NOVEL



ここは夢園荘NextGeneration
Wonderful Street

七月(二)


日差しも高く日向でジッとしていると汗ばむそんな季節。
神社全体を木々が覆っているので日陰は多いのですが、それでも鳥居から社に続く石の参道は日向の方が多いぐらいです。
「もうすぐ8月ですからね……」
澄み切った空を見上げつぶやく。

その境内で遊ぶ子供達。
女の子二人に男の子一人の組み合わせ。
どうも男の子が困っている様子。
「文月、初音! あまり水無月を困らせちゃダメよ」
「困らせてないもん。遊んでるだけだもん!」
私の言葉に一人娘の文月が反論する。
「お姉ちゃんの言うとおり!」
文月に続きまなみの一人娘の初音が同意する。
「お姉ちゃん達〜〜〜」
そして半泣き状態の睦月の一人息子、水無月。
3人とも仲が悪いわけではないが、どうも女二人男一人と言う組み合わせが悪いのか、水無月は文月と初音のおもちゃになっている。
この間は巫女服を着せられていたの。
なんか溜め息が零れてしまうけど、ここは耐えることにします。

自己紹介が遅れましたね。
私は水瀬葉月。
不在がちの両親に代わり夫の雄三さんとこの水瀬神社の管理をやっています。
両親はそろそろ代を私達に移すような事を言っていたのですが、元気に今日も京都で開かれている会合に出席してます。
今回は次期当主になる雄三さんを連れて行きました。
だから私はお留守番。少し寂しいです。
とは言っても、今家に残っているのは私と子供達だけじゃないから良いのだけれど……。

「お姉ちゃん、向こうの掃除終わったよ〜」
後ろからパタパタと音を立てながら卯月が駆け寄ってくる。
「お疲れ様、それじゃしんさんの手伝いをしてきて」
「それも良いんだけど、境内の掃除手伝おうか?」
「大丈夫よ。いざとなればあの娘達を使うから」
と、私は境内で遊ぶ3人の方を見る。
「なるほど。役に立ちそうなのは文月だけのような気がするけど」
「そうね……そうかも知れないわね」
「それじゃお姉ちゃん、お願いね」
「ええ」
睦月は自分の夫のしんさんの元へと向かった。

そんなわけで今ここにいるのは私と睦月としんさん、そしてあの娘達の6人と言うことになります。
初音の両親は?と聞かれるかも知れませんが、あの娘の両親のまなみと歩君は現在海外出張中でその間、ここで預かっているというわけです。
まなみのときとは事情も状況も違うとは言え、親子2代続いて水瀬家で預かるというのは何か因果めいた物を感じますが……。

考え事をしながら境内の掃除をしていると、子供達が賑やかな声を上げた。
それまでも賑やかであったのですが、その質が変わったと言うことです。
私は顔上げてそちらを見ると、特徴的な髪型にメガネをかけた女の子がいた。
ノースリーブのシャツに短めのキュロット、オーバーニーソックスにスニーカーと相変わらず軽装な彼女。
キュロットというのが彼女にしては珍しいかな?
私の視線に気づいたのか私の方を向くと、「こんにちは」と頭を下げる。
私も「こんにちは、冬佳ちゃん」と返事をした。

彼女は早瀬冬佳。
この下にある夢園荘の管理人で昔からお世話になってる早瀬夏樹さんと恵理さんの娘さん。
双子の姉に楓ちゃんがいるのだけれど……今日は一人みたいね。

「お姉ちゃん、遊ぼ〜よ〜」
文月が冬佳ちゃんの手を引く。
それに続くように初音と水無月も冬佳ちゃんにくっつく。
「あらあら。冬佳ちゃん、人気者ね」
そう言うと冬佳ちゃんはちょっと照れて笑う。
そして文月達の視線に合わせてしゃがむと、3人の頭を撫でる。
「でもごめんね、みんな。遊びたいのは山々なんだけど今日は用事があって来てるの」
「「「え〜〜〜〜〜〜」」」
文月達は冬佳ちゃんを離すまいとしっかりと服を掴んで、口々に遊ぼうと言う。
「でも……困ったなぁ……」
そんな三人に冬佳ちゃんは私に目で助けてと訴えかけてきた。
「文月、初音、水無月。あまりお姉ちゃんを困らせたらダメだよ」
「でも〜」
「「む〜〜〜」」
三人は不満を口にする。
「今度、楓を連れてくるから、ね」
「む〜約束だよ」
「約束」
「指切り」
「はいはい」
冬佳ちゃんは文月達と指切りをすると立ち上がり「それでは」と軽く会釈をすると社の横の林の更に奥へと向かった。
「お姉ちゃん、またあっちに行ったね」
文月が私の裾を引っ張り言う。
「きっとお姉ちゃんにすごく大切なことなのよ。絶対に邪魔したらダメだからね」
「「「うん」」」
私の言葉に三人は頷いた。

「お〜い、おやつの時間だよ〜〜〜〜!!」
冬佳ちゃんが向かった反対側−母屋の方から睦月の呼ぶ声が聞こえた。
「三人とも、おやつを食べてきなさい」
「お母さんは?」
「私はもう少ししてから行くから」
「うん。初音、水無月、行こ!」
三人一緒に母屋の方へと走っていった。
それを見送ると、私は冬佳ちゃんが歩いていった方へと向かうことにした。

林と言うよりも森と言った方が正解だと思える獣道を抜けると、二つに割れた巨大な岩がある開けた場所に出る。
その岩の前で冬佳ちゃんは膝をつき手を合わせていた。
まるでお祈りをしているかのように……。
私は気づかれないように木の陰からその様子を見ることにした。
そして時間にしてどのくらい経ったのか分かりませんが、スッと立ち上がると私が隠れている方を見た。
「葉月さん、出てきても良いですよ」
そう言われて私は肩をすくめると冬佳ちゃんの前に姿を現した。
「ずっと気づいてた?」
「ええ、来たときからずっと。ちなみに今までも気づいていたけど」
「でしたら声をかけてくれたら良かったのに……」
「隠れている人に声をかけるのは悪い気がして」
そう言うと冬佳ちゃんはぺろっと舌を出す。
「もう、人が悪いんだから」
「まぁまぁ、ここはこの可愛い冬佳ちゃんに免じて許して」
「自分でそういうことを言うかしら」
お互い顔を見合わして思わず吹きだした。
しばらく二人で笑うと、私は冬佳ちゃんに聞いた。
「ねぇ一つ聞いて良いかしら?」
「なんですか?」
「どうして毎月この時期になるとここに来るのかしら?」
「ここしかお祈りが出来る場所が無いから……かな」
「お祈り?」
「うん」
「だったらお社でも……」
「青龍鏡じゃダメ。ここじゃないとダメなの……」
その瞬間、かつてここで起こった事の記憶が呼び覚まされた。
それは神と名乗る男女が現れて煌玉とよばれる四つの石に封じられてた魂を解放したことを……。
「冬佳ちゃん……あなた、まさか……」
「私が何か?」
冬佳ちゃんは首をかしげる仕草をする。
その様子に私は自分の考えを否定した。
そんなことあるわけ無いもの……。
「ごめんなさい。今のは気にしないで……」
「あ、はい。それじゃ私帰りますね」
「ええ、それではまた」
冬佳ちゃんは軽く会釈をすると私の横を通り来た道を戻っていった。

(葉月さんが思ったことはたぶん外れですよ。私は私だから)

「え?」
その声に私は慌てて振り向いた。
だけど、冬佳ちゃんの姿はそこにはもう無かった。
「幻聴……なの?」
私はもう一度辺りを見回したけど、私以外誰もいない。
「冬佳ちゃん……あなたは一体何を知ってると言うの?」



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「8話目にしてようやく水瀬神社が書けた〜」
恵理「時間が掛かったね」
絵夢「今のところ神社が舞台にならなからね」
恵理「今後出てくる可能性は?」
絵夢「むっちゃくちゃ低い」
恵理「あやや」

恵理「そしてまた冬佳ちゃんの謎が増えるわけですね」
絵夢「うむ」
恵理「いい加減、その辺り書いちゃったら?」
絵夢「まだ書かないよ〜」
恵理「全く何で全30話+αなんて決めたのやら……」
絵夢「それは私自身にも聞きたい」
恵理「おいおい」

絵夢「次回第9話は夏休みの話です〜〜」
恵理「一体どういう事を考えてるのかな?」
絵夢「考えてな〜い」
恵理「(汗)」

絵夢「であ次回まで」
恵理「まったね〜」