NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第15話


「その後、『煌玉』に組み込んであった自己防衛プログラムのお陰で、人の手に落ちることなく自らの意志で封印している事が分かった」
「でもそれから大変だったの」
エアが当時のことを思い出しながら難しい顔をした。
「封印しているって事は『煌玉』そのものが、自らの気配も消してたの」
「だから探すのに手間取って、数年で戻るつもりが五百年近く掛かってしまった」
「「「「「「「五百年(う〜〜)!?」」」」」」」
簡単に言う彼らにその場にいた全員が驚きの声を上げた。
「いくら何でも……」
「とんでも無い話し……」
「想像もつかないな」
「大変だったんですね」
などとそれぞれがねぎらいの言葉を言う。
「最後はその土地に伝わる伝承を頼りにしたりして……言われてみれば確かに大変だったかも」
彼らの言葉にエアが照れ笑いをしながら答えたが、すぐに真面目な顔に戻る。
「でも、全部見つけたときに大変なことに気づいたの。それは『煌玉』に最後の守護者達の魂が囚われていると言うこと」
そう言うと楓を見た。
それにつられて全員彼女の方を見る。
一身に視線を集める楓はどうして良いか分からず俯いてしまった。
「楓」
青風が俯く彼女を呼んだ。
「あ、はい」
「辛いと思うが、その時のことを聞かせてくれないか」
「分かりました」
楓は少し暗い気持ちになりながらも、まっすぐ青風を見て話し始めた。
「戦いで里が炎で焼かれていく中、冷たくなっていく焔様を抱きしめていた私は、煌玉を手に入れようと迫ってくる敵勢に対して風の力を暴走させました。
風は嵐となり周囲にある物すべてを吹き飛ばし、気づいたときにはすべてが無くなり荒れ野となりました。それが私が生きていたときに見た最後の風景です。
次に気づいた時には私は何もない空間にいました。
ここが風の煌玉の中だと私はすぐに気づいたんです。
風の煌玉の”意識”が私の中に入ってきたから……。
それから私はずっと一人だった。
孤独で何度もおかしくなりそうになって、考えることを止めて意識を止めました。
それからどれほどの時間が過ぎたか分かりませんが、ある時、温かい意識を感じ目を覚ましました。
それが……」
そこで言葉を切り、夏樹を見た。
「早瀬夏樹さんとの出会いです」
楓が話し終えると部屋中に重い空気が流れる。
「そうか……」
青風が口を開いた。
「『煌玉』の自己防衛プログラムが自らを守るために守護者を取り込んだと言うことか……」
「青風?」
「自らにより強力な封印を施すために……そう言ったところだろう」
その時夏樹が何かを思いだしたように言う。
「確か、”『煌玉』に囚われし者達の解放”と言ってましたよね。なぜ、集めたときにしなかったんですか?」
もっともらしい夏樹の質問に全員頷いた。
「もちろんやろうとしたよ。だが失敗に終わったんだ」
「『煌玉』の力が余りに強力すぎて私達の力を弾くの」
「そうだったんですか……」
青風とエアの答えに再び雰囲気が重くなる。
「結局、解放することが出来ないまま私達はカムイに戻った。『煌玉』の力が弱まるその時まで『煌玉』を封じておくために」
「戻ったとき私達は五百年という月日はあまりにも長いと言うのを実感したの」
エアは少し寂しそうな顔になる。
「カムイは立派な農村になっていたわ。でも私達の知っているカムイじゃなかった。名前も変わってたしね」
そう言うと少し笑った。
「だけど水瀬は約束を守ってくれていた。丘の上に社が建っていたんだ」
「でも鳥居とかあったから完全に神社って感じだったね。きっとその辺は後から建てたんだろうけど……」
その時、後ろの方で聞いていた葉月が前に出てきた。
「もしかしてその神社って……」
「君の思っている通り、神社の名は”水瀬神社”、つまりここだ」
その言葉に全員驚いた。
まさか話しに出てきたカムイが自分たちの住む町だったとは……。
その事実に誰もが言葉を失った。
「しかし自分の名前を付けるとは驚いたけどな」
「たぶんそれも後からついた名前だと思うよ」
「そうか?」
「そうだよ。だって水瀬って結構謙虚な人だったじゃない」
「そうか」
青風は納得したようだ。
「話を戻すが、私達が戻ってきたとき、その神社の御神体として鏡が奉られていたんだ」
そのことに誰もが「ああ、あれか」と納得していた。
「だからわざわざ変えることもないと言うことで、裏の岩山に封じたと言うわけだ」
そこで青風達の話は終わった。
「本当にみんなには申し訳ないことをした。本当に済まなかった」
「ごめんなさい」
二人は全員に再び頭を下げた。
「それはもう良いですよ」
夏樹が頭を上げるよう言う。
「そうですよ」
それに続くように恵理もそう言うと指輪を外し、青風達に渡した。
「それに事情も分かったし……えっと、これお預けします」
「ありがとう」
青風は礼を言うと指輪をエアに渡した。
エアはそれを受け取るとスカートのポケットから他の三つの『石』を取り出した。
「これで全部揃ったね」
エアの手の中にある『石』を全員がのぞき込む。
「あれ?」
その時、里亜が疑問の声を上げた。
「なんか、『石』の輝きが鈍くない?」
里亜の言葉に全員が再び『石』を見る。
確かに輝きが鈍くなっていた。
「青風さん……これって……」
夏樹が聞く。
「先ほども言ったとおり、『煌玉』の力が弱くなる時が近い証拠だ」
「だとしたらもう使えなくなるの?」
心配そうに恵理が聞く。
「いや、それはわずかな間だけだ。星の位置や龍脈などが関係して一時的にそうなるんだ」
青風は安心させるために優しく答える。
「ピークになるのは?」
今度は高志が聞く。
「それは明日の夜明けだ」
青風はその問いにはっきりと答えた。
「そんなに早く……だから強引に……」
亜沙美が口の中でつぶやく。
そして青風その言葉を聞き、恵理は寂しそうな表情をした。
「明日にはもう義姉さんや楓さんとお別れになってしまうんですね」
とても小さな声だったが、それは全員の耳に入り、一斉に当事者二人を見た。
沈痛な面もちの楓ときょとんとしている冬佳。
「みんなとお別れなんですね……」
「そっか……残念だけど仕方ないよね。せっっかく、お兄ちゃんの奥さんと友達に慣れたのに残念」
楓はともかく、こういう状況に置いても明るく振る舞う冬佳に全員苦笑を漏らす。
「な、なに。笑うこと無いじゃない」
「でもなぁ……もう少しなんかあるだろ」
「何があるか教えてもらいましょうか、お兄ちゃん」
「……何もないか」
「でしょう。だから辛気くさいの無しにしよう」
「と言うことは……」
「もち、宴会しよう!」
夏樹は顔を引きつりながら笑う。
「どうやったらそう言う結論に……」
「それは私が冬佳ちゃんだからで〜す」
「楓さん、今まで妹の面倒を見ていただき本当にありがとうございました」
夏樹は思わず楓の前に正座で座ると礼を言った。
「あ、いえ、こちらこそ楽しかったですから……」
「そう言っていただけると助かります」
「ははは……」
二人は何とも言えない複雑な笑いを浮かべた。
そして夏樹は高志を呼んだ。
「タカ、明日の朝まで騒ぐぞ」
「え?」
夏樹の提案に高志がおかしな声を上げた。
「俺がそう言ったらおかしいか?」
「そ、そういうわけじゃ無いけど……」
「だったら何?」
「酒飲めたか?」
「…………少しだけ」
「ま、いいか。青風さん達も飲めますよね」
突然話を振られた青風とエアはきょとんとしてしまった。
「まぁ一応飲めるが……でもいいのか?」
「?」
「私達は……」
「気にする人〜」
高志は全員の方を振り向いて聞いた。
案の定誰も手を挙げない。
「と言うことです」
「だけど……」
そう言いながらエアがある一点を示す。
そこには……。
「う〜〜〜〜う〜〜〜〜〜う〜〜〜〜〜〜〜!!!」
簀巻きにされ身動きを封じられ、さらに猿ぐつわを噛まされ何も発言できない状態で部屋の隅に転がされている澪の姿があった。
「あ〜〜〜〜〜〜見なかったことにしてください」
「良いの?」
エアは顔を引きつらせながら言う。
「良いんです」
それに対して迷いのない答えを返す高志に、青風とエアは乾いた笑いしかできなかった。



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「澪に救いはあるのでしょうか」
恵理「その前に救う気あるの?」
絵夢「ない(笑)」
恵理「おいおい(-_-;」
絵夢「それは冗談として、や〜〜っとここまで来ました」
恵理「長かったね」
絵夢「うむ……思っていた量の2倍以上になってます」
恵理「そうなの?」
絵夢「本当はもっとあっさりするつもりだったんだけどね。どうもみんな好き勝手に動いてくれるから……」
恵理「ご苦労様です」
絵夢「そういうわけでもうすぐラストスパート。頑張りますです」
恵理「がんばれ〜〜!」
絵夢「おお!」

絵夢「それではまた次回も」
恵理「見てみてください」
絵夢&恵理「まったね〜」