NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第十八話 <しん II>


日も暮れ暗くなり始めた頃、私−高原しんは夢園荘の門の所で偶然出会った歩君を誘い、駅前のバス停のベンチに並んで座っていた。
「ねぇねぇ君たち、俺達と遊ばない?」
私達をいかにも下心ありそうな二人の男が声をかける。
「あのボク達は……」
歩君の言葉を遮るように彼の前に腕を伸ばし、ギンと二人組を睨み付けた。
「ま、またまたぁ、そんな怖い顔しないでさぁ。可愛い顔が台無しだよ」
「そうそう、俺達と一緒に行こうぜ。楽しいところ知ってるんだから」
そう言うと片方が私の空いている左腕を掴んだ。
私は咄嗟に右手でその手首を掴むと、立ち上がり男の背後に回り込みながら掴んでいた腕をひねり上げた。
「いて〜〜!!」
「このやろう、女のくせに!」
「誰が女だって?」
私はもう一人の方を睨み付ける。
「こう見えても私は……」
男と言おうとした時、その男が誰かに殴り飛ばされた。
「え?」
そこには見たことのない青年が拳を鳴らして立っていた。
サングラスでその表情は分からないが、怒り心頭と言ったところか。
「女の子相手に粋がってんじゃねぇよ、ガキが!」
「てめぇ……」
そう言いながら殴られた男が立ち上がろうとした瞬間、今度はその腹部に蹴りを入れた。
そのあまりにも残酷な光景に私は思わず顔を引きつらせた。
無論歩君も顔を覆っているようだ。
その瞬間、ひねり上げていた男が私の手を強引に振りほどき、仲間をやられた仕返しとばかりに青年に殴りかかっていった。
青年は平然とそれを受け流すと、腹部に膝蹴りを食らわした。
そして青年の足下にナンパ男二人がうずくまる形となった。
「動けるならとっととこの場から失せろ」
青年が感情が全く無い冷たい声でそう言うと、二人は怯えたようにすごすごと退散していった。
それを見送ると、青年はサングラスを取り私達の方を向いた。
「怖い思いをさせてすまなかったな。あそこまでやるつもりは無かったんだがどうも力の加減が……」
青年は苦笑を漏らしながら言う。
その顔は先ほど出来事からは想像できないほど子供っぽく見えた。
「ありがとうございました」
「良いって良いって、たまたま通りがかっただけだからさ。でも女の子二人でいつまでもこんな所にいるのは危ないから早く帰った方が良いよ」
「私達は……」
女の子と言われ否定しようとしたが、青年は短く「じゃね」と言うと商店街の方へ歩いていってしまった。
その後ろ姿を見送ると、深く溜め息をつき、歩君の隣に座り直した。
「結局、私達のことを女性と勘違いしたまま行ってしまったな」
「そうですね……」
歩君も深い溜め息をついた。
「でもしんさんが切れるなんて珍しいですね」
「さすがにこう立て続けではな」
再び私達は溜め息をつく。
実際私達がここに座ってからさっきの二人組を含め五組ほど声をかけられた。
最初のうちはきちんと「男だ」と言って追っ払っていたが、次第にそれも面倒になり先ほどの次第と相成ったわけだ。
「しんさん、一つ良いですか?」
「なにかね?」
「どうしてボク達はここにいるんですか?」
「おや、話していなかったかな? 我々はアルバイトを終えた姫君達の迎えに来たのだよ」
私は髪を掻き上げながら言う。
ふ……決まったな。
だが、そんな私を歩君はジト〜とした目で見る。
「……しんさん、また睦月さんに殴られますよ」
「う……それは……」
そうなのだ、私がこういう言葉遣いをするたびに「直せ」と睦月さんに注意をうけているのだ。
私も最初のうちは反発していたものの、いつの頃からかこのままではいけないと考え直し直そうと思い始めた。
だが、しかし! 幼少の時より身に付いた話し方、そう簡単に直る物ではなく、その度に私は睦月さんからお仕置きを受ける毎日なのだ。
「しんさんは睦月さんの事が好きなんですね」
突然の歩君の発言。
「な、なにを根拠に!?」
「だって毎日のように睦月さん、部屋にいますよね」
「あ、あれはだな。勉強を教わっているだけであって、それ以外の何者でも無いわけで、だから……」
「そんなに力一杯否定しなくてもいいのに」
「き、君がおかしな事を言うからだ!」
歩君は疑っているようだ。
「ま、そうですよね。こんなこと言うと睦月さんに悪いですが、しんさんと睦月さんでは釣り合いが……」
「歩君!」
「はい」
「睦月さんほど素敵な女性はそうはいない。君はもう少し女性を見る目をだな……」
睦月さんに対して無礼なことを言う歩君に少し意見を言おうとしたその時……。
「あのさ、公共の面前で何を力説してるのかな?」
背後から聞き覚えのある声……。
振り向くとそこには睦月さんとまなみさんの姿があった。
睦月さんはあきれ顔で、まなみさんはくすくすと微笑んでいる。
「あ、あのこれは……歩く……」
「なにか飲み物を買ってきます」
歩君に話を振ろうとすると、まるで逃げるように自販機のある商店街の入り口へと行ってしまった。
駅改札前の方が近いはずなのに……逃げたな。
「しんが私の事をどう思おうとも勝手だけど、あまり恥ずかしい真似はして欲しくないんだけど」
「す、すみません……でした」
まずいところを見られたと思っていると、まなみさんの視線を感じた。
「ふ〜ん、やっぱりしんさんって睦月お姉ちゃんのことが好きなんだ」
「そ、それは!」
「まなみ、あまり馬鹿なことは言わない」
「は〜い」
「それからしんもいちいち慌てない」
「はい」
睦月さんに窘められ素直に頷く私であった。
しかしまなみさんまでもが歩君と同じ事を言うとは……端から見たらそう見えるのだろうか……。

「そうだ、ノルンに寄っていかない? もちろんしんと歩君のおごりでね」
睦月さんの突然の提案。
「え?」
「なんか文句あるの?」
「いや、私は構わないが、歩君の方が……ジュースを買いに行っているし……」
「それはそれで良いんじゃないの? どうせ行く方向は同じなんだし、ねぇまなみ」
「うん、そうだね。久しぶりに卯月お姉ちゃんに会いたいし」
「久しぶりって先週会ってるって……まぁいいけど。ではそう言うわけ決定ね」
そう言うと睦月さんとまなみさんは商店街に向かって歩き始めた。
私は軽く溜め息をつくとその後に続いた。
そして商店街手前の信号で青に変わるのを待っていると、道路向こう側に缶を抱えた歩君が「どうしてそこにいるの?」と言った顔で立った。
「これからノルンに行くことになったから、そこで待ってて」
睦月さんが歩君に向かって大声で言うと、納得した顔で頷いた。
その時、私達の前に一台の黒いワゴン車が止まった。
私達は邪魔なところに止めるなと言っていると、中から4人の覆面をした男が出てきた。
そしてその内の二人が鉄パイプで私に襲いかかってきた。
二人の相手をしていると、残りの二人が睦月さんとまなみさんを車の中に連れ込もうとしていた。
私は何とか助け出そうと鉄パイプを持った二人を振り払い、そちらに足を踏み出した。
瞬間、頭に鈍い痛みを感じ、視界が真っ赤に染まった。
私はなんとか倒れないように踏みとどまったが、もう一度殴られ地面に伏した。
それを合図のように鉄パイプの二人は私から離れ車に乗り込む。
私は何とか立ち上がると発進するワゴン車を止めようと、その前に出ようとした。
その時私よりも早く歩君がワゴン車の前に飛び出した。
しかしゴン車はそれを無視して、歩君を跳ね飛ばした。
それはドラマのワンシーンのように見えた。
だがこれは現実に起こったこと……。
ワゴン車はそのまま走り去り、歩君は道路に叩き付けられ頭から血を流している。
「歩君!!!」
私は歩君に駆け寄り、抱き上げて声をかけた。
歩君は息はあるもののまったく反応がない。

「しん、歩!!」

その呼び声に顔を上げるとそこには……。



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<あとがき>
絵夢「さらわれた睦月とまなみ、そして意識不明に陥った歩の運命は!」
恵理「一体、何がどうしてどうなったの?」
絵夢「え〜恵理さんは突然の展開についていけてないようです」
恵理「なんで二人がさらわれたわけ? なんで歩君が……」
絵夢「謎は謎のまま次回に続きます」
恵理「おしえてよぉぉぉ」
絵夢「では次回『四神将』をお楽しみに〜」
恵理「……まじ?」