NOVEL



ここは夢園荘

由恵の章

「あっちゃあ、まただよ〜」
下駄箱の中に1通の手紙……いわゆるラブレターが入っていた。
……女子校なのに(;_;)

私は榊由恵。
夢園荘303号室の住人。そして女子校に通う17歳。
水泳部に所属していて、秋になって3年生が引退したあと部長を押しつけられてしまった。
そのおかげで毎日帰りが遅くなって……。こんなにか弱い女の子にとって暗い夜道は怖いんだぞ。

「どの辺がか弱いの?」
「あんた……モノローグに突っ込み入れるのやめない?」
「いや〜〜趣味みたいなものだから(てれてれ)」
「……………」

話が脱線した。
もともと水泳部のエースとして活躍していたこともあって同級生や後輩はもとより先輩にまで人気があるの。
そこにきて部長になったことで今日のように時々ラブレターを貰うようになってしまったの。
同性からもらって嬉しいんだか悲しいんだか(^^;;

「ふ〜〜ん、ラブレターか……たまに早起きして来ると面白い物が見れるね」
私の肩越しからひょいと顔を出してのぞき込んでくるのは、同じ夢園荘の住人でクラスメイトの樋山恵理。
ちなみにさっきの突っ込みもこれね。
「物扱いするなぁ」
「物で十分」
「(;_;)」
「ああ、静かになった」
「良いもん……あ、そうかラブレター貰って嬉しいんだけど、私に見られて恥ずかしいから照れ隠ししてるんでしょ」
「あんたね……同性から貰って嬉しいの?」
「好きになることに性別なんて関係ないって言うし……」
バサバサバサバサ……。
恵理が下駄箱の蓋を開けると中から10通以上の手紙……どれもラブレターにしか見えない。
しかし当の本人は全く気にした様子もなく、靴を中に入れ上履きに履き替えるとそのまま行こうとした。
「ちょ、ちょっと恵理!」
「何?」
「これ」
下に落ち散乱しているラブレターの山を指さすと、思い出したかのようにぽんっと手を叩く。
「ごめんごめん、このまま放置したら美化委員に怒られちゃうね」
「そうそう」
恵理は急いで拾い集めると、そのままその手紙の山をゴミ箱に捨てた。
「いや〜〜いつも遅刻ぎりぎりだから無視してたんだけど、余裕のあるときぐらいはきちんとした方が良いよね」
「ってそう言う問題かぁぁ!」
パッコ〜〜ン。
「痛いなぁ……いきなり鞄で殴ること無いじゃん」
「いきなり捨てること無いでしょ!」
「私ね、そう言う手紙で告白って言うの嫌いなの。好きなら好きって正々堂々と面と向かって言うべきじゃない?」
「いや、それはそうなんだけどね……そう言う勇気がもてない娘が手紙を書くわけで……」
「十人十色、人それぞれにいろんな考え方があるから由恵の考え方も否定はしないよ。でも私はそう言う風に考えてるし、その考えを変える気無いから」
「はぁ……(^^;;」
「でも本当に告白してくる娘がいたとしても、私にはもう好きな人がいるから断っちゃうけどね」
今、この娘何て言いました?
「好きな人がいるって……本気と書いてマジと読むという奴?」
「漫画の影響受けすぎてるよ(-_-;」
「それはいいのから、本当なの?」
「本当だよ。でも見事に玉砕しました(笑)だけどそんなことであきらめる私ではない。虎視眈々とチャンスをうかがっている最中」
「あんたって、本当にたくましいよね(^^;;」
「いや〜〜誉めないでよ」
「誉めてない誉めてない」
「ち、違うの……うるうるうる」
その場に泣き崩れる(ふりをする)恵理。
「さて、予鈴がそろそろ鳴りそうだし先に行くね」
「いや〜〜由恵ちゃ〜〜ん、無視しないで〜〜〜」
歩き出そうとする私の背におぶさってきた。
「え〜〜い、うっとぉしぃ!」
「突っ込みがいないと寂しいの」
「いつ私があんたの突っ込みになったの」
「初めてあったときから」
プッツン。
私は無言で恵理をふりほどくと鞄の角を彼女の脳天にたたき込んだ。
「………い……た…………い…………」
「目標沈黙」
私は恵理の亡骸(?)をそのままにして歩き出そうとしたが……。
「うう……由恵ちゃん、冷たい」
「もう復活したんかい!」
「あの夜のことは遊びだったのね」
「そんなありもしないことを……」
「そんな……初めてだったのに……」
「あんたねぇ……」
ひそひそひそひそひそひそひそ…………。
もう一撃加えようとしたとき、いつの間にか私達の周囲を取り囲むように出来ている人垣の中から聞きたくもない声が聞こえてきた。
(やばい……これ以上こいつに好き勝手されると私のイメージが……)
「と、とにかく行くよ!」
私は恵理の襟元を掴むと、その場から逃げるように彼女を引きずっていった。

朝のHPが終わり何の不幸か1限目が自習だった。
そして私の目の前の席に座る恵理がこちら側に向かって座っている。
「由恵、朝楽しかったね」
「あんなまねして……あんただって変な風に思われたらイヤでしょ」
「私は楽しければそれで良いんだけどなぁ」
「あのねぇ」
「それに私が絡んでいるんだよ。あんなこと本気で思う人なんていないよ」
「どこからそんな自信が出るの?」
「ん〜〜この学校に入って今までに私がやってきた事を考えれば、ねぇ」
そうなのだ。
彼女の行動基準は楽しいかそうでないかだけ。
それでも最低限人に迷惑を掛けないと言うことだけは守っているようだ。
少なくとも私以外の人に対してはだけど……。
「え〜〜由恵、迷惑だったの?」
「だからモノローグに突っ込みを入れるなって……。それはともかく迷惑じゃないとどうして思える」
「いや〜〜一緒に楽しんでいるものと」
「はぁ……」
「ため息なんかついてどうしたの」
「どうして私は、あんたみたいなんと友達してるんだろうって思ってね」
「それはやっぱり馬が合うからでしょ」
「悲しくなるから言わないでよ〜〜」
「自分でも認めてるんだし、あきらめようね」
「(;_;)」
漫画のようにルルルーと滝のような涙を流したい気分だ……。
「ところで手紙には何て書いてあったの?」
「好奇心旺盛だね……残念ながらまだ読んでませんよ」
「読んであげないの?」
「もらった側から捨ててるあんたに言われたくない」
「へ? だってあれゴミでしょ」
「あんた……本当にいつか後ろから刺されるよ」
「大丈夫だよ〜〜♪」
「どこにそんな自信があるの?」
「えっとねぇ〜〜」
恵理はあちらこちらきょろきょろする。まるで何かを探しているように……。
「たぶんその辺とあの辺とあの辺と……あとこの辺かな?」
そして何もない空間を指さしながら説明する。
「……あんたに聞いた私がバカだった」(-_-;;
「ひ、ひどい、一生懸命にボケてるのに何故つっこんでくれないの」
「私はあんたと漫才をしてるわけじゃない」
「じゃ、コント」
「あのねぇ………」
頭が痛くなってきた……。
「頭痛薬あるけど飲む?」
「原因はあんたなんだけどさ」
「私、由恵の頭叩いてないよ」
「そう言う事じゃなくて……もういい……」
本当、この娘の相手をしてると疲れる
「朱に交わった方が楽だよ」
「だからあんたが言うなって」
「由恵ちゃん、冷たい」(うるうる)
「だ、だからそう言う目で私を見ないでよ。私が悪いみたいじゃないの」
「そう言うことで悪い悪くないは置いておいて……」
「置いて欲しくない」
「手紙どうするの?」
「話を強引に戻したね」
「うん」
「ん〜〜ちょっと待ってね……」
私は恵理に見られないように封を開けると手紙を開いた。
その内容は自分の気持ちを綴った物から始まって放課後に体育館の裏で会って話がしたいといった文面で終わっている。
ラブレターの模範例があるというならこういうのを言うのかもと感心してしまう内容だった。
「ふ〜〜ん……で行くの?」
「一応ね。行かないと可哀想じゃない……もしかしてついてくる気じゃ……」
「確かに面白そうだけど、私そこまで暇じゃないから。後で結果報告聞かせてね」
「そんなに面白い報告が出来るとは思えないけど……」
「そっかな?」
「……あんた、何考えてるの?」
「別に」
私はじっと恵理の顔を見る。だからといって彼女のように考えてることが分かるわけでもないけど……。
「ま、いいわ。とりあえず事後報告のことは約束するね」
「OK!」

放課後、私は今朝もらった手紙に指定された場所−体育館の裏にいた。
本来ならこの放課後の時間は部活動の真っ最中だけど、今は定期テスト前の1週間の執行猶予期間中につき、すべての部活動が休みとなっている。
まさに不幸中の不幸と言った感じかも(;_;)
約束の場所の木の下には女の子が1人立っていた。
青いリボンから1年生の娘だと分かる。
私は呼吸を整えるように軽く深呼吸をすると、その娘に近づくことにした。
「手紙をくれたのはあなたかな?」
女の子はビクッと体を震わせ私の方を向く。
その目は何故か涙で潤んでいるように見えた。
「えっと……」
彼女は小さな声で「はい、私です」と頷く。
「えっと手紙ありがとうね。嬉しかったんだけど、私……」
「分かってます」
「はい?」
「先輩が樋山先輩と恋人同士だと言うこと……」
「は?」
私は耳を疑った。
「私が恵理と?」
「はい……今朝、昇降口で見てました」
昇降口って、まさか恵理のあの悪ふざけのことぉ!?
「あ、あれはね……」
「私、先輩の事好きです。でもあの光景を見て先輩と樋山先輩は凄くお似合いだと思いました」
この娘、完全に自分の世界に入り込んでるよ〜〜(^^;;
「ちょっと、私の話を……」
「先輩……樋山先輩とお幸せに」
彼女は涙とその言葉を残すと正門の方へと走っていった。
「だから……私の話を聞いて……ちょっとぉぉぉ!」
私はただただ呆然と立ちつくすしかなかった(;_;)
「いや〜〜非常に面白い物が見れましたね」
彼女の走っていた方の体育館の影から、非常に、これ以上ないぐらいに、忘れたくても忘れられないほどに、夢に出てきてもおかしくないぐらいに、見覚えのある娘が姿を見せた。
「恵理……あんた……見てたの……」
「違うよ、聞いてただけ」
「一緒だぁ! ったくどうしてくれるの! あの娘、今朝のことで私達のこと勘違いしちゃったじゃないの!!」
「まさか私の冗談を真に受ける娘がまだこの学校にいたなんて……私もまだまだかも知れないね……」
「あんた……話そらそうとしてる?」
「まさかぁ、真剣に考えてるんだよ。私も精進が足りないなぁって」
ううう……この娘と話してると私の方がおかしくなりそう……(;_;)
「あれら。そんなに振られたのが悲しいかったの」
「違うよ」
「だったら追いかけて誤解を解いてくる? たぶんまだ昇降口のあたりにいると思うよ」
「そ、そうだよね」
私は立ち上がった。
「でもその気もないのに追いかけて、誤解だけ解いて『ハイ、さよなら』って言うのはあの娘にとって残酷な気がする」
「だったら私にどうしろと言うの……」
私は恵理を睨んだ。
「そのまま放っておくのが一番だと思うよ」
「だって、それじゃ誤解されたまんま……」
「そうすればもう手紙来なくなると思うよ」
「……まさかあんた、初めからそれが狙いとか……」
「いくら私でもそこまで考えてないよ♪」
にこやかにさらりと言い放つ恵理……ホントにこの娘は何を考えてるか分からない。
「ううう……ま、手紙が来なくなることを考えれば嬉しいけど……でも恵理とそう言う関係と思われるのは……わたしってもしかして不幸?」
「幸せでしょ。何て言ってもこんなに可愛い恵理ちゃんの親友なんだから」
「あ、あのねぇ……」
「もしかしたら腐れ縁とも良いのかな? ちょっと違うような……でも私、友達として由恵のこと好きだから安心して良いよ」
「ははは……ありがと。確かにあんたといると毎日がお祭りみたいで楽しいからね」
「そうそう」
恵理はニコニコと笑っていた。

もしかしたら私達は初めてあったときからこういうふうになる運命だったのかな。
恵理じゃないけど、なんだかんだ言っても私もこの娘のこと好きだし、結局毎日の騒動は運命と思ってあきらめるしかないのかな?
なんか泣けてきた……。
「そうそう、運命だと思ってあきらめちゃおう」
「あんたが言うなぁ!」
ああ……わたしって不幸かも(;_;)


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<あとがき>
絵夢「恵理の最大の被害者だな、由恵って」
恵理「ええ〜〜、凄く仲が良いんだよ」
絵夢「そうか?」
恵理「そうだよ」
絵夢「………」
恵理「何でそこで黙るかなぁ」
絵夢「そう言うわけで次回もお楽しみに」
恵理「ちょっとなんでそこで締めちゃうのよぉ」