NOVEL



ファンタシースターオンライン
『未来へのプロローグ』

第七話 「あの時の私とは違う!」


ナツキはセントラルドームの入り口に立つ。
入り口は開け放たれていて、まるで誘っているようにも思える。
「この中に……」
そうつぶやく彼女の右目はすでに金色に変わっている。
ナツキは腰のリボンから左手でハンドガンを抜くと、いつでも撃てるようにトリガーに指をかけた。
そして中へと足を踏み入れた。

ドーム内は薄暗く広かったが、ナツキの金色に輝く右目はしっかりとターゲットである山猫を見据えていた。
「ふ〜ん、誰が来ると思ったらレイキャシールかぁ」
山猫の声がドームに響く。
「ただのレイキャシールだと思っていたら痛い目を見るよ」
ナツキは左手に持つハンドガンの銃口をまっすぐ山猫に向ける。
「へぇ、どう違うんだい」
「色々とね」
「色々ねぇ……教えて貰いたいねぇ」
山猫は鼻で笑う。
ナツキはそんな山猫の態度にいらだちを覚えながらも、だんだんと冷静になっている自分に気づく。
「私はマスターの……フェイル・スライダーの敵を討つために10年間生きてきた」
「フェイル?」
山猫は眉をひそめ何かを思い出した。
「……もしかしてあんた、あの時のメイドか」
「覚えていてくれたんだ。だったら話が早いよ」
「あの時、気まぐれでとどめを刺さなかったんだけど、まさかあのまま生きてハンターズになっているなんてね驚きだよ。たしかにただのレイキャシールじゃないね」
「……気まぐれ……」
ナツキの感情に合わせて右目の輝きがさらに増す。
「で……今度は殺されに来たわけだ」
「……私は……あんたを殺しに来たんだ!!」
ナツキのハンドガンが火を噴いた。
山猫は軽く初弾を避けるとセイバーを抜き、ナツキに迫った。
ナツキは近づけまいと立て続けに撃つが山猫は右に左に避ける。
そして山猫は自分の間合いまで近づくとナツキ目掛けセイバーを振り下ろす。

”ガッシーーン!!”

だが、ナツキはそれをハンドガンの銃身で受け止めた。
「そういえばあの時もこうやって始まったんだっけね。そして関節がいかれて……」
「あの時の私とは違う!」
「どう違うって言うんだい!」
山猫の左の蹴りがナツキに飛ぶ。
ナツキはそれを右腕一本で受け止めた。
だが威力のすべてを吸収しきれず、ナツキはそのまま横に飛ばされた。
いや、正確には自分で横に飛んだ。
そして着地すると同時に片膝を立てた状態で、わずかにバランスを崩している山猫に3発撃ち込んだ。
しかし、山猫は3発のフォトン弾をセイバーで弾いた。
「あのバランスを崩した状態で弾くなんて……流石って事か……」
ナツキは銃を構えたまま山猫を見据えつぶやく。
「あんただってたいしたもんだよ」
山猫はセイバーを構え直し言う。
「そう言えば10年前も私と互角にやっていたよね。あんたって本当にただのメイドタイプのアンドロイドだったのかい?」
「さぁね」
「関節のもろさは汎用型みたいだったけど、格闘センスはそうとは思えなかったからね」
「気のせいだと思うよ」
「そうだね……あんたはここで死ぬんだからそんなの関係ないよね!」
「死ぬのはお前だ!」
セイバーを振りかざし接近する山猫に、ナツキはハンドガンを撃ち近接戦闘に持ち込ませないようにする。
「こざかしい!」
山猫はフォトン弾をセイバーでたたき落としながら近づこうとするが、ナツキはハンドガンを撃ちながら距離を取り移動を続けた。
「ラフォイエ!!」
業を煮やした山猫は火炎系テクニックを放った。
それはナツキがいる当たりを中心に爆発を起こす。
「これでどうだい」
だが、爆炎の消えた後にナツキの姿は無かった。
「何処に!?」
その瞬間、上からの銃撃。
「何!?」
山猫は咄嗟に後方へと飛び避ける。
彼女はラフォイエの爆風を利用して上へとジャンプしていたのだ。
ナツキはそのまま山猫がいた少し前方に着地すると、そのまま一気に間合いを詰めまだ攻撃態勢に入っていない山猫の懐に潜り込んだ。
「ちっ!」
そして真下から顔を目掛け撃つ。
しかし山猫は上体を逸らし避けると、ナツキを蹴り上げた。
ナツキもそれに反応して左に転がるように避け、すぐに片膝を立てた上体でハンドガンを構えフォトン弾を撃つが、山猫もまた身をかがめ転がるように避け、立ち上がると同時体勢を立て直した。
「一つ聞いて良いかい?」
突然、山猫が尋ねる。
「どうしてハンドガンを使う。ハンターズならセイバーも持ってるんじゃないのか」
「……こだわりだよ」
「こだわり?」
「そう……あの時と同じ武器で使いたいだけ」
「つまらないこだわりだね」
「……そうかもね」
ナツキは自嘲的な笑いをするがすぐに真顔に戻る。
「だけど、これであんたを倒す」
山猫はセイバーを構えたままジッとナツキを見据えた。
半年前、ナツキと軍との間にあったことは現在封印されているため、その時彼女が使用していた武器がセイバーとWセイバーと言うことは山猫は知らない。
そして彼女の得意な武器がその二つだと言うことも……。
しかし山猫は本能的にナツキの得意武器が今使っているハンドガンで無いことを悟っていた。
だからこそあえて聞いてみたのだが、あっさりとかわされた。
「ふ……ま、いいさ」
山猫はフッと笑うと、瞬間的に間合いを詰めナツキに斬りかかる。
ナツキもその行動を予測して後方へと飛び下がるとハンドガンで応酬する。
そして二人の戦いはさらに激しさを増していく。


同じ頃、ナツキ達がヒルデブルーと出会った場所でハルカ達は原生生物に襲われていた。
フォクシーの部下達とカエデとエアはハルカとフォクシーを守るように壁になり、原生生物を倒していく。
しかし次から次に現れる生物に次第に押され気味になっていた。
その様子を後ろで見ているハルカは苛つきを隠せないでいた。
「…………急いでるのに」
「フローラ殿?」
ぼそっと言うハルカにフォクシーは恐る恐る尋ねる。
「…………弱いくせにうじゃうじゃと」
「あの……」
瞬間、フォクシーは周囲の気温が急に下がったように感じた。
それを感じたのは彼だけではない。
壁となり自分たちを守っている部下達もまた感じていた。
ハルカは無言で目の前に立つ二人の軍人の肩を持つとそのまま左右に退け、前へと歩み出た。
「人の邪魔をするな……」
その時、そこにいた全員が言葉を失う。
そこには現役時代『氷の天使』の異名を取った彼女の姿があった。
次第に下がる気温に原生生物達の動きが鈍くなったように感じられる。
ハルカは敵の位置を確認すると構えた。そして……。

「ラバータ!!」

原生生物に向け氷系最大テクニックを放つ。
通常レベルのラバータならダメージを与えながら凍り付かせ足止めになるのだが、凍る前に倒れていった。
これは彼女のテクニックレベルが高い証拠でもあるが……。
ハルカは次々に現れる原生生物にラバータとギバータをぶつけ倒していく。
その姿にカエデやエア、フォクシーの部下達は見とれていた。
エアに至っては同じフォースとしてあこがれの眼差しを送っている。
そんな中ただ一人、フォクシーだけはハルカの戦う姿に恐怖を覚えていた。
「これが『氷の天使』の力。『銀の閃光』『戦うメイド』のパートナーを務めた者の力……」
数分後敵の出現が止み、ハルカはこの隙にトリフルイドでTPを回復し、再びいつでもいけるように準備する。
「フローラ殿、もう大丈夫のようですね」
周囲に気配が無くなったことを感じたフォクシーがハルカに言う。
ハルカもフォクシーの言葉に構えを解いた。
「そのようですね」
短く言う彼女の表情を見た時、フォクシーは一瞬言葉を詰まらせた。
それは常に死と隣り合わせの最前線で戦う者の顔であった。
とても5年前に引退し、後方で事務職を務めている者とは思えなかったのだ。
「なにか?」
ハルカは言葉を詰まらせたフォクシーに眉をひそめ聞く。
「あ、いえ別に何でもありません。それよりも先に進みましょう」
「そうですね」
何か誤魔化すように言うフォクシーに疑問を持ちながらもハルカは頷いた。


「ったくちょこまかと!」
山猫は右に左に動くナツキの動きにいらだちを感じていた。
接近しようとすれば一定の距離を取るように離れ、こちらが隙を見せれば一気に接近戦に持ち込む。
その間、常にフォトン弾を撃ち続け牽制する。
さらに火炎系テクニックを使えばその爆風を利用し攻撃をしてくる。
彼女もこれほど多彩で臨機応変に対応して戦う相手に会ったことは無かった。
「本当にあの時のメイドなのか……」
目の前にいる敵が10年前破壊したメイドと別人に思えて仕方ない。
あの時、ナツキは最初の一撃による右目の破損とフェイルを庇いながらの戦いだったため山猫の方が遙かに優勢であった。
だがそれでも山猫の攻撃をすべて弾き善戦していた。
しかし結末はあっけなく、ナツキは右膝のパーツの破損により動けなくなり、その隙に両腕両足を切断され勝負がついた。
「……考えてみればただの汎用アンドロイドがあそこまでやれた方が不思議だったのかも知れないな」
彼女は当時の事を思い出しつぶやいた。

「さすがに大きな隙は作ってくれないな……」
一定距離を持ちながらナツキは冷静に相手を見ていた。
「いくら撃っても全部セイバーで弾くし、どうしたものかな」
余裕があるように見える彼女だが、実際は焦り始めていた。
それは全身の主な稼働パーツが限界に近づいていたからだ。
本来ハンターズのアンドロイドに使われているパーツは激しい動きに耐えられるようにそのメインフレームは特殊な物が使用されている。
だが彼女のメインフレームは汎用アンドロイドの物を強化しただけの物。
さらに両腕と両足もそれにあわせてカスタマイズされているため通常の物に比べて強度は低い。
つまり長時間の激しい戦闘に耐えられる身体では無いのだ。
そのことを重々承知しているナツキだったが、今回だけはそれを忘れたように戦っていた。
『復讐』の二文字がそれを忘れさせていたのかも知れない。
しかし相手の攻撃を避け着地したときに感じた両足の違和感がそれを思い出させた。
「フォトン弾もあと四発が限界……ホント、そろそろ決めないとまずいよね」
ナツキは体勢を低くし、山猫を見据える。

体勢を低くく構えたナツキに山猫は次で来ると直感で判断した。
山猫もまたナツキの動きを封じる方法を考えついた所だった。
次の瞬間、ナツキは一気に間合いを詰めるためダッシュする。
その時を狙った山猫は左手を前に差し出すとテクニックを叫んだ。
「ギバータ!!」
それは氷系テクニックだった。
左手から放出される氷のつぶてはナツキに襲いかかる。
「!?」
火炎系テクニックしか使えないと思っていたナツキは驚いたがすぐに我に返り咄嗟に左に飛んだ。
だがその一瞬の遅れで右足に氷のつぶてが当たり凍り付いた。
「しまった!」
ナツキはそのまま転がりながらすぐに体勢を立て直すが一度凍り付いた右足はしばらく使えない。
「これで、終わりだ!」
動きを封じられたナツキに山猫は斬りかかっていった。
「あの時と同じようにしてやるよ!」
「あの時とは違うと言ったはずだ!」
ナツキは迫り来る山猫に対して、咄嗟に空いてる右手でスカートを外すと山猫の視界を塞ぐように目の前に投げつけた。
「なっ!?」
勝負が決まったと思った山猫だったが、ナツキの突然の反撃に動きが鈍った。
そして……。

”ドキューン、ドキューン、ドキューン、ドキューン”

ドーム内に四発の銃声が鳴り響いた。



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「今回はここまで」
恵理「決着ついたの?」
絵夢「ふふふふ、次回に続くのだよ」
恵理「……ひっぱるのね」
絵夢「もっちろん。だってこのまま続けたらとんでも無い量になるから」
恵理「なっとく」

恵理「それはともかくハルカって強いんだね」
絵夢「そりゃあ、カナタとナツキのパートナーを務めた人だから当然っしょ」
恵理「ところでカナタってどういう人なの?」
絵夢「内緒」
恵理「え〜。そんなこと言って考えてないんでしょ」
絵夢「考えてるよ。と言うか彼女がいないとどうしようもないからね」
恵理「名前しか出てきてないのに?」
絵夢「うむ」
恵理「……奥があるわけね」

絵夢「この話もあと2回の予定です」
恵理「とのことなので是非最後までお付き合い下さい」
絵夢「であまた次回まで」
恵理「おたのしみに〜」