった」
「私達が与えた本来の意味を勝手な解釈で捉えてね」
「だから、私達は名を『青嵐』『空』と変え、カムイの里へと降りた。カムイというのはその一族の名前だ」
「本当はそのまま行くつもりだったんだけど、文献に私達の名前が残ってから、さすがにね……」
「『煌玉』を渡したときに『ご尊名は?』と聞かれて素直に答えたのが失敗だった」
青風は腕を組み、当時の自らのミスを恥じているようだ。
エアは「あはは」とごまかし笑い。
そんな二人の様子を見ていると、どうしても普通の人間にしか見えずやはり困惑する夏樹達だった。
しかし作り話にしてはあまりにも真実味があり、また先ほど見せた力などから考えても信じざる得ないと言ったところだろう。
「それで名前を変えて……あ、そう言えば文献に『煌玉』をもたらした神としてお二人の名前があったような……」
楓が何かを思いだしたように言った。
「『守護者』になった時に渡した本を真面目に読んでなかったな」
「仕方ないよ。字が読めなかった楓に私が字を教えながら読んで聞かせていたんだから」
「そのせつは大変お世話になりました」
「いえいえこちらこそ」
互いに深々と頭を下げるエアと楓。
放っておくとこのまま思い出話に花が咲きそうだ。
「それで青風さん、話の続き」
このままでは危ないと感じた夏樹が青風に言う。
「ん……ああ」
夏樹に言われて曖昧な返事を返す。
どうやら二人のやりとりを静観するつもりでいたらしい。
「名を変え里へ降りた私達は、怪しまれないように里の者すべてに私達は初めからここにいたと暗示を掛けたんだ。カムイの里は隠れ里ゆえ外部の人間を受け入れることは無いからな」
「いわゆる洗脳?」
「そう思ってもらった方が分かり易いかも知れないな。
そして、それから数年掛け私達は『風の守護者』とその補佐となったわけだ。
実際、それからが大変だったがな」
「『煌玉』に最初から組み込んであったプログラムの強化と同時に、里の者すべてに『煌玉』のあるべき姿とそれを守護する者達の意識の改革などなど……」
「そのために少々強引なこともしたが……」
この言葉に夏樹達の頭の中に『洗脳』と言う二文字の言葉が浮かんだが、誰も口に出すことは無かった。
「それからは大分安定してきたこともあって私達は『煌玉』を次代へと引き継いだんだ」
「そして選ばれた『守護者』達……火の焔、地の金剛、水の睡蓮、そして風の楓」
楓は名前を呼ばれ、ハッと顔を上げる。
エアは優しい表情で彼女を見つめた。
「あの時、あなたは候補者でも何でない普通の娘だった。あなたが『守護者』になった時反対した者がたくさんいたのも事実。そのためにあなたには辛い思いをさせてしまった。
そのことであなたが私達のことを恨んでも構わない」
楓は当時の事を思い出しているのか辛そうな表情をしている。
「でもね私達はあなたが『風の守護者』で良かったと思ってるの。それはここにいる彼らが証明していると思うの」
「空……様」
「あなたなんでしょ。彼らを導き会わせたのは」
「ご存じ……だったんですか……」
楓は幼かった夏樹を導き岩山に封印されていた『煌玉』を解放させた者。
しかしその事実を知っている者は楓と夏樹の二人だけのはず。
そのことをエアが知っている事に楓は驚いた。
「ううん」
だがエアは首を横に振り、否定した。
「なんとなくかな? 風は人の思いを乗せ運ぶのが役目だから。世界を、時を、次元を越えて運ぶものだから……」
一瞬エアは遠い目をする。
そして横で聞いていた青風も同じように……。
まるで遠い過去を思い出しているかのように……。
「さて話を戻そう」
青風がそこでエアと楓の話を打ち切る。
さすがにこの時ばかりは全員から「何故うち切る」と言った目で見られたが、青風は敢えてその視線を無視した。
このとき青風は、彼らが自分が思っている以上にいい人過ぎるなと思ったのは秘密である。
「その後、引継も終わりある程度安定した頃、私達は自分たちの役目がひとまず終わったと思い、旅に出ることにしたわけだ。しかし……それが悲劇の始まりだった……」



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<あとがき>
恵理「和解するの早いね」
絵夢「夏樹が信じれば必然的にね」
恵理「ところで澪さんはいつまであのままにしておくの?」
絵夢「話し終わるまでかな?」
恵理「……大切にされてないんだね」
絵夢「まぁ、騒ぎ出すと話が進まなくなるからな」
恵理「はは……(^^;」

絵夢「それではまた次回をお楽しみに〜」
恵理「まったね〜」