NOVEL



ファンタシースターオンライン
『未来へのプロローグ』

第二話 「どうしろっていうのぉぉ!!!!」


「さぁていっくよ〜!」
ナツキは転送ゲートの前で元気良く叫んだ。
朝の不機嫌さは何処吹く風か、本調子に戻っている。
「ナツキさん、頑張りましょうね」
「あったりまえだよ〜。
ところでソラ、詳しい依頼内容聞いてないんだけど、誰を捕まえるの?」
「えっと……」
ソラはポケットから端末を取り出すと依頼内容を表示した。
「軍からの依頼で、ラグオルに逃亡した凶悪犯人の逮捕」
「ラグオルに逃亡って……まさかここから逃げたの?」
ナツキは目の前にある転送ゲートを指さしながら呆れたような声で言う。
パイオニア2に設置されている転送ゲートは軍の管轄にあり、ハンターズ以外の許可のない民間人は使用できないことになっている。
「どうやらハンターズに扮して使用したみたいですよ」
「……ザルね」
転送ゲートの両脇に監視の為に立つ軍人二名を見ながらつぶやく。
その声が聞こえたのか二人はナツキから視線を逸らし歯ぎしりしていた。
「ま、いいわ。んで犯人の特徴は?」
「それがよく分からないの」
「は?」
「詳しい情報をもらえなくて……」
「なるほど……軍にとっては汚点だもんね。
あわよくば自分たちの手でとでも考えてるのかも」
「それで情報制限を……」
「あくまでも私の仮説ね。それで公開されてる情報は?」
「全身黒ずくめの女性ニューマン」
「あとは?」
「それだけ」
「……まじ?」
「はい」
「………」
「………」
二人の間に沈黙が流れる。
そして……。
「あんたらねぇ!! それだけでどうしろっていうのぉぉ!!!!」
「ナツキさん、止めてください! そこにいる人たちは関係ないんですからぁぁ!!!」
ゲートを監視する軍人に八つ当たりしようとするナツキとそれを止めるソラ。
ナツキが軍が絡む依頼を受けたときにいつも繰り広げられる光景のため、周囲にいる人たちもあまり気に留めていないようだ。
二人の軍人も毎度のことなので馴れているらしくあまり気にしないようにしているようだ。
それでも顔が引きつり冷や汗を流しているが……。

三十分後、なんだかんだあったあげく、半ばソラに引きずられるようにゲートをくぐりラグオルへと降りていった。
そしてその光景を黙って見送った二人は……。
「なぁ、今のがギルドとの合同訓練で五十人以上を病院送りにしたって言うレイキャシールか?」
「ああ、俺もその場にいたからな……」
「話を聞くと、その時レンジャーなのにWセイバーとセイバーの二刀流だったとか……」
「それも相当の腕だったよ。下手なハンターじゃ勝てないかも知れないな」
「それでなんでレンジャーなんだ?」
「知るかよ。とにかく手を出してはいけない奴ではあるけどな」
「そうだな……」
そう言葉を交わすと溜め息をついた。


ナツキとソラが転送ゲートで惑星ラグオルへ降りていった頃、ハンターズギルドの管理運営を統括している事務室の一角。
そこではこの部屋で一番偉いと思われる女性が、モニターに刻々と映し出される情報を整理していた。
彼女の名前はハルカ・フローラ。
フォースの女性ヒューマンでフォマールと呼ばれている。
彼女は五年前までハンターズの一員として活躍していたが怪我で引退。
それからは二十年間のハンターズとしての経験を活かし、ギルドで後方から若いハンターズ達の手助けをしている。
そして今彼女がしているのは各方面からのギルドへの依頼の確認と、それを請け負ったそれぞれのハンターズの確認である。
「ふう」
一息ついたのかモニターから目を離し背筋を伸ばす。
「フローラ室長、お疲れですか」
女性事務員がコーヒーの入ったカップをハルカの机の上に置きながら言う。
「そうね……」
カップを取り一口飲む。
「一日中モニターを眺めているからストレスが溜まる一方ね」
ハルカはそう言うとフフと笑う。
女性職員もそれにつられるように「そうですね」と微笑んだ。
「ところでユーリ、あの軍からの依頼を受けた人がいるようね」
「はい、フォマールのソラが受けたようです」
ユーリと呼ばれた女性職員は自分の端末を開き、ハルカに報告した。
「そう……と言うことはナツキも一緒ね」
「先ほど入ってきた報告に寄りますと、ナツキは情報を出し惜しみする軍に対する不満をゲートを監視する二名にぶつけていたようです」
「ふふふふ……ナツキらしいわね」
「ですが、これでまた抗議文がこちらに来ると思うと……」
「まあ良いんじゃないかしら。もともと軍とギルドは仲が悪いわけだし」
「室長……」
上司の冗談とも本気とも取れる発言にユーリは困った顔をした。
「ところで二人は?」
「はい、その後無事ラグオルに降りたようです」
「そう……ところで犯人の情報を軍はまだ出し惜しみしてるの?」
「はい」
「仕方ない人たちね……」
ハルカは軽く溜め息をつくと、目を閉じ右手を軽く握って口元に当て考えるポーズを取る。
その間ユーリはジッと待っていた。
しばらくして目をゆっくりと開けると立ち上がりユーリの方を見た。
「ユーリ、後のことを頼めるかしら」
「室長どちらへ?」
「軍の方へ」
「それなら誰か適任者を選出した方が……」
「こう言うのは私が行った方が良いのよ。それにここだけの話、軍の弱みを握ってる人間の方が交渉に向いてるでしょ」
「ですが……」
ユーリは何とかハルカを止めようとするが、一度言い出したら聞かない人だと言うことを重々承知している彼女は渋々承諾した。
「くれぐれも危険な事はしないでくださいね」
部屋から出ていくハルカに一応釘を刺しておく。
「大丈夫よ。後のことお願いね」
「はい」
ハルカは軽い足取りで部屋を出ていく。
そしてユーリとこの部屋にいた他の職員達はその後ろ姿を不安そうに見送った。


ラグオルに降り立った二人を待っていたのは凶暴化した原生生物の大群であった。
「まぁなんとなく分かっていたけどね」
巨大な石の上でナツキはまるで他人事のようにつぶやく。
「そうですね……ギフォイエ!」
ソラは追いかけてくるブーマ達に火炎系テクニックを放ち燃やす。
「だからってエネミーのど真ん中に転送することも無いと思うの」
雲の流れを見てぶつぶつ言うナツキ。
「私もそう思います……ラゾンテ!!」
今度は後方から現れたゴブーマに雷撃系テクニックを放ち倒す。
「やっぱりこれって軍の陰謀かしら」
ナツキは軽く溜め息をつきながら言う。
「きっとそうですよ……ラフォイエ!!」
再び現れたブーマに先ほどよりも強力な火炎系テクニックで倒す。
「あの合同訓練のことを根に持ってるのかなぁ……」
ナツキは遠い目で当時の事を思い出しているようだ。
「さぁ、私には分かりませんけど……ラバータ!!」
周囲に現れたジゴブーマの足を止めるために最大の氷系テクニックを放つ。
「だとしたらよっぽど根暗の集団だよね」
ナツキは再び深い溜め息をつく。
「あのナツキさん……」
そんなナツキをソラは少々苛ついた声で呼んだ。
「なに?」
ナツキは世間話でもするかのように返事をする。
「真面目にやってもらえませんか?」
「ん〜面倒だしなぁ」
「あのですねぇ……」
「動き出したよ」
その言葉通りラバータの効力が切れ、ジゴブーマがこちらに向かって歩いてきた。
それどころかブーマやゴブーマまで現れた。
「ああ、もう! ラバータ! ラバータ! ラバータ!!」
「TPの無駄遣い……」
「仕方ないじゃないですか!!」
「しょうがないなぁ……せぃの、あったれ〜〜〜!!」
ナツキはショットを構えるとラバータで凍り付き動けなくなった20匹はいると思われるブーマ系の大群を数発で一掃した。
「最初からそれをやってもらえると助かるんですけど……」
「だけど私がやっちゃったら、ソラの為にならないよ」
「う……それはそうですが……」
「それにブーマ程度、一人で何とか出来るようにならなきゃ」
「そうですよね……私、まだ弱いから……」
ソラはナツキに指摘され途端に弱気になる。
「それよりも、はい」
ナツキはソラにTP回復薬を手渡した。
「え……これってトリフルイド……」
「まっね」
「ありがとうございます!」
ソラはすごく嬉しそうにトリフルイドを貰い服用した。
まだハンターレベル60前後のソラにとってそれは貴重で高価な薬であった。
そのため、ナツキからの贈り物はとてもありがたい物だった。
「それよりもソラ」
喜ぶソラをナツキは真剣な顔で呼ぶ。
「あ、はい!」
「私が前衛に立つから、シフタ、デバンド、ジェルン、ザルア頼める?」
ナツキはソラに4つの補助テクニックを頼んだ。
「任せてください! ピンチの時はレスタだってかけまくっちゃいます!」
「ありがとう」
「がんばります」
「ふふ」
ナツキはそんなソラに微笑む。
「!?」
その瞬間ナツキの右目が金色に変わり、左手で腰のリボンに収納されているハンドガンを抜き、そして目視距離15m程向こうに現れたウルフを撃ち抜いた。
「ほへ?」
一瞬何が起こったか分からなかったソラは目を丸くし驚いている。
「ソラ……シフタだけお願い」
静かな声。
「はい……シフタ!」
ソラはナツキに言われるままシフタをかける。
そしてシフタの発動と共に二人の身体が赤の光に包まれた。
シフタによって攻撃力が増したナツキは次々と現れるウルフをどんどん打ち抜いていく。
ソラはその様子をただただ眺めていることしか出来なかった。
ナツキの金色に光る右目を見つめたまま……。
そして数分後……。
「ふう……」
軽く息をつくと緊張を解き左手に持つハンドガンを収納する。
「終わりました?」
ソラはおそるおそるナツキに尋ねる。
その時にはナツキの右目は元の紫に戻っていた。
「うん、センサーに反応が無いからね。このエリアにはもういないよ」
「よかった……」
「あのねぇ……エネミーにいちいち怖がっていたらハンターズなんて出来ないよ」
安堵の息を吐くソラにナツキは先輩として忠告する。
だがソラは彼女の言葉を首をふって否定した。
「違いますよ」
「なにが?」
「ナツキさんです」
「私?」
「いつも思うんですけど、ナツキさんの右目の色が変わるとなんか雰囲気が変わって怖いんです」
「え、そう?」
ナツキはソラの言葉に無意識のうちに右目に手をやった。
「……はい」
「そっか……」
そう言うとナツキは少し沈んだ表情になった。
「ご、ごめんなさい。わたし……」
「いや、いいよ。
それに目の色が変わるときはそれだけ私が戦闘に集中してる証拠だから」
「そうなんですか?」
「そうだよ。だから安心して、ね」
まるで幼子をあやすような優しい声でソラに言う。
ソラもまたその言葉に安心したのか「はい」と答えた。



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<あとがき>
絵夢「ついにラグオルにおりました〜」
恵理「あの〜専門用語が多くてわかりませ〜ん」
絵夢「PSOをやってください」
恵理「あう〜」

絵夢「そんなわけこれからエネミーとの戦闘シーンが増えそう……」
恵理「マスターってそう言うシーン苦手だもんね」
絵夢「うい……勉強しないと……」
恵理「がんばってね〜」
絵夢「なんとかしてみるわ」
恵理「うんうん」

恵理「ところでナツキってなんか秘密が多くない?」
絵夢「そりゃ、ヒロインだから、秘密の一つや二つや三つ以上あるでしょ」
恵理「そ……そうなんだ(^^;」
絵夢「うむ。ちゃんとその当たりも書くので大丈夫よ〜」
恵理「ホント、マスターって風呂敷を広げるのが好きだよね」
絵夢「うん!」
恵理「言いきちゃったよ……(-_-;」

絵夢「であまた次回までお楽しみ〜」
恵理「まったね〜」