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ファンタシースターオンライン
『未来へのプロローグ』

第六話 「……さよなら」


ある程度二人が落ち着くとナツキは身体を離した。
そして後ろで待っているソラへと寄っていった。
「まるで保母さんですね」
「……うるさい」
ナツキが少し照れてるいるのが分かるとソラはクスと笑った。
「何?」
「いえ何でもありませんよ」
「ふ〜ん……」
「ふふふふ」
「まぁ良いわ……二人とも、いつまでそこに立っている気?」
軽く溜め息をつくと、振り向きまだ立ちすくんでいる二人の声を掛けた。
「えっと……」
「あの……」
カエデとエアはどうしたらいいのか分からない様子だ。
「全く……呼ばれたらすぐに来る」
ナツキはやや強い口調で言う。
「「は、はい!」」
慌てて駆け寄る二人だが先ほどのことがあり気落ちしている感じがする。
「本当ならすぐに上に戻すんだけど、二人に協力して貰わなきゃいけないことがあるの」
「「え?」」
その言葉に二人は顔を上げ、ナツキ達を見た。
「二人にやって貰う事って?」
ソラも疑問に思ったらしくナツキに聞いた。
「たぶんこの先に中年ハゲ豚親父のせいで大けがしてる連中がいると思うの」
「ああ、なるほど」
納得したようにソラはポンと手を叩いた。
だが、カエデとエアは互いに顔を見合い、?マークを浮かべている。
そんな二人にややあきれ顔にナツキは軽く溜め息をついた。
「まぁ良いわ……行けば分かると思うから」
「ナツキさん……溜め息の数だけ幸せが逃げるそうですよ」
先ほど同じように溜め息をつき、同じような言葉を言うナツキにソラがぼそっとつぶやいた。
「幸せか……あまり興味ないな……」
ナツキは遠い目で寂しそうにつぶやく。
3人はそんな彼女の意味深なセリフに顔を見合わせた。

4人はエネミーに気を付けながら道を進み、ドアを抜け円形の広場に出る。
広場のあちらこちらが火炎系テクニックで焼かれたらしく地面や木々が焦げている。
そしてその中で傷ついた軍人達がうめき声を上げていた。
「これって……」
「ひどい……」
カエデとエアはその様子にそうつぶやき言葉を失った。
そんな二人と対照的にナツキとソラは周囲を見回して、敵がいないかどうかを確認する。
ここがベテランと新人との差なのかも知れない……。
「ソラ、怪我人にレスタを」
「了解」
そう短く答えるとソラは怪我人達のもとへと向かう。
それを確認すると今度は二人を呼んだ。
「カエデ、エア!」
「「は、はい!」
「二人にはここにいる怪我人たち全員をパイオニア2へ運んで欲しいの。今、ソラが応急処置をしているから順にお願いね」
「「分かりました」」
二人は転びそうになりながらもソラの後を追った。
ナツキは二人がソラのもとに向かうのを見送ると、円形広場の一番奥に座り込む男に近づいていった。
彼女が男の前に立つと、その影に気づいたのか顔を上げた。
「やっぱりあんたか……カルダ隊長」
ナツキはまるで顔見知りのように男に言った。
「『ゴールドアイ』か……良く俺の名前を覚えていたな」
その男の言葉に一瞬顔をしかめたが、すぐに真顔に戻す。
「忘れる分けないよ。あの合同訓練の時に最後まで私に戦いを挑んで来たんだから」
「そう言えばそうだったな……。
おかげで俺の部隊は壊滅……未だに定数も揃えられず、新兵を引き連れてやってきたが、ご覧の様だ」
男は悔しそうに言う。
「中年ハゲ豚親父のおかげでずいぶんと苦労しているようだね」
「中年ハゲ豚………くくくくく……あはははははは……確かにそうだな」
一瞬唖然としたがナツキの言う『中年ハゲ豚親父』の意味が分かると大声で笑い出した。
「全くだ。無能な上官を持つと苦労するよ」
「今の発言、上官批判じゃないの。下手したら軍法会議とか……」
「構うものか。そうなったら奴の今までの無能ぶりをぶちまけるだけだ」
「隊長さんもずいぶんとうっぷんが溜まってるね」
「まぁな……」
カルダが自嘲する。
それを見てナツキも少し微笑むと真顔になって、本題に入ることにした。
「ところで、誰にやられたの?
たぶん、私達が追っている相手と同じだと思うんだけど……」
「ギルドへの依頼を受けたのはあんた達だったのか」
「正確には私とあそこであんたの仲間を治療している娘だけどね」
ナツキが怪我人にレスタをかけながら走りまわるソラを見て言う。
さらにその後ろではカエデとエアが交互にリューカーで開いた道を使い、怪我人をパイオニア2へと運んでいた。
二人は歩ける者には肩を貸しているようだが、レスタでもなお歩けない者はどうするつもりなんだろうかとナツキは苦笑混じりで思った。
「すまんな……ハゲ豚のせいで君たちに迷惑をかけてしまったな……」
「どうせハンターズと競わせて先に拘束して手柄と名誉を手に入れるって言うのが中年豚の考えてることなんでしょ」
「すべてお見通しというわけか……」
「もちろん。それで隊長さん、ターゲットのことを教えてくれるんでしょ」
「黒ずくめの女性ニューマンだと言うことは知っているな」
「というかそれしか知らない。だからあんたに聞いてるの」
「……そ、そうか」
憮然として言うナツキにカルダは冷や汗を流す。
「で、相手の特徴は?」
「ターゲットはセイバーの使い手で、素早い動きとテクニックで相手を攪乱させるようだ」
「身軽な奴ならではの戦い方か……他には?」
ナツキが他の情報を聞こうとすると、何故かカルダは黙り込んだ。
「……もしかしてそれだけ?」
まさかと思いながらナツキは聞いてみる。
「すまん……後知っていることと言えば、この辺りに潜伏したと言う情報だけなんだ」
彼は本当にすまなさそうに言う。
「それで来てみたは良いけど、返り討ちにあったと……。
しかし殺人犯を追って死人が出なかっただけ良かったんじゃない?」
「そうかも知れないな……逆に言うなら俺達は殺すに値しないと言うことなのかも知れないが……」
「生きてるだけめっけもんだよ」
「そう言う考え方もあるか」
「そういうこと」
ナツキは再び後方で走り回る3人の姿を見た。
どうやら話している内にほとんど運び終えたようだ。
彼女はカルダに視線を戻すと口を開いた。
「聞くのを忘れていたけど、ターゲットの名前かコードネームは?」
「本名は知らないが、通称『山猫』と呼ばれている」
「なんだって!!!」
カルダの言葉にナツキは急に声を荒げ、彼の胸元を締め上げた。
この時、ナツキの右目は金色に変わっていた。
怪我人のパイオニア2への収容を終えナツキの所へ行こうとしていた3人も彼女の豹変に驚き慌てて駆け寄った。
「『山猫』って言うのは確かなんだろうね!」
「く……苦し……い……」
「ナツキさん、おちついて!!」
ソラがそう言いながらカルダを締め上げるナツキの右腕を掴んだ。
その瞬間、ソラの姿が目に入ったことでナツキは我を取り戻しカルダを解放した。
解放されたカルダをカエデとエアが介抱する。
咳き込むカルダを見てナツキは素直に謝った。
「……すまない」
「いや、いいが……『山猫』と言うのは間違いない。直接戦ったのは初めてだが、以前にも見ているからな」
「そうか……奴は何処にいる?」
「この先のドームにいると言っていたが……」
「ありがとう」
ナツキはそう言うとカエデとエアにカルダと共にパイオニア2へ戻るように指示した。
3人がリューカーで戻るのを見届けると、広場に残るのはナツキとソラだけとなった。
ジッとドームを見るナツキの横顔をソラがのぞき込むように見る。
その時、ナツキの右目がまだ金色に光っていることに気づく。
「ナツキさん、右目が先ほどからずっと変わったままですよ」
「ん……」
ナツキは少し考えるとソラの方を見た。
「ソラも上で待っていて欲しいの」
「え?」
「この先、やばいから……」
「嫌です」
きっぱりと断言するソラにナツキはこの時初めて彼女を見た。
「私はナツキさんのパートナーです。たとえどんな危険なことがあっても私は付いていきます。
それに自分の身は自分で守ることが出来るので大丈夫です」
ソラは真剣な眼差しでナツキに訴えかけた。
「そう……」
そんな彼女の言葉にナツキはただ静かにそうつぶやいた。


同じ頃、軍施設内の応接室ではハルカと対峙しているカルフォーネの元に、自らが派遣した部隊がハンターズによって病院に収容されたとの知らせが入った。
カルフォーネはその報告をした事務官に青筋を立てて怒鳴り散らした。
その様子にハルカは醜いと思った。
「そろそろ情報をいただけないでしょうか」
「まだだ!!」
「まだと言われてもあなたが派遣した者達は全員病院に収容されたようですが……」
「まだ手はある! 貴様らごときの手を借りずとも何とでもなるわ!!」
「ほお……」
すでに冷静さを失っている(初めから無いかも知れないが)カルフォーネをハルカは冷たい眼差しで見る。
「いかなる手があるかは存じませんが、あまり私を怒らせないで頂きたい」
「何だと?」
ハルカを睨み付け付けようとしたカルフォーネはその鋭い眼差しに固まった。
眼光で人を殺せるとしたら今の彼女の眼差しはまさしくそれであろう。
気づくと室温が下がっているように感じられる。
「私のもう一つの名前……存じないとは思いませんが」
「もう一つの……名前だと……」
強がってはみるもののハルカの威圧感に押されて言葉を出すのもやっとだ。
「『氷の天使』……知らないわけではないでしょ」
「まさか、あの『じゃじゃ馬ならし』!?」
「へぇ、軍ではそう呼ばれているんですか。
確かに二人ともじゃじゃ馬だったので私も否定はしませんけど。
今は亡きレベルマックスのハンター『銀の閃光』カナタ・トラッシュ。そして『戦うメイド』ナツキ・スライダー……この二人のパートナーを務めたのは間違いなく私です」
ハルカはまるで世間話のように話すが、その威圧感はさらに増していた。
そのプレッシャーからカルフォーネの息は荒くなっていく。
すると今まで何でもなかった息が白くなっていた。
「……これは!?」
気のせいだと思っていたが確実に室温は下がっていた。
「私が『氷の天使』と呼ばれる理由お分かりいただけましたか?」
「…………」
カルフォーネはすでに言葉を出すことすら出来ない状態にまで追いつめられていた。
その時、突然入り口のドアが開いた。
「そこまでだ!」
二人が入り口に立つ人物を見た。
「フォクシー大佐、助けてください。この女が……」
窮地に追いやられていたカルフォーネはフォクシーに助けを求めた。だが……。
「この者を拘束しろ!」
後ろに立つ部下二人にそう命じた。
二人は素早くカルフォーネを拘束する。
一瞬何が起きたか分からなかった彼だが、すぐに状況を把握するとフォクシーに理由を求めた。
「こ、これはどういう事ですか!? 私は何もしてません。むしろあの女に殺されそうに……」
だがフォクシーは冷たい口調で言う。
「理由はお前が一番良く知っているのではないのか?」
「な……それはどういう……」
「そんなに聞きたいか」
フォクシーは手元の資料を読み上げた。
「兵及び装備の私的使用。資金の横領……」
次々と読み上げられていく罪状にカルフォーネの顔は青ざめていく。
「……そして犯罪者No.50987の逃亡幇助。まだまだ余罪はあるようだが……。
一応査問会は開いてやるから弁明したければそこでしろ。連れて行け!」
フォクシーに命令に彼の部下はカルフォーネを連行していく。
そしてハルカとフォクシーの二人だけになった室内には静けさが戻る。
一緒に室温も元に戻ったようだ。
フォクシーはハルカの前に立つと脱帽し頭を下げた。
「フローラ殿、うちの馬鹿が申し訳ないことをした」
「いえ、お気になさらないでください。それよりも……」
「分かっています」
そう言うと手元にあるファイルから、ある資料をハルカに渡した。
それはギルドに依頼された犯人のデータ。
ハルカはそれを受け取ると名前を見て驚愕した。
「こ、これは……間違いないんですか!?」
「ええ……犯罪者No.50987、通称『山猫』。それ以外は不明です。
犯罪歴は10年前のフェイル・スライダー氏殺害を始め数え切れないほどあります」
「……やはりその『山猫』なんですね」
ハルカは唇を噛み締めじっとファイルを睨んだ。
「フローラ殿?」
「実はギルドが派遣した者はこのフェイル・スライダー氏殺害事件の唯一の生存者……ナツキ・スライダーなんです」
「まさか……」
ハルカの言葉にフォクシーは驚きの色を隠せないようだ。
ハルカはぱっと立ち上がるとフォクシーに礼を言った。
「フォクシー大佐、ご協力感謝します。私はすぐにラグオルに向かいます」
「しかしあなた自ら行くことは無いのでは?」
「いえ、あの娘を止められるのは私だけです。
それに手遅れにならないうちに行って止めなければ……」
ハルカは一瞬目を伏せたが、すぐにフォクシーを見る。
「ではこれで失礼します」
「フローラ殿」
部屋から出ていこうとするハルカをフォクシーが呼び止めた。
「我々が責任を持ってラグオルまでお送りします」
「しかしそれでは……」
「元はと言えばうちの馬鹿のしでかしたことです。せめてもの罪滅ぼしではありませんが協力させて頂きたい」
「分かりました。よろしくお願いします」
「はい」
フォクシーは手元の端末で部下を呼び出す。
その様子を横目にハルカは足下の遙かに下に広がるラグオルにいるナツキの身を案じていた。

三十分後。
ハルカはフォクシーと数名の部下と病院の前で途方に暮れている(ように見えた)カエデとエアと共にラグオルに向かった。


ドーム手前にある最後の扉がゆっくりと開くのをナツキとソラは見ていた。
「この向こうにいるんですよね」
「………」
「頑張りましょうね」
「………」
「……ナツキさん?」
何も言わないナツキにソラは顔をのぞき込むように見た。
だがナツキはそれにも反応することなくゆっくりと歩を進める。
「ナツキさん、待ってくださいよ」
ソラは置いていかれないように後に続く。
ナツキは数歩進んだところで足を止めた。
そこは丁度扉のレールだ。
「ソラ……」
ナツキは振り返りソラを見た。
「なんですか?」
「これを……」
彼女はそう言うと右脇に抱えるように持っていたショットを軽々とソラへと投げた。
「え、え、え、え?」
慌ててショットを受け取るとバランスを崩してその場に尻餅をついた。
「お、おも〜〜い」
ソラは突然のナツキの不可解な行動に文句を言おうとそちらの方を見ると、閉まり始めた扉の向こうにいた。
「え!?」
ソラはショットをどけると慌てて扉に駆け寄った。
だが扉は完全にしまり開かなかった。
ナツキが扉の脇にある制御板を操作して内側から完全にロックしていた。
「ナツキさん! ナツキさん!! ここを開けてください!!」
ソラは何度も扉を叩きナツキに呼びかける。
だが反応はない。
ソラは少し離れると火炎系テクニックを扉にたたき込んだ。
しかし扉には傷一つ付かない。
それでも自分のTPが底をつくまでたたき込む。
TPが底をつくと今度がWセイバーで斬りかかった。
しかし扉はびくともしない。
それでも、なんとか扉を破ろうと斬りつける。
「……この扉にはテクニックやフォトンに対してシールドが張ってあるから効かないよ。
だから……もう止めて……」
扉の向こうからナツキの静かでそれでいて悲しい声が聞こえた。
ソラは攻撃の手を止めると扉に駆け寄る。
「ナツキさん、どうしてですか!?」
「ソラ……ごめん……」
「ナツキさん、ここを開けてください!!」
「私ね……この10年の間、この日の為だけに生きてきたの……」
その告白にソラは言葉を失った。
「マスターを殺されて私も重傷を負って、でもその後ハルカに助けられて……そして敵を討つためにハンターズになって今まで生きてきたの。
だから本当はあの二人にも、そしてあなたにも偉そうなこと言える立場じゃないの」
「……ナツキさん」
「その相手がこの先にいるの。だから私は行かなきゃいけない……マスターの敵を討つために」
「ナツキさん、私も行きます。だから……だからここを開けてください!」
「本当に優しい娘……」
「ナツキさん!」
「あの二人をお願いね」
「ナツキさん!!」
「……さよなら」
その言葉にソラの時間が止まった。
扉の向こうで遠ざかるナツキの足音だけが耳の残る。
「……ナツキさん」
やっと口に出来た言葉。
それをきっかけにソラは涙を流しながらナツキの名を呼びながら、扉をその拳で何度も何度も叩き続ける。
両手の皮膚が破れ真っ赤に染まってもそれでも叩き続けた。
そして力を失ったようにその場に泣き崩れた。



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「ついにクライマックスを迎えます」
恵理「ナツキの過去が明らかになりましたね」
絵夢「ようやくここまで来たかなってとこですわ」
恵理「ナツキの名字『スライダー』はもしかして……」
絵夢「フェイルの名字をそのまま貰ったものです。彼女にとってフェイルはかけがえのない存在のようですから」
恵理「そうなんだ……」

絵夢「次回『未来へのプロローグ』第7話もお楽しみ下さい」
恵理「いよいよナツキと山猫の対決が見れるかも」
絵夢「そう言うわけで」
絵夢&恵理「まったね〜」