NOVEL



ここは夢園荘 サイドストーリー

楽しいこと


松の内も過ぎ、成人式も過ぎ、どうにかこうにか落ち着いた1月の終わり。
私−早川澪は水瀬神社長女、葉月と水瀬家の居間でお茶を飲んでいた。

何故ここにいるかというと、お義父さんとお義母さんに「子供のことは私に任せてあなたはお友達の所にでも行ってきなさい」と追い出されたから。
別に仲が悪いからじゃなく、私がいると遠慮して思う存分に孫を可愛がれないからみたい。
遠慮なんかする必要ないのに……ホント、ジジババ馬鹿なんだから……。

「もう一杯いかがですか?」
「ありがと」
空になった湯飲みを葉月に差し出す。
彼女は手慣れた手つきでお茶をいれ、私に差し出してくれた。
「でもごめんね。せっかくの休みの日に押し掛けちゃって」
「気になさらないでください。私も暇でしたのでちょうど良かったですから」
「そう?」
「ええ」
彼女はにっこりと微笑んだ。
心の傷が完全に癒えたとは言えないだろうけど、乗りこえることが出来たみたいで私は安心していた。
「ところで、なんであんたがここにいるわけ?」
葉月と向かい合わせに座る私の横で何故かテーブルに顔を突っ伏している物体に声を掛ける。
はっきり言って無視はしていたがうっとうしくてしょうがない。
「傷心の友人に対して冷たいね」
謎の物体−川原亜沙美は顔を上げて言う。
「はいはい。あたしは何であんたがここにいるかと言うことを聞いてるんだけどね」
「なんか部屋に居づらくて……」
「で?」
「澪が来てるって聞いたからここに来たの」
どうして私がここにいることを……もしかしてさっき掛かってきた電話ってこいつだったのか……(-_-;
「……で、あたしに慰めて欲しいわけ?」
「そう言う訳じゃないんだけどね……」
再びテーブルに突っ伏す。
「あ〜〜うっとぉしい!!」
「葉月ちゃん、澪が怖いよぉ」
「はははは……(^^;;」
「そこで葉月に逃げても解決にならんでしょうが!」

亜沙美がこうしている理由はただ一つ。
こいつのかつての想い人、早瀬夏樹と彼が管理人をしている夢園荘の住人、樋山恵理がクリスマス前から同棲を始めたこと。
まったくいい加減諦めたらいいのに……勝ち目なんか絶対にないんだから。

「私はいいんだよ。あの時ドロップアウトしたんだし……。それに夏樹が幸せになってくれればさ……」
「あんた……」
「でもさ……」
亜沙美はそこで言葉をつまらせる。
すでに身を引く覚悟(と言うのも変か(^^;)してたんだね。
そう言うことなら泣きたいんだったら胸ぐらいかしてあげても良いかな?

「なんで私だけ良い人がいないわけ!!」

突然テーブルを叩いて力説する。
あたしと葉月は思わずずっこけてしまった。
もしかしてこいつにシリアスを求めたあたしが馬鹿だったの?(-_-;
「だってそうでしょ。澪はとっとと結婚しちゃうし、こっちに戻ってきたらタカも卯月ちゃんという可愛い彼女と同棲してた。それに今度は夏樹と恵理ちゃんだよ。それに比べて私は……どこかに落ちてないかなぁ、ねぇ澪ぉ」
「あたしに泣きつくなぁぁ!」
”ドカッ!”
くだらないことで泣きついてきた亜沙美の頭は殴って沈黙させる。
「ごめん、葉月。騒がしくて……」
「わ、私は良いんですが……亜沙美さんは大丈夫ですか?」
「葉月ちゃ〜〜ん、心配してくれるんだね。ありがとう。お礼にお姉さんがいいことしてあげようか」
「あ、あの……」
”ゲシッ!”
早くも復活し、葉月に迫る亜沙美の後頭部に蹴りを入れる。
「い、痛い(;_;)」
涙目になってる亜沙美。
どうやらこれが一番効いたらしい。
「澪は手加減を知らないんだから……」
「あんたに手加減してもしょうがないでしょ」
「もう……そう言うわけで今日は面白い話を持ってきたの」
「もしかして今までのが全部そのための振り?」
「そうとも言いますね」
あたしは思わず頭を抱えてしまった。
こいつのとのつきあいは長いがこんなに扱いにくい奴だったんなんて(-_-;
「その話というのは賭けをしようと思ってね」
「「賭け?」」
「そう!」
自信満々に答える亜沙美。
あんたのその自信はどこから来るの?
「夏樹の所とタカの所、どっちが先に結婚するかという賭け。で賭ける物は結婚式の2次会の飲み代」
「へぇ面白そうだね」
こいつにしては良いアイデアだ。
「でしょ。と言うわけでやろ」
そう言いながら懐から紙とペンを取り出す。
しっかりやるつもりで準備してきたんだ……。
「しかし2次会の飲み代とは考えたね。お金賭けると思ってたのに」
「それだと参加者に未成年が多いからまずいでしょ」
「未成年?」
「そう」
「それって関係者全員ってこと」
「そう。やっぱり賭け事は大人数でやった方が面白いって」
本人達の意志に関係なしで勝手に決めつけてる……。
さっき感心したのは取り消し。
「あの、私も……ですか?」
あたし達の話を黙って聞いていた葉月がおずおずと聞いてくる。
「もちろん」
「でも良いんでしょうか? そんなことを賭けの対象にして……」
「大丈夫だって、祝い事なんだから」
だからあんたのその自信はどこから来るの?
「はあ……」
葉月は困惑気味。そりゃそうだよね(-_-;
「と言うわけで、私はタカの方に賭けるね」
「どうして?」
あたしが聞くと突然黙ってしまった。
「……理由は……聞かないで……」
何となく分かるから聞かない。
「それじゃ、あたしは夏樹だね」
「これで1−1と、葉月は?」
「やっぱり私もやるんですか?」
「うんうん」
今のこいつは葉月を笑顔で脅迫してるとしか思えない。
「それでは、妹の幸せを願うという気持ちから卯月の方に……」
「葉月はこっちと……」
亜沙美は嬉しそうに書き込んでいく。
「ただいま〜〜」
あたし達が盛り上がっているところに三女の睦月が帰ってきた。
「睦月ちょうど良かった。あんたはどっちにする?」
「はい?」
睦月は困惑の色を浮かべている。そりゃ当然だ。
「亜沙美、帰ってきたばかりの人にいきなりそう言う話の振り方をする?」
「それもそうか。んっとね……」
その後、亜沙美の話を聞いて睦月はそれはもう嬉しそうに賭けにのってきた。
彼女が賭けたのはもちろんタカ卯月組。姉妹だもんね。
でもこれで1−3になっちゃったよ(^^;

あたし達は簡単に別れの挨拶を交わすと夢園荘に向かった。
そして夏樹達がいないことを確認して早速2階の一番手前の部屋、201号室の呼び鈴を鳴らす。
中から返事が聞こえ、城田姉妹の双子の妹(あたしには区別が付かないけど)の里亜ちゃんが顔を出した。
部屋の中では双子の姉の美亜ちゃんが料理を作っていた。
それは普通の光景だったんだけど、美亜ちゃんは何故か裸でエプロンだけと言う姿だった。
彼女はあたし達と目が合うと顔を真っ赤にして洗面室に駆け込んで、10分ぐらいしてスエットの上下を着て出てきた。
あたし達は言葉を失ったまま、里亜ちゃんは何故かいたずらがばれた子供のように笑い、美亜ちゃんはあたし達と目を合わそうとしなかった。
ホントに何してたんだろ(^^;
その後、お互いに落ち着いたところで賭けの話を持ちかけると、里亜ちゃんはすぐに乗り気になり、美亜ちゃんもそれにつられるように二人とも同じ夏樹恵理組に賭けた。
理由はつきあいの長さかららしい。
これで3−3の五分。

あたし達は二人に別れを告げ、隣の隣203号室の呼び鈴を鳴らす。
すると陽ノ下姉妹の妹、みなもちゃんが顔を出す。
ここの住人って姉妹だと一方の部屋にかたまる習性でもあるのかな?
中では姉の空ちゃんが机の上に置かれている真っ白な紙をただぼ〜〜っと眺めていた。
どうしたのと訪ねると、夏樹と恵理ちゃんがくっついたことで自分が夏樹のことが好きだったと言うことに気づいたかららしい。
ここにも同棲によって影響を受けた娘がいたとは……。
とりあえず先ほどと同じように賭けの説明をすると、みなもちゃんは真っ先に夏樹恵理組に賭けた。理由は嬉しそうに二人が好きだからと言った。
そのあとぼ〜っとしている空ちゃんに聞いたらタカ卯月組に賭けた。
理由を聞くと、結婚するまでチャンスはあるから……と言葉を濁していた。
するとそれを聞いたみなもちゃんは空ちゃんを説教し始めた。
相思相愛の二人の邪魔をする人は最低だとか何とか……。
空ちゃんってすっごく立場低いみたい(^^;
これで4−4、五分は変わらず。

そして3階のあがったあたし達は301の呼び鈴を鳴らそうとした。
すると亜沙美がそこは恵理ちゃんの物置だから誰もいないよと教えてくれた。
部屋が余ってるとは言え、こういうことして良いの?
疑問に思っている私に304は3階住人の物置と教えてくれた。
夢園荘って一体(^^;

仕方なく(?)302号室の呼び鈴を鳴らすが反応無し。
あれ?と思っているあたし達にちょうど今帰ってきた303号室の榊由恵ちゃんが、302号室の葛城唯菜ちゃんは夕方にならないと帰ってこないと教えてくれた。
それならとあたし達は由恵ちゃんのところに押し掛けて賭けの事を伝える。
すると即答でタカ卯月組に賭けた。理由を聞くと、複雑な事情があると答えてくれた。
良くは分からないけど恵理ちゃんで苦労しているみたい。
これで4−5……後一人(^^;

唯菜ちゃんが帰ってくるまで由恵ちゃんと話していると部屋の呼び鈴が鳴り、唯菜ちゃんが何か荷物を持って由恵ちゃんの部屋に訪ねてきた。
中身は実家からのお土産らしい。
あたし達もご相伴にあづかってお土産を頂きながら賭けのことを言うと、唯菜ちゃんは夏樹恵理組に賭けた。理由は恵理ちゃんには早く幸せになって貰いたいとのこと。
この二人の間で何かあったみたい。そのことをつっこんでみたら内緒と交わされてしまった。
これで5−5、見事に半分だね(^^)

そしてあたし達は満足のいく結果を手に帰ろうとしたとき……。
「二人とも嬉しそうな顔してどうしたんだ?」
夏樹と恵理ちゃんに遭遇してしまった(^^;;
「いえ、ちょっといろいろと……」
亜沙美がしどろもどろに答える。こいつじゃ誤魔化すのはむりかな……。
「亜沙美と宝くじが当たったときに話をしてたの」
「宝くじ? 年末ジャンボの当選なんてとっくに正月の新聞に出てたろ」
「いや〜〜これが、見るのはおろか買ったことすら忘れてて(^^;;」
「間抜け〜〜」
「ほっといてよ。であした当たってるかどうか見に行こうって話になってね」
「それで盛り上がっていたというわけね。ま、夢見るのは自由だからな」
「そうそう」
あたしが夏樹と話している間、何故か恵理ちゃんはじっとあたしの横で黙っている亜沙美の顔をじっと見ていた。
亜沙美は何故かじっと固まったままだ。
「「?」」
あたしと夏樹は互いにどうしたんだろうと言う顔をしている。
「あたし達をネタに賭けをしているかと思ったけど……違うみたいですね」
恵理ちゃんはにこやかな笑顔で突然そう告げた。
あたしは内心ビクッとした。
でも、どうして?なんで?とそんな心を表に出さないようににこやかに「そんなわけ無いでしょ」と答えた。
「そうですよね」
恵理ちゃんはニコニコとしている。
亜沙美はと言うと蛇に睨まれた蛙のごとく脂汗を浮かべながら動けないでいた。
あの汗で傷薬が出来るかも知れないな……。
「夏樹さん、早く部屋に戻って夕飯にしましょ」
「そうだな。二人ともまたな」
「ええ、また」
夏樹と恵理ちゃんは仲良く101号室に入っていた。

「はぁぁぁぁ………」

亜沙美は大げさとも思える大きなため息をついた。
「あんたどうしたの?」
さっきの不振な態度に疑問を持ったあたしは聞いてみた。
「たぶん恵理ちゃんに心を読まれた」
「はぁ?」
あたしは耳を疑った。
恵理ちゃんは超能力者とでも言うの?
「信じてないでしょ、馬鹿にしてるでしょ。でもね、あの娘ってそう言う力があるの」
今にも泣きつきそうな様子だ。
亜沙美がここまで取り乱すと言うことは本当なの?
「じゃあさっきあたし達がやってたこと当てたのってそれ?」
「たぶん……だから私、恵理ちゃんを見たときにやばいなぁって思ってたの。たぶんもうばれてるよ」
亜沙美が凄く心配してる。
これはさっきの話は信じないとダメかも(-_-;
「でも夏樹がこのぐらいで怒るわけないし……」
「だといいけどね……みんなの口止めしても本人達にばれたら意味無いよね」
どんどん弱気になっていくな……。
「もう、とにかくばれてないって信じるの。良い? 絶対に確認するような真似しちゃダメだからね」
「うん……」
「賭けの紙はあたしが預かるね」
「そうしてくれると助かる」
亜沙美は懐から紙を取り出すとあたしに手渡した。
「じゃ、あたしはもう行くからね」
「うん、気をつけてね」
あたし達は簡単に別れの挨拶を交わすと、亜沙美は部屋へ、そして私は家路を急いだ。

帰りの電車の中。
「夏樹にばれてもどうってこと無いのにな……」
あたしは亜沙美がどうしてあそこまで動揺しているのか不思議に思った。
そしてしばらくそのことについて考えると……。
「タカか……そういえばタカって賭け事のネタにされるのが嫌いだったんだよね」
忘れていた自分に対して思わず苦笑いを浮かべた。
学生時代に賭けの対象にされ、そのことを知ったタカが切れたことを思い出した。
あの時は3人がかりでどうにか押さえ込んだだけど、そのことを気にしていたらしい。
「夏樹だってそのことを知ってるわけだし大丈夫でしょう」
あたしは楽観的に物事の行方を見守ることにした。
それにばれたらばれたで、しばらく行くのを止めればいいだけだしね(^^)


Fin


<あとがき>
絵夢「澪メインの話です」
恵理「賭けの対象にするなんて酷い話だよね」
絵夢「まぁ仲が良い間柄だからこそ出来ると言うことでね」
恵理「そうかなぁ」
絵夢「そうそう」
恵理「う〜〜ん(^^;」
絵夢「であであそう言うわけで次回は……ネタが無いです(^^;」
恵理「まじ?」
絵夢「困ったことにマジ」
恵理「どうするの?」
絵夢「う〜〜ん……そういうわけで誰のこういう話が見たいというリクエスト募集します」
恵理「ついにそうきたか(^^;」
絵夢「全部全部書けるかどうかは分かりませんが、BBS等にカキコしてくれると嬉しいです」
恵理「と、マスターも言ってますので私からもよろしくお願いします」
絵夢「それでは」
恵理「次回も」
絵夢&恵理「お楽しみに〜〜」