ここは夢園荘NextGeneration
Wonderful Street
プロローグ
家の裏側の神社は私達双子の遊び場。
遊びに行くと葉月おばさんが遊んでくれる。
そしてお菓子もくれる。
だから私達は天気の良い日は幼稚園から帰ってくるとすぐに神社へ遊びに行った。
その日も私達は神社へと遊びに行った。
その帰り道、競争して帰る事になった。
すこし先を行く私は、双子の姉の存在を背中に感じている。
それが何となく心地よかった。
その時、転ぶ声。
私は足を止め振り向くと、そこへ赤い車がすごいスピードで走ってきた。
「楓〜〜〜〜〜〜!!!」
「楓〜〜〜〜〜〜!!!」
私は双子の姉の名を叫びながら体を起こした。
全身うっすらと汗をかいている。
少し気持ち悪いと思いながらもはっきりしない眼で辺りを見回す。
視界に入ってくる薄暗い風景は見慣れた自分の部屋。
「夢……か……」
そうつぶやくと私に抱き付くように丸くなって眠る楓を見て安心する。
しっかり左手を握る楓の暖かみを感じて安堵の息を吐く。
しかしさっきの声でも起きない楓の寝付きの良さに苦笑が漏れる。
「まったく……もうすぐ高校二年になるのに一緒に寝ようっていうんだもん……この……」
頬を軽くつつくと楓はくすぐったそうに顔を逸らす。
でも起きる事はない。
この娘は一度寝ると時間になってもなかなか起きない娘だから……。
考えてみればそう言うところはお母さん譲りだよね。
「双子なのにどうしてこうも違うのかな」
ふと言葉に出すと、なんとなくおかしくなってしまった。
そして、楓の頬をまた軽くつついた。
するとやっぱり逃げるように顔を動かす。
「こういうのが平和って言うのかな……」
あの時、楓は確かに車に轢かれそうだった。
私は楓を助けようと走り出したとき、見知らぬお姉さんが私の動きを止め楓の元に駆け寄った。
「えっ!」
私の動きを止める事が出来るなんて……。
一瞬の出来事に呆然としていると、お姉さんは倒れる楓を抱きかかえ上へと飛んだ。
文字通り、鳥が空へと飛び立つかのように……。
その動きがあまりに綺麗でしばし見取れていた。
そして車が通り過ぎた後、お姉さんは楓を抱きかかえたまま何事も無かったかのように立っていた。
「か、楓〜〜!!」
その姿に我を取り戻した私は二人の元へ駆け寄る。
お姉さんはゆっくりと楓を下ろした。
「と、冬佳?」
楓はまだ何が起きたのか分かっていないのかきょとんとしている。
「お姉さん、楓を助けてくれてありがとうございました」
私は楓に変わって礼を言う。
それに習って楓も「ありがとうございました」と言う。
そんな私達にお姉さんは微笑む。
「うん、まったくこんな狭い道をあんなスピードを出して走るなんて……大丈夫だった?」
「楓、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
楓は私の言葉にニコリと笑う。
「あ……」
お姉さんは何かに気づいたのか楓の前にしゃがむ。
そんなお姉さんの様子に私達は顔を見合わせ首をかしげた。
「えっと……楓ちゃんだっけそのままにしててね」
そう言うと楓の膝に手を当てた。
さっき転んだときにすりむいたようだ。
「痛くなかったの?」
「うん」
楓は小首をかしげて言う。
そんな様子に思わず苦笑が漏れる。
「所で何をやっているんですか?」
「ん……もう大丈夫だよ」
そう言って手を離すと、初めから傷が無かったかのように綺麗な膝になった。
「え?」
「お姉さん、すご〜い。手品みた〜い!」
「ふふ、ありがとう」
楓は素直に喜んでいるけど……今の一体……。
「冬佳ちゃんだよね」
訝しんでいる私の名前を呼んだ。
「う、うん」
「まだ身体が出来ていないんだから、あまり無理しちゃ駄目だよ」
「……」
このお姉さんは一体何者なの?
「それでこれ上げる」
そう言うとポケットからメガネケースを私の手に握らせた。
「これは?」
「良い物だよ」『楓を悲しませないための物。理由はあなたが一番分かっているはず』
お姉さんの言葉と同時に同じ声で別の言葉が頭の中に響いた。
頭に響いた言葉は私を絶句させる。
「お姉さんは一体……」
「冬佳だけ良いなぁ」
横から楓が私の手の中の物を羨ましそうにのぞき込みながら言った。
「か、楓……」
全く空気を無視した楓の言動に少し呆然とする。
「楓ちゃんには……えっと……これをあげよう」
お姉さんはメガネケースが入っていたポケットの反対側のポケットから髪飾りを出した。
そして楓の髪にそれを付けた。
「すごく可愛いよ」
「ホント! お姉ちゃん、ありがと〜〜!」
楓は嬉しさを全身で表す。
その様子にニコリと微笑むと立ち上がった。
「それじゃ、私はもう行くね。車には気を付けるんだよ」
「もう行っちゃうの?」
楓は口を尖らせて言う。
「うん、ちょっと行くところがあるか……ごめんね」
その時私達の間を目も開けられないほどの強い風が吹いた。
そして風が止んだとき、お姉さんの姿は消えていた。
「お姉さん……どこいっちゃったんだろ?」
楓は辺りをキョロキョロして言う。
そんな楓を横目に私は手の中のメガネケースを無意識に握りしめながらお姉さんが立っていた辺りをジッと見つめた。
ベットの横の台に置いてある時計を見ると六時近かった。
私は起きる為に楓の手をどうにか剥がす。
そして普段は使わずにベッドの隅に置いてある抱き枕に抱き付かせた。
こうでもしないと寝苦しそうな顔をするので仕方がない。
だからと言って起きるわけじゃないけど……。
私は電気を付けずにパジャマと汗を吸って気持ち悪い下着を脱ぎ捨てた。
そして姿見で自分の身体を見る。
「やっぱり楓に比べたら胸が小さいよね……お母さんとまでは行かなくても楓もそこそこあるし……双子なのに……」
両手で胸を持ち上げたり、揉んだりしてみる。
そして……。
「……やっぱり虚しいからやめた」
私はそのままタンスから下着と白のブラウスと紺のズボンを取り出して身につけた。
まだ春先でやや肌寒いのでどうしようかなと思ったけど家の中にいるなら良いかと言う事でこの服になった。
蛇足だけど制服以外でスカートは持っているけどあまり履かない。
そして机の上に置いてあるメガネケースからメガネを取り出してかける。
でも私は目は両目とも2.5と良い。
それでもこうしてかけるのはこのメガネがあの日お姉さんから貰った物だから。
つるの内側に見た事のない模様が刻まれているけど、それが何を意味しているのかは分からない。
そしてレンズも度は入っていないけど、強度はプラスチックなんかよりも遙かに強い。
前に野球のボールがメガネに当たった事があったんだけど、割れるどころか逆に跳ね返した。
それだけで十分このメガネは普通じゃないと思う。
でもお父さんとお母さんはこれを見たとき、何も言わずにずっと持っていた方が良いと言った。
たぶんこのメガネの意味を知っているんだと思うんだけど、絶対に教えてくれない。
そんな変なメガネをこうしてかけるのは、お父さん達の言葉よりもあの時のお姉さんの言葉が最大の理由だと思う。
私は誰よりも楓が大事。
楓の悲しむ姿は絶対に見たくない。
楓は幸せにならないといけない娘だから……。
だから私は何があっても楓を守るって決めている。
何があっても……。
ベッドの上で抱き枕にしがみつく楓の姿を見て笑みを零すと、脱ぎ捨てた衣類を持って部屋を出た。
一階に下り、洗濯物を出すためにお風呂の方へ行くと、丁度お父さんがお風呂から出てきたところだった。
「おはよう、冬佳」
「おはよう、お父さん」
そして朝の挨拶を交わす。
やや広めの脱衣所で私は洗濯物を洗濯機の中に入れ、お父さんはタオルで身体を拭いている。
「春休みなのに早いな」
「お父さんほどじゃないよ」
お父さんは毎朝五時頃に起きてランニングをしている。
そして帰ってくるとこうしてシャワーを浴びて汗を流しているの。
それにしても毎日鍛えているだけあって、すごく身体が引き締まっていて格好いいんだよね。
「何改まったように人の身体を見てるんだ?」
「格好いいなぁって。今年で四十五歳でしょ……絶対に嘘だよ」
お父さんは実際の年齢はともかく外見は大学生か高校生ぐらいに見える。
一緒に歩いたら兄妹と間違えられる事もしばしば……。
「それを言ったら恵理だって同じだろ。もうすぐで三十六歳だしな」
ちなみにお母さんはこの間、一緒に歩いていたら私の妹に間違えられました。
「この間、和沙が若い両親で羨ましいって言ってたよ」
「冬佳は嬉しくないのか?」
「ん〜……まぁ少しは自慢かな? でも和沙のおじさんやおばさん見たいに年相応というのがいいと少しは……ねぇ」
「それは人それぞれということで」
「相変わらずなんだから」
そうこう話していると、お父さんは下着を履きTシャツにブラックジーンズを身につけた。
お父さんの裸を見て恥ずかしくないのかと言う声が聞こえてきそうだけど、私の所ではお風呂はいつも家族四人で入っているので互いに見慣れてるんだよね。
なおお父さんとお母さんは私達が出た後、一時間ぐらい経たないと出てこないの。
ホント、何時までも仲が良いんだよね。
私が少し自分の中に入っていると、お父さんが私の頭を撫でた。
「あ……あは」
「それじゃ、朝食の準備手伝ってくれるか?」
「うん」
お父さんの言葉に私は大きく頷いた。
台所に立つお父さんの横で手伝いをしながら、本当にお父さんって料理が上手だよねと何時も思う。
「お母さんも料理が上手だけど、お父さんも上手だよね」
「改まってどうしたんだ?」
「なんとなく思っただけ」
「俺にしても恵理にしても独り暮らしが長いから自然に身に付いただけだよ」
「う〜〜ん」
笑いながら言うお父さんの言葉に思わず唸ってしまう。
自然に身に付いただけならどうして星がいくつも付くようなレストランよりも美味しいの?
前にそれを聞いたら「愛情だよ」と一言で返されたけど……絶対にそれだけじゃないと思う。
そして朝食が次々とテーブルに並べられていく。
本日のメニューはトースト、ミニオムレツ、サラダ、フルーツがはいったヨーグルト、牛乳。
さらにトーストにつけるジャムもいろいろとある。
お母さんが、葉月おばさんから作り方を聞いてからはまっちゃって……。
今はマーマレードはお母さんがオレンジ系が好きなので一年中常備してあるので基本として、あとはイチゴジャムとサクランボのジャム。
準備が粗方終わった時、お父さんは私の方を向いた。
「それじゃ二人を起こしてきてくれるか?」
「え゛?」
「なんか嫌そうな返事だね」
「楓は良いんだけど……お母さんはちょっと……お母さんだけでもお父さんが起こしてきてよ」
「こっちはみんなが揃うまでに台所の後かたづけがあるけど……」
「それは私がやるから」
「それに起こしに行ったらそう簡単に戻ってこないと思うけど……」
「う……わかった……私が起こしに行きます」
私は泣きたい気分でダイニングルームを出た。
お父さんの言葉の意味は……夫婦仲がとてつもなく良いという証拠でして、その……そう言う事です。
まず二階の私の部屋に向かう。
ドアを開け、ベッドを見ると楓はさっきと全く変わらない姿で眠っていた。
「楓、朝だよ。起きて」
まずは軽く身体を揺すりながら声をかける。
だけど、この程度で反応する楓ではない。
だからいきなりあの技を使う。
本当ならあまり手荒い事をしたくは無いんだけど、料理が冷めるのは嫌。
私は楓のパジャマの裾から手を入れると、その脇腹をくすぐり始めた。
その途端、びくんと強く反応すると、目を覚まして私から逃げるように身体を動かす。
私は逃がさないように脇腹から胸へと手を動かし、更にくすぐる。
なんとなく正しくは揉んでいるような気がするけど……。
「ふみゃ、にゃ〜、いやぁ、やめて〜、起きるから……みゃあぁぁぁぁ……あ……だめ……あん……ああああ……ん……」
最初嫌がっていて声がだんだん艶っぽくなってきたところで私は手を止め離れた。
「おはよ、楓」
「む〜〜〜〜」
楓はベッドの上に座り込むと、恨めしそうに私を見る。
「おはよ」
「……おはよ。もう少し優しく起こしてよ」
「優しく起こしたら起きないじゃない」
「む〜〜〜〜〜」
「とにかく、早く起きないと朝食冷めちゃうから起きるんだよ」
「……うん」
ゆっくりと三つ編みにした髪を揺らしながらベッドから降りる。
その様子を見ると私は自室を後にした。
そしてはす向かいのお父さん達の部屋の前に立って溜め息を一つつく。
「なんか鬱……」
私はゆっくりとドアを開けると中に入った。
部屋の一番奥に置かれたキングサイズのダブルベッドに楓と同じように抱き枕に抱き付いて眠るお母さんの姿がある。
楓と違うのはお母さんは全裸だという事だろう。
その姿にさらに深い溜め息が出る。
この家の各部屋の防音がしっかりしている理由はたぶんここにあるんだろうなぁと思ってしまう。
少なくとも、夜中に起きて廊下に出ても声が漏れることはない。
それは私達の部屋に置いても同じ事なんだけど……。
ともかく、今のお母さんの様子を見る限り、夕べも盛んだったんだなぁと分かる。
だからこそ溜め息も出てしまうの。
本当に、一年中休み無くと言う時点で呆れるを通り越して感心してしまう。
でも、二人のこの行為があったからこそ私達が生まれたわけで……。
そして三度目の溜め息をつく。
「お母さん、起きて。朝だよ」
私はお母さんの肩に手を置くと揺すりながら声をかけた。
「ん……」
お母さんは頭を動かして寝ぼけ眼で私を見る。
そしてニコリと微笑む。
この瞬間、私はお母さんから離れようとした。
だけど、それよりも早く肩に触れている手を掴むと、ベッドへと引きずり込んだ。
そして逃げないように抱き付くと「夏樹さ〜ん」と甘えた声を出しながら自分の唇で私の唇を塞いだ。
さらに舌まで入れてくる。
さすがに寝ぼけながらここまでやられて黙っているわけもなく、私は空いている右手でお母さんの頭を平手で殴った。
体勢がむちゃくちゃ悪い割りにはいい音が鳴り、お母さんは私を解放して頭を抱え込んだ。
「うう……痛い……」
「起きた?」
乱れた着衣を整えながらお母さんに言う。
「冬佳、酷いよぉ。折角夏樹さんと気持ち良い事してる夢を見てたのに頭叩くなんて」
「夢ね……それそれはどうも……それよりも早く起きないと朝食抜きになるよ」
「それはヤダ」
「だったら早く起きる!」
「うん、分かった」
お母さんは眠そうな顔でベッドから起きるとそのまま出て行こうとした。
「服ぐらい着なさい!!」
さすがに叩いて止めるわけにも行かず、前に回り込んで叫ぶ。
「ん……あ、忘れてた」
お母さんは自分の今の姿を見て笑う。
そんな姿に私は四度目の溜め息をついた。
「それじゃ服着るから先に行っててね」
「はいはい」
私は疲れた果ててゆっくりと一階に戻ると、すでに楓が席に着いていた。
「冬佳、お疲れ様」
「あ、あはは……お父さん、お母さんを起こすのやっぱりヤダよ……」
「冬佳って私を起こすのは嫌なの?」
いつの間にかお母さんは私の背後に立っていた。
「気配を消して後ろに立たないでよ!」
「そんなつもり無いんだけど……私の事嫌いになっちゃったの?」
そう言いながら目を潤ませて迫る。
「好きとか嫌いとかじゃなくて……」
「嫌いなの?」
「だから……そう言う事じゃ…………」
じ〜っと何かを訴えかけるように私の目を見る。
「……お母さんのこと好きだよ」
「良かったぁ」
私の言葉に嬉しそうに言うと、自分の席に座った。
そして五度目の溜め息……。
「冬佳、パンが焼けたから早く座りなさい」
それぞれのお皿にパンを置いていくお父さんが、私の苦労も知ってか知らずか普通に言う。
いや……絶対に分かってるはず何だけどね……。
とりあえずお腹も空いている事なので、私は自分の席に座るとパンにバターを塗って食べ始めた。
早瀬家の朝はいつもこうして始まります。
正直、私って薄幸の美少女かしら?
「だ〜れが美少女だか」
そこの『おばさん』うるさい!!
<あとがき>
恵理「……突然第四部を始めたね」
絵夢「そろそろかなぁって……時期早々という話もあるけど」
恵理「でもやっちゃうんだ」
絵夢「その通り」
恵理「で、私の出番って……あれはなんなの?」
絵夢「今後活躍するかな?」
恵理「じ〜〜〜〜〜〜〜〜」
絵夢「………」
恵理「じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
絵夢「そんなわけで始まりました『ここは夢園荘NextGeneration −Wonderful Street−』どうぞよろしくです」
恵理「じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
絵夢「これからどうなっていくか、こうご期待! であ次回までまったね〜〜」(脱兎)
恵理「逃げるなぁぁ!」