NOVEL



ここは夢園荘 サイドストーリー

女の子達の内緒話


日曜日の昼下がり。
と言っても夏休み中だから曜日なんて関係ないんだけどね。

私−城田里亜は、双子の姉の美亜が学校の用事で出かけてしまったので、一人寂しく自分の部屋の片づけをしていた。
でもこの202号室は普段全然使ってないんだからその必要も無い気がするんだよね。
何故かというと私は隣の201号室で住む美亜ちゃんと同棲してるから。
だって愛する美亜ちゃんとはいつも一緒にいたいんだもん(^^)
そう言うわけで202号室は一応私の部屋で私の服とか置いてあるんだけどほとんど足を踏み入れてないんだよね。
だから綺麗なはずなんだけど美亜ちゃんは「普段使って無いからって埃は溜まるんだから、私が出かけてる間に掃除ぐらいしなさい」って言うの。
それに反論しようとしようとしたら「駅前のケーキ屋さんに新作が入ったって聞いたんだけどなぁ」だって……私がケーキ好きなの知っててああいうこと言うんだよね、美亜ちゃんって意地悪……。
で、仕方なく掃除してるわけ。
う……確かに埃が溜まってる(^^;

掃除を初めて1時間……。
「ふう」
使ってなくても埃だけは溜まるんだなぁと今更ながらに思ってしまいました、はい(^^;
「問題はこの本の山だよねぇ」
部屋の片隅に山と積まれた雑誌。
1冊1冊は薄いものだけど、さすがに200冊近くあるとちょっと……。
「縛って廃品回収の時にでも出すのが一番かな。えっと紐は……」
雑誌類をまとめるための紐を探して、タンスや本棚や机を探してみた。
そして出てきたもの、それは……。
「……やっぱり『縄』しかないのね。分かっていたこととは言えせめてビニール紐ぐらいあっても良かったのに(;_;)」
縄を持った私は”仕方ないか”と言う感じで肩を落として、雑誌を20冊程度ずつでまとめ始めた。

”ぴんぽ〜〜ん”
呼び鈴の音。
「里亜いる?」
そして私が返事をする前にドアを開けて入って来たのは隣の陽ノ下空だった。
「あのねぇ、普通返事をする前に入ってくる?」
作業の手を止め軽く抗議をする。
たぶん馬の耳に念仏なんだろうけど……。
「気にしない気にしない」
ほらね……(-_-;
「そんな顔しないで、可愛い顔が台無しだよ」
「はいはい」
軽くため息を付きながら答えると、空の後ろから管理人の早瀬夏樹さんの恋人であり、私の天敵、樋山恵理がすまなそうにのぞき込んできた。
「里亜、ごめんねぇ」
「え、恵理もいたんだ」
「ん? いちゃダメ?」
「そう言う訳じゃないんだけどね……」
何故、私がこの娘を『天敵』と言うと、この娘は人の心が読めるというか考えてることが分かるの。
私と恵理とは中一の時からのつきあいで、別に彼女のこの力が気持ち悪いとかそう言う訳じゃないし、私も恵理のことは友達として好きだしね。
でも思ってることを先読みされて、そのことに対して先手を打たれることが悔しいというか、自分のペースが崩されるからと言うのが最大の理由だね。
「私、テレパシーなんて使えないもん」
「使ってるじゃない!」
「人の表情から考えてることが分かるだけだもん。何度言ったら分かってるくれるかなぁ……」
「……同じだよ」
「うるうる」
「だからってそんな潤んだ目で訴えないでよぉ」
「空ぁ、里亜ちゃんがいじめるよぉ」
「私にはあんたが里亜で遊んでいるようにしか見えない」
「あ、分かる?」
「分からないわけないでしょ」
「あはははは」
はぁ……何か疲れる……。

その後、玄関先で立ち話をするのもなんなので部屋に上がってもらい、リビングに置いてある滅多に使わないテーブルを囲むことにした。
私は埃っぽいここよりも201号室でと言ったんだけど、空が「美亜がいつ帰ってくるか分からないからね」と言って202号室で話すことになった。
美亜ちゃんに聞かれるとまずい話なのかな?
「で、用事って何?」
隣から麦茶とコップを持って来て、二人に注いで渡す。
「とりあえず、お土産ね」
恵理がいかにも観光地で買ってきましたと言ったお土産(たぶん中は饅頭だな)を差し出した。
「ありがとう……どこかに行ってたの?」
「うん。夏樹さんの仕事先の関連施設。凄く綺麗なホテルだったんだよ。温泉もあったし」
最後の『温泉』のところで頬を赤く染める恵理……温泉で何してたの?
「そうなんだ。お土産ありがとう。美亜ちゃんと一緒に頂くね」
ちなみに彼女たちが旅行に行ってる間、私達は実家に帰省していた。
半年に一度ぐらい顔を出さないと親に忘れ去られるからね。
その証拠に私達の部屋は完全に物置になってるから……。
確かにその部屋を使ったのは小学校6年までだけど、それにしたって物置にすることはないと思うんだよね。
年に2回はちゃんと帰ってるんだから。
「私もお返しといきたい所なんだけど、買ってきてないから……」
「良いよ、気にしなくて」
ニコリと微笑む恵理。
時々、この笑顔が可愛く思える時が……って私は美亜ちゃん一筋なんだから。
「ところで話ってお土産のこと? だったらここでなくても……」
「違う」
私に言葉を遮るように空が口を挟んだ。
しかも目がすわってる(^^;
「里亜、みなもにどんな本を見せたの?」
「はい?」
いきなりそんなこと言われても分かるわけがない。
「だから〜縄を使って人を縛りあげるような本を見せたでしょって言ってるの」
「縄? 覚えないけどなぁ……」
「とぼけないで!」
なんか凄い剣幕(^^;
「だから……」
その時、私は半月ほど前にみなもちゃんがなんかの用事で来たときに、部屋にあった雑誌を真剣に読んでいる姿を思い出した
「もしかしてあれか……」
「やっぱり心当たりあるじゃない」
「ちょっと待って」
私は、まとめて縛っていた雑誌の山の中から、該当しそうですぐに取り出せる本を数冊取り出した。
「たぶん、この中のどれかだと思うよ」
そう言って彼女たちに差し出した本。
それは裸で縄や拘束具で身体に自由を奪われ悶える女の子が表紙の本。
「「…………」」
やっぱり絶句してる。
恵理に至っては顔を真っ赤にしてるし。
「こ、これって……」
「まぁ美亜ちゃんを愛するために日々研究してますから」
「そう言う問題じゃなくて」
「何?」
「とりあえず、うちのみなもにこれ以上おかしな事は教えないでね」
「教える気なんてないよ。それに部屋に本を放置していたのは私のミスだけど、勝手に見たのはあの娘なんだからね」
「う……うん……」
「ところでなんでみなもちゃんにこの手の本を見せたのが私だって思ったの?」
「本人が言ってたから」
「なる……」
たしかにあの娘ならごく普通に言うかも。
「あれから怖いの。私が逃げないように手元にロープを置いて待ちかまえてるような気がして……」
「あはははは……災難だねぇ」
「あんたのせいでしょ」
「だから私のせいじゃないって」
私をじ〜〜っと睨む空。
そして私も負けじとじ〜〜っと空の目を見る。
数分後。
根負けしたように視線を落とす空……勝った。
「まぁ、いいわ……なるようになるような気がするし、ただあの娘の将来がちょっと心配」
「大丈夫じゃないの? みなもちゃんってしっかりしてるし」
「だと良いんだけどね」
そう言うと、空は軽く溜め息をついた。
「ところで……」
私はさっきから気になってることを言うことにした。
「恵理はいつまで固まってるの?」
「どうりで静かで話しやすかったと思った」
空……あなた、友達じゃないの?(^^;
「ほら恵理、いつまで固まってるの?」
「え……?」
恵理は空の声にすぐに我に返ると、あたりをきょろきょろした。
「え、あ……えっと……話し終わったの」
「もう終わったよ」
「あ……そう……」
そう言う彼女の顔はまだ少し赤い。
「まったく……私達の中で一番進んでる娘が一番初なんだから、やんなっちゃうよね」
「う〜〜別にいいじゃない」
恵理は空に抗議するが全然迫力がない。

しかし、彼女の意外な一面を見たような気がする。
まさかこの程度の本の表紙を見ただけで、顔を真っ赤にして固まってしまうなんて思いもよらなかった。
これからこれをネタに恵理にお返しできるかも……ってそんなこと私に出来るわけないか。

「ね、里亜だってそう思うでしょ」
「え?」
ちょっと考えに没頭してた私にいきなり話をふってきたのでちょっと驚いてしまった。
「もう聞いてなかったの?」
「あ、ごめん」
「だから恵理は初だって話し」
「もうそう何度も言わなくても……」
空のおもちゃになってる恵理がちょっと可哀想になってきたかな。
この辺で助け船でも出しておくか。
「いいんじゃないの。そう言う娘がいても」
「「え?」」
二人一緒に驚く。
「ちょっと……。空が驚くのは良いとして、なんで恵理まで驚くかな」
「あ、ごめん。でも里亜なら空と一緒にからかってくると思ってたから……」
「あのねぇ」
助け船出して、その返事がこれかい(-_-;
「ま、いいわ。恵理が進んでるって言ったら私だってあまり変わらないよ。
むしろ私の方が酷いかも知れないけど」
「どこが?
だって里亜の場合は美亜とだけでしょ。いわゆる百合」
「否定はしないけどね。でも私のロストバージンは小学校5年の時だよ」
私の軽い感じの告白に二人とも本当に固まった。
よっぽどショックが大きかったのかな?
「りりりりりりり」
「お出かけですか?」
「それはれれれ!
じゃなくて、里亜、その話し本当なの!?」
空はテーブルの上に乗る勢いで身を乗り出してきた。
そして恵理は再びフリーズ。
「本当だけど、何でそこまで身を乗り出してくるかな」
「だ、だって……ねぇ恵理……」
「え、あ……うん……いくら何でもそれは早すぎない?」
「今思えばそうかなぁと思うけど、若気の至りってことだよね」
「若気って……あんた……第一美亜は……」
「知ってるよ。当時私が話したから」
「あ、そう……」
このままこの話は放っておいても良いけど、今の二人の様子からその時の話をしないと納得しそうに無いなぁ。
一度言っちゃったんだから仕方ないか。
そして私は二人にその時のことを話した。
内容はこんな感じ。
小学校5年の時、私はクラスメイトの男の子といい仲だった。
それが付き合ってるというかどうかは幼い私達には分からなかったけど、美亜ちゃんは私達のことを祝福してくれたし、私達自身もお互いに意識していたのは確かだった。
でも夏休みも終わり2学期が始まったとき、親の仕事の都合で彼は遠くへ転校することになった。
この先は良くある話なんだけど、いわゆる思い出と言う奴。
これはテレビや漫画の影響かも知れないけど、性に対して好奇心の強い時期であったし、好き同士ならするのが当たり前と言うところもあった。
だから必然的に一つになり別れた。
それから私達はしばらく手紙や電話でやりとりをしたけど、いつの間にか逸れも途絶え、本当の意味で思い出になってしまった。
黙って私の話を聞いていた二人は少し感動気味になっている。
ちょっと引きそう……(^^;
「里亜にそんな過去があったなんて……」
「それでその男の子はどうなったの?」
「だからそれっきり。ホント、今どこで何をしているのやらって感じだよ」
「見直したよ、里亜。実は悲劇のヒロインだったんだね」
「それって表現変だよ、空」
「そうかな?」
「うん。
それにまだ続きがあってね。私と美亜がそう言う関係になったのその後なんだ」
二人とも頭の上に『?』が浮いてそうな顔してる。
なんか面白いな。
「話すと長くなるんだけど、やったはいいんだけど、むちゃくちゃ痛くてね。
で、昔から体の弱かった美亜ちゃんにこんな痛い思いはさせられないって思ったの。
でも他人に身体を触られたとき凄く気持ちが良かったもんだから、双子で感じるところは一緒だろうって美亜ちゃんと……」
「……やっちゃったのね」
「さっき感動して損した」
う……二人の視線が痛い。
「だって、美亜ちゃんを男なんかに渡したくないもん」
「あんたの愛情ゆがんでるよ」
「うんうん」
なんか形勢不利?
やばいと感じたとき、部屋のドアが開き、美亜ちゃんが入ってきた。
「里亜ちゃ〜ん、掃除終わった?
あれ、二人来てたんだ」
「ナイスタイミング、美亜ちゃん!」
「?」
「美亜、ロストバージンの相手が里亜で後悔してない?」
「え……一体何の話をしてたの?」
空の言葉によく分からないといった感じで私の顔を見る。
「いや〜、小学校の時の話をね」
「なるほど」
これだけで通じるとは、さすがは双子の姉だ。
「後悔してないって言ったら嘘になるかも知れないけど……」
「み、美亜ちゃ〜〜ん(;_;)」
「でも里亜ちゃんが私のことをどれだけ愛してくれているかを知ってるから、今凄く幸せなの」
そう言って、美亜ちゃんは私に最高の笑顔を向けてくれた。
私はそれだけで幸せなのぉ。
「これはごちそうさまって事かな?」
「そうみたいだね」
「私達は早々に引き上げようか」
「うん、用事も済んだし」
そう言いながら立ち上がる二人。
「え、もう行っちゃうの?」
「うん、だって二人の邪魔したくないから」
「だったら……」
私は山積みの本の中から1冊取り出して、恵理に手渡した。
「何、これ?」
「夜の生活に役立つよ」
「夜のって……」
その本がなんなのかすぐに悟ったらしく顔が真っ赤になった。
「い、い、い、いりません!!」
そう言うとそのまま出て行ってしまった。
本はしっかりと持ったまま……。
「置いていかなかったね」
「勉強するんじゃないの?」
「やっぱり?」
「だってあの娘、夏樹さんの為なら何でもやりそうだもん」
「空もあの娘のことよく分かってるね」
「一応ね」
「二人とも……(-_-;」

結局、あれから数日経つけど本は返ってこない。
元々捨てる本だったから良いんだけど、活用してるのかなぁと思うとちょっと表情が緩むかな?
「里亜ちゃん、何思い出し笑いしてるの?」
「ちょっとね、夕べの美亜ちゃんも可愛かったなぁって」
「なんでそう言うことを今言うかなぁ」
美亜ちゃんも夕べのことを思い出したのか顔を真っ赤にした。
「それに縄の跡、全然消えないよ」
「大丈夫、見るのは私だけだから」
「そう言う事じゃなくて」
「今からするの?」
「私が言ってるのはそう言う事じゃなくて……」
私は抗議する美亜ちゃんの唇を塞ぐとそのまま押し倒した。
これからお楽しみタイムのはじまり〜(^^)



Fin


<あとがき>
絵夢「久々に城田姉妹の話です」
恵理「里亜って早熟だったんだね」
絵夢「そうなんです。これは思いもよらなかったでしょ」
恵理「うん……まさか昔はちゃんと男の子付き合っていたなんて。生粋のレズじゃなかったんだ」
絵夢「おいおい(^^;」
恵理「だってそうでしょ」
絵夢「まぁね」
恵理「でもオチはいつも通りなんだね」
絵夢「この二人が絡んで終わるのはやっぱりお約束でしょ」
恵理「はぁ……そうですか……。ところで恵理はあの借りた本を……」
絵夢「ちゃんと活用してるんじゃないでしょうか。その辺は君の方が詳しいと思うけど」
恵理「同姓同名の別人だから分かるわけないじゃない」
絵夢「あ、そう」
恵理「そうです!」

絵夢「ではそう言うわけで」
恵理「また次回もよろしくです」
絵夢&恵理「まったねぇ〜」