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『MEMORIES』
第5話 『拙者はゼロ……フェイク・ゼロと申す』−ゼロ−
それはパイオニア2がまもなくラグオルへ着こうとしていた頃。
テレビモニターには望遠映像でラグオルが映し出されている。
「もうすぐなのですね。でも私はもう駄目でしょうね」
ベッドに横たわるマスターがその映像を見ながら言う。
マスターは高齢の為にもうベッドから起きあがることも出来なくなっていた。
「まもなくです。ですからそんな気弱なことは言わないでください。一緒にあの大地に立ちましょう」
「ゼロ……自分の身体のことは自分が良く知っています。もうすぐ天命を全うすることも……」
マスターはゆっくりと手を上げる。
拙者はその手を軽く握った。
「マスター!!」
「今までありがとう、ゼロ。これからはあなた自身の為に……精一杯に生きて……」
その言葉を最後にマスターの手から力が抜ける。
「マスター……マスター!!」
拙者の呼び声はマスターに届くことなく室内に虚しく響いた。
その後拙者はマスターの遺骨をラグオルに埋めた。
そして拙者もまたそこで最後の時まで墓守をすることに決めた。
時折来る墓荒らしと思わしき連中や偶然やってきた原生生物を退け日々を過ごす毎日。
それでも拙者はマスターの側にいられるだけで幸せだった。
幼きマスターに会ったあの日から今までのことを思い出しながら……。
そしてどれぐらい経っただろう。
拙者の身体は度重なる戦いで傷つき満足動くことも出来なくなり、エネルギーも残り少ない。
もうすぐマスターの元へ逝ける。
その時、巨大な物体が拙者の前に降ってきた。
それはヒルデルト……ゴリラのような巨体で原生生物の中でももっとも恐ろしい生物の一つで口から雷撃を吐く。
「お主が拙者の最後の相手でござるか」
つぶやくように言う。
ヒルデルトはゆっくりと拙者に近づくと息を吸い込み始めた。
どうやら雷撃で殺すようだ。
(マスター、もうすぐそちらに逝きます)
拙者は目を閉じると最後の時を待った。
だがいつまで経っても雷撃は来なかった。
拙者はおかしいと思い目を開ける。
するとヒルデルトが倒れ死んでいた。
「一体……」
そこにランチャーを持った黒いレイキャシールが姿を見せた。
「大丈夫?」
「お主が、倒したのか」
「そうだけど、それが?」
「折角死ねると思ったのに……マスターの元に逝けると……」
「………………」
”ガッキーーーーン!!!!”
そのレイキャシールは突然持っていたランチャーで拙者の頭を殴った。
「別に礼を言って欲しくて助けた訳じゃないけど、死にたかっただって? ふざけんじゃないよ!」
「………………」
「世の中にはね、生きたくたって死んでいく奴もいるんだ。悔いを残して死んでいく奴だっているんだ。それなのにあなたは!!!」
「しかし拙者は……」
「ん? あなたの後ろにあるのお墓?」
彼女は拙者の後ろにあるマスターの墓に気づいたようだ。
「うむ、拙者が仕えていたマスターの墓標でござる。マスターはこの地を踏むことが出来ずに亡くなった。故に拙者は……」
「ふ〜ん、それで墓守をしてるわけだ……主君思いで立派だね」
彼女の言葉はどこか冷たく思えた。
「一つ聞くけど、あなたの主人はあなたに死ぬまで自分の墓守をしろって命じたの?」
「それは……」
「その様子だと言ってないね。たぶんこう言ったんじゃないの? 『自分の為に生きろ』ってさ」
「何故それを!?」
「今のあなたの姿をあなたの主人に見せられる? もし見せることが出来たらどう思うと思うの? きっとすごく悲しむと思うよ……それでもあなたはそこで墓守を続ける気なの?」
彼女は悲しそうな声で言う。
それに対して返すべき言葉が見つからなかった。
拙者が無言でいると彼女は背中のリボンからツールボックスらしき物を取り出した。
そして拙者の足の修理を始める。
「私も10年前までマスターを持つ身だったんだ。そしてマスターは死に際に『自分の為に生きろ』と言ってくれた。だから何となくね……」
(この少女も拙者と同じだったのか……)
「でも私の場合、つい最近までマスターの復讐の為に生きてたんだ。恥ずかしい話だけどね」
彼女は照れ笑いを浮かべる。
「どうして復讐をやめたかなんて話すと長くなるから言わないけど、マスターに怒られたからやめたんだ。そして今は自分の為に生きることにした」
「お主……いや、貴殿は……」
「良し! これでしばらく歩けるよ。私に予備パーツだからすぐに駄目になるからすぐに交換しないと駄目だよ」
彼女はツールボックスをしまうとテレパイプでパイオニア2までの道を開いた。
「……何故?」
「何故って足を治したこと? 私、あなたを担いで運べるほど力無いよ」
「そう言うことではなく。何故見ず知らずの拙者を直したのでござるか。そのまま放っておけば……」
拙者がそこまで言った時、彼女はにこやかな顔をしてランチャーを振り構えていた。
「もう一度そう言うこと言ったら殴るからね」
「は、はい」
「うん、よろしい」
そう言いながらランチャーを地面に置く。
「私って、目の届く範囲内で手を差し伸べれば助かる命があったらほっとけないんだよね。まぁ偽善と言われればそれまでだけど」
彼女は少し照れながら話を続ける。
「ずいぶん昔に何でもない女の子の為にランセンスを発行のために紹介状を書いたり……ってこれはどうでもいい話だね。とにかくそう言う性分なのよ」
そう言うと地面に置いたランチャーを担ぎあげる。
「さ、パイオニア2に帰ろう」
彼女はそう言うと開いている左手を拙者に差し出す。
拙者はその手を取ろうと右手を差し出そうとしたが、すぐに引っ込めその場に正座で座り直した。
その突然の行動に彼女は驚いた様子だが、拙者はたった今心に決めたのだ。
「拙者はゼロ……フェイク・ゼロと申す。貴殿のご尊名をお聞かせ願いたい」
「え、ご尊名って私の名前? あの私はナツキ・スライダーって言うんだけど……」
「ナツキ・スライダー殿でござるか。拙者はたった今よりあなたにお仕え申し上げます」
「……はぁ?」
「ですので、たった今より貴殿のことをマスターと呼ばせて頂きます」
「いや、だからね……」
「何でしょうか、マスター」
「マスターって止めてよ。私、そう言う柄じゃないし」
「でしたら何とお呼びしたらよろしいでしょうか?」
「よろしいも何も、呼び方なんて名前で良いよ」
「いえ、主人を名前で呼ぶなどと失礼なことは出来ません」
「失礼ってあなた……」
「しかしマスターが駄目ならば……」
拙者はしばし考えた。そして……。
「では『女王様』というのは……」
”ガッキーーーーン!!!!”
いかがでしょうと言おうとしたとたんランチャーで頭を殴られた。
「そんな風に呼んだら本気で怒るよ」
これは……本気で怒っておられる様子だ。
「では……」
「だからぁ………」
「しかし、マスターはマスターですから」
「……………分かったよ……でも『マスター』なんで呼ばれる柄じゃないし、『女王様』は絶対にいやだし………………」
マスターは腕を組み長い時間考えた。
「………………んじゃ『姫』は?」
「分かり申した。これより『姫』と呼ばせて頂きます」
「はい、どうぞご自由に」
なんとなく姫の口調はどうも投げやりな気がするが気のせいでござろうな。
「んじゃゼロ、帰ろっか」
「はっ!」
姫がテレパイプに入ろうとした時、何かを思い出したようにピタッと止まった。
「ちょっと待ってて」
そう言うと姫はマスターの墓標に手を合わせた。
「姫………ありがとうございます。マスター、拙者はこれからはこの方と共に行きます。ご安心ください」
拙者も一緒に手を合わせた。
そして今。
拙者は姫の命により、妖しげなビデオアイから発していた電波を辿りビルからビルへと探索を続けていた。
「これもただの中継ポイントか……」
6つ目の中継ポイントを見つけ、次の場所へと行こうとしたとき、向かいのビルの屋上でで戦っている者達を見つけた。
「あれは……カナタ殿ではないか。そして相手のヒューキャストは一体……」
その時、バランスを崩し倒れたカナタ殿にヒューキャストが迫った。
「これは!!」
拙者は咄嗟に隣のビルに渡ると、ヒューキャストの足下目掛け手裏剣を投げた。
ヒューキャストは驚くと同時にバックステップで避ける。
そして拙者はカナタ殿の前に降り立つ。
「カナタ殿、無事か?」
「あんたはゼロ……どうしてここに?」
「姫の命を遂行中に出くわしただけでござる」
「なるほどね。ま、礼は言わないよ」
そう言うとカナタ殿は立ち上がりソードを構えた。
「あ奴は一体?」
「さぁね。なんでもナツキを怒らせたいからあたしを襲ったみたいだけどね」
「姫を?」
「お前もナツキ・スライダーに近しい者だな」
拙者達が話しているとヒューキャストが口を開いた。
「だとしたらどうだと言うのだ」
「お前達二人をまとめてかたづける」
「何だと」
「冗談じゃない!」
だが拙者達が何を言おうとも奴は襲いかかってきた。
すんでの所で拙者は左、カナタ殿は右に避けたが、あの鎌のリーチの長さはあまりにも危険だ。
拙者は手裏剣をダガーに持ち替え、右側から背後に回り込むと相手に迫る
奴もそれを読んでいたようで背後の拙者に対して鎌を横になぎ払った。
しかし拙者は勢いを落とすことなく、身を屈め鎌を避けると奴の懐に入り込んだ。
そして左右のダガーで同時に斬りつけた。
だが、鎌の柄の部分で拙者の攻撃を防いだ。
「なに!?」
「なかなか良い考えだが、甘いわ!!」
「ぐはっ!」
奴はそのまま力業でダガーをはじき飛ばすと、拙者に蹴りを入れ吹き飛ばした。
そして鎌を構え拙者に近づいてくる。
「隙あり!」
その時、奴の頭上にカナタ殿が斬りかかっていった。
しかし……。
「甘いわ!!」
振り向き様に鎌でカナタ殿をなぎ払った。
カナタ殿はソードで鎌の攻撃を防ごうとしたが、鎌はソードを真っ二つにした上にカナタ殿をその柄で吹き飛ばし柵へと叩き付けた。
「グッ!」
「カナタ殿!!」
カナタ殿はショックで意識を失っている。
「次はお前の番だな」
奴はカナタ殿の様子を確認した後、再び拙者の方を見る。
このままでは二人ともやられてしまう。
カナタ殿は拙者と奴との延長線上にいる。
そしてカナタ殿の向こう側には柵があり、向こうのビルが見える。
となれば一つしか方法はない!
「てやぁぁ!!」
拙者はダガーを持ち直すと、捨て身で斬りかかる。
「遅い!」
奴は拙者の動きを読み鎌を振り下ろす。
拙者はそれを紙一重で避けると奴の右脇からすり抜ける。
そう思ったとき、奴の鎌は拙者の右腕を切り落とした。
「ぐあぁ!」
「右腕一本か」
拙者は痛みを堪えるとカナタ殿の元へと転がるように辿り着くと、そのまま左腕で抱きかかえ、柵を破って隣のビルへと飛び移った。
奴が追ってこないか一瞬振り向いたとき、拙者が破った柵からこちらをジッと見ているだけで追ってくる気配は無かった。
だが、拙者は今はとにかく逃げることだけを考えそのままギルド本部を目指し走った。
<あとがき>
絵夢「今回はゼロ君の話です」
恵理「わ〜ナツキちゃん立派だね。そしてゼロ君も立派」
絵夢「ゼロの場合は責任感が強いんだよね。ナツキは言いたいこと言ってるけどw」
恵理「確かにw」
絵夢「そんなわけで次回はナツキの番です」
恵理「ナツキちゃん2回目だね」
絵夢「これはここ夢でいうところのインターバルなんだけど」
恵理「なるほど〜」
絵夢「であまた次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」