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ファンタシースターオンライン
『銀の光』

第9話 『力を貸して』


ナツキとハルカが追いついたときには既に第3エリアを半分までクリアした後であった。
合流したとき2人がやけにハイテンションな事が気になったが、無事な事と沈んでいるよりも良いと言うことでそのまま流された。
2人にしてみればあの一件を深く追求されなくて良かったと思ったが、ただハルカがナツキを『カナタ』と呼んでいることは突っ込まれた。
だが、2人はその問いに対してただ微笑むだけだった。
6人は首をかしげるが、それでも何も言わない2人にまぁいいかと言う風になった。

その後8人になってからもそれまで以上に順調に進む。
敵の動きは単調で一度でも倒し方のコツを掴むと非常に簡単なのかも知れない。
そして最後の扉の前に辿り着いた。

ここまで来るまでにあったリコのメッセージを聞いたナツキ達でもこの向こう側にいるもの……『ダークファルス』がいかなるものなのか想像できなかった。
分かることはそれは遙か遠い異文明の手によってこのラグオルに封印された1000年に一度甦る破壊神だと言うこと。
そしてリコは一人でそれを倒しに言ったと言うこと。
そして恐らくリコは……。
それでも進むしかない。
もう後戻りなど出来ないところまで来てしまっているのだから……。

「カナタ……」
扉の前に立つナツキにハルカが心配するように声をかける。
「どうしたの? 怖くなった?」
ナツキは肩越しにハルカを見て軽い調子で言う。
「まさか。私よりもカナタはどうなの?」
「調子良いよ」
「そう、それなら良いわ」
ハルカの言葉にナツキは片手を上げて答える。
そんな2人のやりとりにソラは首をかしげハルカに話しかけた。
「あの……何かあったのでしょうか?」
「別に何もないわよ。どうして?」
「あ、いえ、今の会話を聞いて何となくそんな気がして……」
「そう……少し考え過ぎかな?」
「そうですか?」
「うん」
ハルカはそう言うとソラから離れナツキの隣に並び、ナツキにだけは分かるようにクスクスと笑う。
そんな彼女にナツキは「ん?」と思い、ハルカ以外に絶対に聞こえないほど小さい声で聞く。
(どうしたの?)
(勘が良いなぁと思って)
(ソラのこと?)
(ええ。よっぽどカナタのことが心配なのね)
(ハルカも十分慕われてるよ)
(そうかな?)
(うん♪)
ナツキはそこで小さな会話を打ち切ると振り向いた。
「今から扉を開ける。そこでもう一度確認をする」
そこで一度言葉を打ち切り、全員の顔を見る。
誰もがその表情の奥に不安を隠し、武器をしっかりと握りふるえを止めている。
「良いね!」
「「「「「「おお!!」」」」」」
その言葉にナツキは勢いよく振り返りながらハルカを呼ぶ。
「私はいつでも準備オッケ!」
「いっくよ〜〜〜! 炎と」
「氷の」

「「ミラージュ!!!」」

ナツキとハルカは合体テクニックで扉を破壊する。
扉の向こう側に何がいるか分からない、どんな歓迎をしてもらえるか分からないからこそ使った。
確かに第一エリアで使った物よりも半分以下まで威力を押さえたものだったが、それでも破壊力は十分だろう。
全員、武器を構え破壊と共に舞い上がる砂埃の向こう側から何が出てきても良いように警戒する。
そして何も起きないまま砂埃が収まると扉を中心に壁も一緒に破壊して巨大な穴が開いていた。
「拍子抜け……」
ナツキはつぶやく。
恐らくそのつぶやきは全員共通の意見であろう。
「姫、先行します」
背後に控えていたゼロとレンとケイのハンター3人が足を踏み入れる。
それに続きレッドとフユとソラ、最後にナツキとハルカが続く。

「これは……なに?」
レンが拍子抜けしたように言う。
そこに広がる光景……澄んだ青空と緑の草原が広がっている。
空には雲が流れ、草原には蝶が舞う。
そして草原の中央に高い塔がそびえ立つ、そんな平和な空間だった。
まるで扉をくぐった途端、別の世界に飛ばされたような感覚だ。
「幻でも無いようね」
ハルカは確認するように草原を踏みしめ、飛んでいる蝶を優しく捕まえすぐに離す。
先を歩くレッドが振り返りナツキに聞く。
「どうしますか?」
「どうすると言われても……ダークファルスとかいう奴はリコが倒したのか、それともここは奴のいる場所じゃないのか……どちらにしてもあの塔が気になるよね」
ナツキは塔を見据える。
「拙者達が調べてきます」
「このままじゃつまらないしね」
「何かデータが取れればヒントになる」
先頭を歩くゼロ達3人がそれぞれそう言うと塔へと近づいていった。
「気をつけて、何が出るか分からないからね」
ナツキは注意を促すが、3人は「了解」と軽く答えるだけ。
「ナツキさんは心配性ですね」
フユが楽観的に言う。
「いかなる状況でも最悪のケースを考えるそれがハンターズとして必要なものだと……っ!!」
ナツキが「思うよ」と言おうとした時、突然立っていられないほどの大地震が起こった。
そして地震が収まったとき景色が一変する。
「これは……」
ナツキは口の中でつぶやく。
青空は厚く真っ黒い黒に被われ、草原は荒野……いや不気味な顔が一面を被った巨大な岩盤と化していた。
その光景を目の当たりにして誰もが信じられないと言った様子だ。
ナツキは中央にそびえ立つ塔の下で呆然とする3人を呼んだ。
「何をしたの!!」
「拙者達は塔に触れただけでござる」
「触れただけ……3人とも塔から離れて!!!」
塔が微妙に揺れるのを見たナツキは叫んだ。
その声に3人は慌てて離れると同時に塔は消え、変わりに巨大な怪物が姿を現した。
その姿は足下に三首の竜とその上に乗る巨大な黒い人の形をした怪物だった。
「これがダークファルス……ハルカ!」
「ダメ、3人が近すぎる!!」
ナツキの意図をすぐに理解したハルカが状況を簡潔に説明する。
「くっ……」
ナツキはそう呻くと腰のリボンからヴァリスタと赤のハンドガンを抜く。
それを合図に、全員武器を構え攻撃を始める。
ハルカ達フォースは最後方で回復と補助テクニックを、中距離にいるナツキとレッドが銃器で援護、そしてもっとも近い場所にいるゼロ、レン、ケイが竜の頭を攻撃する。

最初は向こう側の反撃が無いため、楽勝と思われた。
しかし、ダークファルスは動きを止めるとその両手を上げ、光を上に向け発射する。
それを見たナツキは咄嗟に「みんな、避けて!!!」と叫ぶ。
すると直後、光の柱が降り注いできた。
ナツキの叫びで被害は無かったものの、直撃を喰らえば無傷ではすまないのは一目瞭然だろう。
「何て奴だよ! ナツキさん、なにかいい手はないですか!」
「あったら苦労しない!」
レッドの問いにナツキも投げやりな答え方しか出来ない。
それほど誰もが追いつめられている。
「とにかく前にいる3人を援護するしか無いでしょ。とりあえず竜の目でも狙ってみたら」
「ちくしょう……くたばれ!!!」
レッドは武器をファイナルインパクトからジャスティ−に持ち帰ると、ナツキの言うとおり竜の目を狙って撃つ。
一発や二発では弾かれるが、何発も同じ場所に撃ち込むと目を一つつぶすことに成功した。
「結構これって効きますね」
「さっき見つけたばかり。やっぱりそっちの方が威力あるみたいね。こっちはまだ傷つけただけだから……よっと!!」
ナツキも反対側の目をつぶす。
「ゼロ!レン!ケイ! 3人とも竜の目をつぶして!!」
その声に3人は竜の目を集中攻撃する。
「?」
その時ふと視線を上げた先に赤く光る何かを見つけた。
「あれって……レッドリング?」
「どうしたんです?」
「あいつの顔の付近に人の上半身みたいのが生えてるよね。その右腕らしき場所に……」
「あれは……まさか!?」
「そのまさかだよね」
「どうすれば……」
レッドは攻撃の手を休めることなく呻く。
ナツキもそれ以上何も言うことなく攻撃を続ける。
6つの目が全てつぶれたとき、ダークファルスはまるで三首竜を捨てるかのように切り離し上半身を浮かび上がらせた。
そしてナツキ達の周囲をグルグルと周り様子をうかがっているようだ。
「このぉ!」
レッドはコンバットに持ち帰ると、ダークファルスの下部にある赤い固まりを攻撃する。
それに続きゼロ達も同じように狙う。
フユとソラはその後ろで回復と補助テクニック、そして合間に攻撃テクニックで攻撃している。
その後ろでナツキはジッとダークファルスの動きを見ていた。
そこへハルカが慌てて駆け寄る。
「カナタ!」
「ハルカ……あの顔のあたりにあるレッドリングに向けて撃つよ」
「え、レッドリングって……あれってリコじゃないの? カナタ!」
ハルカはナツキの指摘にダークファルスを見て初めてそこにレッドリングを右手にはめた人の上半身らしき物が生えているのを見た。
そしてすぐにそれがリコだと理解した。
「このままじゃリコが可哀想でしょ。彼女の魂を解放してあげないと……」
「だけどカナタ……」
「!!」
ナツキは迷い俯くハルカの身体を掴んで横に飛ぶ。
その直後、光の柱が降ってきた。
ナツキは前方で戦う6人を見て全員無事なことを確認する。
「迷っている暇は無いんだよ。今やらなきゃいけないんだ!」
「カナタ……分かったわ」
2人はスクッと立ち上がると構える。

「炎と!」
「氷の!」

「ミラージュ!!」

2人が放ったそれはまっすぐダークファルスのレッドリングに……リコの上半身に当たる。

ウガァァァァァァァァ!!

ダークファルスは咆哮を上げその場に崩れた。
あたりに静けさが戻る。
巨大な亡骸の周りに立つ6人はただ呆然と「終わったのか……」とつぶやくだけであった。
そして少し離れたところに立つナツキは小さな声で「ごめん……リコ」とつぶやいた。
しかしその直後、死んだと思われたダークファルスは全身に光をまとい、空へと舞い上がった。
「まだ終わる気は無いわけなのね!!!」
ナツキの叫びにダークファルスは彼女の反応よりも速いスピードでその両手に備えられた巨大な鎌を振り下ろした。
「!?」
ナツキは咄嗟に後ろに飛ぶが間合いが近すぎた。
「カナタ!!」
その声と共にハルカがナツキを横へ突き飛ばす。
そして真っ白な服が赤に染まった。

「ハルカ!!!」

ナツキはすぐに体勢を立て直すとハルカの元に駆け寄る。
他の人達も駆け寄ってきた。
「くそぉ!! 俺が引きつけるその間にレスタを!!」
レッドは空中に浮かぶダークファルスに攻撃しながら引き離しにかかった。
「拙者も行くでござる!!」
「もちろん!!」
「許せない……」
レッドに続きゼロ達も続いた。
「ハルカさん!!」
ソラとフユはレスタをかける。
そしてレスタが使えるナツキもすぐに彼女の傷にレスタをかける。
何度も何度も……自分達のTPがそこをつくまでかけ続けた。
だが、出血を止めることが出来ず、ハルカの周囲が真っ赤に染まっていく。
「どうして傷が塞がらないの! どうして……」
その時ハルカがゆっくりと右手を挙げるとナツキの手を握った。
「カナタ……」
「ハルカ!」
「シフ…タ……デバ…ンド……」
その弱々しい声と共にナツキの身体がシフタの赤の光とデバンド青の光に包まれた。
「ハルカ!!!」
ナツキはハルカの右手をしっかりと両手で包み込んだ。
「たた…かって……わたしは…だいじょう…ぶ……だから……」
「だけど!」
「わたしの……だいすきな……カナ………タ…………」
ハルカは微笑みながらそう言うとガクッと首がうなだれスッと手から力が抜けた。
「ハルカ? ハルカ……ハルカ!!」
その声にハルカは答えない。
「そんな……」
ナツキはしばし俯くとパッと顔を上げ立ち上がり、ダークファルスを睨み付ける。
「「ナツキさん!?」」
「ソラ、フユ……ハルカをお願い」
そう言い残すと、両肩からセイバーとダブルセイバーを抜き銀の刃を放出するとまっすぐに歩き始める。
「ハルカ、敵は取るよ。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
降りかかってくる巨大な刃を避け、飛んで斬りかかる。
「「「「ナツキさん(姫)!!」」」」
レッド達はナツキの戦鬼さながらの戦いぶりに圧倒されていた。
「姫、無茶しすぎでござる!!」
ゼロはナツキに近づきながら叫ぶが、その声はナツキの耳に届いてないようだ。
「レッド殿、我らは姫乃援護に徹しよう!!」
彼はすぐに援護に切り替える。
レッド達もナツキの援護をすることにした。
「かたじけない!」
「な〜に良いって! 俺もナツキさんと同じ立場なら同じ行動を取るだろうしな。しかし彼女、すごいな」
レッドはナツキの戦いぶりに驚きの声を上げる。
「拙者も初めて見るでござる」
「なるほどな……来るぞ!」
ゼロとレッドはダークファルスの攻撃を左右に分かれ避けた。

「くそ!!」
ナツキは一向にダメージらしいダメージを与えることが出来ずいらだっている。
普段冷静な彼女だがハルカを殺された憎しみと悲しみで我を見失い掛かっていた。
それがさらに焦りを産んでいる事に今の彼女に気づくよしもない。
すると、ダークファルスの背後に隙を見つけた。
ナツキは絶好のチャンスとばかりにそこに斬りかかっていった。
だがそれこそが罠でダークファルスはその左腕の刃でナツキを襲う。
「!!」
ナツキは咄嗟に銀の刃をクロスさせ敵の刃の攻撃を防ぐ。
しかし威力までは止めることが出来ず吹き飛ばされ、背後の岩の壁に叩き付けられた。
「「「「「「ナツキさん(姫)!!!」」」」」」
全員の叫び声がナツキの耳に届く。
しかしそのまま岩壁のふもとへ落ち、うつぶせの形で倒れた。
ナツキは痛みに耐えゆっくりと立ち上がるとシステムチェックをかける。
その結果が出るまでの間、ダークファルスの周りで戦う4人と離れたところでハルカの側にいる2人を見る。
「どうすれば……」
その時、視界が歪む。
そればかりか、身体のあちこちが動作不能に陥っていくのが分かった。
「そんな……こんな時に……」
ナツキは膝から崩れた。

「ナツキさん?」
ハルカの側にいるソラがナツキの様子がおかしいことに気づいた。
「フユさん、私ナツキさんの所に行ってくる」
「え……あ、はい。分かりました」
ソラはダークファルスの動きに警戒しながらナツキの元に駆け寄る。
「ナツキさん! ナツキさん!!」
膝を地に着き、両手をだらりと下に下げ、俯いた状態のナツキの身体を揺すり何度も名前を呼ぶ。
だが一切反応を示さない。
そう言うこうしている間にナツキの紫の瞳から光が消えようとしていた。
「ナツキさん!!!」
ソラは自分に出来る限るのレスタやシフタ、デバンドをかけ続けた。
ナツキの瞳に光を取り戻すために。

暗闇の中に閉じこめられたナツキ。
そのナツキの前に黒き鎧まとった男が立つ。
『まだ寝るには早いんじゃないか?』
(だれ?)
『いきなり誰かよ。俺のことを忘れたのか?』
(リューク?)
『他に誰がいるんだよ』
(だって……リュークは……)
『お前がやばいときにおちおち寝てられるか。俺はいつだってお前の側にいるんだからな』
(リューク……)
『リュークだけじゃないんだけどね』
その声にナツキが振り向くと白い服をまとった女性が立っている。
(ハルカ……)
『な〜に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているの?』
(だってハルカはさっき……)
『こうして私もあなたの側にいるんだよ』
(リューク……ハルカ……)
リュークとハルカはナツキの微笑みかける。
『カナタ、身体が動かないのなら俺が動かしてやる』
『目が見えないのなら私が目の替わりをしてあげる』
『『だから行こう!』』
(うん!)
ナツキは2人が差し出した手を握り立ち上がった。

「ナツキさん?」
突然立ち上がったナツキにソラは驚いた。
「ナツキさん、もう何とも無いんですか?」
しかしその問いにナツキは答えることなく歩き始める。
ソラは慌ててナツキの後を追いかける。
しかし、その横顔を見たときソラはそれ以上前に進むことが出来ず、口を押さえその場に座り込んでしまった。
ナツキの瞳の光は完全に消え去っていた。
睡眠モードの時ですら完全に消えることのない瞳の光……それが消滅していることの意味は一つしかない。
「ナツキさんまで……まさか……なんで……なんでなの!?」
ソラは涙を流しながらナツキの背に叫んだ。

「ナツキさん?」
ダークファルスの正面に立つナツキの姿を見てレッドはぎょっとした。
彼女の両脇に黒と白の二つのもやの様な物が見えたからだ。
「一体何をやろうとしてるんだ……」

ダークファルスの真正面に立つとナツキは右手に持つダブルセイバーを水平に構える。
(リューク、ハルカ、力を貸して)
『当然』
『もちろんよ』
ナツキの両脇に立つ2人がダブルセイバーを持つ右手に手を重ねる。
するとリュークがいる側は銀から黒曜石の輝きを持つ刃を、ハルカがいる側は銀から氷の無色透明の輝きを放つ刃へと変わった。
ナツキは左手に持つ銀の刃を持つセイバーを十字に合わせる。
(行くよ!!)
『おお!』
『ええ!』
ナツキはまっすぐにダークファルスに斬りかかっていく。
『カナタ、上から来るわよ!』
『カナタ、奴の腕に飛び乗るぞ!』
(ええ!!)
上から降りかかってくるダークファルスの右腕を上へ飛ぶことで避けると、その腕に立ち三つの心の色を放つセイバーとダブルセイバーを構える。
ナツキの目となったハルカ、ナツキの動きをサポートするリューク、そして2人の力を借り戦うナツキ。
今3人は一つになったのだ。
『コアはあそこよ!』
『一気に行くぞ!』
(覚悟ぉ!!!)
ナツキは右腕を駆け上ると、ダークファルスの頭の上に立ち、コアのある頭頂部に銀の刃を突き立てる。
(リコ! 今解放してあげる!!!)
そしてダブルセイバーを振るい、そのコアを完全に破壊した。

ウガァァァァァァァァァァァァァ!!

空間全体にダークファルスの最後の咆哮が響き渡る。
それと共にダークファルスに囚われていた無数の魂が天へと昇っていく。
その中にリコの姿もあった。
リコはこちらを向くと(ありがとう……)と口を動かし、他の魂と一緒に天に昇っていった。
ナツキはそれを見上げていると、両手に持っていた二本の柄もまた光の粒子に戻っていくことに気づいた。
(……お疲れ様)
そう柄に別れを告げると、ナツキは魂の解放と共に消滅するダークファルスから地面へと落下を始める。

「やばい、落ちてくるぞ!」
真っ先にレッドが走り出す。
それに続き、動ける者全てが真下に駆け寄る。
だが、ナツキの身体は光に包まれ空中で止まっている。
そしてその場にいる全ての者達が見た。
「ハルカ殿とリューク殿?」
その光の中にいる者達の名をゼロはつぶやく。

落ちていこうとするナツキの両腕をハルカとリュークが掴んだ。
『よく頑張ったな、カナタ』
『お疲れ様、カナタ』
(うん、2人のおかけだよ。私一人じゃ勝てなかった)
『だが、俺達2人でも勝てなかった』
『私達3人で勝ったんだよ』
(そうか……そうだよね、リューク、ハルカ。ねぇ私もそっちに行って良いかな?)
『ああ』
『ええ』
ピシピシっとナツキの全身に細かいひびが入る。
すると内側から銀髪の少女−カナタがサナギから脱皮するかのように抜け出した。
カナタは嬉しそうに笑いながら2人に抱き付き、リュークとハルカもしっかりと彼女を抱きしめる。
そして3人は一つとなり天へと昇っていった。











天へ昇る光が消え、空間はもとの薄暗さに戻る。

ソラはフラフラと立ち上がるとゆっくりとナツキが消えたと思われるところの真下まで歩く。
するとコツンとつま先に何かが当たる。
ナツキの胸のエンブレムだった。
彼女の身体は空中で砕け散ったが、それだけは無事だったようだ。
ソラは腰を下ろしてそれを拾い上げると、両手で包み込んで嗚咽を漏らした。

ソラを見ながらその場に腰を下ろしたレッドは再び上を仰ぎ見る。
「俺達は夢を見ていたのか。それとも幻か?」
彼の問いにゼロが答える。
「幻でも何でもなく現実でござるよ。姫はお二人の魂と共にダークファルスを倒した……」
「だからって死んじまったら意味が無いだろう……」
唇を噛み締め言うレッドにゼロは無言で答えた。

「こんなのデータには無い」
空を見上げ立ちつくすケイは小さくつぶやく。
そんなケイにフユが声をかける。
「無理にデータ解析しなくても良いんじゃないかな?」
「しかし……」
「ありのまま……それが良いこともあると思うんだ」
フユは空を見上げる。
「ありのまま……」
ケイもフユに視線を追って再び空を見上げた。

「ナツキ…さん……ハルカ…さん………」
エンブレムを抱きしめたまま、泣くの我慢して嗚咽を漏らし続けるソラの隣にレンが座る。
「ソラ……」
レンは無言でソラを抱きしめた。
「……レン?」
「大切な人達が死んだんだよ。泣くのを我慢せずに思いっきり泣けば良いんだよ!」
「レン……私……私……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
ソラはレンの胸で堰を切ったように泣き出した。
「今は思いっきり泣いていいんだよ……ソラ。泣き疲れて休んだらまたたくさん喧嘩しようね」
レンはそうつぶやくとソラと一緒に声を出して泣く。
人の目を気にすることなく、大切な人達の死を悲しんだ。
そして2人の泣き声はこの広い空間にいつまでも響き渡っていった……。



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<あとがき>
恵理「・゚・(ノД`)ノ・゚・」
絵夢「と言うことであとはエピローグを残すばかりとなりました」
恵理「鬼!悪魔!」
絵夢「いきなりこの娘は何を言いだすかな」
恵理「そりゃナツキが死ぬのはなんとなく予想してたけどハルカまで殺す人がいますか!」
絵夢「いや、ここにいるわけだが」
恵理「マスターはむちゃくちゃ酷い人だ!!」
絵夢「右から左へ〜」
恵理「もうしらない!!」

絵夢「どっかいっちゃった。ま、いいかそんなわけで次回エピローグをお楽しみに〜」