NOVEL



ファンタシースターオンライン
『MEMORIES』

プロローグ


近代的なビルが建ち並ぶセントラルシティ。
そこから少し離れた丘陵地帯で長い銀色の髪のヒューマールと全身黒のヒューキャストがそれぞれ得意武器を持って対峙していた。
銀髪のヒューマールは右手にWセイバー、左手にセイバーの二刀流。
そして黒のヒューキャストは巨大な鎌。
お互い、相手の出方をうかがい構えたまま動かない。
その様子をヒューマールのパートナーの白いフォマールが少し離れた場所に座り込んで見ている。
永遠とも思える長い時間が流れる。
その時、強い突風が二人の間を駆け抜けた。
まるでそれが合図かのように二人が動く。
勝負は一瞬。
ヒューキャストが鎌を振り下ろそうとした瞬間、ヒューマールは左のセイバーで鎌を弾き、Wセイバーで3連撃をたたき込み、彼の胸に3本の深い傷を付けた。
そしてそのままその脇を通り抜け、ヒューキャストの後方まで移動し彼の様子をうかがった。
ヒューキャストはしばらく動かなかったが、鎌を落とし膝を地に付けた。
「勝負あり!」
ヒューマールのパートナーは嬉しそうに叫ぶ。
「さっすがカナタ!」
カナタと呼ばれたヒューマールは二本のセイバーをしまいながら苦笑を浮かべる。
「ハルカ、そんなことはどうでも良いから、あいつにレスタをお願い」
「了解!」
カナタがパートナーのハルカはそう言うと、彼女はレスタをかけるためにヒューキャストの方を見た。
「レスタなぞ不要だ!」
ヒューキャストは傷を手で押さえて立ち上がった。
「あの傷で動けるの!?」
ハルカは驚きの声を上げた。
「さすがは『黒狼』と言ったところだね。でも今日はもうやらないよ。殺し合いじゃないんだから」
「甘いぞ『銀の閃光』!」
『黒狼』は鎌を拾い上げるとカナタに襲いかかる。
「ったく……」
カナタは軽く溜め息をつくと、瞬時にWセイバーとセイバーを抜く。
彼女は鋭い眼差しで相手をぎりぎりまで引きつけると目にも止まらぬ早さで、『黒狼』の鎌を避けると同時に彼の横をすり抜けて背後へと移動した。
その素早い動きで光に反射した銀色の髪の輝きが残像となり目に残る。
それこそが彼女が『銀の閃光』と呼ばれる所以だ。
「っく!」
『黒狼』は目に残る銀の残像を振り払うように振り向いた。
その瞬間、両腕の肘から先が落ちた。
「な、なに!?」
「……『蒼空無心流 光牙』」
カナタは『黒狼』に背を向け剣を構えたままつぶやくように言う。
そして構えを解くと『黒狼』を見る。
アンドロイド故その表情は分からないが、その目には憎しみの色が浮かんでいるように見えた。
「それでもう今日は戦えないね」
「殺せ! 生き恥をさらす気は無い!!」
「往生際がいいと言いたいところだけど、あんたをこれ以上どうこうしようと言う気は無いよ」
「なに!」
「”ハンターズは決して人を殺さない”……それが私の持論なんでね」
「甘いぞ『銀の閃光』! 後で俺を生かしておいたことを後悔することになるぞ」
「甘くて結構。私としてもこんなことで持論を曲げる気は無いし、なんだったらいつでも相手になるよ」
「貴様ぁ」
カナタは『黒狼』から視線をはずすとハルカを呼んだ。
「帰ろっか」
「あのままでいいの?」
「あとでギルドに来てもらえるように手配すればいいよ」
「なるほど……それじゃ帰ろう」
ハルカが先行して歩き始め、それに続くようにカナタも歩き始める。
するとカナタは思い出したように足を止め振り向いた。
「一つだけ聞かせてもらえる?」
「なんだ」
「何で私に私闘を申し込んだの?」
「最強と言われる貴様を倒して名を上げるためだ」
その言葉を聞いてカナタは深い溜め息をつき、寂しそうな目で『黒狼』を見た。
「はっきり言って、あんた……馬鹿だよ」
「なんだと!」
カナタはその声に耳を傾けることなく、ハルカと共にその場を後にした。







18年後……。

大型移民船パイオニア2内民間居住区の外れに位置する一角。
とある雑居ビルの地下の薄暗い部屋で二人の男がいた。
一人は背が低い初老の男。
そしてもう一人は胸に3本の傷を持つ黒いヒューキャスト。
「俺に話とは何だ?」
「かつて『黒狼』と呼ばれ恐れられたあんただが、ずいぶんと落ちぶれたようじゃな」
「……何が言いたい」
「ギルドの依頼を普通にこなす毎日と聞いておるぞ」
「ふん」
『黒狼』は横を向く。
この男の忌々しい態度にいらつきもしたが、所詮は小物と半ば無視することに決めた。
「どうじゃ、名を上げたいと思わんか」
「何?」
「儂が開発した装置を使えば、お主の力は数倍に跳ね上がる」
初老の男は薄く笑う。
「……興味ないな」
『黒狼』は男に背を向け部屋から出ていこうとした。
「『蒼空無心流』の使い手がこの船に乗っているという話を聞いてもか」
その言葉を聞き、『黒狼』は足を止めた。
「その話は本当か?」
「最近仕入れた情報じゃが、お主もハンターズなら知っておろう。10ヶ月前の軍との合同訓練の話を」
「ああ……詳しくは知らんが、数人のハンターズによって軍の精鋭部隊が全滅したといか言う話だろ」
「あれはたった一人のレイキャシールに依るものらしい」
「なんだと!」
『黒狼』は驚きの声を上げながら男を見る。
「たかがレイキャシールごときにそんなことが出来る分けなかろう」
「じゃが事実のようじゃぞ」
「まさか、そいつが『蒼空無心流』の使い手というのか」
「その時の使用武器はWセイバーとセイバーらしい」
「……そいつの名は?」
「ナツキ・スライダー……『戦うメイド』とも『ゴールドアイ』とも呼ばれているレイキャシールじゃ」
「ナツキ……スライダー……」
そうつぶやくと『黒狼』は腕を組み考え始めた。
(奴の話は聞いたことがあるが、それほどの腕の持ち主とはな)
「ククククク……」
かつて名を上げるために辻斬りまがいのことまでやっていた頃の血(?)が騒ぎ始めていた。
「面白い……貴様の話、受け入れるぞ」
「そうか、ならば我が研究所まで来てもらえるかの」
「分かった」
『黒狼』は短く答えると初老の男についていった。



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<あとがき>
絵夢「『未来へのプロローグ』の続編『MEMORIES』スタートです」
恵理「『未来へ〜』の時に間を開けると言っていたのにもう始めちゃうのね」
絵夢「いや〜ほら、予定は未定であって決定ではないと言う言葉もあるし」
恵理「ま、いいけどね……」

恵理「前回はナツキの過去との決着がメインストーリーだったけど今回は?」
絵夢「今回は……内緒」
恵理「また〜?」
絵夢「ふふふ……私がそう言うことを話したことは無いはず」
恵理「それもそっか」
絵夢「うむ」

絵夢「では次回第一話を」
恵理「どうぞお楽しみに〜」
絵夢&恵理「それではまったね〜」