NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第16話


冬佳の提案で始まった宴会という名の交流会は、初めのうちは日も高いと言うことで酒抜きで行われた。
その間、何もしないという約束の元に解放された澪は憮然とした顔をしていたが、それなりに和気藹々と和んでいた。
しかし夕方になり、睦月が学校から帰ってきた辺りからおかしくなってきた。
明朝の為に引き上げようとする青風とエアを葉月と睦月が「夕飯もご一緒にどうですか」と誘う。
当然二人は断ったが、結局押し切られる形で頂くことになり、さらにそこに酒も入り交流会は本当に宴会へと姿を変えた。
そこからが大変であった。
澪はいきなり青風に酒での勝負を挑み早々に酔いつぶれる。
亜沙美と里亜に飲まされ酔った恵理は夏樹の膝の上で丸くなって寝る。
同じく二人に飲まされた里亜を迎えに来た途中参加の美亜は脱ぎ出し、里亜にべったりとくっつく。この姉妹にしてはいつもと逆である。
それから二人の狙いが卯月へと向かうが、彼女は何杯飲んでもケロッとしていた。
彼女が酒に強いと言うことに高志も少し驚いていたようだ。
亜沙美と里亜は全く変化のない卯月に残念がっていると、そこへ簡単な料理を作って戻ってきたエア、葉月、睦月の3人にターゲットを絞った。
だが、自分たちのいない間にとんでも無いことになっている状況に葉月が、「未成年にお酒を飲ませるなんて」と二人を叱りつけ事なきを得た。
なお二人が青風と夏樹に酒を勧めなかったのは、青風に関しては澪との勝負を見ていたためやるだけ無駄だと分かっていた。そして夏樹は亜沙美が「夏樹にだけは酒を飲ませちゃいけない」と飲ませようとした里亜を止めたためだった。
あとこの騒ぎの間、楓と冬佳の二人は亜沙美と里亜の暴走に冷や汗を流しながら夏樹達との会話に夢中になっていた。

そして数時間後……。
水瀬三姉妹が中心になって、酔いつぶれた者達に布団を掛けて回った。
「予想通りと言うか何というか……」
夏樹が少し呆れた調子で言う。
「そう言えば、あの二人はお前にだけは飲まさなかったな」
後かたづけを手伝う高志が夏樹に聞いた。
「そう言えばそうだな」
「俺とかにはさんざん勧めてきたくせにな」
「以前、亜沙美と澪と3人で飲んだことがあったけど……。それから俺には酒を飲ますなって事になったみたい」
「……お前、何をしたんだ?」
「さぁ、覚えてない。あいつらも言わないしな」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「さて夏樹、片づけの続きだ、続き」
「そうだな」

さらに一時間後。
ようやく元の状態に戻った。
でも酔いつぶれ寝ている者達はそのまま寝かせてある。
そして窓際では青風が月を眺めていた。
そんな彼に気づいた夏樹が近づく。
「青風さん、すみませんでした」
「……気にしなくて良い。私もエアもこんなに楽しい席は久しくなかったのでね。嬉しかったよ」
「そうですか……」
その時夏樹は青風の優しい微笑みの向こう側にある物を何となく感じた。
「すこし話し良いかな?」
「はい」
「では……」
そこで青風は部屋の様子を眺めた。
「夜風に当たって酔いでも覚ましながら話そうか」
その言葉に他の者に聞かれてはまずい話だと悟った夏樹は素直に従った。
外に出て水瀬家から表の境内の方へと歩いた。
「ところで夏樹君」
「あ、はい」
「君に伝えておきたいことがある」
「伝えておきたい……こと?」
「それは君の『力』のことだ」
「『力』って『石』の……」
「いや、君自身の『力』だ」
「え?」
夏樹はよく分からないと言った顔をする。
だが青風は構わず話を続けた。
「私との戦いで見せた君の『力』は『煌玉』からでは無く、明らかに君自身から出ていた」
「それって……でも『風の石』が近くに無いと……」
「おそらく『煌玉』が君の『力』のリミッターになっているんだろうね」
「リミッター……ですか……」
「『煌玉』と接したことで『力』を得たと思うが……何か心当たりはあるかい?」
「えっと……一度だけ暴走させたことが……」
「暴走……なるほどな」
青風は納得と言った表情をした。
「恐らくその時、君の魂が『煌玉の力』を取り込んだんだな」
「そうなんですか?」
「ああ」
夏樹は少し考えた。
自分の力が『石』からではなく自分自身から出ていたと言うこと。
それはこれからの人生でどういう意味を持つことになるのか……。
だがいくら考えても答えは出なかった。
「青風さん、俺は一体どうしたら……」
「今のままで良いと思うが」
「は?」
青風の思いがけない一言に間抜け顔になってしまった。
「今までそれで支障が無かったのだろう。それなら大丈夫だろう」
「でも……」
「まぁ君が望むなら、一時的でも封印することは出来るが……『煌玉』が近くに無ければ発動しない力なら問題は無いと思う」
「まぁ、青風さんがそう言うなら……。でも、それならなぜそのことを俺に話したんですか?」
「真実は知っておいた方が良いと思ってな。それに『力』の源が何処にあるか分かれば、使う方としても良いと思うのだが」
「それはそうですが……」
夏樹は釈然としない表情をしている。
そんな彼に青風は軽く微笑んだ。
「そんなに深く考えるな」
「はぁ……」
「それに君なら『力』を正しく使うと信じている。だから封じることはしない」
「分かりました。ありがとうございます」
「礼を言うような事じゃ無い」
二人の間に優しい風が吹く。
「どうやら迎えが来たようだ」
「え?」
青風が向いた先にはエアに連れられた恵理がいた。
「奥さんを連れてきましたよ」
エアが冗談口調で言う。
恵理はそのことを気にすることなく、夏樹に抱き付き甘えた口調で彼の名前を呼ぶ。
「夏樹さ〜ん。私を置いていっちゃやだ〜」
「お前……まだ酔ってるな」
「う〜〜〜〜〜〜」
「すみません。こいつ、家まで連れて行きますんで」
夏樹は恵理を抱え上げると、水瀬家へと向かった。
青風とエアは仲の良い二人の後ろ姿をとても優しい眼差しで見つめる。
「言ったの?」
「いや、『力』のことしか話していない。あのことは確証がない以上今は言う必要が無いしな」
「そうだね……。でもホント、仲が良いよね」
「そうだな。昔の私達にもあんな時があったのかも知れないな」
「知れないじゃなくて、あったよ」
「そうか?」
「そうだよぉ」
エアが口を尖らせて抗議する。
「お前がシャオの時か? それとも……」
「それもそうだし、他にも……」
そこで溜め息をついた。
「今度、ゆ〜〜〜〜〜っくりと思い出話しよう」
「そうだな」
「それから」
「ん?」
「話し方、元に戻さない?」
「そうだな……」
「でしょぉ。彼らの前ならともかく、二人っきりの時までそんな気取った話し方されるのはイヤ」
「ごめんな。どうも俺は一度決めるとそれで行く癖があるな」
「そうそう、悪い癖だよ」
「ホント、ごめんな」
「分かってもらえれば良いよ」
「でもまぁ、エアには苦労ばかり掛けさせるな」
「仕方ないよ。それに私はあなたに何処までもついていくって決めたの。もうあんな思いしたくないから……」
エアは何か思い出したように少し辛そうな顔をする。
青風は何も言わずにエアを後ろから抱きしめた。
「青風……」
「ずっと一緒だよ……」
「うん……」


明朝、夜明け前。
『はじまりの場所』でもあり、昨日夏樹と青風が戦った場所で儀式が行われようとしていた。
青風達が準備をしている間、夏樹達と楓、冬佳は別れの言葉を交わしていた。
涙ぐむ者、辛い気持ちを隠して笑顔で見送ろうとするもの、様々である。
そんな中で涙ぐむ恵理を笑顔で元気づける冬佳の姿があった。
「義姉さん……」
「お兄ちゃんのこと、頼むね」
「うん……」
「ああ見えても頼り無いところあるから」
「うん……」
「恵理、私は笑顔で見送って欲しいんだけどな」
「うん」
恵理は涙を堪えると、ぎこちないながらもなんとか笑顔を作った。
「うん、それで良し」
冬佳もその笑顔に満足したのか嬉しそうに微笑む。
彼らがそうしている内に準備が整ったようだ。
儀式と言っても大仕掛けの物はなく、ただ『煌玉』が青風を中心に東西南北四方向に置かれているだけだった。
エアの側には楓と冬佳の姿がある。
そしてそこから少しだけ離れた場所に夏樹達の姿があった。
向こう側に見える山の稜線から太陽が姿を見せる。
それと同時に『煌玉』の輝きが消えた。
その瞬間を待っていたかのように青風はすぐさま印を結び呪文の詠唱に入る。
「我、汝らを創造せし者。我が名青風の名に於いて命ずる。汝らが取り込みし者達を解放せよ!」
青風の身体が輝き、その光はそれぞれの『煌玉』へと注がれていく。
すると、火、水、地の煌玉からゆらゆらと人の影が立ち上る。
それは『火の守護者』の焔、『地の守護者』金剛、『水の守護者』睡蓮。
三人は楓と違い、『煌玉』に囚われた時に意識を封印されているため全く反応を示さない。
「みんな……」
『風の守護者』楓が3人の姿を見てつぶやく。
その目には涙が浮かんでいた。
「『煌玉』に囚われし者たちよ。今こそ輪廻の輪へと解き放たれよ!」
青風は印をほどくと両手を天空へと掲げた。
それ共に3人と楓と冬佳の身体が徐々に空へと昇り始める。
そして5人の身体が少しずつ空に溶けていく。
誰もが見守る中、彼らの身体は1分と持たずに消滅した。
「みんな、さようなら」
「お兄ちゃん、恵理。幸せになんなきゃ駄目だからね」
それがその場にいた全員の耳に届いた二人の最後の言葉だった。

彼らが消え、太陽が完全に昇りきると同時に、青風の身体の輝きは消え『煌玉』に輝きが戻った。
「終わりました」
エアがやや呆然としている夏樹達に声を掛ける。
「終わったのか……」
夏樹のつぶやき。
「ええ、これで私達の旅もひとまず終わりです」
「そう……」
「だが、一カ所に留まると言うことはしないことにしているから、また旅に出る」
そう言いながら『煌玉』を持って青風が近づき、夏樹に4つの『煌玉』を手渡した。
「『煌玉』の意志は封じた。人によって持ち主が選ばれるようにね」
「でもそれでは……」
「心配しなくても、誰かを守りたいと言う心に反応するというのは変わらない。
君たちなら安心して任せられると思ったからこそこうしたんだ」
「俺達を信じて……」
夏樹のつぶやきに青風が力強く頷く。
「後は任せたぞ、新たな『守護者』達よ」
「あなた達はこれからどうするんですか?」
「先ほども言ったとおり、私達は一カ所に留まる気はない」
「そう言うわけなの。たぶんもう会うことは無いと思うけど……」
「折角知り合えたのに行ってしまうんですか?」
涙を堪える恵理が言う。
「そうですよ」
「別にここにいたって言いわけだし」
「住むとこだって……」
と、恵理に続くように口々にこの街に残らないかと勧める。
だが青風とエアは首を横に振った。
「気持ちは嬉しいが、そう言うわけにも行かないんだ」
「みんな、ありがとう。でもこれでお別れなの」
二人はその場から数歩後ろに下がると、そのまま空へと浮き上がり姿を消した。
最後に「さようなら、そしてありがとう」という言葉を残して……。



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「やっと決着が付きました」
恵理「行っちゃったんですね……二人は何処に行ったんですか?」
絵夢「さぁ……それは私にも分かりません」
恵理「考えてないの?」
絵夢「無いよ。だって風の行き先なんて分からないからね」
恵理「そうか……。でも寂しい終わり方だね」
絵夢「確かに。ちょっと寂しかったね」
恵理「次は明るくなる?」
絵夢「明るくなるよ。ちょっとネタばらししておきましょう。次回は久々に陽ノ下空が出ます」
恵理「今シリーズ出番は無いんじゃ……」
絵夢「いつ、そんなこと言った? 思いこみで言わない」
恵理「え、でも接点が……」
絵夢「それは次回のお楽しみ」
恵理「うん、じゃあ待つ」

絵夢「ではまた次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」