NOVEL



ここは夢園荘NextGeneration
Wonderful Street

五月(二)


晴れた日曜日。
文字通り五月晴れとも言える気持ちの良い天気。
後数週間もしたら梅雨入りして、こんなに澄み渡る天気はしばらく見ることが出来なくなる。
ゆえに私はこの天気の元、夢園荘の広い庭に置かれたベンチに座って大学や市の図書館から借りてきた郷土史を読んでいた。

私の名前は早川麗奈。
初めて私の名前を見る人は「れいな」と言うが「れな」が正解。
その当たり間違えないでね。
でも間違っても余り気にはしないけど。
それで現在大学2年生。
私がこの夢園荘に住み始めたのは高校を卒業してすぐ。
入学が決まった大学までの距離が家よりもここの方が近いからと言う母の薦めだった。
母曰く「あそこなら毎日飽きないから」と言う事らしいけど……。
私、勉強するために大学に入ったんだよ。
でも母の言うとおり毎日何かしらあって飽きないことはホントだよね。

で、毎日の生活を飽きさせない女の子が興味津々の顔で近づいて来た。
私は顔を上げると彼女を見る。
彼女は男物の長袖シャツにジーパンにスニーカーという活発に動ける服を着ている。
横の部分だけを鎖骨の下まで伸ばして、後ろはセミロングよりもやや短めの髪型。
いつ見ても面白い髪型だと思うけど、本人が好きでやってるんだから良いのかな?
そして彼女の一番の特徴でもあるメガネ。
最近のメガネはフレームが小さい物が好まれているようだけど、その流れに逆行するかのように大きい細身の黒いフレームの物。
しかも近眼でも遠視でもないのにかけている。
本人曰く「シュミ」と一言言っていたけど……。
「麗奈さん、こんにちは」
彼女−早瀬冬佳ちゃんは軽く会釈をして笑顔を私に向けた。
私も「こんにちは」と返事をする。
「こんなところで調べ物ですか?」
「調べ物というか……好奇心かな? それにここってすごく温かいでしょ。部屋に籠もっているよりも気持が良いのよ」
「それ分かります。それで……」
冬佳ちゃんはそう言いながら積んである一番上の本を手に取りパラパラとめくる。
「えっと……郷土史?」
「ええ、大学で古代史の講義を受けたときに興味を持って、それからずっと調べてるの。この地がカムイと呼ばれていた頃のことをね」
「カムイ……」
その時、冬佳ちゃんの表情が曇り、何か思い詰めたような顔をした。
「冬佳ちゃん?」
「え、あ、ごめんなさい。調べ物の邪魔ですよね」
そう言いながら慌てて手に持っていた本を元に場所に戻し、家の方に戻ろうとした。
「別にそう言う無いけど……あ、冬佳ちゃんに聞きたいことがあるの」
その言葉に足を止め振り向く。
「水瀬神社の事、詳しい……よね」
「え、ええ……小さいときからの遊び場ですから……」
「それじゃ、ちょっとここに座って、いろいろ聞かせて」
私はそう言いながら、両脇に積んでいた本の山を一方に寄せると、冬佳ちゃんを促すようにベンチを軽く叩く。
冬佳ちゃんは渋々私の隣にすわる。

いつも笑顔の彼女が『カムイ』の一言でこんな顔をすることが信じられない。
何か知ってるのかも知れないけど、なるべく触れないようにした方が良いのかもしれないわね。

「それで聞きたい事ってなんですか?」
「御神体の事」
「御神体?」
「ええ。どの文献を調べても、実際に水瀬神社の方に聞いても鏡……東の守護として奉られている青龍鏡なのよ」
「はい、そうですね」
「でもね、水瀬神社が建てられた時期と青龍鏡が御神体になった時期がだいたい約300年ほど違うのよ。その間の御神体って何だったんろうと思って」
「昔のことだから文献が間違ってるとか……」
「水瀬神社は約1100年前に水瀬という人物によって建築されたの。これは石碑に刻まれたいたから間違いないわ」
「石碑って?」
「お社の下にあったの」
「あの下に潜ったんですか!?」
冬佳ちゃんは驚きの声を上げる。
「そんなに驚かなくても……」
「ご、ごめんなさい。でもよく潜りましたね」
「探求心の固まりだから。でも出てきたときに葉月さんに見つかって怒られちゃったけど」
私は苦笑混じりに言うと、冬佳ちゃんも顔を引きつらせながら笑った。
「それで話を戻すけど、青龍鏡があるなら他にも三つあるだろうと思ってそれらしい神社を探したの」
「今年の初めの旅行って……」
「うん、それ。一ヶ月も大学を休んだ甲斐はあったわ。京都を中心にして北の山名神社の玄武鏡、西の森見神社の白虎鏡、南の火鳥神社の朱雀鏡」
「そして水瀬神社の青龍鏡……」
「まるで日本の首都である京都を守るように存在してるの。そして山名、森見、火鳥の各神社が建てられたのが約800年前。それぞれの神主さん達の話では建立と同時に鏡も作られたと言う話なの。そうなると青龍鏡も他の三つの鏡と同時期に作られたと考える方が筋が通るでしょ」
「でも仮に麗奈さんの推測が当たってるとして、300年間御神体が無かったという風に文献には書いてあるんですよね」
「そうとも書いてないの。ただ、文献によると400年ほど前まで山の向こう側に滝のある川が流れていたみたいなの。でも地殻変動によって川の流れが変わって現在の川の位置になったみたい」
「それじゃ、その川の神様の為の神社だったと思いますよ」
「そうかも知れない……でも納得いかないの。さっきも言ったとおり、どの文献にも空白の300年間に御神体はあったともなかったとも書かれていない。それならあったと仮定してそれがなんなのか調べてみたいのよ」
「探求心という物ですか?」
「そうね」
私は冬佳ちゃんに微笑んだ。
冬佳ちゃんもその笑みに笑みで返してくれた。
先ほどの事が気になっていたんだけど大丈夫みたいね。
私は本の山の中から児童文学を取り出した。
「これはこの地方に伝わる神話や民話が書かれた物なんだけど、この地方に住んでいた人達は神様から四つの不思議な力持った石を授かり、代々守ってきたらしいの」
「え?」
再び冬佳ちゃんの表情が曇る。
やっぱりまずかったかなぁと思いながらも話を続けた。
「ただのおとぎ話だとは思うんだけど、これを読んだときどうしてもこの四つの石の事が気になっちゃって、もしかしたらこれが水瀬神社の御神体なんじゃ無いかなって」
「でも……神様が出てくる時点でおとぎ話ですよ」
「葉月さんにこのことを聞いても知らないって言われたし……」
私は膝の上に乗せた児童書に視線を落とす。
そして私達の間に沈黙が流れる
「あ、そうだ!」
私はあることを思い出してパッと顔を上げる。
「ねぇ冬佳ちゃん、時間ある?」
「え……あ……えっと暇ですが……」
「水瀬神社の奥の方で面白い岩を見つけたの。あ、でも冬佳ちゃんは生まれたときからここにいるから知ってるかな」
「面白い岩……ですか?」
「あ、知らないんだ。それじゃ行きましょう……っとその前に本を片づけてからね」
私は本を片づけると半ば強引に冬佳ちゃんの手を取り水瀬神社へと向かった。


水瀬神社の社の脇を通り林……と言うよりもほとんど森と言った感じのする場所を抜けると広場となっている場所に出た。
広場にはくぼんだ場所に水が溜まって出来たと思われる池があるけど、今回はそれは無視して目的の物をみる。
それは本来なら壁のようにそこに存在していたと思われる、二つに割れた巨大な岩山。
割れたという言い方もおかしいと思う。
その断面は鋭利な刃物によって切断されたかのように綺麗な断面を見せていた。
断面をのぞき込んだとき岩肌に鏡にように顔が映り、ビックリした覚えがある。
それほど綺麗な物……でも自然にこうなる物だろうか。
もし人の手による物だとしても重機も入ってくることが出来ないこの場所でどうやって切断したのかも分からない。
それほど不思議な物に違いない。
そして岩山の下の部分に一つだったときに子供一人が入っていけるほどの穴の跡がある。
もしかしたらここにあった何かを取るために岩を割ったと思うのだけれども……。
「麗奈さん、面白い岩ってこれですか?」
「うん、そうなの。断面を見ると顔が映るわよ」
「へぇ……」
冬佳ちゃんは近づき断面をのぞき込んだ。
「うわ、ホントだ。あ……」
「どうしたの?」
私は慌てて冬佳ちゃんに近づくと、冬佳ちゃんは自分の人差し指を舐めた。
「角で切っちゃった」
「大丈夫?」
「うん、ちょっと血がにじんでる程度だから大丈夫です。深くないですよ」
「でもすぐに止血しないと……」
「大丈夫ですよ。もう止まりましたから」
そう言いながら私に人差し指を見せた。
確かに傷と血がにじんだ跡は残っているが、傷その物から血は出ていない。
「昔から怪我が治るのが早いんです」
冬佳ちゃんはそうニコリと笑うと、池のところに行き手を洗う。
そして私に「もう治りました」と指を再び見せた。
その時には先ほど見た傷の跡も残っていない。
「冬佳ちゃんってすごいんだね」
なんとか出た言葉がそれだったけど、彼女は「えへへ」と嬉しそうに笑ってくれたので良しとすべきなのかな……。

私達はしばらくそこでこの岩についての話をした。
話をしたと言っても私が一方的に自分の考えを冬佳ちゃんに聞いてもらっただけだけなんだけど。
そして陽が西に傾き始めた頃、私達はこの場を後にした。

帰り際、冬佳ちゃんはジッと岩を見つめていた。
その横顔は夕日の影ではっきりと見えなかったけど、何というかなにか懐かしい物を見ている……直感でそう感じた。
だけど、私の視線に気づいて元の笑顔に戻り、さっきの表情の事は気のせいということにした。
冬佳ちゃんもきっと触れて欲しくないと思うから……。


夢園荘の入り口で、私は冬佳ちゃんの礼を言った。
「冬佳ちゃん、付き合ってくれてありがとう」
「どうせ暇だったから良いですよ。それに面白い話もたくさん聞けましたから」
冬佳ちゃんは笑顔で答えてくれる。
本当に良い娘だと思う。
双子の姉の楓ちゃんが絡むと人が変わるのが難と言えば難なのかも知れないけど、それでも優しい娘だと言うことはよく分かる。
「麗奈さん、これからも頑張ってくださいね」
「うん、ありがとう」
「それじゃ、私はこれで」
そう言って冬佳ちゃんは手を振りながら、夢園荘の隣に建つ大家さん宅に向かった。
そして私も自分の部屋に向かおうと中に入ろうとした時、声が聞こえた。

(四つの不思議な石は澪さんに話を聞くと何か得られるかも知れませんよ)

その声に私は慌てて冬佳ちゃんが歩いていった方向を見た。
でももう冬佳ちゃんは家の中に入ってしまっていて姿を見ることが出来ない。
「今の声……なんだったの?」
幻聴……一言で片付けてしまえば簡単だけど……。
でも、あんなにはっきりと聞こえるものだろうか?
だけどその事を翌日冬佳ちゃんに聞いても首をかしげるだけだった為、私の中で永遠の謎となった。
さらに謎の声に従い、母に四つの石のことを聞いてみたが、「あれってお伽話でしょ」と一笑されてしまった為、謎は更に深まる一方だった。



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「約3ヶ月半ぶりの復活です。忘れ去れてるかも知れない」
恵理「あ、それはあるかも」
絵夢「あう……」
恵理「まぁまぁ、気を落とさないでがんばろ〜」
絵夢「でも次は何時書けるか不明だしな……」
恵理「(汗)」

恵理「今回は、このWSになってから登場の麗奈ちゃんが主人公なんですね」
絵夢「郷土史に秘められた謎を追い求める女の子……と書くと聞こえは良いけど、この時点で壁にぶち当たって前に進めませんw」
恵理「煌玉について当の本人達がなにも言わなければ解決しないよね」
絵夢「母親が隠してる限りはね」
恵理「所で本当に冬佳ちゃんって何者なの?」
絵夢「夏樹と恵理の娘」
恵理「いや、だから……」
絵夢「言うと思う?」
恵理「……思わない」
絵夢「そんなわけで次回もまたみてね〜〜」
恵理「よろしく。。。。」