NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第五話 <インターバル I>


みなもが実家に帰ってから1週間ほど過ぎたある日。
仕事の方は一段落しやっと休日らしい休日を過ごすことが出来た空は、夢園荘の隣に建つ早瀬家に朝からお邪魔していた。
「せっかくの休みの日なのになんでうちに来るかな?」
「だって行く所無いんだもん」
空は出された冷茶を飲みながら言う。
「そう言う恵理だってせっかくの休日を家で過ごしてるじゃない」
「お買い物に出かけようとしたら空が来たんでしょ」
「あれ、そうだっけ?」
「そうだよ〜」
「あはははは〜」
恵理はやや非難めいた口調で言ったが、空はあまり気にしていないようだ。
彼女の反応に恵理は軽く溜め息をつく。
そして恵理は空をジッと見つめた。
視線に気づいた空は、またいつものように心を読まれるのではないかと思い少し慌てた。
「みなもちゃんが実家に帰ってからどうかなと思ったけど大丈夫そうだね」
「え?」
「これでも気落ちしてるんじゃないかなぁって心配してるんだよ」
「恵理……ありがと。でも、私はこの通り大丈夫。そりゃ、実家に戻ったみなものことが心配だけど、それは姉として当然のことでしょ」
「そうだね。あれから連絡はあったの?」
「全然」
空は肩をすくめながら言う。
「ここ数日忙しかったから、私からも連絡してないんだけど……どうしてるのかな?」
「連絡してないって……」
「だって……」
「噂の坂本さんとのことが忙しかったの?」
「なっ!?」
空は『坂本』と言う言葉に反応して顔が真っ赤になる。
恵理としてもその場の雰囲気を和ませるつもりで冗談半分で言ったつもりだったが、彼女の予想以上の反応にふと悪戯心が湧いてきた。
「なんでそこで聖さんのことが出てくるの!」
「だってねぇ……あの日『私告白されたの!』って嬉しそうに帰ってきたから、私としてもその後が気になるわけ」
「あんた……それじゃ近所の噂好きのおばさんだよ」
「う……そりゃ二人の子供がいるからそう言われてもしょうがないけど……まだ23歳だし、それに平日の午前中に出歩けば補導されるし……まだ若いもん」
空の反撃−『おばさん発言』に少しいじける。
そのいじけモードでの支離滅裂な恵理の言葉の中で『補導』と言う言葉に空は反応する。
「……補導されるの?」
「うん、されるよ。高校生に間違われて……酷い時は中学生だけど……」
「確かに恵理って子供っぽいところがあるけど……そこまでとは……」
「う……馬鹿にしてる?」
「してはないけど呆れてるだけ」
「う〜〜〜〜〜」
恵理は口を尖らせ唸る。
その姿に空はそう言うところが子供っぽいと思った直後、恵理の冷たい視線を感じた。
「いいもん……私子供だもん……」
さらにいじける恵理に、空はただただ笑って誤魔化すしか無かった。
「「ただいまぁ〜〜〜!!」」
玄関の方から4歳になる双子の娘達−楓と冬佳の元気な声がした。
そして廊下を走ってくる音がして、恵理と空がいる居間の扉を開けて二人が入ってきた。
「「ただいま〜」」
「「おかえり〜」」
もう一度言う二人に、恵理と空は声を揃えて出迎えた。

楓はセミロングの髪型で、半袖のブラウスに膝丈ぐらいのスカート姿。
冬佳はポニーテールの髪型で、アニマルプリントの半袖シャツに半ズボン姿。
性格も楓はおっとりしているが冬佳はしっかりしていると言った風に双子とは言え全く対照的な二人だった。

「冬佳、また喧嘩したの?」
恵理は冬佳の服や膝が汚れているのを見て言う。
「だってあつしがまた楓をいじめるんだもん」
「あつしくん、わたしのスカートめくったの。だから冬佳はわるくないの」
冬佳を弁護するように楓が口添えする。
ちなみにあつしとは近所に住む小学生だ。
「冬佳、元気なのは良いんだけど、あなたは女の子なんだからね」
「だってあいつ楓を………」
恵理に軽く諫められると冬佳は視線を落とす。
「お母さん……」
冬佳の様子に楓が泣きそうな声で訴える。
そんな二人の様子に軽く息を吐くと、恵理は二人に微笑みかける。
「二人とも服を着替えて、手を洗ってきなさい。おやつにするわよ」
恵理の言葉に楓と冬佳は急に明るい表情になり、2階の自分の部屋に向かった。
二人を見送ると、恵理は台所の方に向かう。
親子のやりとりを黙って見ていた空は台所で色々と準備をしている恵理に声を掛けた。
「冬佳ちゃんって喧嘩を良くするの?」
「うん、楓をいじめる男の子を逆に泣かしてるみたい」
「泣かしてるって……」
「相手が小学生だろうと関係なくやってみたいだよ。この間その子の親が怒鳴り込んできて大変だったよ」
「ははは……」
空は乾いた笑い声を上げる。
「確か小学1年生だったかな……向こうの親が散々文句言った後で夏樹さんが一言『女の子に泣かされるような男の将来はすごく楽しみですね』って言ったんだよ。その時の顔はすごく面白かったよ」
恵理はコップにジュースを注ぎながら笑っている。
「二人の子供だけあってすごいね」
「そう?」
そう言いながらお盆にジュースとお菓子の入った器を乗せ台所から出てくると、丁度2階から楓と冬佳が降りてきた。
二人は洗面所に行き手を洗うと居間に戻ってきた。
そしてテーブルの定位置に座ると、恵理はそれぞれの前にコップを置き、テーブルの真ん中にお菓子の器を置いた。
楓と冬佳は待ってましたとばかりにお菓子とジュースに飛びつく。
二人の姿に恵理は微笑むと、思い出したように台所に戻っていった。
そして、冷茶の入ったポットを持ってくると、空の前の空になったコップに注いだ。
「ありがと」
「いいえ、どういたしまして」
恵理はそう言うと自分の場所に座り、空とお菓子に夢中な二人をしばらく眺めていた。
「そう言えば、今日は和沙ちゃんはいないんだね」
空がふと思い出したように言う。
「うん、昨日から半月遅れの盆休みで家族旅行に行ったよ」
「そうか喫茶店だもんね」
「今頃、卯月は高志さんと二人目を作ってたりして」
「あんた……子供の前で何を言ってるの」
「大丈夫だって、この娘達は子供がどうやって出来るか知ってるから」
「……まじ?」
「うん。ね〜」
恵理はジュースを飲みながら二人の話を聞いていた楓と冬佳に言う。
「うん、しってるよ」
「お父さんとお母さんがいつもやってるの」
二人の話を聞いて空はこめかみに指を当てる。
「恵理……あんた達夫婦は子供に何を教えてるの」
「どうせ本やテレビで知ることになるんだから一緒でしょ?」
「それはそうだけど……まだ早くない?」
「そっかな?」
恵理は小首を傾げる。
「とりあえず、恵理達の教育方針はなんとなく分かった気がする」
「……なんか今、酷いことを言われた気がする。どう思う」
恵理は楓と冬佳に聞いた。
楓は「よくわからない」と答え、そして冬佳は何か考え込んだ。
そして……。
「もしかして空お姉ちゃんはまだなの?」
「……なにが?」
「だから男の人と女の人がするようなこと……」
「冬佳ちゃん、こっちにおいで」
「?」
冬佳は小首を傾げながら空に近づく。
すると空は冬佳を捕まえるとこめかみの当たりに拳を押しつけた。
「いたいたいたいたいたいたいたいたい!」
「冬佳ちゃん、口は災いの元なんだよ〜」
顔は笑っているが声は少し怒っている感じだ。
「ごめんなさ〜いぃぃ」
「許さないよ〜」
しばらくは解放する気は無いらしい。
そんな二人を恵理は笑い、楓は「がんばれ〜」と応援しながら見ている。
数分後、疲れたのか空は両手をふりながら冬佳を解放する。
解放された冬佳は逃げるように空から離れることなく、空の膝の上に座っていた。
「冬佳ちゃん……いつまでここにいるのかな?」
空が冬佳の頭の上を見ながら聞くと、冬佳は真上の空の顔を見上げた。
「だってすわりりごこちがいいんだもん」
「あのねぇ……」
それに対して反論しようとしたが、自分をじ〜と見つめる冬佳の眼差しに諦めの溜め息をつく。
「……冬佳ちゃんの好きなように」
「ありがとう!」
冬佳は嬉しそうに言うと空の胸に後頭部を預けるようもたれる。
「冬佳、あまり空を困らしちゃ駄目だよ」
「私は良いから」
「そう? それなら良いけど……?」
恵理はジッと冬佳と空の姿を見る楓に気が付いた。
「楓、どうしたの?」
自分を呼ぶ声に恵理の方を見ると「ん」と無表情に曖昧な返事を返す。
そんな娘の反応に恵理はフフと微笑む。
「楓、ここに座る?」
恵理は自分の足を軽く叩きながら楓に言う。
すると楓は嬉しそうな笑顔を見せ「うん」と頷くと冬佳のように恵理の膝の上に座った。
そして楓も同じように恵理の胸に後頭部を預けるようにもたれ掛かった。
「見た目はどうあれ、さすがは母親ってことかな?」
「当然でしょ。この娘達を産んだのは私なんだから」
「そうだね」
恵理と空は互いに微笑みあった。
「ん〜」
その時、冬佳が難しそうな声を出す。
「どうしたの……ってと、冬佳ちゃん……」
空が尋ねようとした時、頭を胸に押しつけた状態で左右に動かした。
まるで胸を左右に分けるように……。
そしてピタッとその行為を止め、空を見上げた。
「空お姉ちゃんって、お母さんより小さいんだね」
「………」
その一言に空は無言で拳を冬佳のこめかみに押しつけた。
今度は顔が笑っていない。
「いたいたいたいたいたいたいたいたいたいぃぃぃぃぃ」
「冬佳ちゃん、あまりそう言うことばかり言ってるとお姉ちゃんだって怒るんだよ〜」
「だって〜」
「だってじゃない」
(ぐりぐりぐりぐりぐりぐり)
「いたいたいたいたいたいたいたいぃ」
……そして一分後。
涙目で空にもたれ掛かる冬佳と少しくたびれた様子の空、そしてそんな二人を笑う恵理と楓の姿があった。
「あのさぁ恵理、笑ってないでこの娘何とかしてよ」
「何とかって言われてもね。冬佳って空に懐いてるし、空だってまんざらじゃないんでしょ」
「それは……」
「空お姉ちゃん、私のこときらい?」
ジッと下から顔を見上げる冬佳。
「う………好きだけど……」
「よかった」
冬佳は安心したように空に身体を預ける。
その姿に空は深い溜め息をつく。
「冬佳、冬佳ぁ」
恵理の膝の上で冬佳と同じようにくつろいでいる楓が、身を乗り出すように冬佳を呼ぶ。
「どうしたの、楓?」
「ほんとうにお母さんより小さいの?」
「うん」
「あんたら、姉妹はぁぁぁ」
空が三度冬佳にお仕置きしようとすると恵理が止めに入った。
「まぁまぁ空、その辺にしてあげなよ」
「あのね恵理、私だって一応は気にしてるんだからね」
「でも卯月よりは大きいでしょ」
「それは……そうなの?」
「だって温泉に行った時に比べたじゃない」
「……それって何年前の話?」
「この娘達が生まれる前だから……5年前かな?」
恵理は指で数えながら言う。
「考えてみればあれからもう5年なんだよね」
空は今日何度目かの溜め息をつく。
「空、そんなに溜め息ばかりついていると幸せが逃げるよ」
「そんなの迷信だって」
手を振りながら笑う。
「そんなこと無いかもよ〜。だって空は坂本さんと幸せなんでしょ」
そう言われて空は瞬間湯沸かし器のように顔が真っ赤になる。
「あ〜空お姉ちゃん、顔がまっか〜」
「ほんとだぁ」
楓と冬佳は嬉しそうにはしゃいだ。
特に冬佳の場合、先ほどの空からのお仕置きがあるので楓以上に嬉しそうにしている。
「あ、あんた達ねぇ!」
「空、落ち着く落ち着く」
「もう恵理のせいだよ」
「人のせいにするのは良くないなぁ」
「もう!」
そう言うと空は半泣き状態でむくれた。

十数分後、空の機嫌が直った頃、恵理が真面目な顔で彼女を見た。
「大きく話が脱線したけど……空」
「?」
「みなもちゃんの荷物……どうするの?」
恵理は夢園荘の方を指さしながら言う。
「うん……それなんだけど、向こうから連絡が来るまでそのままにしておきたいんだけど……駄目かな?」
「部屋は余ってるからそれは構わないけど……」
「ごめんね」
「その代わり、その間のお家賃はしっかりと頂きますからね」
「あら、しっかりしてるのね」
「当然です」
そんな二人のやりとりを黙って見ていた楓が口を開いた。
「もうみなもお姉ちゃんはかえってこないの?」
「うん……たぶんね……」
「そうなんだ……」
シュンとする楓。
冬佳が空に懐いているように楓はみなもに懐いていた。
「しかたないよ、楓」
「うん、分かってるけど……」
冬佳は楓を慰めようと言葉を掛けるがあまり意味を為していないようだ。
室内に重い空気が流れる。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「あれ、誰だろう?」
恵理は楓をおろすと立ち上がり玄関に向う。
そして数瞬後、玄関の方から恵理の驚きの声が響いた。
空と楓と冬佳は何事かと慌てて玄関に向かうとそこには……。
「「「みなも(お姉ちゃん)!!」」」
「あはは、ただいま戻りました」
旅行鞄を持ったみなもが立っていた。
その横では恵理が言葉に迷っている。
「あんた……なんで?」
「その……お父さん達と色々と話して出た結論が、私がこうなったのは監督不届きの姉さんの責任だからってことになって……姉さんの元でしっかりと更正してこいと言うことになったわけで……」

みなもは非常に言いにくそうに言う。
「詳しくはこの手紙に書いてあるから……でも内容は私が今言ったとおりで……」
そう言うとみなもはポケットから手紙を取り出すと空に渡した。
空はそれを受け取ると内容をざっと読む。
そして一言……。
「あの人達はぁぁぁ!!!」
少しだけ怒りを露わにした。
「あの恵理さん、そう言うわけなんでまたお願いします」
みなもは深々と頭を下げると恵理は軽く溜め息をつくと彼女に微笑みかけた。
「お帰り」
恵理のその言葉にみなもは一瞬言葉を失うがすぐに「ただいま」と返した。
それにきっかけに楓が「おかえりなさい」と言いながら抱き付き、冬佳も笑いながら出迎える。
そして……。
「みなも」
「……姉さん」
「お帰り」
「ただいま、姉さん」
「その荷物を自分の部屋に置いたら、全員に挨拶に行くから。いいね」
「はい!」
みなものその元気な返事に空は満足そうに頷いた。



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<あとがき>
絵夢「と言うわけでみなもちゃん、復帰です」
恵理「早かったね」
絵夢「なんだかんだ言っても今回場を盛り上げるキャラが少ないから」
恵理「みなもちゃんってなに?」
絵夢「なんだろう?」
恵理「(汗)」

恵理「それにしても空と冬佳ちゃんって良いコンビだね」
絵夢「結構似てるところがあるのかも」
恵理「あと楓ちゃんって自己表現があまり上手じゃない?」
絵夢「そんなことはないけど、『寂しい』とか『羨ましい』と言ったことはあまり表に出さないタイプかな?」
恵理「そうなんだ」
絵夢「冬佳が感情の表に出す方だから、その分ってこともあるかも」
恵理「……本当に双子なの?」
絵夢「双子だよ」
恵理「……納得できない(^^;」

恵理「ねえねえ胸の大きさってどういう順番?」
絵夢「君も突然変なことを聞くね」
恵理「だって気になるじゃない?」
絵夢「ん〜えっと…………

亜沙美>葉月>澪>恵理>美亜>真奈>里亜>空=由恵>唯菜>卯月=みなも>睦月>まなみ>>>>楓=冬佳=和沙

   ……かな?」
恵理「亜沙美さんが一番なんだね」
絵夢「だね」

絵夢「であこの辺で次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」