NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第10話


高志達は夏樹から先ほど彼が体験したことや青風と交わした約束など内容を聞いた。
奥で未だ眠っている澪がこの場にいたら恐らく切れる可能性は高かったに違いないと高志はそう思っていた。
「だけど彼らが約束を守る保証は無いんじゃないのか?」
高志の意見はもっともなことだろう。
夏樹以外の全員が頷く。
だが夏樹はいつもと変わらぬ調子で答える。
「それは大丈夫だよ。
彼らは『風の石』がここにあることを知っていた。にもかかわらず恵理を結界の内に入れることはなかった。
その辺りから考えてもその心配は無いと断言できるよ」
「だけどなぁ……」
高志は夏樹の説明に納得しつつもまだ眉をひそめている。
「それに話した感じ、そんなに悪い連中でも無さそうだし……」
その言葉に卯月、葉月、里亜の3人が反発する。
「十分悪い人です!」
「理由も言わずに『石』を持っていってしまうし」
「それに鷹代さん達だって……」
詰め寄る3人に夏樹ははっきりと言い放つ。
「周りの被害を考えて結界を張ったり、ただ気絶させるだけとか……あの二人が本気を出したら恐らく無事じゃすまないんじゃないかな?
戦ったタカならそれが分かると思うが、どうだ?」
「確かにそれは言えるかも知れないな。あれだけの力を持っていれば、気絶させるとかそんな回りくどいやり方をしなくてももっと楽なやり方があるからな……」
それは暗に”殺して奪う”と言う意味を含めていた。
「だろ」
「だけど夏樹さん、鷹代さん達の『石』は……」
ずっと黙っていた恵理が心配そうに言う。
「彼らがどんな人間だろうと、3人の『石』は取り返さないとな」
「そうだね」
恵理はその言葉に小さく頷く。
そこには確かな強い意志があった。
「お前ら……」
高志が二人に声を掛けようとすると、夏樹が立ち上がって言葉を遮った。
「俺達はこれで帰るよ。明日のために鋭気を養わないといけないからな」
「みんな、またね」
「あ、おい……」
「二人のことは頼むよ」
「え……ああ……」
高志は夏樹の自信に満ちた笑顔にそれ以上言葉を続けることが出来なかった。
そして4人を残して夏樹と恵理は店を出ていった。
店内に重苦しい空気が流れる。
「高志さん……」
卯月が沈黙を破って高志に話しかけた。
「夏樹さんと恵理は大丈夫でしょうか」
「……あいつのあの自信に満ちた笑顔は久々に見たよ。あいつがあの顔をしたときは絶対の自信があるときだけ……だから大丈夫だと思うけど……」
「でも……」
「夏樹さんが言っていた『はじまりの地』って何処なんだろう?」
里亜が考え事をしていたのか、まるで思いついたように言った。
「それは俺にも分からないな」
「もしかして……」
葉月が何かを思いだしたようだ。
「水瀬神社の裏の林のさらに奥にある岩山の祠かも知れません」
「「「「え?」」」」
「以前、夏樹さんが教えてくれたんです。『4つの石』は水瀬神社の本当の御神体だと」
「そこからすべてが始まったから『はじまりの地』か……確かにそうかも知れないな」
高志は妙に納得している。
「だったら明日、神社で夏樹さん達を待ってようよ」
里亜がこれは良い案だとばかりに身を乗り出して言う。
「だけどそんなことすると夏樹さん、怒るかも……」
卯月が心配する。
「だから水瀬神社で待機するの」
「それなら大丈夫かな? 高志さんはどう思いますか?」
「ついてさえ行かなければ大丈夫だろ」
「そうですね」
「だけどみんなで押し掛けて大丈夫か?」
高志は葉月に聞いてみる。
「たぶん、大丈夫です。両親は明日朝早くから出かけますから」
「……良く出かけてないか?」
「副業でいろいろとやってますから(^^;」
「なるほどな(^^;」
全員から微妙な笑いが漏れた。


夢園荘への帰り道。
「なぁ恵理……」
「指輪を返せと言っても返さないからね」
恵理は夏樹が言いそうな事に先に答えた。
だが夏樹の反応は思っていたものと違った。
「誰もそんなことは言わないよ。冬佳や楓さんがお前を守ってくれるからな」
「あはは、そっか」
「ただ俺からどんなに離れても100m以内にいてほしいんだ。分かり易く言えば目の届く範囲だな」
「どうして?」
「それ以上離れると『石』から『風の力』が引き出せなくなるから」
「え?」
「恵理に指輪を贈ってしばらくしてから気づいたんだけど、ある程度近くにいれば俺も『風の力』が使えるんだ」
夏樹は自分の右手を開いたり閉じたりする様子を見ながら言う。
そして再び恵理を見た。
「そう言うわけだから頼むな」
「うん」
恵理は嬉しそうに頷き、夏樹の腕に自分の腕を絡めた。
「……………」
「?」
その時、夏樹は恵理が少し震えてることに気づいた。
「……本当は怖いよ」
「恵理……」
「夏樹さん、大丈夫だよね」
夏樹を見る恵理は今にも泣き出しそうだった。
先ほどまでの会話はすべて彼女の強がりだ。
だが、夏樹もまたそれは十分承知しているようだ。
夏樹は恵理に優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。絶対にな」
「……うん」

そんな二人の様子を見ている者達がいた。
それは『風の石』の中の冬佳と楓であった。
「これは責任重大だね。二人をちゃんと守らねば」
冬佳は拳を握って気合を入れている。
「そうですね」
だが楓は何か考え事をしているのか、ただ返事をするだけであった。
「楓さ〜ん、人が折角気合を入れてるのに気が削げるじゃないですか」
「あ、ごめんなさい」
「さっきからおかしいですよ。どうしたんですか?」
「うん……」
そして思考モードに入る楓。
「楓さん!」
「え、何?」
「何じゃないです。ほんと〜〜〜にどうしたんですか?」
「うん、夏樹さん達が遭遇した敵と言うのがちょっと気に掛かって」
「なんだ、そんな事か……」
重大なことなのに、そんな事程度で済ませてしまう冬佳に複雑な笑みを零す。
「出てきたら倒す。それだけですよ」
「冬佳さんはお気楽でいいですね」
「それが私の持ち味ですから」
「そうですね」
楓は軽くため息をついた。だけどそんな彼女の気楽さが羨ましくも感じていた。
「ま、いいや。私はもう少し二人の様子を見てるね」
「程々にしてくださいね」
「分かってますって」
そして冬佳はまるで隣の部屋に行くかのように姿を消した。
一人その場に残った楓は思考を巡らす。
(夏樹さん達が出会った敵−青風とエアと言う二人組。どうやら『煌玉』の事をすべて知っているみたいだけど……。
文献なんか残ってるわけないし……でもあの戦いで生き残った人がいてその末裔ということも……。
だけど結界が解ける瞬間感じた気配……どこかで感じたような……)
楓は思いついては否定し、否定しては新たな考えを思いつき、そして否定と思考の迷路に迷い込んでいった。


ビルの屋上、月に照らし出された二人。
青風とエアはビルの眼下に広がる風景を眺めていた。
「こうしてみると本当に変わちゃったね……」
エアが感嘆にも似た言葉を口にする。
「そうだな自然が残ってる場所と言えばあそこだけのようだな」
青風は街はずれの小高い丘に目をやる。
「そうだね」
「これが時代の流れと言うものだが……」
「いつものこととは言っても寂しいね」
「ああ……」
二人は風に吹かれながら暫し黙る。
エアはふと思い出したように青風を見た。
「……ねぇ青風」
「?」
「どうしてあの夏樹という青年の提案を受け入れたの?」
「強行に出た方がよかったか?」
「そうじゃないけど……でももう時間が……」
「分かってる。ただ、彼が気になってね」
「結界を越える力を持ってるみたいだからそれは分かるけど……」
エアはその場に座り込み、風を感じながら夜景を見る。
「おそらくそれだけじゃないと思うんだ」
「どういうこと?」
「彼から『風の煌玉』と同質の力を感じたんだ」
「え?」
その言葉にエアは青風を見上げた。
青風もエアの方を見る。
「だからそれがどういう事なのか確かめたいんだ」
「……」
「こいつは俺の我が儘だ。時間が無いのは重々承知しているが……」
「青風の思い通りにやって良いよ」
「ありがとう」
「良いって。
それにそうじゃなければあなたじゃないもの。だからあなたの思った通りにやって」
「ああ」
青風は視線を街並みへとうつす。
その横顔は穏やかだ。
「久しぶりだな」
「?」
「あなたのその優しい表情」
「そうか?」
「ええ」
エアは嬉しそうに微笑んだ。
それにつられるように青風もまた微笑み返した。



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<あとがき>
絵夢「決戦前夜と言うことでそれぞれの思いが交錯しております」
恵理「私って健気〜」
絵夢「だから君じゃないって」
恵理「良いじゃないのよぉ」
絵夢「……ほっとくか」
恵理「あ、ひっど〜〜い!」

恵理「ところで本当に青風とエアって何者なの?」
絵夢「だからそれを語ると15年掛かるって」
恵理「5年増えてるよ」
絵夢「じゃあ20年」
恵理「語る気は無いのね」
絵夢「無い!」
恵理「はは……(-_-;」

絵夢「ではでは次回いよいよ第3ラウンドの鐘が鳴ります」
恵理「頑張っていきましょう」
絵夢「……鳴ったらいいなぁ……」
恵理「おい!」

絵夢「ではまた次回も」
恵理「ぜひぜひ見てみてください」
絵夢「せ〜の」
絵夢&恵理「まったね〜」